副島隆彦(そえじまたかひこ)の学問道場 - 今日のぼやき(広報)
SNSI・副島隆彦の学問道場研究員の古村治彦です。今日は2018年4月30日です。本日は、副島隆彦先生の最新刊『今の 巨大中国は 日本人が作った』(副島隆彦著、ビジネス社、2018年4月28日)をご紹介いたします。本作は副島先生の11冊目の中国研究本となります。大型連休中盤までに全国の大型書店に配本されます。
今の巨大中国は日本が作った
本書には中国の政治と経済の最新情報と副島先生による大発見がたくさん書かれています。私が大変驚いたのは、タイトルである「今の巨大中国は日本人が作った」につながる第3章「今の巨大な中国は日本人学者が作った」の部分です。
中国の現在の発展の礎を築いたのは鄧小平です。鄧小平は、1970年代に改革開放路線を推進することを決断しました。そして、ヘンリー・キッシンジャーの助言に従って、多くの優秀な若者をアメリカに留学させました。日本も幕末から明治初期にかけて優秀な若者たちを欧米に留学させました。これとよく似ています。
ニューヨーク訪問中の鄧小平(右)と会談中のヘンリー・キッシンジャー(真ん中)
いくら優秀とは言え、生活様式が全く違い、英語もほぼ話せない、聞き取れない中国からの留学生たちは大変苦労したと思います。人種差別も経験したことでしょう。中国で習った政治学や経済学の知識など全く役に立たなかったことでしょう。そもそもその数年前まで文化大革命が約10年間猛威を振るい、勉強どころではなかったのですから、中国人留学生は知識も経験もほぼ何もないままアメリカに放り出されてしまいました。
幕末から明治初期にかけて日本から欧米に留学した若者たちの中にも自信を喪失して発狂した者、勉強を頑張りすぎて過労で亡くなる者が多く出ました。こうした無名の人々の犠牲は日本が近代化をするためにはやむを得ないものでした。中国人留学生たちも似たような状況だったと思います。
そうした中国人留学生たちの「バイブル」となったのが森嶋通夫(もりしまみちお、1923-2004年)LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)教授が英語で書いた『マルクスの経済学(Marx’s Economies)』(1973年)でした。先生となる人の役目というのは難しいことを初めて学ぶ人に分かりやすく教えるということです。『マルクスの経済学』を通じて、中国人留学生たちは経済学の基礎を学ぶことが出来ました。
青木昌彦と森嶋通夫
そして、青木昌彦(1938-2015年)スタンフォード大学教授もまた、中国人留学生たちの「恩人」「恩師」となりました。アメリカのサンフランシスコ郊外にある名門大学スタンフォード大学で、青木昌彦教授は中国人留学生に熱心に近代経済学を教えたということです。
この両者の「弟子」の代表が、現在の中国の習近平体制を支える、王岐山(おうきざん、1948年―)国家副主席、王滬寧(おうこねい、1955年―)中央政治局常務委員・中央書記処書記・中央精神文明建設指導委員会主任、周小川(しゅうしょうせん、1948年―)中国人民銀行(中央銀行)総裁です。
王岐山、王滬寧、周小川
森嶋、青木両教授は「日本人でノーベル経済学賞をもらうならこの人」というほどの経済学者でしたが、残念ながらノーベル経済学賞を受賞することはできませんでした。しかし、両教授の業績は21世紀の中国の勃興という形で姿を現しました。
中国・上海の様子
世界GDPに占める割合
遅れた国が進んだ国の進んだ技術や知識を得ることで、進んだ国がかけた時間や労力、資金をかけずにすぐに追いつき、追い越すことを「後発性の優位(Advantage of Backwardnss)」と言います。ハーヴァード大学教授だったアレクサンダー・ガーシェンクロン(Alexander Gerschenkron、1904-1978年)という経済学者が、戦前の日本とドイツ、ロシアの工業化を説明するためにつくった概念です。
アレクサンダー・ガーシェンクロン
日本も後発性の優位を使って経済成長を遂げました。これが出来ない国がほとんどですから、その点で日本はやはり大したものだということになります。そして、中国はこれから経済発展もそうですが、「民主化」をしていくと副島先生は大胆に予測しています。その他にも経済についても最新の分析が書かれています。原題の中国を理解するのにお買い得な一冊です。
是非、『今の巨大中国は日本が作った』を手に取ってご覧ください。よろしくお願い申し上げます。
(貼り付けはじめ)
まえがき 副島隆彦
この本は、私の中国研究の最新の成果の報告である。いくつか大きな発見があった。
本の中心部分は、昨2017年10月の第19回中国共産党大会(19大[だい]という)から今年3月の全人代[ぜんじんだい](中国の国会)で新しいトップ人事が決まったことを受けて、これからの5年の中国はどうなってゆくか、だ。そして、さらにその次の5年後も考える。
つまり2022年。そして2027年(習近平時代の終わり)。それまでに中国はどうなってゆくかをテーマとする。
2012年に始まった習近平体制は、通常であれば2期目の5年で終わりだった。だが、さらにその次の5年も習近平が政権を担う。3月の全人代で「任期の上限を撤廃する憲法改正案」が採択された。「習近平の独裁体制が死ぬまで続く」と、専門家たちが解説したが、そんなことはない。習近平は2027年(あと9年)で辞める。
私の今度の中国研究で行き着いた大事な発見は、その次の2022年からの5年で、中国はデモクラシー(民主政体[せいたい]・民主政治)を実現するということだ。これからの5年間は、確かに習独裁(、、、)である。彼に強い力が集中して、戦争でも騒乱鎮圧でも残酷にやる。だが、その次の2022年からの5年は、中国がデモクラシー体制に移行する準備期間となるだろう。そうしないと世界が納得しないし、世界で通用しないからだ。
この説明に際し言っておきたいのは、私は「民主主義」という言葉を使わない。「デモクラチズム(、、、)」という言葉はない。だから、×民主主義は誤訳(ごやく)である。
デモクラシー(代議制[だいぎせい]民主政体[せいたい])とは世界基準の政治知識であり、次のようになる。
① 普通選挙制度 ユニバーサル・サファレッジ universalsuffrage
② 複数政党制 マルチ・パーティ・システム multi-party system
である。この「①普通選挙」と曲がりなりにも、とにかくも「②複数政党制」を完備すれば、デモクラシー国家と言える。①の普通選挙[エレクション]制度は、18歳以上の男女すべてに一人一票を与え、無記名の投票(ボウティング)で代表者を選ぶ(エレクション)政治体制である。中国は、これに必ず移行していくと私はみている。
今のままでは、中国国民の反発、不満も限界に達する。現在の一党独裁は、世界がもう許さない。このことを習近平自身がしみじみとよく分かっている。
①の普通選挙制度の前提として、②の複数政党制が必要だ。少なくとも2つ、あるいは3つ、4つの大政党ができなければいけない。そして、選挙で勝った政党によって、中国の政権が作られる政治体制に変わっていくのだ。そのための移行期が2022年からだ。そこでは、もう習近平独裁は行われない。
どうして中国がそのように変わるのか。
そうした政治体制に変わらなければ世界が納得しないからである。このことは、党の長老も含めた最高指導者たちによる昨年8月に北戴河[ほくたいが](渤海[ぼっかい]湾に面した中国の避暑地)で行われた会議で決定された。
習近平が去年の夏、長老たちをねじ伏せるようにして、次の5年と、さらにその次の5年も自分がやると宣言した。そしてここで中国共産主義青年団(共青団[きょうせいだん])系と、習近平の勢力が折り合い、合意した。その証拠の記事をあとのP25に載せた。
前国家主席である胡錦濤(こきんとう)が、その場で習近平を一所懸命なだめる形で、「2017年から5年間の政治体制にも、共青団系を半分くらい入れてほしい」と望んだ。習近平はこれを拒否した。かろうじて李克強(りっこきょう)首相(国務院総理。首相)と汪洋(おうよう)副首相が共青団で、“チャイナセブン”と呼ばれる政治局常務委員、中国のトップ7に入った。
その他5人は、すべて習近平の系統で占められた。いやナンバー7の韓正(かんせい)は、どうも江沢民(こうたくみん)の派閥(上海閥[ばつ])である。どうしても古い勢力を1人は入れないと済まないのだろう。共青団系はギリギリまで譲歩せざるを得なかった。
江沢民に育てられた習近平(当時、副主席だった)を10年間、熱心に教育したのは胡錦濤だ。「指導者になる者に必要なのは、我慢に我慢だ。私たちは派閥抗争などやっていてはいけない。中国は世界を指導する国になるのだ」と育てた。
だが、もっと深く習近平を見込んで育てたのは、鄧小平[とうしょうへい](1904生~1997死)だ。
鄧小平が、地獄の底から這い上がった中国を、
「中国は豊かな国になる。もうイデオロギー優先の愚かな国であってはならない。民衆を
貧困から救い出さなければいけない」
として、今の巨大に成長した中国の基礎を作った。鄧小平(89歳のとき。その4年後の
1997年に93歳で死去)は、1993年に40歳のときの習近平と会っている。
「お前は、(私の敵である)江沢民(こうたくみん)、曽慶紅(そけいこう)が育てた人材だ。だが、私はお前を次の時代の指導者に選ぶ」と言って、「それまで我慢せよ。指導者に大切なのは我慢することだ」と切々と説いた。
だから2017年からの5年間、つまり2022年までは、習近平独裁体制が続く。ここで国内を政治的にも経済的にも安定させながら、「偉大なる中華民族の復興」は、やがて「デモクラシーの政治体制」として実現する。この主張が、この本の揺るぎない骨格である。
この本での2つ目の大発見は、今の巨大に成長した中国を作ったのは、特定の日本人経済学者たちであった、という大きな事実だ。
今、大繁栄を遂げた中国にその計設図(ドラフト)、OS[オウエス](オペレーティング・システム)を伝授した日本人学者たちがいる。中国が貧しい共産主義国から脱出して急激に豊かになってゆくためのアメリカ理論経済学(、、、、、)の真髄を、超(ちょう)秀才の中国人留学生たちに教えたのは、森嶋通夫[もりしまみちお](1923生~2004死。1970~1989年ロンドンLSE(エルエスイー)教授。『マルクスの経済学』1974年刊、東洋経済新報社)である。それを名門スタンフォード大学で中国人大(だい)秀才たちに長年、丁寧に授業して叩き込んだのは青木昌彦(まさひこ)教授(1938生~2015死)である。
この2人が、「マルクス経済学である『資本論』を、ケインズ経済学のマクロ計量モデルにそのまま置き換えることができるのだ」と計量経済学(エコノメトリックス)の高等数学の手法で、中国人たちに教え込んだ。これが1980年代からの(もう40年になる)巨大な中国の成長の秘訣(ひけつ)、原動力になった。
「マルクスが描いた資本家による労働者の搾取率(さくしゅりつ)は、そのままブルジョワ経済学(近代[きんだい]経済学)の利潤率[りじゅんりつ](利益率)と全く同じである」
と森嶋通夫が、カール・マルクスの理論を近経[きんけい](=アメリカ経済学)の微分方程式に書き換えた(置き換えた)ものを青木昌彦が教えた。それが今の巨大な中国を作ったOS(オウエス)、青写真、設計図、マニュアル(手法)になったのだ。
大秀才の中国人留学生たちは、全米中の大学に留学していた。彼らは電話で連絡を取り合って、巨大な真実を知った。自分たちが腹の底から渇望(かつぼう)していた大きな知識を手に入れた。「この本で私たちは、欧米近代= 近代資本主義(モダンキャピタリズム)とは何だったのかが、分かった。これで中国は大成長(豊かさ)を手に入れることができる」と皆で分かった。
このときの留学生とともに、今の中国指導者のナンバー2の王岐山(おうきざん)、つい最近まで中国人民銀行(中国の中央銀行)の総裁だった周小川(しゅうしょうせん)、そして、中国の国家理論家(国師[こくし]。現代の諸葛孔明[しょかつこうめい])の王滬寧(おうこねい)らがいる。彼らはズバ抜けた頭脳を持った人々なのである。日本人は今の中国の指導者たちの頭脳をナメている。自分の足りない頭で、中国人をナメて、軽く見て、見下くだしている。何と愚かな国民であることか。
やはり、鄧小平が偉かったのだ。
鄧小平が毛沢東の死(1976年9月9日)後、1978年から「改革開放」を唱えて、「中国人はもう貧乏をやめた。豊かになるぞ」と大号令をかけた。そしてヘンリー・キッシンジャーと組んで、中国を豊かにするために外国資本をどんどん中国に導入(招き入れ)した。そして驚くほどの急激な成長をとげた。
と同時に、鄧小平はキッシンジャー・アソシエイツ(財団)の資金とアメリカ政府の外国人留学生プログラムに頼って、何万人もの優秀な若者を留学生としてアメリカに学ばせた。そのなかの秀才たちが、らんらんと目を輝かせて、「資本主義の成長発展の秘密」を、森嶋通夫と青木昌彦という2人の日本人学者から学び取った。それが今の巨大な中国を作ったのである。この大事なことについては、本書の第3章で詳しく説明する。
副島隆彦
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●目次
まえがき 3
第1章 中国国内の権力闘争と2022年からのデモクラシーへの道
この先5年と次の5年、民主中国の始まり 22
タクシー運転手が知っていた中国の未来像 27
習近平の知られざる人生の転機 30
鄧小平が40歳の習近平を見込んだ理由 34
腐敗の元凶となった江沢民と旧国民党幹部の地主たち 41
中国の金持ちはこうして生まれた 42
デモクラシーへの第一歩となった共産党の新人事 46
今後のカギを握る王岐山の力 49
中国を動かす重要な政治家たち 54
中国初の野党となる共青団 60
台湾はどこへ向かうのか 62
バチカン(ローマ・カトリック)と中国の戦い 66
人類の諸悪の根源はローマ・カトリック 72
チベット仏教について物申す 75
第2章 人民解放軍vs.習近平のし烈な戦い
北朝鮮〝処理〟とその後 82
北朝鮮が〝処理〟されてきた歴史 88
近い未来に訪れる朝鮮半島の現実 90
鄧小平が行った中越戦争[ちゅうえつせんそう](1979年)がモデル 91
7軍区から5戦区へと変わった本当の意味 96
軍改革と軍人事の行方 101
勝てる軍隊作りとミサイル戦略 109
第3章 今の巨大な中国は日本人学者が作った
中国を冷静に見られない日本の悲劇 116
日本はコリダー・ネイションである 122
日本国の〝真の敗北〟とは何なのか 124
現実を冷静に見るということ 126
国家が仕込んだ民間スパイ 130
中国崩壊論を言った評論家は不明を恥じよ 132
「日本は通過点に過ぎない」とハッキリ言い切った人物 136
本当のデモクラシーではないのに他国に民主化を説くいびつさ 138
アメリカに送り込まれた中国人エリートたちのとまどい 141
今の中国の政治社会のOSは日本が作った 144
森嶋通夫との浅からぬ縁 146
中国社会を作ったもう1人の日本人 151
森嶋、青木の頭脳と静かに死にゆく日本のモノづくり 155
そしてアメリカは西太平洋から去っていく 158
尖閣防衛と辺野古移転というマヤカシ 162
第4章 大国中国はアメリカの言いなりにならない
中国の成長をバックアップしたアメリカ 170
ロックフェラー、キッシンジャーからのプレゼント 175
米軍と中国軍は太平洋で住み分ける 182
米・中・ロの3大国が世界を動かしている 186
チャイナロビーは昔の中国に戻ってほしい 191
アメリカと中国の歴史的な結びつき 192
中国とイスラエルの知られざる関係 194
第5章 AIIB と一帯一路で世界は中国化(シノワゼイション)する
日本のGDPは25年間で500兆円、中国は今や1500兆円 200
世界の統計は?ばかり 204
アメリカの貿易赤字の半分は中国 207
貿易戦争というマヤカシ 210
一帯一路は今どうなっているのか 216
アフリカへと着実に広がる経済網 229
次の世界銀行はアルマトゥという都市 238
世界の〝スマホの首都〟は深?である 242
あとがき 250
=====
あとがき 副島隆彦
私は、この10年で計10冊の中国本を書いて出版してきた。この本で11冊目である。
この本で書いたとおり、今の巨大中国の設計図(OS[オウエス])を作って与えたのは、森嶋通夫(もりしまみちお)先生(京都大学、ロンドンLSE教授)である。故森嶋通夫は、私の先生である小室直樹先生の先生である。私に、碩学の二人の遺伝子が伝わっている。それでこの本が出来た。お二人の霊にこの本を献(ささ)げる。
この本を書いている途中にも中国は次々と新しい顔を見せる。その変貌の激しさにこの私でも付いてゆくのがやっとである。同時代(コンテンポラリー)に私たちの目の前で進行したあまりにも急激な巨大な隣国(しかし帝国[ディグオ])の変化に私自身がたじろいでいる。一体、中国はこれから何をする気か。それでも私は、中国に喰らい付いて、この先も調査研究を続ける。
この本の担当編集者の大森勇輝君が大きく尽力してくれた。唐津隆社長からも気配りをいただいた。記して感謝します。
2018年4月 副島隆彦
(貼り付け終わり)
今の巨大中国は日本が作った
(終わり)
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