金曜日, 10月 04, 2019

インターバンク市場の機能について



インターバンク市場の機能について

15/03/29 21:16

前回書いた通り、

ブログのタイトルを改めて、

MMTとストック=フロー・アプローチ

(ストック=フロー・コンシステント・モデル、

コヘラント・ストック=フロー・モデル、

スリー・バランス・アプローチ、等々、

いろいろ言い方があるみたいだけれど)

すなわちSFCだけを

集中的に取り上げるブログにした。他の

国家貨幣論とか、CT(サーキット・セオリー)も

取り上げるようにはするけれど、

基本的には、当座はこの二つ(というより

MMTが中心で、SFCはお飾りかなあ。。)を

中心に論じることにする。

で、その1回目なんだけれど、

今回は、相当に退屈、かつ冗長になることが

避けられないテーマを取り扱うことにしました。

インターバンク市場の機能についてです。

元ネタは、マルク・ラヴォワMarc Lavoir の

2003年の論文「内生的信用貨幣論入門」

“A Primer on Endogenous Credit-Money” です。

これは『現代の貨幣理論』(本当は『現代貨幣理論』

と訳す方がいいんだけれど、それだとMMTと

区別がつかなくなっちゃうから。。。。)

Modern Theories of Money, 2003

ルイ=フィリップ・ロションおよびセルジオ・ロッシ編

Louis=Philippe Rochon and Sergio Rossi  ed

所載の論文です。

マルク・ラヴォワという人については

このブログでも過去に何回か、名前だけは触れたことが

あったように思うけれど、ウィン・ゴドリー

Wynne Godley のMonetary Economics の共著者で

学者になりたての全くの若手のころから

ゴドリーの独創性と革新性にいち早く目をつけて

永らくStock=Flow Consistent Approach (ラヴォワ自身は

どちらかというと、Coherent Stock=Flow Approachというような

表現の方を好んでいたようだったけれど)の

開発・普及の協力者として、いわゆる「第二バイオリン」的な

立場でかかわってきた。ただし、

ラヴォワ自身はカナダのケベックの出身のフランス系カナダ人で

ケベックでは公用語としてフランス語がつかわれていたので

本人もフランス語は使える。実際、フランス語の論文もある。

このことはGodley に早くから理解を示していたことと

無関係ではない。というのはゴドリー 自身

フランスやイタリアのケインズ派理論(CT)の影響を

大きく受けており、CT派に対する理解の違いが

ゴドリーを適切に評価できるか否かの違いに

つながっていた面があるからである。現に

ラヴォワ自身、Foundations of Post-Keynesian

Economic Analysis, Introduction to Post Keynesian Economics、

Post-Kenesian Economics: New Foundations と、まあ、

3冊にも及ぶ「ポスト・ケインジアン」を冠した

単著を出版しているにもかかわらず、永らく

「サーキュレーショニスト」として、

PK派内部からは疎外されていたもようで、

Modern Theories of Money の編集に際しては、

ラヴォワより自分のことを

PK派とかCT派とかの区別する部には

載せないでほしい、と編集者に要望が出されたとの話がある。

なお、今回元ネタとなったラヴォワの論文は

MMTなどではあまり顧みられることのない

インターバンク市場における銀行間の決済の在り方について

実情に即したモデルで検討されている。銀行は

預金通貨を生み出すことで融資をしている。と、いうことは

銀行は有利な投資先さえあれば、いくらでも

自ら貨幣を生み出すことで貸付が可能になるわけだ。

したがって、銀行には原資というものは必要ないはずである。

だとしたら、銀行はなぜ預金者から預金を集めるのだろうか。

あるいは銀行の最低資本規制には、いかなる意味があるのだろうか。

そして、決済に様々な負債が用いられることの意味は

何なのだろうか。そこからは、当然のことながら

通常、銀行の機能として言われているいくつかの議論、

例えば、「金融仲介機能」や「資産変換機能」という名のもとに

集約されている機能といったものが、本当のところ、

どのような役割を果たしているのか、

こうした問題が、改めて提起されることになる。

こうしたことは、ながらくCT派内部での問題であった。

MMTでは、ミンスキーの「債務(貨幣)ヒエラルキー」

の概念がそのまま流用されているものの、

金融市場でさまざまな階層の負債が発行され

流通している、という事実については

自明の前提として流されてしまっているような傾向がある。

おいら自身は、自分の仕事柄、どうしても

決済手段として流通している商業手形のようなものを

イメージしてしまうのだが、

MMTで登場する債務ヒエラルキーというのは

どちらかというと金融市場で、金融機関の手に渡った

様々な負債がどのようにして決済手段として

使われているか、の方に力点が置かれていると思う。

(日本のように、民間の企業や個人が振り出す手形が

決済手段として普通に流通している、というのは

あまり外国に例はないようだ。)

こうしたことを考えるうえで、あくまでも

「入門」として、上記ラヴォワの論文は

多くの人に参照されていいように思う。

英語は明快を極め、まず誤解の余地はない。

(2か所ほどある誤記誤植を別とすれば。)

後半の、外国通貨と電子マネーに関する

いかにもとってつけたような2節は読む必要ないが、

それ以外の部分は、ぜひ多くの「異端派経済学」者及び

願わくば、主流派・正統派経済学者の人にも

目を通してもらいたいと思う。

ラヴォワの上記論文が、今回のブログ記事の

元ネタであることには間違いないのだけれど、

力点はかなり変えてある。それは

基本的には本ブログの趣旨がMMTを中心に

考えているからである。そのため、

MMTでは一番問題になる政府の財政問題

および国債の扱いについては、

もちろん、原論文では簡単に言及されているのだけれど、

今回はすべて割愛した。

本当は

もっと短くわかりやすくまとめたかったのだけれど、

結果として、わかりやすく書いたつもりが

冗長になってしまい、かえってわかりにくく

なってしまったようだ。読んでもらえばわかるけれど、

実は、今回は、ちょっと、MMTとかに

触れたことのない人にもわかるように書いてみよう、

と思って書き始めた、という事情があり、

これまでおいらのブログを読んでくれた人にとっては

「何をいまさら」的な話がいろいろ書かれている。

これまで読んでくれていた人には申し訳ないけれど、

そんなわけで、必要以上に長くなってしまった面もある。

最初から素直にラヴォワ論文の

訳でも載せておけばよかったかな。。。

ただ、いくら丁寧に書いても

残念なことに、

内容から言って、多くの人にとっては

退屈なものでしかないことはやむを得ない。

現実を動かしているルーティーンというのは

そもそも言葉にしてしまえば退屈なものだ。

真剣に現実と向き合おうとするなら、

こうした退屈な日常の出来事から

目をそらすことはできない。

日常の瑣事を端折った大胆で

いかにも人を興奮させるような

大言壮語に満ち溢れた天下国家論であれば

退屈することは無いし、多くの人の目を

惹きつけることもできるかもしれないが、

結局、世の中とは退屈なものなのだ。

しかし、退屈なことを学んだ先には

軽薄な大言壮語や美辞麗句よりは

もっと内容のある面白い世界が

拡がっているのだ、

拡がっているに違いない、

拡がっているかもしれない、

拡がっていればいいなあ、、、、

拡がっていることも、あるかもしれないし、、、、

と、まあ、そう思ってもらえればいいなあ、

などと夢想しながら、自分の文才の無さを棚に上げて

(いつものことだが)、

今回のブログは始まります。。。。

MMTer(MMT主義者)が

政府貨幣とともに重視するのが

インターバンク市場である。

国内の貨幣的取引において

決済(支払)のために政府貨幣が

用いられる比率というのは

それほど多くない。金融取引以外の取引において

大きな役割を果たしているのは

銀行の預金通貨である。そして、

銀行の預金が通貨として機能するうえで

決定的に重要なのが

インターバンク市場である。

インターバンク市場において

政府貨幣=準備預金は

決定的に重要な役割を果たしている。

ところが、多くの経済学者が

このインターバンク市場の役割

(あるいは準備預金の役割)を

正確に認識していない。

だからまず、インターバンク市場と

準備預金(中央銀行が発行する

ベースマネー)の関係を

概観しよう。

たとえば、今では多くの企業が

従業員に対する給与を銀行振込みで

行っていることだろう。また、ほとんどの

商店や製造業では、商品や原材料の

仕入代金を支払うのに、現金を使うことはない。

ほとんどが手形や小切手、ファクタリングなどなど

である。そして、手形や小切手、ファクタリングが

最終的に決済されるのは、銀行預金を

通じてであって、現金ではない。

こうして決済手段として使える

銀行預金のことを

「預金通貨」と呼ぶ。

実は銀行預金というのは

あくまでも民間銀行自身が振出した(発行した)

銀行自身の負債であって、政府や中央銀行とは

直接の関係はない。預金とは

銀行が、預金者に対し

「この金額を上限として、

あなたの指示に従って、いつでも

現金への払戻しを行うか、

他の銀行へ送金をするか、

納税・その他政府への支払いを

代行をいたします」

と約束している状態にあることを意味する。

つまり、預金とは、銀行による

将来の義務の履行の約束であり、

あくまでも銀行自身の負債である。したがって

この金額は、銀行が毎年(あるいは毎四半期ごと)に

発表している財務諸表のうち

貸借対照表あるいはポジション・ステートメントといわれる

物の上では「負債」項目に計上されている。

つまり、その銀行自身の負債、ということだ。

個々の銀行の負債である預金が

どのようにして他の銀行に送金され、決済されるかを

以下に説明する。例えばAさんが

自分名義の銀行預金口座から資金を別の銀行のBさん名義の

口座へと振り込みを依頼する場合、Aさんの取引銀行である

X銀行からBさんの取引銀行である

Y銀行へと負債残高が移ることになる。X銀行の

負債がいかにしてY銀行の負債へと変わるのか。

明らかに、銀行は、送金指示があるたびに

いちいち銀行間で現金を輸送しているわけではない。

銀行間の間に情報のネットワークがあり

負債の交換のルールが確立され、それが

きちんと運用されることによって、こうした

送金業務(X銀行の負債がY銀行の負債になる

Etc…)が可能となっている。このシステムの

概要を、以下に説明する。

説明にはT勘定図式を用いる。

これにより資産・負債の残高の変化を示す。

左側の欄を「借方」、右側の欄を「貸方」と呼び、

借方側には資産(銀行の財産)の変化が示され、

貸方側には負債(銀行が約束している将来の

義務を金額で示したもの)の変化が示される。

借方と貸方の合計は、常にゼロになる。

たとえば、100円を払って100円の製品を

仕入れた場合、

資産

負債

現金          ‐100

棚卸資産       +100

手持の現金が100円減って、棚卸資産(商品在庫)が

100円増えたことになる。友人から100円を借りた

場合、友人に対して100円の借金が生まれ、100円の手持現金が

増えるので

資産

負債

現金         +100

借入金        +100

となる。なお、通常の簿記について知識がある人だと

商品を仕入れた場合は仕入勘定を立てるべきではないか、

と考えるかもしれないが、ここでは基本的には

取引のつど、資産と負債の変化をバランスシートに

書き込んでゆく。従って、残高の変化を示す

バランスシートとフローを示す損益計算書、

或いは収支報告書に該当するものは考慮しない。

従って、統制勘定として売上勘定や

売上原価勘定を立てることもせず、収入や費用が

発生するたびに、純資産(利益剰余金)勘定を

変化させることになる。

なお、サービス業の場合、売上は棚卸資産の減少ではなく

サービスの売上という形で認識することになる。

(よそのブログでも「バランスシート」でものを考える、

というテーマを見かけるが、ストックとフローの関係などが

きちんと理解できているのか、あるいは

きちんと説明されているのか、

たまにやや不安に感じることがある。)

これだけの知識で、先へ進むことにしよう。

資産

負債

貸付金        +100

預金          +100

これは、銀行が100単位(100万円か

100ドルか、100億円か、なんでもよい)の

融資を実行した時の

銀行の資産と負債の変化を示したものである。

融資が実行されるとき、銀行では資産として

融資先が発行する借入証文を獲得する。これは

バランスシート上では

銀行が、将来貸付先から将来回収できる金額として

「貸付金」の名のもとに表示される。

同時に、銀行は融資先の預金口座に

同額を振込む。「振込む」といっても

実際には預金通帳か何かの数字を書き換えるだけである。

この場合、今の時点では金利を発生させていない。

ちなみに、これが銀行ではなくて、

普通の市民による融資の場合、次のような書き方になるであろう。

資産

負債

現金          ‐100

貸付金        +100

つまり、銀行以外の普通の市民だと

まず、手許に現金(あるいは預金でもよいが)があり、

それを借手に渡すことになる。その場合には

あらかじめ、貸す側が現金なり預金といった

資産を持っている必要がある。ところが

銀行の場合、そのような必要はない。

ただ預金口座に預金を振込む(残高の数字を増やす)だけで

融資は実行される。つまり銀行は

無から貨幣を作り出すのであって、

融資に先立ち何らかの資産を保有している必要はない

これが現代の銀行システムの特徴である。

実は、教科書の「信用創造のプロセス」に

書かれているようなことは、

現実の世界では生じていない。「信用創造

プロセス」論が如何におかしいかは、

ここでは詳論しないが、実務的には

全く実行不可能なプロセスである。

さて、銀行券が発行される場合のことを

示そう。ただし、まずは、

中央銀行が存在せず

民間の銀行が銀行券を発行できるものとしよう。

アメリカやイギリスでは、昔は

政府の認可を受けた銀行がめいめい

銀行券を発行していた。そうしたケースのことである。

資産

負債

貸付金         +100

預金           +100

預金            ‐50

紙幣             +50

つまり、銀行がまず預金として生み出した

100のうち、50が減らされ、そして

同じく銀行が負債として発行した

紙幣と取換えられたのである。

さて、銀行間での送金が

如何にして行われるかを示すと、次のようになる。

X銀行

資産

負債

貸付金            +100

預金             +100

預金             ‐100

Y銀行への未払金    +100

Y銀行

資産

負債

X銀行への未収金     +100

預金             +100

ここでX銀行はY銀行に、支払の代行を依頼した結果

Y銀行に対して100単位の負債を負うこととなった。

なお、ここでは省略してあるが、

X銀行はY銀行に金利を支払うことになる。これがまず

銀行間で、インターバンク市場で発生する金利である。

尚、この負債はあくまでも一時的な立替払いのための負債である。

これはすぐに決済される必要がある。

ちなみに、X銀行が振り出した紙幣が

Y銀行に持ち込まれる場合も、同様の結果になる。

その場合には、X銀行の貸方側の「(Y銀行への)

未払金」が「紙幣」に変わり、Y銀行の借方側の

「(X銀行への)未収金」が「(X銀行の)紙幣」となる。

決済のためには、互いの債権-債務が相殺されれば一番

簡単である。つまり、ここではX銀行からY銀行へ

送金される例が取り上げられたが、同時にY銀行から

X銀行への送金もあるはずである。当然、

Y銀行にもX銀行に対する債務が発生する。

従って、両銀行の間ではこの債務をたがいに相殺し合うことで

決済が可能になる。勿論、互いの負債の金額が

ぴったり一致するということは、よほどの偶然以外には

あり得ず、帳尻が残る。尚、もしも両銀行が独自の通貨を

発行しているなら(例えばX銀行が「円」通貨

Y銀行が「ドル」通貨というように)、帳尻が合わない分は

それぞれの通貨の需要供給の差ということになり、

それぞれの通貨の交換比率の変化によって調整されることになる。

これが実際に現在の国際通貨体制の下で生じていることである。

さて、もしもX銀行とY銀行の間の取引が

平均して均してみれば大体いつも同額である、

という場合には、帳尻の合わない金額を

いちいち清算せずに繰越していたとしても、

それほど大きな問題はないし、実際、そのほうが

合理的かもしれない。これは

X銀行とY銀行が、規模においても地域性においても

業務内容においても同じような銀行同士であるなら

実際、そうなる蓋然性が高い。

だが現実には、銀行の規模、業種、業態、顧客の性格、

地域性といった面である種の分業が発生する。そうすると

そうはいかないこともある。つまり、X銀行の振出した

預金通貨が一定期間の間Y銀行へばかり流れてしまい、

周期的にX銀行がY銀行に対して債務超過になる

傾向がある場合である。こうした場合

X銀行は何らかの形でY銀行に対する債務を

償還しなければならない。

その方法は主として3つある。

第一は、金融市場でX銀行自身がCPや社債を発行することで

資金を集めて

Y銀行に返済することである。

ただしその結局、信金の提供者は、

中央銀行やノンバンク投資家を想定しなければ、

Y銀行群になる。これは実質的に

債権-債務の形式・契約内容が書き換えられることと

同じである。X銀行のY銀行に対する債務は

将来、X銀行の顧客がY銀行の顧客から

資金を回収するまでの間、繰延され続けることになる。

第二は、X銀行が保有している債権を

金融市場で売却することである。

(いわゆる「証券化」として話題になった

方法もこれに該当するが、昔からCPや社債として

発行された借入人の負債が金融市場で

取引されること自体はごく普通にあった。なお、

MMTやSFC、CTでは株式のことも

これと同様の一種の負債として扱うことが多いが、

今回はその点については言及しないでおく。)

この場合も政府・中央銀行及び

ノンバンク系の証券購入者がいなければ

Y銀行群が買い取ることになる。

最後に、第三の方法として、中央銀行から借入れて

返済する、ということやり方を説明する。

さて、第一の例を見よう。X銀行が自ら

CPや社債を発行してY銀行に対する未払金を

ファイナンスするケースである。

X銀行

資産

負債

貸付金           +100

預金            +100

預金            ‐100

Y銀行への未払金   +100

CP             +100

Y銀行への未払金   ‐100

Y銀行

資産

負債

X銀行への未収金     +100

預金            +100

有価証券           +100

X銀行への未収金    ‐100

X銀行は、市場でCPを発行し、資金を集める。

そしてそれで、Y銀行に対する未収金を決済する。

(ただし、ここでは「資金」に相当する

準備預金などを想定していないので、

単に、Y銀行の保有している未収金に

相当する金額のCPを発行するだけになる。)

Y銀行群側ではX銀行の発行したCP(有価証券)を

市場で購入する。その際の対価として

未収金をX銀行群へと売却する。

こうして発行されたX銀行の債務(CP)は、

結局、将来、何らかの形で償還されなければならない。

それは、借入をした経済主体の事業が

実行され、売り上げを通じて、

Y銀行群へと移された預金通貨が

再びX銀行の預金口座へと戻ってくることを通じて

Y銀行のX銀行に対する未払金が発生したときに

それとの相殺によって実行されるであろう。

さて、

この場合、CPを売却することを通じて

X銀行群が市場で資金を集めるのは

Y銀行に対する未払金を決済するためであって、

貸付の原資を必要とするためではない 

第二の方法が、いわゆる「証券化」と呼ばれるものである。

X銀行群は、自分自身の組成した融資契約を

金融市場で売却する。X銀行群は

組成手数料等を主たる収入源とし、

金利は、この「証券」を購入した側の

収入となる。

X銀行

資産

負債

貸付金          +100

預金             +100

預金             ‐100

Y銀行への未払金    +100

貸付金          ‐100

Y銀行への未払金    ‐100

Y銀行

資産

負債

X銀行への未収金     +100

預金            +100

貸付金            +100

X銀行への未収金    ‐100

X銀行では、貸付金を証券化し

金融市場で売却する。Y銀行群が市場で

これを購入する。(この場合、Y銀行群が

X銀行の発行する証券(貸付金)を

ほぼ額面通りに購入し、価格の変動は

金利変動の範囲内で収まることが想定されている。

これは常に成立するわけではない。)

なお、ここではまずX銀行による融資が

X銀行自身の貸付金として発生しているが、

勿論、最初から市場での売買を想定して

証券を発行することもあるし(たとえば

手形貸付や手形割引など)、

或いはノンバンク(預金を受入れることができない

貸金業や、一般の企業)が公募債発行市場で発行した

CPや社債を購入することもあるだろう。

第一の例では、X銀行が資金市場で

自ら負債を発行し、第二のケースでは

X銀行以外のノンバンクの負債が

金融商品として流通している。

金融市場では、こうして発行された多数の流通可能な

証券が金融機関によって保有され、

決済またはファイナンスを維持するため取引されている。

こうした取引はX銀行からY銀行への預金の移動が

起こっているため、それを維持・決済するため

必然的に必要になるのであって、

単に銀行が利益だけを求めて

運用しているわけではない。Y銀行が

余剰資金を証券市場で運用しているのは事実だが、

この余剰資金は、もともとはX銀行の未払金を裏打ちに

発行されたものであり、そしてその未払金を

清算する(X銀行以外の発行した

金融商品を購入する場合)か、

ファイナンスし続ける(X銀行自身が発行した

金融商品を購入する場合)ために、

こうした証券を購入することが

必要になるのである。

もしもX銀行群からY銀行群への資金の移動がなければ、

或いは両行間での資金の移動が常に平均してプラスマイナス

ゼロになるようなら、

こうした金融商品の売買は

もっとずっと少なくても済むであろう。

続いて最後の第三の、中央銀行の準備預金による

決済を見る。これは中央銀行の業務に

密接にかかわってくる。MMTの中心論点のひとつである。

さて、中央銀行に話を進める前に

民間銀行について、もう一つだけ

説明をしておきたい。

それは、民間銀行はいくらでも預金通貨を

意味出すことで、何でも買えるのか、

という点である。もしもそうだとすれば、

資本規制には意味がないことになるし、

町の小さな信用金庫でも

トヨタやGMを買い取ることができることになってしまう。

どうやら、そんなことはできそうにもないが

なぜできないのかを、一瞥しておく。

さて、

もしも、融資の際に振出した預金通貨がすべて

Y銀行に渡ってしまい、Y銀行からX銀行への送金が

一切ないとしたら、X銀行は振出した預金と

同額の資金を、金融市場から集めなければならない。

しかし、実際にはY銀行からX銀行への

送金もあり、あるいはその他の金融機関との

多角決済も行われるので、融資のために振出した

預金と同額の資金を金融市場で

調達する必要があるケースというのは

通常通りに業務が進んでいる場合には

ほとんど考えられない。

しかし、銀行間の取引により生じる

債権-債務関係は

上記のとおり、業務や地域の専門化に従い

一方に偏る傾向があることは、避けられない。

たとえば、企業への長期貸付を

主要業務とする金融機関が、預金を振出すことで

融資を実行すれば、その資金の大きな部分が

家計の預貯金を扱う金融機関や

保険会社へと流れることであろう。

従って、こうした長期融資を主要業務とした

金融機関は、常に金融市場で資金を集める側になり、

逆に、家計・中小企業の貯蓄を集めることや

保険業務に特化している金融機関は、金融市場で

資金の出し手になるであろう。

こうした金融機関の専門化が進むにつれ、

金融市場の規模・取扱高は大きくなってゆくことになる

しかし

たとえ貸付をしても、その際に振出された預金が、

そのX銀行の内部の預金者の間の取引だけで

終始している限り、X銀行は

他の銀行から資金を調達する必要性はない。

X銀行が融資に際して資金調達を必要とするのは

貸出を実行するための資金が必要だからではなく、

振出した預金が他の銀行(Y銀行)へ送金され、

その結果、X銀行がY銀行に負債を負うことになるためである

最初に、世の中に銀行が

一つしかない例を考えよう。

今、X銀行が預金者A氏に100の貸付けをする。

そしてA氏は受け取った資金を

仕入代金の支払いに使う。支払先は

B氏である。この時、世の中には

銀行が一つしかないのだから

預金はA氏の口座からB氏の口座へ

振替えられることになる。(金利は

後払いとする。)

X銀行

資産

負債

貸付金         +100

A            +100

A            -100

B            +100

さて、一定期間ののち

A氏はビジネスの結果、一定の売上を上げ

120の入金を得た。(この売上代金の入金も

X銀行に開設されているほかの経済主体の

預金口座から移転されたものである。)そして

金利付きで105を銀行に償還する。その結果

X銀行

資産

負債

貸付金         ‐100

A             ‐105

純資産(利益

剰余金)          +5

銀行はAの口座から105を引き落としする。

同時に資産側からは貸付金100が減少する。

そして、5は利益剰余金として純資産を構成することになる。

(費用は特に発生しないものとする。)

ここで、X銀行のバランスシートは以下のようになる。

X銀行のバランスシート

資産

貸付金            L

負債

預金         L-E-5

純資産

利益剰余金       E+5

貸付金からは100の減少しかなかったのに

預金は105減少したわけだから

貸付金の方が預金を上回っていることになる。

この預金を上回る貸付金の残高が

純資産(この場合は利益剰余金)の増加に

相当している。(それ以前から存在している利益剰余金Eも、

過去に同様に発生した銀行の利益が累積したものである。)

これが何を意味しているか、といえば

この銀行は、貸付金のうちE+5がデフォルトとなったとしても

債務超過には陥らない、ということである。ただし、説明の

簡素化のため、今後はE=0として話を進めよう。

つまり、X銀行の過去の累積利益はゼロである。

さて、今度は、最初の状態から

A氏がデフォルトを起こし、A氏に対する貸付金が

全く回収できなくなってしまったとしよう。過去の

累積利益E=0とする。

資産

負債

貸付金         +100

A            +100

A             ‐100

B            +100

貸付金          ‐100

純資産(貸倒

損失)          ‐100

この場合、バランスシートは次のようになる。

X銀行のバランスシート

資産

貸付金         L‐100

負債

預金             L

債務超過額

繰越損失         100

E=0なので、デフォルトした100がそのまま

債務超過額となっている。金利(後払い)も引き落とされなかったので

預金残高はLのままである。

さて、この場合、決済に関して何が問題になるだろうか。

実は、問題は何も起こらない。なぜなら

X銀行の負債はすべて預金通貨であるが

X銀行自身は、この預金通貨を発行する際

何か資産との交換を保証しているわけではないからである。

X銀行が預金者に対して約束しているのは

単に自分自身の負債を他人名義の口座へ

振替えることだけである。たとえ紙幣が発行されていたとしても

その点には変わりはない。つまり、

もしも世の中に銀行が一つしかなければ

その銀行はいくらでも預金通貨を発行できるし、

それによっていくらでも融資が可能であり、

債務超過のために、この銀行自身の決済に

困難が発生することはないことになる

ところが、銀行が複数あると

そうはいかなくなってくる。

X銀行とY銀行の決済の例に戻ろう。

今、X銀行はY銀行に対し

100の未払金を負っている。

X銀行

資産

負債

貸付金          +100

預金           +100

預金            ‐100

未払金          +100

Y銀行

資産

負債

未収金         +100

預金           +100

これを決済するためには

未払金-未収金をCPあるいは社債などによって

貸付金が回収されるまで返済を繰延するか

貸付金を証券化して転売するしかなかった。

しかし、もしもX銀行が債務超過であればどうなるか。

この場合、債務超過とは

貸付金<未払金

となってしまう状態のことを指す。

こうなってしまえば、Y銀行としては

もはやX銀行からの支払依頼に応じることは

できない。というのは、Aがすでに破たんしてしまったのだから

Y銀行からX銀行への資金の還流は確実ではないし、

X銀行が残りの貸付金をすべて

回収しても、Y銀行の未収金を償還することはできないし、

証券化しようにもすでに融資はデフォルトしているからである。

だから、銀行は、取引(決済)を円滑に進めるためには

絶対に債務超過に陥ってはならないし

債務超過に陥らないように、十分な純資産バッファーを

保持しておく必要がある。

従って、小規模な金融機関は、

たとえいくらでも預金通貨を創造して

どんな大きな企業でも買収できるとはいっても

実際にはそのようなことを行い純資産比率が

過小になれば、他の金融機関がリスクを嫌って

送金先への支払い依頼を拒絶することにもなりかねず、

実際にはオペレーションが不可能ということになってしまう。

従って、論理的には事前の資金調達なしに

いくらでも資金を供給できるとしても

実務的観点からはおのずと制約があるのであり、

それゆえ、金融機関の規模(とりわけ、

純資産)が、きわめて大きな意味を持つことになる

銀行が、経営に先立ちそれなりに

大きな資本を必要としているのは

これもまた資金調達の必要のためではなく

他の銀行との決済を確実に行うためなのである

さて、いよいよMMTの中心論点である

中央銀行の登場である。

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