水曜日, 3月 06, 2019

アローの不可能性定理(Arrow's impossibility theorem)1963,1951

アローの不可能性定理 1951、社会選択理論
(アローの社会的選択理論『社会的選択と個人的評価』1977^1951はセンに影響を与えた)
アマルティア・セン
https://nam-students.blogspot.com/2019/03/amartya-sen-1998-1933.html

ケネス・J・アロー (Kenneth J. Arrow), 1921-2017
https://nam-students.blogspot.com/2019/02/j-kenneth-j-arrow-1921.html


索引あり

参考:
NAMs出版プロジェクト: ジニ係数(下流、中流、上流階級):メモ
http://nam-students.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

アローの不可能性定理(アローのふかのうせいていり、Arrow's impossibility theorem)、アローの(一般)可能性定理、または単にアローの定理とは、社会的選択理論における不可能性定理英語版の一つである。この定理によれば、投票者に3つ以上の独立した選択肢が存在する場合、如何なる選好投票制度(社会的厚生関数[註 1])であっても、個々人の選好順位を共同体全体の(完備かつ推移的な)順位に変換する際に、特定の評価基準(定義域の非限定性、非独裁性、パレート効率性、無関係な選択肢からの独立性)を同時に満たすことは出来ない。この定理はギバード=サタースウェイトの定理を導くことで知られ、投票理論ではよく引用される。アローの定理という名称は経済学者でありノーベル経済学賞受賞者であるケネス・アローに因む。アローは博士論文でこの定理を示し、後に著書『社会的選択と個人的評価英語版[1]で論じて普及を見た。
要約すると、この定理によれば次の3つの「公正さ」の基準を常に同時に満たすような選好順位選挙制度は設計できない。
  • 全ての投票者が選択肢Xを選択肢Yよりも好むとき、集団全体もまたXをYよりも好む
  • 投票者個々人における選択肢XとYの間の選好順位が変わらないとき、集団全体としてのXとYの間の選好順位も変わらない(投票者各人でその他の選択肢の組み合わせ、例えばXとZの間やYとZ、ZとWなどの間の選好順位が変わったとしてもである)
  • 独裁者が存在しない。つまり、如何なる個人であれ集団全体の意志を1人で決定することはできない
なお、レーティング投票英語版は順位よりも多くの情報が関わるためこの定理では扱っていない[2][3]。但しギバードの定理英語版はアローの定理をその場合について拡張している。
アローが採った公理的手法は、考えうるあらゆる(選好をベースとした)ルールを統一された枠組みの中で扱うことが出来る。その意味で、個々のルール毎に調べるしかなかった過去の投票理論とは一線を画しており、社会的選択理論の現代的なパラダイム はこの定理から始まったと言える[4][5]
この定理と現実世界の関係については議論がある。アロー自身は「大半の制度は常にうまくいかない訳ではない。私が証明したのは、全てがうまく行かないことが時にはあると言うことだ」と述べている[6]

目次

概要編集

アローは n 人(nは有限)の個人から成る社会の構成員全員の選好関係 \succeq_i の (「選好プロファイル」) (\succeq_1, \ldots, \succeq_n) を独立変数とし、「社会的選好」と呼ばれる選好関係 \succeq を従属変数とする関数を考え、 それを「社会的厚生関数」(選好集計ルール) と呼んだ。ここで社会的選好 \succeq は次の2つの公理を満たすことを仮定する (ただし x \succeq y は選択肢  x が y 以上にランクされる (好ましい) ことを表す; \succeq は数の不等号とは異なる; 記号 \succeq の代わりに「関係」(relation) を表す R の文字が使われることも多い):
  • 完備性. 任意の2つの選択肢 xy に対し、x\succeq y もしくは y\succeq x が成立する。すなわち x が y 以上に望ましいか、y が x 以上に望ましいかのいずれかである。(このうち前者だけが成立するとき x\succ y と書き、x が y よりも好ましいことを表す。後者だけが成立するとき (y\succ x) は、y が x よりも好ましい。いずれも成立するときは x と y は無差別という。記号 \succ の代わりに「より好む」(prefer) を表す P の文字が使われることも多い。なお「反射性」すなわち任意の選択肢 x にかんして x \succeq x が成立することは,完備性から導かれる)
  • 推移性. 任意の3つの選択肢 xyz にたいし、x\succeq y かつ y\succeq z ならば x\succeq z となる。すなわち x が y以上に望ましく、y が z 以上に望ましければ、x は z 以上に望ましい。
選好関係がこれら2つの公理を満たすならば、選択肢が何個あろうともそれが有限個である限り、最も良い選択肢(1個とは限らない)を選ぶことができる。その意味でこのような選好関係は「合理性」を持つと言える。
そしてアローは、社会的厚生関数が下記の4条件 (これらもしばしば「公理」とよばれる) をみたすことが公正な選挙制度にとって不可欠であるとした。
  • 非独裁性. 社会的選好関数は複数の投票者の意志を反映せねばならない。単に誰か1人の意志を模倣するだけに留まることはできない。
  • 定義域の非限定性 (普遍性). 個人の選好を組み合わせた如何なる集合に対しても、社会的選好関数は社会的選択の一意で完備な順序付けを出力せねばならない。従って、社会的に完備な選好の順序付けを出力できねばならず、投票者の選好が同一である場合は、同一の結果を決定論的に出せねばならない。
  • 無関係な選択肢からの独立性英語版(IIA). 選択肢 x と y にかかわる社会的選好が、それら2つの選択肢に関する個人の選好のみで決まること。また一般に、個人の選好がその他の「無関係な」選択肢 z (ある特定の部分集合の外にあるもの)について変化したとしても、元の部分集合に関する社会的選好が影響されないこと。これは例えば、候補者が2人である選挙に第3の候補が追加されたとしても、その第3の候補者が勝つ場合を除いて選挙結果が影響されないことである。
  • パレート効率性 (全会一致性). 社会の全員の選好が「x は y よりも望ましい」と一致している場合、社会的選好も「x は y よりも望ましい」となること。(すなわち「すべての個人  i について x\succ_i y」ならば,x \succ y となる)
なお、以上の4条件は1963年に発表された第2版に基づく。1952年の初版では、パレート効率性に代えて次の2つの条件が挙げられており、計5条件とされていた。
  • 単調性英語版(社会と個人の価値観の正相関):もし何れかの個人がある選択肢の評価を上げて選好順位を変えたなら、社会的選好順位も同じ選択肢の順位を上げるかまたは変化なしとなり、順位を却って下げる結果にはならないこと。如何なる個人も選択肢の評価を「上げる」ことで却って損ねることはできないこと。
  • 非賦課性(主権在民):可能な全ての社会的選好順位は、何らかの個人的な選考順位に対応すること。これは社会的厚生関数が全射であることを意味する。値空間の大きさは無制限である。
1963年版の方が条件が弱いのでより一般的である。単調性、非賦課性、IIA、の3つを合わせればパレート効率性が出るが、パレート効率性(それ自体が非賦課性を持つ)とIIAを合わせても単調性は出ない。
アローの定理とは、2人以上の投票者と3つ以上の選択肢があるとき、上述した社会的選好に関する2つの公理と公正な選挙のための4つの条件をすべて満たす社会厚生関数は存在しないことを示した定理である。すなわち社会が選択肢を合理的に選べるための 2つの公理 (社会的選好が完備で推移的であること) と公正な選挙が満たすべきと考えられる4条件とが互いに矛盾することを示した。
この否定的結論は「社会的決定の合理性と民主制の両立は困難である」とか「民主主義は不可能である」といった (それ自体は誤りとは言えない) 主張に単純化されて理解されることもあった。定理の内容が正しく理解されたにせよそうでなかったにせよ、この定理が「一般意思」「社会的善」「公共善」「人民の意思」といった主張に疑いを投げかけたことはまちがいない[7]。この定理をアロー自身は「一般可能性定理」と呼んだ。しかしこの定理が持つ否定的含意から、「アローの不可能性定理」と呼ばれるのが一般的となった。

定理の解釈編集

アローの定理は数学的な結果だが、これはよく数学的とは言えない表現で人口に膾炙してきた。例えば「公正な選挙制度は存在しない」「全ての順位選好方式には欠陥がある」「唯一欠陥のない投票制度とは独裁制である」などである[8]。これらはアローの定理を単純化したものであり、一般には正しいとは考えられていない。アローの定理が実際に述べているのは、決定的な選好投票制度――つまり、選好順位が投票に唯一関わる情報であって、かつ、全ての投票の組み合わせがそれぞれ一意の結果をもたらす場合――においては、上記の条件を全て同時に満たすことは出来ないということである。
様々な研究者がこのパラドックスを逃れる手段としてIIA条件を弱めることを提案してきた。順位選好方式の研究者の間にはIIAが不必要に強い基準だと強固に主張する向きがある。この基準は殆どの実用的な選挙制度で満足されていない。この立場を採る論者によれば、元のIIA基準が欠陥含みであることは循環選好の可能性から明らかだと言う。投票者が次のように投票したとしよう:
  • 1人はA > B > Cと投票
  • 1人はB > C > Aと投票
  • 1人はC > A > Bと投票
すると、2つの選択肢の間を取り出した多数票は、AはBに勝ち、BはCに勝ち、CはAに勝つことから、3すくみの関係になっている。この状況では、「多数票を得た候補が選挙に勝つ」という極めて基本的な多数決の要件を満たすような集計ルールは、社会的選好が推移的(または非循環的)でなければならないとすると、IIA基準を満足できない。つまり、仮にそのようなルールがIIA基準を満たすとすると、多数票は尊重されるので、社会的選好としてAはBに勝ち(A > Bが2票に対してB > Aは1票)、BはCに勝ち、CはAに勝つので循環が生じる。これは社会的選好が推移的であるとする仮定に矛盾する。
従って、アローの定理が本当に述べているのは多数決制の選挙制度が非自明なゲームだということで、殆どの選挙制度の結果を予見するにはゲーム理論を援用すべきだということである[註 2]。任意のゲームには効率的な均衡が存在するとは限らないので、これは不本意な結果と見ることもできる。例えば、票は投じたものの本来誰1人として望んでいなかったような結果が出てしまう場合がある。

その他の可能性の探求編集

社会的選択理論では、アローの定理の否定的結論から逃れることを試みて、多くの研究が行われてきた。 ここではそれらのうちいくつかを、 (i) アローの社会厚生関数と同様の定義域を持つ関数 (ひとびとの選好順序のプロファイルを独立変数とする関数) を考察するもの、 (ii) その他の種類のルールを考察するもの、 に分類して採り上げる。

個人選好からの関数を考えるアプローチ編集

この項目には、 (i) 社会厚生関数をはじめとする「選好集計ルール」(個人選好のプロファイルから社会的選好への関数) をあつかうもの、およびそれ以外の (ii) 選好プロファイルから選択肢などへの関数をあつかうもの、 がふくまれる。このふたつのアプローチは重複することも多いので、ここではそれらを同時にあつかう。 このアプローチの特徴は、アローが課した条件を外したり緩めたり他のもので置き換えたりして可能性を探ることにある。

無限の個人編集

投票者の人数が有限であるという仮定を外せば、アローの他の条件を全て満たす集計ルールが存在することを一部の研究者が指摘した(例えばKirman & Sondermann,1972[9])。しかし、そのような集計ルールは超フィルターと呼ばれる極めて非構成的な数学的存在に依拠するため、実用上の意味は薄い。特にKirman & Sondermann はそのような集計ルールの背後には「見えざる独裁者」が存在すると述べている[9]。Mihara[10][11]はそのような集計ルールがアルゴリズム的に計算可能でないことを示した[註 3]。これらの結果はアローの定理の堅牢さを示すものだと看做せる[註 4]

選択肢の数の制限編集

選択肢数が2つのケースについては、単純多数決だけがいくつかの望ましい条件 (選択肢や投票者を平等に扱うこと、選択肢に対する支持の増加がマイナスの効果を与えないことなど) を満たすことをメイの定理が示している。一方でアローの定理は3つ以上の選択肢があるときの集団的決定の困難性について述べている。なぜ選択肢が3個未満のときと3個以上のときとで歴然とした差が出るのかをより一般的に示したのが (シンプルゲームのコアにかかわる)「中村の定理」で、これは選択肢の数が「中村ナンバー」とよばれる整数未満であれば意思決定ルールはうまく選択を行え、その整数以上であれば人々の選好によっては循環 (投票のパラドックス) が起きることを示している。多数決の中村ナンバーは (投票者が4人のケースを除けば) 3 であることから、中村の定理より、多数決は2個までの選択肢からならうまく選択を行えることが分かる。 過半数を超える支持 (全体の2/3など supermajority) を要求するルールでは中村ナンバーが 3 より大きくなることがあるが、そのようなルールはアローの別の条件を満たさない[註 5]

定義域の制限編集

選好集計ルールの定義域、すなわち想定する選好を制限するアプローチとしては「単峰性」を仮定するものが有名である。
いま、選択肢がある順序で左から右へと並んでいるする。選好がこの順序にかんして「単峰型である」とは、あるピークとなる選択肢が存在し、 そのピークから左側に行くほど望ましくない選択肢に,また、そのピークから右側に行くほど望ましくない選択肢になることである (横軸に選択肢を順序通り並べたとき、効用関数のグラフが一点だけピークを持つ)。与えられた選択肢の順序にかんして全員の選好が単峰型であるようなプロファイルに定義域を限定すれば、多数決をはじめとする (「シンプル」と呼ばれる) 集計ルールは非循環的な (後述) 社会的選好を持つ。特に奇数人の多数決では社会的選好は推移的になり、「ベストな」選択肢は各個人のピークの中央値になる (Black の「中位投票者定理[14]。多次元の選択肢集合でも「単峰型である」選好を定義することはできるが、「中央値」にあたる選択肢が特定できるのは例外的ケースにすぎず、通常は McKelvey の「カオス定理」[15]が示す破壊的な結果(すなわち任意の選択肢 xy について、xに x_1 が多数決で勝ち、x_1 に x_2 が多数決で勝ち、… 、x_k に y が多数決で勝つような選択肢の列を見つけることができる) になる。

推移性の緩和編集

社会的選好の推移性を緩和することにより、アローの他の条件を満たす独裁的でない選好集計ルールが存在することが知られている。しかしそれらの関数に中立性 (選択肢を平等に扱う条件) を課すと「拒否権」を持つ個人が存在するため、このアプローチによる解決の効果も限定的である。まず社会的選好が推移的であるという要求を弱めて、「半推移的である」 (「より望ましい」を表す強選好 \succ が推移的であること: x \succ yかつ y \succ z ならば x \succ z となる)ことをだけを要求すれば、たしかに独裁者のいない選好集計ルールは存在するが、そのような関数では「寡頭制」(oligarchy) が生じる (Gibbard, 1969)。すなわちある提携 L が存在し、L 自体は「決定力を持ち」(decisive; L のメンバー全てが x を y より好めば社会的選好で x が y より望ましくなる)、L のメンバー1人1人が「拒否権を持つ」 (彼が x を y より好めば、社会的選好で y が x より望ましくなることを阻止できる)。社会的選好が推移的であるという要求を弱めて、「非循環的である」(次のような循環を生じる選択肢 x_1, \ldots, x_k が存在しない: x_1 \succ x_2x_2 \succ x_3\ldotsx_{k-1} \succ x_kx_k \succ x_1)ことをだけを要求すれば、選択肢数が個人の人数以上という制約の下では、「合議政体」(collegium) が生じる(Brown,1975[16])。すなわち決定力を持つようなすべての提携の共通部分 ("collegium") に属するような個人が存在する。もし拒否権を持つ個人がいればこの共通部分に属する。さらに中立性を要求すれば拒否権を持つ個人は実際に存在する[13]。Brown の定理で空白とされた選択肢数が個人の数未満で非循環性だけを仮定したケースについては、中村ナンバーが決定的な役割を持つ。「選択肢の数の制限」の項目を参照。

無関係対象からの独立性 (IIA) の緩和編集

無関係対象からの独立性以外の条件をみたす選好集計ルールの例としては、ボルダのルールをはじめいろいろある。
しかし、これらのルールは戦略的操作に左右されるという問題がある[17]

社会的選好ではなく社会的選択編集

社会的な意思決定においては、全ての選択肢について順序付けを得ることは普通は目的ではなく、何らかの選択肢を選べば済むことが多い。このアプローチは、選好プロファイルを選択肢へ移す「社会的選択関数」か、または選好プロファイルを選択肢の部分集合に移す「社会的選択ルール」を考察の対象とする。 社会的選択関数についてはギバード=サタースウェイトの定理がよく知られている。これは3つ以上の選択肢を値域に含む社会的選択関数が戦略に影響されないなら、その関数は独裁的であることを示している。
社会的選択ルールについては、その背後にある社会的選好が存在すると仮定せねばならない。つまり、何らかの社会的選好による極大要素 (「最良の」選択肢) を選択するルールを考える。ある社会的選好による極大要素の集合を「コア」と呼ぶ。コアの中に選択肢が存在するための条件について、これまで2つのアプローチによって調べられてきた。第一のアプローチは、選好が少なくとも非循環的であること (これは選好が任意の有限な部分集合上で極大要素を持つための必要十分条件である) を仮定する。このため推移性の緩和と密接に関連する。
もうひとつのアプローチは非循環的な選好の仮定を捨てる。Kumabe & Mihara (2010)[18]はこちらを採用している。その中では、より直接的に個人の選好が極大要素を持つと仮定した上で、社会的選好が極大要素を持つための条件を検証している。これら2つのアプローチの詳細については中村ナンバーを参照のこと。

その他のアプローチ編集

アローのフレームワークでは、個人および社会の選好が選択肢集合上の「順序」であることが仮定されている。 すなわちそれらの選好を効用関数で表した場合、その値は大小関係のみが意味を持つという意味で「序数的効用」となる (たとえば選択 a, b, c, d にたいする効用がそれぞれ 4, 3, 2, 1 であることと 1000, 100.01, 100, 0 であることと 99, 98, 1, 0.997 であることはすべて同じで、 選択肢を a, b, c, d の順序で好むことを表したにすぎない)。 序数的効用の仮定により個人間の効用の比較が排除されていることが、アローの示した不可能性の大きな理由になっていると言えるだろう[註 6]
効用の値が単なる大小関係を越えた意味を持つ「基数的効用」を想定するアプローチは、いくつかの理由により現代経済学では主流ではない (たとえば Arrow, 1963, Chapter 2, Section 1)。しかしそのアプローチでは、個人の選好の強度を考慮したり、効用 (の増減あるいは絶対レベルを) を個人間で比較することが可能になる。たとえば選択肢の良し悪しを個人の効用の合計によってはかるベンサム流の功利主義は Harsanyi (1955) によって正当化されている。また、選択肢の良し悪しを最も効用の低い個人の効用によって測るロールズ流の maximin 原理は Hammond (1976) によって正当化されている。
最後に、ある種のルールを考察するアプローチとは言えないが、「個人選好と同じように社会的選好があると考えるのはおかしい」というブキャナンらの批判がある。少なくとも一部は誤解にもとづくこの類いの初期の批判に対しては、アロー自身が答えている (Arrow, 1963, Chapter 8)。

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ この場合の社会的厚生関数とは 、古典的なバーグソンサミュエルソン型のものとは異なり、個々人の選好順位を列挙した一覧である「選好プロファイル」を社会全体の選好順位に移す関数である。この定理は18世紀以来知られていた投票のパラドックス 等の望ましくない現象が多くの意思決定ルールで起こりうることを数学的に証明したものとも言える(社会的選択と個人的評価英語版参照)。
  2. ^ これは、ゲーム理論における均衡の概念を使えば様々な規範的な基準が満足できるという意味ではない。実際、プロファイルから均衡結果への変換は社会的な選択ルールを定めるが、その挙動は社会的選好理論で調べることができる。Austen-Smith & Banks (1999)の7.2節を参照。
  3. ^ Miharaによる集計ルールが計算可能であることの定義は、単純ゲームの計算可能性に基づいている(ライスの定理を参照)
  4. ^ 無限の個人が存在する社会的選択については、Taylor[12]のChapter6がコンパクトな解説をしている
  5. ^ 選択肢数を制限するアプローチについては、社会的選択理論のテキストであるAusten-Smith & Banks [13]の Chapter 3 が特に詳しい
  6. ^ たとえば「選挙のパラドクス—なぜあの人が選ばれるのか?」(ウィリアム パウンドストーン (著)、篠儀直子(訳)) によると、Range voting などの選好の強度を考慮できるルールには、アローの定理を当てはめることはできない

出典編集

  1. ^ Arrow 1952.
  2. ^ CES 2012.
  3. ^ Sen 1999, pp. 349-378.
  4. ^ 鈴村 2002, p. 10.
  5. ^ 鈴村 2009, p. 484.
  6. ^ McKenna 2008, pp. 30-33.
  7. ^ フェルドマン & セラーノ 2009, p. 294.
  8. ^ Cockrell 2016.
  9. a b Kirman & Sondermann 1972, pp. 267-277.
  10. ^ Mihara 1997, pp. 257-276.
  11. ^ Mihara 1999, pp. 267-287.
  12. ^ Taylor 2005.
  13. a b Austen-Smith & Banks 1999.
  14. ^ Black 1968.
  15. ^ McKelvey 1976, pp. 472-482.
  16. ^ Brown 1975, pp. 456-469.
  17. ^ Blair & Muller 1983, pp. 34-53.
  18. ^ 隈部 & Mihara 2010, pp. 187-201.

参考文献編集

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  • Interview with Dr. Kenneth Arrow, (2012-10-06) 2018年12月24日閲覧, "CES: 先生はご自身の定理は選好システムやランキングシステムに適用されると述べています(中略)しかし(中略)賛成投票は、レーティングシステムと呼ばれるクラスに属します。(中略)Dr. Arrow: そして先ほど述べたように、それは実質的により多くの情報を含みます。(中略)私は採点システムが、これは多分3つか4つの類別がありますが、最良ではないかと思いつつあります。"
  • Sen, Amartya (1999), “The Possibility of Social Choice”American Economic Review 89 (3), doi:10.1257/aer.89.3.349JSTOR 117024, "アローの不可能性は(中略)厚生の判断において個人間の比較を適用すると消えるのでしょうか?(中略)そうです。追加の情報が与えられればこの種の不可能性を逃れるに足る十分な区別が可能になります。(中略)例え弱い形の比較可能性であっても、アローの要請を全て満たすような安定した社会的厚生判断を齎します。"
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  • 鈴村, 興太郎 (2009), 厚生経済学の基礎: 合理的選択と社会的評価, 岩波書店, ISBN 978-4000099165
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関連項目編集




社会選択理論(しゃかいせんたくりろん、英語social choice theory)は、個人の持つ多様な選好(preference)を基に、個人の集合体としての社会の選好の集計方法、社会による選択ルールの決め方、そして社会が望ましい決定を行なうようなメカニズムの設計方法のあり方を解明する理論体系である。経済学者政治学者の両方により研究され、資源配分ルールや投票ルールの評価や設計は一貫して主要な課題となっている。集合的選択理論(collective choice theory)とも言われる。[要出典]

集合的決定に関する先駆的研究と社会選択理論の確立編集

社会選択理論は20世紀の中頃、1950年代に確立された比較的新しい学問分野とされている。[誰?]しかし社会選択理論の扱う集合的な決定に関する研究は、少なくとも18世紀に遡ることが出来る。そうした先駆的研究の中でもよく知られているのは、ジャン=シャルル・ド・ボルダコンドルセによるものである。ボルダは決定の参与者全員が満足するような投票による決定の手続き・ルールを考察し、後にボルダ方式と呼ばれる方式の基礎を形作った。一方のコンドルセは多数決投票法による決定について考察し、いわゆるコンドルセのパラドックスを発見した。これは多数決投票法の困難を示すものであった。[要出典] こうした集合的決定の研究、とりわけコンドルセのパラドックスの発見を受け継いで確立されたのがケネス・アロー一般可能性定理である。一般可能性定理は多数決投票に限らずあらゆる決定の方法が、決定が受け入れられるのに必要と考えられる最小限の条件すら満たし得ないことを示した。この集合的決定の困難を証明したアローの定理は様々な方面に衝撃を与え、一連の重要な理論的研究を生み出した。これにより社会選択理論が一つの新しい学問分野として確立されたわけである[要出典]

社会選択理論と政治学編集

社会選択理論は、個人の選好から出発して集団的な決定を下す実際の過程と、そのルールや方法を扱うものである。このような性質を持つため、政治学に対して重要な意味合いを持つ。政治は人間の集団における意思決定を内包するものであるからだ。例えば議会で法案を成立させることは典型的な政治的行為だが、この際にも様々な形で意思決定を行うことが必要とされる。こうした社会選択理論の政治学上の意義は広く認識されてきた。[要出典]例えば経済学者ポール・サミュエルソンはアローの一般可能性定理に対するコメントにおいて、アローの研究は数理政治学(mathematical politics)に対して大きな貢献をなしたと認めている[要出典][1]。 実際に実証政治理論(positive political theory)と呼ばれる、社会選択理論を摂取した分野が1960年代に確立された。この実証政治理論の中心的な担い手は、ロチェスター大学政治学部の教授を長年務めたウィリアム・ライカーとその門下生であった。ライカー達は自己の効用を最大にするという行動原理に基づいて形成された個人の選好から、個人の集合体としての社会の決定を導くプロセスとして政治を捉えた。このような特徴を持つ政治を分析するための道具としてライカーらは社会選択理論とゲーム理論を中心に据え、この二つを核に実証政治理論を確立した。[要出典][2]。 しかし、主流派の政治学においては社会学の影響が強く、主に経済学から発展した社会選択理論は必ずしも高い評価を得ていない。[要出典]従来の政治学は利益団体など集団を基礎に政治過程を捉えてきたが、その方法論は個人を分析の基礎とする、すなわち方法論的個人主義に依拠する社会選択理論ないしは実証政治理論とは全く異なるものであったからだ。従って実証政治理論の政治学に占める地位も、当初はごく小さいものであり、実証政治理論は異端視されていたと言ってよい状況にあった。[3]。また実証政治理論の研究者たちは、その初期の段階において抽象的な理論的研究に力を入れてきた[4]。このことも実証政治理論が異端視される要因となったと考えられる。しかし1980年代以降、実証政治理論やその基礎となる社会選択理論の有意性は認められることとなった。その契機となったのはアメリカ連邦議会研究に代表される、実証政治理論による政治過程の実証的な分析の本格化であった。現在では実証政治理論は政治学における最も有力な分析手法の一つである[要出典][5]

脚注編集

  1. ^ Samuelson(1967)[要文献特定詳細情報]
  2. ^ 個人の選好を分析の出発点とし、その選好は各個人の効用関数が反映されたものであると考える実証政治理論は、次の二つのことを基本的な仮定としている。第一に政治現象を個人の相互作用の帰結と捉えることである。これは個人の選択・行動の分析の焦点を当て、個人のレヴェルから分析を積み上げるものである。すなわち実証政治理論は方法論的個人主義に基づく理論である。第二に各個人はそれぞれ自己の効用を最大化しようと行動すると仮定することである。つまり実証政治理論は個人の合理性を仮定している。方法論的個人主義と個人の合理性の仮定に基づく分析視角を、政治学では合理的選択理論と呼んでいる。実証政治理論もこの合理的選択理論に分類される。[要出典]
  3. ^ 例えばこの状況を裏付けるエピソードとして、ロチェスターで博士号(Ph.D.)を得た研究者の就職状況が挙げられる。彼らはアイビーリーグを筆頭とした政治学の研究の盛んな名門校に就職することは出来なかった。彼らの就職先はカリフォルニア工科大学カーネギーメロン大学など自然科学に重点を置いていた大学、或いは社会科学に関しては新興勢力であった大学に限られていた。その後実証政治理論を含む合理的選択理論が台頭するに連れて、これらの大学の政治学もしくは社会科学部門は高い評価を得るようになる。それだけにとどまらず、実証政治理論を専攻した研究者たちがハーヴァード大学スタンフォード大学プリンストン大学などのメジャーな名門校に職を得る結果をもたらした。[要出典]
  4. ^ その代表的な成果がリチャード・マッケルヴィーによるマッケルヴィーの定理の発見であった。マッケルヴィーの定理は一般に争点次元が二次元以上となる場合の決定はかなり不安定で、決定に参与する或る個人が議事操作を行って自分の望む結果を実現することが可能であることを示している。
  5. ^ 政治学における最も権威ある学術誌の一つAmerican Political Science Review(APSR)に掲載される論文の約40%は実証政治理論を含む合理的選択理論に基づくものであると言われている。[誰?]

参考文献編集

  • Kenneth Arrow: Social Choice and Individual ValuesISBN 0300013647 ケネス・J・アロー(長名寛明訳)『社会的選択と個人的評価』日本経済新聞社, 1977
  • Austen-Smith, David; Banks, Jeffrey S. (1999). Positive political theory I: collective preference. Ann Arbor: University of Michigan Press. ISBN 0-472-10480-2.
  • ジョン・クラーヴェン(富山慶典・金井雅之訳): 『社会的選択理論』勁草書房, 2005, ISBN 4326502665
  • A. M. フェルドマン; R. セラーノ 『厚生経済学と社会選択論』 シーエーピー出版、2009年。ISBN 978-4916092908
  • Gaertner, Wulf (2006). A primer in social choice theory. Oxford: Oxford University Press. ISBN 0-19-929751-7.
  • Moulin, Herve (1988). Axioms of cooperative decision making. Cambridge: Cambridge University Press. ISBN 0-521-42458-5.
  • Nitzan, Shmuel (2010). Collective Preference and Choice. Cambridge, UK: Cambridge University Press. ISBN 0-521-72213-6.
  • Amartya Sen: Collective Choice and Social WelfareISBN 0050024345 アマルティア・セン(志田基与師監訳)『集合的選択と社会的厚生』勁草書房, 2000
  • Suzumura, Kōtarō; Arrow, Kenneth Joseph; Sen, Amartya Kumar (2002). Handbook of social choice and welfare, vol 1. Amsterdam, Netherlands: Elsevier. ISBN 978-0-444-82914-6. Kenneth J. Arrow, Amartya K. Sen, Kotaro Suzumura 編 (2006). 社会的選択と厚生経済学ハンドブック, Vol 1. 鈴村興太郎・須賀晃一・中村慎助・廣川みどり監訳, 丸善.
  • Taylor, Alan D. (2005). Social choice and the mathematics of manipulation. New York: Cambridge University Press. ISBN 0-521-00883-2.
  • 鈴村 興太郎 『厚生経済学の基礎: 合理的選択と社会的評価』 岩波書店、2009年。ISBN 978-4000099165
  • 宇佐美誠: 『社会科学の理論とモデル4 決定』東京大学出版会, 2000, ISBN 4130341340
  • 佐伯 胖: 『きめ方の論理―社会的決定理論への招待』東京大学出版会, 1980, ISBN 4130430173
  • 坂井 豊貴:『多数決を疑う――社会的選択理論とは何か』岩波書店、2015年 ISBN 4004315417
  • 坂井 豊貴:『「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する』ダイヤモンド社、2017年 ISBN 4478064873

関連項目編集

外部リンク編集


1 Comments:

Blogger yoji said...

社会的選択と個人的評価

経路依存性 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E8%B7%AF%E4%BE%9D%E5%AD%98%E6%80%A7
経路依存性(けいろいぞんせい、英: path dependence)は人々が任意の状況で直面する決定の集合が、過去の状況がもう関係なくなっているとしても、人々が過去にした決定や経験した出来事にどのように制限されているかについての説明である。
Arrow, Kenneth J. (1963), 2nd ed. Social Choice and Individual Values. Yale University Press, New Haven, pp. 119–120 (constitutional transitivity as alternative to path dependence on the status quo).

覚え書き

3:20 午前  

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