木曜日, 9月 27, 2018

ロバート・ルーカス Robert Emerson "Bob" Lucas, Jr.(1937-)


                      (経済学リンク::::::::::) 
ロバート・ルーカス Robert Emerson "Bob" Lucas, Jr.(1937-)
NAMs出版プロジェクト: RBC、DSGEモデル:メモ


ロバートルーカス(Robert Emerson "Bob" Lucas, Jr.、1937年9月15日 - )は、 アメリカ合衆国の経済学者でシカゴ大学教授。 1995年に ... またルーカス自身は、金融危機時には財政政策がマネーの消失を緩和する効果があることを認めている。 …
_____

DSGEに対する情況論的批判はジョン・クイギン『ゾンビ経済学』(筑摩書房) 第3章がいい。
数学的なルーカスへの批判は松尾匡HPにリンクがあった。


http://synodos.jp/economy/6795/3
《しかしその後続々と明らかになったのは、このルーカスモデルの想定をそっくり
そのまま使い、合理的期待の前提もおいたままで、このモデル自体にルー カス
さんが気づいていなかった別の均衡がいくつもあるということでした。そしてそ
れらの別均衡のもとでは、政府がおカネの発行を増やしたとき、ただインフ レ
になって終わりというわけではなく、ちゃんと生産が増えることが明らかにされ
たのでした。
このことは、もうずいぶん早くから指摘されていたことなのですが、最近では
松井宗也さんが詳しく研究されていますので、ここでは松井さんの論文[*7]に
したがってそのことをご紹介しましょう。
...
[*7]松井宗也「Lucas (1972)モデルにおける複数均衡」
http://www.ic.nanzan-u.ac.jp/MCENTER/pdf/wp1202.pdfx》

上はリンク切れ
Lucas(1972)のモデルにおける貨幣の非中立性
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/jss/pdf/jss6301_091109.pdf ○

ルーカス原論文
    (期待と貨幣の中立性について)

RBCに対する本質的な批判は、ソローによる批判及び松尾匡の紹介した論だろう(前述)。国家は要らないと言いつつ、新自由主義を推し進める強権を国家に求める点でRBCは矛盾するのだ。自由主義経済はRBC論者が主張する以外のもっと様々な均衡点を持つ。それが新自由主義者には見えていなかったということが証明されたのだ。



ja.wikipedia.org/wiki/ロバートルーカス_(経済学者)
ロバートルーカス(Robert Emerson "Bob" Lucas, Jr.、1937年9月15日 - )は、 アメリカ合衆国の経済学者でシカゴ大学教授。 1995年に ... またルーカス自身は、金融危機時には財政政策がマネーの消失を緩和する効果があることを認めている。 …

  • 政治学者・経済学者の小室直樹は「ルーカスを初めとした合理的期待学派は、正気の沙汰とは思えない。狂気か?カルト教団か?」と述べている[1]。小室は「古典派は余りに合理的な「経済人」を仮定するという理由でよく批判されるが、合理的期待学派のモデルとする経済人は、古典派どころではなく、全知全能に近い「経済人」なのである。その経済人は将来に対して不偏な予測ができる。また、すべての経済理論を利用できる。このような予測をするためには、膨大なコストと時間をかける必要があるが、コストも時間もゼロであると仮定されている」と述べている[2]。小室は「全盛を極めたルーカス派にとって転機となったのは、数学が得意なことで有名なルーカスの論文に数学的誤りが発見されたことだった。これがきっかけとなり理論的批判も行われるようになった」と述べている[2]

^ 小室直樹 『経済学をめぐる巨匠たち』 ダイヤモンド社、2004年、76頁。
a b 小室直樹 『経済学をめぐる巨匠たち』 ダイヤモンド社、2004年、77頁。
Amazon.co.jp: 経済学をめぐる巨匠たち (Kei BOOKS): 小室 直樹

参考:
上第5章、下最終章に、RBC批判がある。
「熱狂なき株高」で踊らされる日本: 金と現金以外は信用するな!: 副島 隆彦
ケインズ―時代と経済学 (ちくま新書): 吉川 洋

http://www.snsi.jp/tops/kouhou/1817
…この章(第5章)で述べられているのは、今のアベノミクスや米連邦中央銀行、欧州中央銀行の推進する量的緩和による金融政策の理論的支柱になっている、「合理的期待形成学派」(合理的期待仮説)の騙しのからくりです。

 この合理的期待仮説の「期待」(expectarion)とは正しくは予測と訳すべきで、「合理的予測派」と副島先生は書いています。この合理的予測学派は、古典派経済学の一種で、この学派とケインズ経済学が宗派闘争をした結果、本来の正しい経済学であるケインズ経済学が敗れて、従来のケインズ経済学者もこの合理的予測学派に「改宗」させられていった、という大きな経済学理論上の権力闘争がアメリカの経済学者の間で行われていた、というのです。第5章の内容を箇条書きすると以下のようになると思います。

*現在の日本政府の経済政策の最高の理論家は伊藤隆敏(いとうたかとし)という人物であり、以前は財務省の副財務官、その前はIMFの調査局の上級審議役を務めていた。理論経済学者であり、大悪人で論文泥棒の竹中平蔵よりもずっと影響力がある。

*伊藤隆敏は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資金を株式などのリスク資産に投入する投入する最高責任者である。

*同時に伊藤隆敏は、「物価上昇率2%」のインフレ目標の異次元金融緩和というインフレターゲット政策を日本で最初に訴えた理論経済学者だ。

*世界ではインフレ目標政策は、1990年のニュージーランドで始まる。「サイコロジーの経済学(人間の心理を操る経済学)」と最初の頃から言われていた。

*伊藤隆敏は、アメリカに留学し、ロバート・ルーカスとケネス・アローという二人のノーベル経済学者に育てられて、日本に送り返されてきた尖兵である。


ロバート・ルーカス(経済学者)


公的・準公的資金の運用・リスク管理を見直す政府の有識者会議で座長を務めた 伊藤隆敏


インフレターゲットを提唱した伊藤隆敏の過去の著作群

*インフレ目標政策の成果が出ていないことでは日銀の黒田東彦総裁、岩田規久男副総裁、中曽宏副総裁に対する責任追及の声が高まっている。特に岩田規久男は2年前の4月の就任時に「もしこの政策が実行(達成)できなかったら辞任する」とはっきりいってしまったので、困り果てているはずだ。

*そもそも日銀法第1条には、インフレファイターの仕事は規定されていても、デフレファイターと戦う仕事は規定されていない。

*重要な事は「インフレターゲット論は、方程式を逆転させる論理でできている」ということだ。「成長があるから、そのとき、株が上がり始めて景気が良くなる」とい因果関係を逆転させて、「経済に成長が起きていないのに、無理矢理に経済成長を作り出そうとし、そのために株式を釣り上げるとか、土地の値段を上げさせる」というふうに考えている。実体経済が良くないのに、無理やり株・土地だけを上げれば、経済成長が起きると考えたので失敗している。

*このインタゲ理論の元になったのが、合的期待形成派であり、「人間心理を操る経済学」であり「悪魔の経済学」である。

*合理的期待形成理論(合理的予測派)の頭目は今も行きているロバート・ルーカスというシカゴ大学の学者だ。アメリカ経済学は相当おかしくなっているが、これは「マネタリスト」経済学と、この合理的予測派たちのよるインフレ目標政策という金融政策のせいである。

*伊藤隆敏は2011年の日経新聞で、「合理的期待」について、「政府の行動(変化)を瞬時に察知し、将来のインフレ率や失業率についての期待(予想)を変え、現在の行動も変えるというもの」として説明している。

*ケインズ経済学も90年代半ばにはこの合理的期待を取り入れた「新しいケインズ経済学」に衣替えした、とも伊藤隆敏は論文で書いている。

*副島隆彦が読み破ったところでは、合理的予測派の考えは、「合理的予測をすべての市場参加者にさせることで、市場を完全にコントロールする思想」にほかならず、「市場を牢屋に入れた」という他はない。

*伊藤隆敏の立場は、経済学の歴史を遡ると、物理学者ライプニッツの理論、「すべての出来事は最善(オプティマム)である。全ては調和している。すべての問題は必ず解決する、物事は順調にいく」という思想に遡ることができる。これは『余剰の時代』(KKベストセラーズ)でも取り上げた、ヴォルテールの『カンディード その別名はオプティミズム』(1759年刊)で批判された思想であり、これのオプティミズムを批判した経済学者こそがジョン・メイナード・ケインズである。

*だから、現在の経済・金融政策を巡る争いは、偉大なるケインズと、それ以外の経済学者たちの争いであるのだ。

*現在の経済学者は、元々はケインズ学者だった人達も含めて、「復活した古典派経済学者」たちとの争いに敗れて叩き潰されて、強制改宗の憂き目にあった。古典派は、リカードゥの「モノ、商品、製品を市場に供給さえすれば、それは必ず売れる」という考え方、すなわち「セイの法則」を信じている一派であり、ケインズ学派は「需要があるからこそ、世の中は回る」「供給ではなく、需要面、購買意欲、人々の消費、企業家の設備投資意欲こそだ大事だ」というマルサスの理論を重要視する。

*経済学の歴史は、古典派とケインジアンの戦いの歴史である。1970年のサミュエルソンの「新古典派総合」(ネオクラシカル・シンセシス)というのは、「古典派とケインジアンはめでたく統合された」のではなかった、ケインジアンとクラシカルの戦いの末、ケインズが殺されて、結果、多くの経済学者が裏切り者(アポステイト)として、クラシカルの思想を受け入れていった。ハーヴァード大学は今もケインジアンの牙城と言われているが嘘である。ケインズを殺して古典派が復活したのだ。

*小室直樹先生は「ルーカスの信奉者たちは、まるで狂信者を思わせた」と本の中で書いている。古典派の合理性を行き着くところまで押し進めると、「人々はすべての利用可能な情報を利用することによって正しい予測ができる」と言う考えは狂信者である。この合理的期待形成仮説を定式化した論文が発表されるや、信奉者の中に燎原の火の勢いで広まっていた。この事こそ資本主義は一種の宗教であることを如実に証明するものである、と小室直樹先生は書いている。

*しかし、この合理的予測派の考えるようには、アジア人である私達は、合理的な経済行動などとらない。常に自分に最大の利益が出るように行動する、ということを私達はなかなか出来ない。しかし、合理的予測派は、極限に突き詰めた経済人(ホモ・エコノミクス)を前提にしている。予測(期待)をするためには普通だったら膨大なコスト(費用、労力)と時間をかける必要があるのに、この理論では「コストも時間もゼロである」と仮定されている。彼らは神懸かりの狂信的な資本主義の理論家たちである。

*竹中平蔵と合理的予測派の伊藤隆敏は、「もうすぐインフレが来る。すなわち好景気が来るので、目減りする現金を持っているよりは、モノ(財物)に換えた方がいい」と煽って、人々が買い物をするという状況がかならず来るだろうと考えている。しかし、現実の国民は不安だから、みんなお金を握りしめて放さない。

*不況から脱出するには、ケインズの「有効需要(創造)の原理」の公式、「Y(国民所得)=C(消費)+I(投資)」にある、2つのCとIの需要を高めなければならないのに、サプライサイド重視の竹中平蔵たちは供給側を徹底的に合理化すれば、需要はその後でついてくるという考えをして間違っている。

*ニューヨーク・タイムズのコラムニストで経済学者のポール・クルーグマンは、古典派叩きをやってケインズ学者のふりをしているが、一方でインフレターゲット理論を絶賛している。だからクルーグマンも悪いやつである。

*リーマン・ショック後に伊藤隆敏の師匠で、ノーベル経済学賞を受賞した合理的予測学派のルーカスは、批判の矢面に立たされたが、その時に「私は異常な事態を前提にした理論モデルは作っていない。適正に経済運営が行われることを予想したモデルだ」と言い訳し、インターネット上で批判してきた若い経済学徒たちを脅しつけて黙らせた。しかし、ルーカスに対する批判の釜は煮えたぎっている。

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副島氏が言うと陰謀論に聞こえるが、大筋で正しい。ただし、バブルを恐れた白川を擁護するのもおかしい。ピケティはストックを重視したが、フローの分析も必要だ。特に金融に流れるお金が実体経済をどのくらい凌駕しているかが重要だ。ネット上のお金は実体経済に対してメタレベルにある。現在、投機マネーはインフレだが、実体はデフレだ。スタグフレーションもそれで説明できる。対策としては地域金融を活用する地域再投資法(CRA)しかない。

マルクスにプルードンがセットにならなければならないように、ケインズ復権にはカレツキとゲゼルがセットでなければならない。

ロバート・ルーカス (経済学者) - Wikipedia

ja.wikipedia.org/wiki/ロバートルーカス_(経済学者)
ロバートルーカス(Robert Emerson "Bob" Lucas, Jr.、1937年9月15日 - )は、 アメリカ合衆国の経済学者でシカゴ大学教授。 1995年に ... またルーカス自身は、金融危機時には財政政策がマネーの消失を緩和する効果があることを認めている。 …
  • 政治学者・経済学者の小室直樹は「ルーカスを初めとした合理的期待学派は、正気の沙汰とは思えない。狂気か?カルト教団か?」と述べている[1]。小室は「古典派は余りに合理的な「経済人」を仮定するという理由でよく批判されるが、合理的期待学派のモデルとする経済人は、古典派どころではなく、全知全能に近い「経済人」なのである。その経済人は将来に対して不偏な予測ができる。また、すべての経済理論を利用できる。このような予測をするためには、膨大なコストと時間をかける必要があるが、コストも時間もゼロであると仮定されている」と述べている[2]。小室は「全盛を極めたルーカス派にとって転機となったのは、数学が得意なことで有名なルーカスの論文に数学的誤りが発見されたことだった。これがきっかけとなり理論的批判も行われるようになった」と述べている[2]

^ 小室直樹 『経済学をめぐる巨匠たち』 ダイヤモンド社、2004年、76頁。
a b 小室直樹 『経済学をめぐる巨匠たち』 ダイヤモンド社、2004年、77頁。
Amazon.co.jp: 経済学をめぐる巨匠たち (Kei BOOKS): 小室 直樹

参考:
上第5章、下最終章に、RBC批判がある。
「熱狂なき株高」で踊らされる日本: 金と現金以外は信用するな!: 副島 隆彦
ケインズ―時代と経済学 (ちくま新書): 吉川 洋
















http://green.ap.teacup.com/politicalscience/31.html
 「需要拡大のための構造改革」を唱える吉川洋東大教授は、実は生粋のケインジアンの道を歩んできた。彼は東大経済学部卒業後、アメリカで残った最後のケインジアンの牙城イェール大学でトービン教授の弟子になり、Ph.Dを取得している。彼がイェール大学の大学院生時代にはあのシカゴ大学のルーカス教授が公演に訪れ、トービンとの論争を直に聞いたという。
 「セミナーの途中で一人の助教授がルーカスに「非自発的失業」について質問した。ルーカスは「イェールでは未だに非自発的失業などとわけのわからぬ言葉を使う人が、教授の中に居るのか。シカゴではそんな馬鹿な言葉を使う者は学部の学生の中にも居ない」と答えた」(吉川洋『ケインズ』1995年、ちくま新書、191ページ)。それに対してトービンは少し興奮した口調で言った。「なるほどあなたは非常に鋭い理論家だが、一つだけ私にかなわないことがある。若いあなたは大不況を見ていない。しかし私は大不況をこの目で見たことがある。大不況の悲惨さはあなた方の理論では説明できない」(前掲、192ページ)。

http://nomorepropaganda.blog39.fc2.com/blog-category-15.html
“反ケインズの経済理論として最も有名であるのが、合理的期待形成仮説である。
1972年にロバート・ルーカス博士は「期待と貨幣の中立性について」という論文を発表した。この論文は合理的期待形成仮説を定式化した論文である。
一度この論文が発表されるや、その信奉者の中に燎原の火の勢いで広まっていった。この事こそ、資本主義は一種の宗教であることを如実に証明するものである。ルーカス博士の説を信奉する人々は一時、まるで狂信者を思わせるものがあった。

ルーカスの二つの論文、「貨幣の中立性についてと「景気循環をどう理解するか」が彼らにとって最も大切な論文であった。……一人の女性の研究者が、ルーカスの後者の論文を、全部暗記していて、議論をするごとに、その論文の何ページに、こういう文章があるといって、目をつぶって、あたかもコーランを暗誦するかのような調子で唱え出す光景は異様であった(宇沢弘文『経済学の考え方』岩波新書1989年、257頁)。

まるでカルト教団の信徒ではないか!

《1977年私はイェール大学の大学院生だった。イェール大学はアメリカ・ケインジアンの総帥とも言えるトービンの影響下に、当時米国でケインズ経済学が生き残っているほとんど唯一の大学だった。「合理的期待」理論の発信地であるシカゴ、ミネソタ大学などはもとよりハーバード、MIT、プリンストンなど東部の主要大学でも「合理的期待」理論は大きな影響を与えていた。そうしたある日シカゴからルーカスがイェールにセミナーにやってきた。セミナーの途中で一人の助教授がルーカスに「非自発的失業」について質問した。ルーカスは「イェールでは未だに非自発的失業などとわけのわからぬ言葉を使う人が、教授の中にすら居るのか。シカゴではそんなバカな言葉を使う者は学部の学生の中にも居ない」と答えたものだ》(吉川洋『ケインズ』ちくま新書1995年、191頁)

何とケインズの「非自発的失業」という概念すら、反ケインズ主義者の間では綺麗に一掃され、禁句にすらなっていたのであった。

最後にトービンが少し興奮した口調でルーカスに言った。「なるほど貴方は非常に鋭い理論家だが、一つだけ私にかなわないことがある。若い貴方は大不況を見ていない。しかし私は大不況をこの目で見たことがある。大不況の悲惨さはあなた方の理論では説明できない。」(吉川、前掲書、192頁)”
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以下はルーカス擁護記事:
第九回「経済学は有益か(その二)―ルーカスの洞察」 | キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)

ルーカス氏の見立て
危機は「マネー消失」が原因

ルーカス氏は、今回の金融危機の本質を「マネーの消失」であると、ひと言で言い表した。つまり、財貨の交換媒体(マネー)が急に消失したために、経済活動が阻害され、急速な不況が発生したというのである。この性質は1930年代の大恐慌とも相通ずる。大恐慌の時代も、銀行預金(すなわちマネー)が急激に減少していたことをルーカス氏は講演で指摘した。大恐慌の時代にマネーが減少したのは、銀行取付け(Bank Run)が起こったからである。大恐慌時には、預金保険もなかったため、預金者は銀行倒産をおそれて我先に預金を引き出した。その結果、経済全体でマネー(銀行預金)が消失したのである。
その後、1934年に預金保険が整備され、さらにグラス・スティーガル法によって銀行と証券を分離して、銀行が過度のリスクをとれないようにする金融規制の体系ができあがった。この銀行規制は数十年にわたって、大恐慌(すなわち全国的な銀行取付けの嵐)が再発することを防止した、とルーカス氏はいう。しかし、近年の規制緩和で銀行と証券の壁が取り払われ、金融工学の発展によって市場環境が変質し、銀行が過度のリスクをとる状況が発生した。
今回の金融危機では、預金保険があるため、預金の引出しに預金者が殺到することはなかった。しかし、預金保険で保護されていない短期の銀行債務は、急激に縮小し、金融機関は短期債務の借換えができなくなり、資金ショートに追い込まれた。保護されていない短期の銀行債務は、実質的に(大恐慌時の)預金債務と同じであり、短期債務の「取付け」が発生したのである。つまり、規制の外でいつのまにかマネー(短期債務)が自然発生し、それが経済活動の正常な運行に必要不可欠な存在となっていた。そのマネーが、住宅バブル崩壊で金融機関のバランスシートが悪化したため、倒産をおそれた債権者によって引き揚げられてしまった。結果的に、経済全体で急にマネーが消失してしまったのである。これがルーカス氏の診断である。
ルーカス氏は、米国政府や連邦準備制度の危機対策についても、非常に柔軟にポジティブな評価をした(クルーグマン氏が描く新古典派の典型的な経済学者なら、政府介入には教条的に反対を唱えるはずだが)。マネーが消失したのだから、経済活動を回復させるためには、マネーの供給を増やす必要がある。連邦準備制度が行った極端な金融緩和政策は、消失したマネーを補うために、中央銀行が貨幣を経済に供給する政策だった。危機に際して必要な政策だったのである。また、マネーを供給するという目的を達するうえで、「財政政策」と「金融政策」の区別はほとんど意味がない。政府の補助金や公共事業であっても、中央銀行からの貸出であっても、マネー不足の経済に対してマネーが供給されれば、それだけで効果がある。ルーカス氏は、教条的な財政政策無効論者ではなく、金融危機時には財政政策がマネーの消失を緩和する効果があることを認めているのである。
ルーカス氏は、「新しい科学的発見をしたふりをするつもりはない」と謙遜しているが、いずれにしても、銀行取付けと同じメカニズムによって、交換媒体としてのマネーが消失したことが金融危機の本質である、というのがルーカス氏の洞察である。それは筆者の見方と重なり合うものであり、本連載が追求しているテーマと一致するのである。
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   将来を組み入れたミクロ分析モデル

老              老 
人|             人 第2期消費
期|             期 |\  
所|             所Y4_\老人は貯蓄を使い消費を増やせる
得|             得 | ⬆︎\
Y2___o          Y2___o 
 |   |       ➡︎   |   |\
 |   |           |   | \若者は借金をして
 |   |           |   |➡︎|\消費を増やせる
 |___|_______    |___|_|_\____第1期消費  
     Y1 若者期所得      Y1 Y3 若者期所得

  バロー中立命題

第2期消費           第2期消費
 |\ \            |\ \  
 | \ \           | \ \
 |  \ \          |  \ \
Y2___o➡︎\        Y2___o \ 
 |   |\ \        |   |\⬇︎\
 |   | \ \       |   | \ \
 |   |  \ \      |   |  \ \
 |___|___\_\___  |___|___\_\____
     Y1 第1期所得       Y1  第1期所得

(1)若者期に国債を   (2)若者は、将来の  (3)予算線は、
   発行し所得を増やす ➡︎  増税を見越して  ➡︎  元に戻る
   (政府支出増)      消費を減らし、
                貯蓄を増やす

      [予算線不変=三角形不変]⬅︎[財政政策は無効]
_________
以下は本質的ルーカス(への)批判の紹介:
反ケインズ派マクロ経済学が着目したもの──フリードマンとルーカスと「予想」 / 松尾匡 | SYNODOS -シノドス- | ページ 3
http://synodos.jp/economy/6795/3
《…しかしその後続々と明らかになったのは、このルーカスモデルの想定をそっくりそのまま使い、合理的期待の前提もおいたままで、このモデル自体にルーカスさんが気づいていなかった別の均衡がいくつもあるということでした。そしてそれらの別均衡のもとでは、政府がおカネの発行を増やしたとき、ただインフレになって終わりというわけではなく、ちゃんと生産が増えることが明らかにされたのでした。…[*7]》
[*7]松井宗也「Lucas (1972)モデルにおける複数均衡」(2012)http://www.ic.nanzan-u.ac.jp/MCENTER/pdf/wp1202.pdf

《[*8]… もし物価上昇が全部現役人口の変動のせいならば、それは次期の現役人口には関係のないことです。次期には平均的には物価が元に戻ると予想されます。つまり、いまより物価は下がるということです。これは貨幣を持ち越せば将来買える財が増えるということで、実質的に利子がつくことといっしょです。ならばたくさん稼いで貨幣を将来に持ち越して引退人生を楽しもうと思います。だから、生産が増えます。
ところが物価上昇が全部、貨幣が増えたせいならば、その貨幣が次期にも持ち越されますので、平均的に見て物価は高くなったまま変わらないと予想されます。貨幣を持ち越すごリヤクは変わりませんので、生産も増えません。
しかしこのモデルの中の人は、この両者を今期中は区別できませんから、物価が高くなった理由が、本当は政府が人々の意表をついて貨幣発行を増やしただけのことだったとしても、人々は自分の島への現役人口の割り振りが少なかったせいである可能性を否定できません。その可能性の分は、人々は財の生産を増やして貨幣の持ち越しを増やそうとします。だから、人々に予期されざる金融緩和政策は、生産を増やすという意味で有効ということになります。
ところが政府の貨幣供給がバッチリ人々によって認識されるならば、人々はただ現役人口の割り振りに反応するだけで、貨幣の変動の方に反応して生産を増やすことはしません。だから、予想された金融政策は無効ということになります。》
[*8]大瀧雅之『景気循環の理論』第1章第3節、東京大学出版会、1994年。

《…ルーカスさんの論文の政策無効の結論は、実は「合理的期待」という新しい手法に原因があったわけではなかったのです。
このことが認識されたのは、ルーカスモデルでつじつまの合った物価の決まり方の式は、ルーカスさんが使った貨幣数量説型の式だけでなく、いろんな式があり得るということが発見されていったからです。松井さんの論文によれば、1990年代の初めには、ルーカスモデルの中に出てくるいろいろな式を、計算のしやすい簡単な式に特定化した上で、貨幣が生産や消費に影響するような解が無限に出てくることが示されている[*10]そうです。》
[*10]P. A. Chiappori and R. Guesnerie, “The Lucas equation, indeterminancy, and non-neutrality: an example,” Economic Analysis of Mardets and Games, ed. P. Dasgupta, D. Gale, O. Hart and E. Maskin, The MIT Press, Cambridge, 1992.

_______

       企業の需要 M&A市場 企業の供給
 お金の流れ------➡︎D  S⬅︎---------
  |賃金・地代・利潤 E_\/   労働・土地・資本|
  |(=GDP)  均衡点/\           |
  |  -------⬅︎S  D➡︎-------  |
  | | 企業の売却       企業の買収  | |
  | |                    | |
  | |        株式市場        | |
  |  ---------\/---------  |
  ⬆︎  ---------/\---------  ⬆︎   
  | |                    | |
  | |        生産要素        | |
  | |  労働の需要  市場  労働の供給  | |
  ➡︎ お金の流れ---➡︎D  S⬅︎-------  ⬅︎
  |賃金・地代・利潤 E_\/   労働・土地・資本|
  |(=GDP)  均衡点/\           |
  |  -------⬅︎S  D➡︎-------  |
  | |生産へ         所得(=GDP)| |
  | |の投入                 | |
  ⬆︎ ⬇︎       マクロ /        ⬇︎ ⬆︎
  \ /          /         \ /
  企\業         /          家\計 
  / \        / ミクロ       / \
  ⬇︎ ⬆︎                    ⬆︎ ⬇︎
  | |(GDP=) 財・サービス  購入された| |
  | | 収入      市場   財・サービス| |
  |  -------⬅︎D  S➡︎-------  |
  |販売された財   E_\/均衡点        |
  |・サービス      /\   支出(=GDP)|
   ---------➡︎S  D⬅︎---------
        財の供給      財の需要○○
   財優勢(デフレ)下降←利子率→上昇(インフレ)貨幣優勢    
                            イ
 デ                         ン
  フ                       フ
   レ                     レ












投資の限界効率:投資の利益率を
        利子率(金利)で表示したもの。

〈ケインズの投資の限界効率理論〉
投資の限界効率 > 利子率(金利) ⇒ 投資する
投資の限界効率 = 利子率(金利) ⇒ 投資しなくてもよい
投資の限界効率 < 利子率(金利) ⇒ 投資しない
(石川秀樹『経済学と数学がイッキにわかる!!』2009年214~5頁)












株式はDにもSにもなる。株式市場で企業の所有者が家計と相互に入れ替わり得る。
M&A(エムアンドエー)とは、企業の吸収合併や買収の総称。英語の Mergers and Acquisitions(合併と買収)の略。


貨幣供給量  貨幣需要量(流動性選好)
  \    /
   利子率    予想利潤率(資本の限界効率)
      \   /
       投資量   乗数(1÷貯蓄率)
          \  /
         国民所得量     消費性向
             \    /
             消費需要量
        2:17図 ケインズ経済学の因果連鎖


以下、伊東光晴『ケインズ』(講談社学術文庫273頁、既出の図の改訂版):
         _____________
        |    /消費C←所得Y/
        |   ↙︎ーーーーーー /
雇用量←産出高=|所得Y (消費性向)/
 N   O  |   ↖︎     /↙︎利子率i←貨幣量M
        |    \投資I←
        |_______/  ↖︎資本の限界効率r

                 ↙︎i
           Y←I  I←r   i←M
           乗数理論 投資決定論 流動性選好利子論

以下、雇用の一般理論の梗概 (ディラード『ケインズの経済学』64頁より):
    
     雇用(N),所得(Y),および有効需要(D)の理論     
         ________/\________      
        消費(C)             投資(I)    
         /\            ___/\___         
     消費性向  所得の大きさ   利子率(ri)      資本の限界効率(rm)
      /\            /\            /\   
平均消費(C/Y)  限界消費    流動性  貨幣量(M)  利回りの予想  取り替え費用、あ
        性向(ΔC/ΔY)  選好(L) (M=M1+M2)          るいは資本資産
        /\        l                 の供給価格
  投資乗数(k)  k=1/(1-ΔC/ΔY)  取引動機             
  の導出              予備的動機
                    投機的動機
                (すべてM1によりみたされる)             

  特 徴
「基礎」国民所得C/Y=1,すなわちC=Y。
所得が増加するにつれて消費も増加するが,
所得よりも増加率が小さい。
ΔC/ΔYはつねに1より小である。

         kはつねに1より大である。
         投資の増加は倍数的所得増加をもたらす。

                  交換の媒介としての貨幣を意味する。
                   価値の貯蓄としての貨幣を意味する。
                    貨幣当局により統制されうる。

                            不安定。株式市場,
                            企業の確信等により影響される。

                                    景気循環:変動。
                                    長期:低減。 (注)
1.雇用(および所得)は有効需要に依存する。
2.有効需要は消費性向および投資量により決定される。
3.消費性向は比較的安定である,
4.雇用は消費性向が不変ならば投資量に依存する。
5.投資は利子率と資本の限界効率に依存する。
6.利子率は貨幣量と流動性選好に依存する。
7.資本の限界効率は利回りの予想と資本資産の取替え費用に依存する。

*ディラードの図は乗数効果を消費に働きかけるものとしている点において異質だが優れている。

貨幣供給量  貨幣需要量(流動性選好)6  [(利回りの予想と)資本資産の取替え費用]7
  \    /               /
 利子率5,6,7  予想利潤率(資本の限界効率)5
      \   /
   投資量2,4,5   乗数(1÷貯蓄率)2,4
          \  /
        国民所得量(雇用)1  消費性向 1,2,3
             \    /
             消費需要量(有効需要) 1

        2:17図 ケインズ経済学の因果連鎖


 貨幣の供給量
       \
        利子率____
 貨幣の需要量/       \
(流動性選好)         投資量_
        資本の限界効率/    \
                     国民所得量
                投資乗数/     \
                           総消費量
                      消費性向/

     ケインズ経済学的にみたマクロ経済の要素連鎖

以下、伊東光晴『ケインズ』(講談社学術文庫273頁、既出の図の改訂版):
         _____________
        |    /消費C←所得Y/
        |   ↙︎ーーーーーー /
雇用量←産出高=|所得Y (消費性向)/
 N   O  |   ↖︎     /↙︎利子率i←貨幣量M
        |    \投資I←
        |_______/  ↖︎資本の限界効率r

                 ↙︎i
           Y←I  I←r   i←M
           乗数理論 投資決定論 流動性選好利子論

ケインズ『一般理論』全訳目次 (原著1936年刊行)

参考:
ケインズ『要約 一般理論』(ポット出版)サポートページ
http://cruel.org/b ooks/generalsummary/ 
 貨幣の供給量
       \
        利子率____
 貨幣の需要量/ 4:    \2:7
(流動性選好)         投資量_
 4:15   資本の限界効率/4:  \
           4:11      国民所得量
                投資乗数/  1: \
                3:10       総消費量
                      消費性向/ 1:
                       3:
     ケインズ経済学的にみたマクロ経済の要素連鎖




























ソロー残差とは - はてなキーワード - はてなダイアリー

ソロー残差」とは - ソロー残差。 技術革新は直接計測できない。 直接計測できないの なら、 間接的に計測してみましょう!と言うのがソロー残差。 詳しくは以下の説明を参照 。 http://cruel.org/econthought/prof...











ソロー残差・成長会計分析

hakase-jyuku.com>...>経済成長
ソローの成長モデルにおいて、経済成長は技術進歩によってもたらされる。それは確か に前回の労働増大的技術進歩モデルによって示された。 だがしかし技術進歩と言っても 労働増大的技術進歩以外の進歩、 すなわち生産関数F(K、L)の向上による技術進歩 ...











ソロー残差」について考える|ユウ坊の経済を考えるブログ

ameblo.jp/yo1729-1729am/entry-11892524996.html
2014年7月11日 ... ソロー残差」とは“成長会計と呼ばれるデータによって技術進歩率を差(引き算)として 算定する手法から得られる値のことであり、大雑把に示すと「技術進歩率=経済成長率 -資本の成長の貢献-労働の成長の貢献」という式で表されるもの”で、 ...

ケインズ経済学はデフレの貨幣不足時に、
RBC理論はインフレの財不足時に、状況に対して相補的に作用し主流となる。


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http://libertystreeteconomics.typepad.com/.a/6a01348793456c970c01b8d0708b22970c-popup
a Stylized Description of the Model
    :frictions ⬅︎[shocks

         [TFP shocks]  [Investment shocks]
       _____⬇︎___Firms 市場 __⬇︎_________
                Goods             |
      | Goods 商品  ---→ Entrepreneurs/ 起業家/|
      |producers 生産者 ←--- Capital producers   |
      |      ↗︎/  Capital    ↖︎    資本家 |
[Labor   |     //:Adjustment costs  \       |
 supply  |    //and variable capital utilization\      |
  shocks___//_______________\_____|
   ⬇︎     //Consumption           \[Spread shocks]
   Labor  //   goods [Markup         \  ⬇︎
:Wage rigidity//:Price rigidity⬅︎ shocks]         \Loans貸付
     /↙︎                        \:Credit frictions
 Households 家主 -------Deposits-------→Banks銀行
     Treasury bills ↖︎↘︎Taxes 税 
        ⬆︎   Government 政府
  [Policy shocks]



        Agents’ choices in the model are dynamic (hence the “D” in DSGE) in the sense that they take into account both current and future expected conditions. Technically, agents solve intertemporal optimization problems, subject to constraints. For example, households choose their consumption profile over time, given their preferences and their budget constraints, while firms choose their prices by maximizing profits, given the production technology they operate. The outcome of each agent’s optimization problem is a decision rule that describes how they react to changes in their circumstances. The intensity of this reaction depends upon the parameters that characterize their preferences as well as their environment. For instance, workers supply labor based on the wage they would earn by working more and the value they place on the extra income. How much more they will work for any extra dollar depends on the so-called elasticity of labor supply, a parameter of the model that is related to each worker’s preference for leisure. People who like leisure more will need a higher wage increase to be convinced to work an extra hour. Firms, in turn, demand labor based on the wage and the productivity of workers. The slope of their labor demand curve (that is, how much more they are willing to pay to convince a worker to stay one more hour on the job) also depends on parameters, in this case, having to do with the technology they operate. The interaction of workers and firms in the labor market balances their conflicting interests (workers prefer higher wages, while firms would rather pay less) and determines an equilibrium wage. The process of simultaneous determination of wages and all other prices in the economy is what makes the model one of “general equilibrium,” which accounts for the “GE” in DSGE.

        Finally, the “S” is for stochastic, illustrating the fact that agents face uncertain circumstances when making decisions. The environment faced by agents is subject to random disturbances, called “shocks.” Our model features several such shocks, including: shocks to productivity, which affect the amount of output that can be produced with a given amount of inputs; mark-up shocks, which capture exogenous inflationary pressures, such as those coming from movements in oil prices; and labor supply shocks, which capture changes in demographics or labor market imperfections. In addition, there are financial shocks, which affect the riskiness of borrowers, and shocks to investment demand, which capture changes in uncertainty about future demand, among other factors affecting firms’ desire to invest. Finally, two types of policy shocks capture changes in monetary and fiscal policy. 
_____


[加藤「現代マクロ経済学講義」に関する無駄に長い書評

[お断り]
1. 第3章と第4章はあまり読んでいない(特に第4章はまったく読んでいない)ので、以下の書評は第1章、第2章、第5章、第6章、第7章に関するものです。
2. 以下の書評は2006年1月から2月にかけて加藤さんからいただいた本書の「草稿」を読んだときの感想が大部分を占めています。出版された本書を読んでみると細かい修正はあるようですが、大きな変化はないようなので、その時の感想に基づいて書きます。
3. 本書の「日本経済へのインプリケーション」に異論のある方もいらっしゃるでしょうが、それには少し目を瞑って「DGEの教科書」として書評しますので、よろしくお願いします(←韓リフ先生向けのメッセージ)
[現代マクロ経済学の主流]
矢野の理解が正しければ、現代マクロ経済学の主流は「動的一般均衡モデル(Dynamic General Equilibrium Models, 以下DGE)」によって占められています。
「主流」というのは必ずしも「正しい」とは限らないかもしれませんが、それでも研究者がお互いに議論するには何らかの「共通の議論の基盤」は必要ですから、DGEはその基盤として用いられることが多いようです。
[DGEの四要素]
DGEに基づく論文は少なくとも以下の四つの要素を含んでいます。
1. 定型化された事実(stylized facts)[たとえば「現在のインフレ率は1期前のインフレ率からみて急激な変化をすることは少ない(インフレ慣性)」など]
2. Dynamic Programmingなどの現代制御理論に基づくマクロ経済モデルの構築
3. 前記モデルの係数の特定化(Calibration)
4. 前記モデルの1階条件を用いて均衡を算出し、均衡周辺で線形化したモデルをBlanchard and Kahn (1980)などの手法を用いて変形し、impulse responseを用いてシミュレートする
場合によっては3.が「ベイズ統計学(たとえばマルコフ連鎖モンテカルロ法)を用いたパラメータ推定」 だったり、4.の部分が「Value Function Iterationを用いたシミュレーション」だったりと若干違う場合もありますが、上記の四要素を含んだ論文は少なくありません。
[DGE初学者の困難]
DGEをはじめて学ぶ人たちが大変な理由はとても簡単で「勉強すべき内容が多すぎる」からです。つまり、「定型化された事実」を考え、Dynamic Programmingなどの現代制御理論を学び、係数を特定化する計量分析を学び、(基本的には)プログラムも自分で作らねばなりません。
要はDGEを使いこなせるまでに学ぶべきことが多すぎることが困難の原因のひとつだと言えるでしょう。
さらに問題として「日本語で書かれ、上記の四要素をすべて含んだ初学者向け教科書がない」点が挙げられます*1
[本書の特徴 (1)]
さて、本書の特徴ですが、第一に上記の四要素をほぼ完全に網羅している点にあります。先に述べたように矢野が知る限りでは本書に匹敵するような初学者に親切な教科書は邦文、英文を問わずあまりありません。
たとえば、邦文で言えば齊藤誠「新しいマクロ経済学―クラシカルとケインジアンの邂逅」はDGEをはじめとしたミクロ的基礎付マクロ経済学の入門書として広く読まれている「基本書」のひとつですが、上記4.のシミュレーションの部分がまったく欠けています(齊藤先生の場合、確信犯でそうしておられるようです[「まえがき」にそう書いてある]。これはひとつの見識だと思います)。
英文で言えば、Ljungqvist and Sargent, "Recursive Macroeconomic Theory"は包括的な教科書ですが、なぜかBlanchard and Kahn (1980)に代表されるようなLinear Rational Expectations Modelsの解説が抜けている・・・などといった具合で、本書のように上記の四要素をすべて含んだ(初学者に親切な)教科書はめずらしいと思います。
[本書の特徴 (2)]
さらに、特筆すべき点は「New Keynesianモデル=New IS-LM」に焦点が当てられている点です。
このNew IS-LMモデル(さらにその発展形としてのHybrid New IS-LM)は金融政策を論じるうえの"general framework" (Mccallum (2001))になっています。
しかし、この分野の標準的な教科書であるWoodford (2003)もWalsh (2003)も非常に長い(というか重い?)ので、それを読みこなして「金融政策を論じる」までに到達するのは初学者にはとても難しいことです(さらに付言すればWalsh (2001)にはNew IS-LMの記述はあってもHybrid New IS-LMの記述はほとんどありません)。
[本書の特徴 (3)]
さらに第7章では多くの初学者にとって難しい動学的最適化問題(制御理論)への入門とプログラム作成について著者は丁寧な解説を行っています。
この第7章は「あまり動学的最適化問題に詳しくない」読者にも分かるようにかかれており、著者が周到に本書を準備したことが分かります。あまりこの分野に詳しくない読者は、第1章の前に第7章を読んでみると良いかもしれません。
[加藤さんへ] 本書のpp. 210にある「われわれはいまだにインフレ率のバックーワード・ルッキングな部分がどのような経済主体の行動から生じているかを知らない」という部分ですが、この問題は今後も研究する必要はあるものの、どうしても必須なものだとは思いません。なぜならばNew IS-LM/Hybrid IS-LMにおける経済の変化の源泉はすべて期待項から生じており、「バックーワード・ルッキングな部分」はその足かせにすぎないからです(期待項からの効果を減じているのは事実ですが、それで本質的な議論が変わるとは思えません)。他に「日本経済へのインプリケーション」に関しても異論があるので、お会いする機会があれば議論しましょう。
[結論]
矢野と加藤さんの意見は(もしかしたら)異なるのかもしれませんが、そのような「小さな」違いを超えて、本書を推薦します。本書から「世界標準のマクロ経済学=Dynamic General Equilibrium」を学び、そして、大いに議論しましょう。
現代マクロ経済学講義―動学的一般均衡モデル入門
つーかお前ら、読みもしないLjungqvist and Sargent, Woodford, Walshとか買うくらいだったらこの本を買え!
[個人的な補足]
矢野は2002年6月からDGEを独学で学び始めました。加藤さんの「現代マクロ経済学講義」の草稿を2006年1月に読ませていただいて、その時に「新しい知識は(あまり)ない」と感じられたのが少しうれしかったです。草稿を読みながら、「ああ、(僕の)DGE入門は終わったんだな」と思いました。おかげで2006年はDGEのことを忘れて、ずっと非線形・非ガウス状態空間モデルの研究に集中することができました。













2 Comments:

Blogger yoji said...

727 名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 2021/02/26(金) 10:36:36.58 ID:eIIFA8UY
ルーカスは関数解析の不動点定理を使ってそれ以降そんなのが増えたということでは?

7:32 午後  
Blogger yoji said...

726 名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 2021/02/26(金) 10:35:10.00 ID:eIIFA8UY
ラムゼーモデルがマイクロファンデーションじゃん。
ルーカスが最初じゃないよ

7:35 午後  

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