金曜日, 10月 04, 2019

インターバンク市場の機能について 2

インターバンク市場の機能について 2

15/03/29 22:10

X銀行からY銀行への送金が集中しており

相互の債務の相殺では決済しきれない場合、

第三のケースとして、中央銀行を介して

決済をすることが可能である。

この場合、X銀行、Y銀行

ともに中央銀行に準備預金口座を開設しており、

この預金で決済が行われる。

まず、X銀行が中央銀行から資金を得る場合を

考えよう。ただし、今のところ中央政府など

考慮に入れない。

中央銀行

資産

負債

貸付金         +100

X銀行         +100

X銀行

資産

負債

準備預金        +100

借入金          +100

これは、最初にX銀行が民間非金融部門に

貸付をしたのと全く同じパターンである。

中央銀行は準備預金を発行するに際して

原資として先立つ資産を必要としていない

X銀行と中央銀行の間では、単に、

互いの負債が交換されるだけである。

なお、民間の優良手形が売却されるケースもある。

中央銀行

資産

負債

有価証券        +100

X銀行         +100

X銀行

資産

負債

準備預金        +100

有価証券         ‐100

ここでいう有価証券の大部分は、多くの国で

今日では国債によって占められている。

また、今回は言及しないが、いわゆるレポ取引

(日銀では、「現先」勘定)も重要な論点である。

なお、現在の多くの国がそうであるように

紙幣は中央銀行のみが発行できるとしよう。

その場合、民間銀行の預金者の要望で

50の紙幣が振出されると、

X銀行

資産

負債

貸付金         +100

預金           +100

準備預金         +50

借入金          +50

準備預金         ‐50

紙幣            +50

紙幣            ‐50

預金            ‐50

中央銀行

資産

負債

貸付金          +50

準備預金        +50

準備預金        ‐50

発行銀行券      +50

見てのとおり、X銀行の負債は、

当初、融資先に対して振出した100の預金から

50が現金に払戻しされ、その結果、

預金(負債)残高は50に減った。

他方で、この紙幣を入手するため、中央銀行に対し

50の債務を新たに負うこととなった。

結果的にX銀行のポジションは

資産が100(顧客への貸付金)、

負債は50(顧客の預金)+ 50(中央銀行からの借入金)

である。

他方、中央銀行は資産としてX銀行に対する

50の貸付金を有するほか、負債として50の紙幣が

発行された。この場合、X銀行が

中央銀行から資金を借入れたのは

預金者の要望した払戻しに応じるためであり、

預金者への貸付の原資としてではない

逆に言えば、たとえばX銀行が融資の結果、

振出した預金がY銀行に送金され、

そこで預金者が払戻しを求めれば、

中央銀行の貸付はX銀行に対してではなく

Y銀行に対して実行される

さて、X銀行からY銀行への送金が

中央銀行の準備預金を通じて行われる場合を

考えよう。まずは「即時グロス決済」形式の

取引を取り上げる。これはX銀行が預金者から

送金指示を受けると、

Y銀行へ支払依頼を出すと同時に

中央銀行の準備預金を使って決済までしてしまう

取引形式である。

X銀行

資産

負債

貸付金          +100

預金           +100

準備預金        +100

借入金         +100

準備預金         ‐100

預金            ‐100

Y銀行

資産

負債

準備預金        +100

預金           +100

中央銀行

資産

負債

貸付金          +100

X銀行          +100

X銀行           ‐100

Y銀行          +100

X銀行はY銀行へ振込依頼を出す。

Y銀行は、それを受けて顧客の預金口座の残高に

100を加算する。これによって、顧客の送金は

終わる。同時に、X銀行は日銀に、自分の口座の

準備預金から100をY銀行の口座へ振替を

依頼する。それが実行されることで、

X銀行とY銀行の間には、債権債務の関係は

残らない。

現在、日本では1億円以上の送金業務は

こうした「即時グロス決済」取引で行うことが

定められている。しかしながら、通常の

より小口の取引では、こうした即時グロス決済ではなく、

「時点ネット決済」が行われている。

これは、すでに説明した通り、

両行の間で債権債務の相殺処理をした後、

帳尻だけを中央銀行当座預金で

決済する、というやり方である。

多くの国では、1日のうちで

決済が行われる時間が決められており

そして決済の際、あるいは帳尻が

繰越される場合には、金利が支払われる。

しかしながら、決済の時に

銀行がそれに応じることができる十分な

準備預金残高があれば問題ないが、

それが不足した場合(すでに、

前の節で説明したケースを除けば)、

他の銀行か中央銀行から借入れるしかない。

この借入の際の金利が

日中もののインターバンクレート、あるいは

決済が翌日にまたがる場合のレートが

オーバーナイトもののインターバンクレートである。

日本では通常、無担保コールレートと呼ばれるものが

これに該当する。

X銀行がY銀行に対する債務を決済するとき、

X銀行の手持ちの準備預金が十分でなければ

X銀行は資金余剰となっているZ銀行、

あるいはY銀行自身が資金余剰であれば

Y銀行自身からも借入れることができる。

しかし、他にどの銀行も資金余剰でない場合、

或いは、資金余剰額が不足額よりかなり少ない場合、

インターバンクレートは急上昇することになる。

たとえば、預金者が一斉に

普段より多くの預金を現金化してしまうような

ケース(日本では、たとえば月末や、

盆暮れゴールデンウィーク

直前になると、こうしたことが起こりやすい)には

準備預金(日銀当座預金)が減少し、

インターバンクレートが上昇することになる。

(問題は、レートが上昇すること自体よりは

決済用の準備預金が不足していることであり、

インターバンクレートの急上昇は、その兆候である。)

こうした時、中央銀行は

準備預金を金融市場につぎ込み、

決済に滞りが無いように金利を安定させる。

逆にゴールデンウィークや盆暮れの直後には

現金化されていた資金が一斉に

預金され、準備としてインターバンク市場に

戻ってくることになる。この場合、

インターバンク市場の金利が急落する。

ところが、この金利が低下しすぎると、

今度はX銀行に対して資金を提供する

Y銀行の役割を果たす銀行が無くなってしまう。

Y銀行はX銀行の依頼を受けて

立替払いをしているわけだが、あまりにも低い金利だと

融資費用やリスクをカバーできなくなってしまうので

Y銀行は、もはやX銀行の依頼を

そのまま受けることができなくなってしまう。

その結果、送金決済業務がスムーズに進まず

決済システムそのものが機能マヒに陥ることになる。

従って、こうした場合には中央銀行は

売りオペレーションによって市場の余剰準備を

回収することになる。

つまり、中央銀行が売りオペレーションや

買いオペレーションによってインターバンク市場の

資金(準備預金)の残高を調整するのは

景気をコントロールするため、というより

まず何より、インターバンク市場がスムーズに運営され

決済がきちんと行われるようにするためなのである

実際には、準備預金は、上記のとおり

民間銀行が振出した預金の現金化に対応するため

必要とされるか、銀行間の債務相殺の帳尻を

決済するためだけに使われる。

(実際には、このほかにも

政府・中央銀行への支払いのためにも必要とされる。

また、これはオペレーショナルな必要性が

あるわけではないが、法律上法定準備率制度を

採用している国では、

それを満たすためにも必要とされる。)

従って、いくら中央銀行が準備預金残高を増やしたところで

銀行が振出すことのできる預金残高は

顧客の要求によって決まってしまう

それどころか、銀行が必要とする以上の

準備預金を供給した場合、インターバンク市場で

金利がゼロにまで圧縮され、

市場金利を引き下げるどころか、

決済システムそのものが崩壊してしまい、

経済全体が混乱することになってしまう

だから、インターバンク市場で決済に必要とされる以上に

準備預金を供給する場合には、

準備預金そのものに金利を付けることが

必要不可欠になる

いずれにせよ、準備預金が銀行の貸出の原資では

ない以上、これを増やすことによって

銀行の融資活動を活発化させることは

不可能である。ただインターバンクレートが

下がれば、銀行にとって貸出金利も

下げることが可能になり、これが

企業の投資活動を促すことはあり得る。しかし

それを超えて、ベースマネーの増加自体が

投資を増やし、マネーストックを増やすことは

あり得ない。これがMMTの主張である。

実は、中央銀行は多くの国で

日々、盛んに介入をしている。これは

景気刺激政策というよりは、

日常業務であり、景気刺激策或いは

その他あらゆる政策的行動は

こうした日常業務によって日銀が

決済システムをスムーズに機能するように管理していることが

大前提となる景気刺激、物価安定、

インフレ、或いは雇用のため、中央銀行には様々な政策が

提案されているが、どのような政策にせよ、

こうした、中央銀行の「決済システムを維持する」という業務と

矛盾する政策を採用することは

不可能なのである

なお、日本やアメリカ、EUでは

「法定準備預金制度」がとられている。

これは、昔はそれなりに、というか、

非常に大きな意味があった。ただしそれは

違反をした金融機関に対して大きなペナルティーを

課す一方で、窓口規制などを通じて

銀行が常に準備不足

ぎりぎりでオペレーションするように

追い込んでゆくことができた時代の話である。

だが現状(ただし、

サブプライムローンバブル危機以前の、

金融自由化された状況のことで、今の様に

異常な超過準備残高があることを

想定しているわけではない)では、ほとんど

意味が無くなりつつある。

法定準備率制度の趣旨は、次のようなものと解釈できる。

民間銀行が預金振出によって貨幣供給量を

勝手に増やしてしまっては、インフレになってしまう。

そこで民間の預金発行残高に

タガをはめるため、預金創造と

保有準備預金残高の間に

一定の関係をつけよう、というものである。

金融自由化の結果、窓口規制などによって

金融機関に人為的に働きかけることができなくなり、

同時に、金融機関がさまざまな決済手段を

開発するようになり(すでに述べた

証券化などは、これに該当する)、さらには、

自動預け替え口座など(顧客の預金のうち、

あまり使われていない金額については

自動的に、預金準備率が低い口座へ

振替えてしまうもので、日本ではあまり普及していない?)

さまざまな方法が開発されたことで

法定預金準備制度に対する、いわば「抜け穴」が

できてしまった。

もともと法定準備預金制度には

顧客の預金をベースにして

必要な準備預金を計算する「計算期間」と

そうして計算された「所要準備」を

実際に中央銀行の口座に保持しておかなければならない

「積み期間」の間にずれがある

アメリカの場合、ある2週間(計算期間)の間の

毎日の営業終了時点における顧客の預金残高の

平均値で「所要準備額」が決まると

次の2週間をおいて、そして

その後の2週間(積み期間)の間、

これまた毎日の営業終了時点での

準備預金残高の平均値が

この所要準備額を満たしていればよいことになっている。

日本の場合は、毎月1日より月末までを計算期間とし、

同月の16日に始まり翌月15日に終わるまでの

期間を積み期間としている。

つまり、教科書の信用創造プロセスに書かれているような

業務は、何も行われていないのである

中央銀行は、民間銀行から資金供給の要請があった場合

これに応じざるを得ない。なぜなら、

これに応じなければ、金融機関は決済ができず

決済システム自体が破たんすることになってしまうからである

それどころか、

金融機関は金利を節約し、不確実性を

減らすため、オーバーナイト物の繰越はなるべく減らし

日中に決済を済ませようとする。

その結果、所要準備預金を満たすためだけに

金融機関はオーバーナイト物の借入をするようになる。

つまり、いくら取引に必要な準備預金が

あっても、日中にすべての決済を済ませてしまえば、

営業終了直前に所要準備を満たすためだけに

中央銀行から当座借入をすれば、公表される

準備預金残高は、実際に取引に必要とされる額より

はるかに少なくなる。逆にいくら取引が少なくても

ともかく、夜間の間だけ、所要準備を満たすように

準備預金を借り入れなければならない。少なからぬ

数の金融機関がこうした行動をとるようになると、

結果的に、公表されている準備預金の残高と

実際の経済活動に必要とされている準備預金の間には

何の関係すらなくなってしまう可能性すらある

つまり、いくら統計資料をひっくり返して

MHの間に相関性があるか無いかと議論をしても

そもそも準備残高自体が、経済で必要とされて

実際に実務で用いられている金額とは

全く関係がないのだから、

実務上は全くどうでもいい話になってしまう

そして、法定準備預金制度には

マネーストックの増加を抑制し

景気過熱を防ぐ能力すら、無いことになる。

なぜなら、中央銀行は

民間銀行の決済の必要性に応じて

資金を供給せざるを得ないからである。

できることは、ただ金利を操作することを通じて

投資を抑制することだけである。

もしも強引に貸し出し抑制をしようとすれば

それは金融機関の決済不能や

金融機関から企業や個人への

短期貸出の突然の打ち切り(黒字でも

ロールオーバーを一方的に取りやめる)ことへと

繋がる。金融政策によって

景気過熱やインフレを食い止めることが

不可能というわけではないが

その結末は、悲劇的なものになってしまうだろう

これは、ボルカー時代のアメリカで現に起こったことであり、

そして日本でも、やや事情は異なるが

BIS規制の強化(8%条項)に伴い、発生したことである。

これが、インターバンク市場の、実際の機能を

モデル化した場合に導き出される結論である。

今回の議論は、大変長く、退屈な内容だったと思う。

なんてったって、MMTお得意(と、思われている)の

財政支出については、一言も触れなかったからね。

また、多くのマクロ経済学者や評論家、

あるいは「マクロ経済学のミクロ的基礎付け」をベースに

天下国家を論じている大部分の人たちにとっては

銀行間の日常業務の在り方など

どうでもいい話であるに違いない。

だが少なくとも、MMTやSFC、CTについては

実際に決済がどのようなシステムをベースに行われているのか、

つまり、貨幣がどのように機能しているのか、は

現代の貨幣、および貨幣政策を論じるにあたって

どうでもいい話ではない。MMTの立場に立てば、

今回の議論は、国債や財政赤字を議論する際、

あるいは債務ヒエラルキーを理解する際の

前提にある考え方である。

この分かりにくく退屈な話を

ブログのタイトルを変えた第1回目に持ってきた所以でもある。

カテゴリー:MMT & SFC

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