邦訳版(原著初版~後述~)では全体の構成は、
世界経済の概観(1章)
本書の案内(2章)
_____________________
財市場と金融市場
(IS-LMモデル)
(3,4,5,6章)
期待の導入 開放経済
(7,8,9,10章) (11,12,13,14章)
_____________________
労働市場の導入
(AS-ADデル)
(15,16,17,18,19章)
経済の病理
高い失業(20章)
高いインフレ(21章)
資本蓄積と技術進歩の導入
(22, 23, 24章)
応用編
技術進歩と失業(25章)
東ヨーロッパの移行(26章)
_____________________
政府の役割,要約と拡張
(27, 28, 29章)
エピローグ
(30章)
原書第六版では、
世界経済の概観(1章)
本書の案内(2章)
_____________________
財市場と金融市場
(IS-LMモデル)
労働市場の導入
(AS-ADモデル)
失業、インフレ
資本蓄積と技術進歩の導入
_____________________
期待の導入 開放経済
_____________________
政府の役割,要約と拡張
エピローグ
(~25章)
(期待/開放が後回しにされた。)
Textbook: Macroeconomics, Sixth Edition
Introduction
Chapter 1 A Tour of the World
Chapter 2 A Tour of the Book
The Short Run
Chapter 3 The Goods Market
Chapter 4 Financial Markets
Chapter 5 Goods and Financial Markets: The IS-LM Model
The Medium Run
Chapter 6 The Labor Market
Chapter 7 Putting All Markets Together: The AS-AD Model
Chapter 8 The Phillips Curve, the Natural Rate of Unemployment, and Inflation
Chapter 9 The Crisis
The Long Run
Chapter 10 The Facts of Growth
Chapter 11 Saving, Capital Accumulation, and Output
Chapter 12 Technological Progress and Growth
Chapter 13 Technological Progress: The Short, the Medium, and the Long Run
⬇︎
Extensions
Expectations
Chapter 14 Expectations: The Basic Tools
Chapter 15 Financial Markets and Expectations
Chapter 16 Expectations, Consumption, and Investment
Chapter 17 Expectations, Output, and Policy
The Open Economy
Chapter 18 Openness in Goods and Financial Markets
Chapter 19 The Goods Market in an Open Economy
Chapter 20 Output, the Interest Rate, and the Exchange Rate
Chapter 21 Exchange Rate Regimes
Back to Policy
Chapter 22 Should Policy Makers Be Restrained?
Chapter 23 Fiscal Policy: A Summing Up
Chapter 24 Monetary Policy: A Summing Up
Chapter 25 Epilogue: The Story of Macroeconomics
18 Comments:
Textbook: Macroeconomics, Sixth Edition
Introduction
Chapter 1 A Tour of the World
Chapter 2 A Tour of the Book
The Short Run
Chapter 3 The Goods Market
Chapter 4 Financial Markets
Chapter 5 Goods and Financial Markets: The IS-LM Model
The Medium Run
Chapter 6 The Labor Market
Chapter 7 Putting All Markets Together: The AS-AD Model
Chapter 8 The Phillips Curve, the Natural Rate of Unemployment, and Inflation
Chapter 9 The Crisis
The Long Run
Chapter 10 The Facts of Growth
Chapter 11 Saving, Capital Accumulation, and Output
Chapter 12 Technological Progress and Growth
Chapter 13 Technological Progress: The Short, the Medium, and the Long Run
Expectations
Chapter 14 Expectations: The Basic Tools
Chapter 15 Financial Markets and Expectations
Chapter 16 Expectations, Consumption, and Investment
Chapter 17 Expectations, Output, and Policy
The Open Economy
Chapter 18 Openness in Goods and Financial Markets
Chapter 19 The Goods Market in an Open Economy
Chapter 20 Output, the Interest Rate, and the Exchange Rate
Chapter 21 Exchange Rate Regimes
Back to Policy
Chapter 22 Should Policy Makers Be Restrained?
Chapter 23 Fiscal Policy: A Summing Up
Chapter 24 Monetary Policy: A Summing Up
Chapter 25 Epilogue: The Story of Macroeconomics
Credits
End Paper
http://www.pearsonhighered.com/educator/product/Macroeconomics/9780133061635.page#table-of-contents
Table of Contents
I. INTRODUCTION.
1. A Tour of the World.
2. A Tour of the Book.
II. THE BASICS.
3. The Goods Market.
4. The Goods Market: Dynamics.
5. Financial Markets.
6. Goods and Financial Markets: The IS-LM.
III. EXPECTATIONS.
7. Expectations: The Basic Tools.
8. Expectations, Consumption, and Investment.
9. Financial Markets and Expectations.
10. Expectations, Policy, and Output.
IV. OPENENNESS.
11. Openness in Goods and Financial Markets.
12. The Goods Market in an Open Economy.
13. Output, the Interest Rate, and the Exchange Rate.
14. Expectations, Exchange-Rate Movements, and Exchange-Rate Crises.
V. THE SUPPLY SIDE.
15. The Labor Market.
16. Putting All Markets Together.
17. The Phillips Curve.
18. Inflation, Disinflation, and Unemployment.
19. Inflation, Interest Rates, and Exchange Rates.
IV. PATHOLOGIES.
20. Pathologies I: High Unemployment.
21. Pathologies: II: High Inflation.
VII. THE LONG RUN.
22. The Facts of Growth.
23. Saving, Capital Accumulation, and Output.
24. Technological Progress and Growth.
VIII. CHANGE AND TRANSITION.
25. Technological Progress, Unemployment, and Wages.
26. Transition in Eastern Europe.
IX. POLICY.
27. Should Policy Makers be Restrained?
28. Monetary Policy: A Summing Up.
29. Fiscal Policy: A Summing Up.
X. EPILOGUE.
30. The Story of Macroeconomics.
Appendixes
Where to Find Numbers.
National Income and Product Accounts.
A Math Refresher.
Glossary.
Index.
Textbook: Macroeconomics, Sixth Edition
プランシャール
マクロ経済学
Introduction
1部-イントロダクション
3部-期待
Chapter 1 A Tour of the World
1章世界経済の概観
Chapter 2 A Tour of the Book
2章本書の案内
The Short Run
2部-基礎編 (The Short Run)
Chapter 3 The Goods Market
3章財市場
4章財市場一ダイナミックス
Chapter 4 Financial Markets
5章金融市場
Chapter 5 Goods and Financial Markets: The IS-LM Model
6章財市場および金融市場とIS-LMモデル
The Medium Run
5部-マクロ経済の供給サイド (The Medium Run)
Chapter 6 The Labor Market
15章労働市場
Chapter 7 Putting All Markets Together: The AS-AD Model
16章財市場,金融市場および労働市場の統合
Chapter 8 The Phillips Curve, the Natural Rate of Unemployment, and Inflation
17章 フィリップス曲線
18章インフレーション,ディスインフレーションおよび失業
19章インフレーション,利子率および為替レート
Chapter 9 The Crisis
6部-マクロ経済の病理
20章マクロ経済の病理I一高い失業率
21章マクロ経済の病理II一高いインフレ率
The Long Run
Chapter 10 The Facts of Growth
7部一長期におけるマクロ経済 (The Long Run)
22章成長の事実
Chapter 11 Saving, Capital Accumulation, and Output
23章貯蓄,資本蓄積および産出量
Chapter 12 Technological Progress and Growth
24章技術進歩と成長
Chapter 13 Technological Progress: The Short, the Medium, and the Long Run
8部一変化と移行
25章技術進歩,失業および賃金
26章東ヨーロッパにおける市場経済への移行
Expectations
3部-期待
Chapter 14 Expectations: The Basic Tools
7章基本的な分析ツールとしての期待
Chapter 15 Financial Markets and Expectations
9章金融市場と期待
Chapter 16 Expectations, Consumption, and Investment
8章期待,消費および投資
Chapter 17 Expectations, Output, and Policy
10章期待,政策および産出量
The Open Economy
4部—開放経済
Chapter 18 Openness in Goods and Financial Markets
11章財市場と金融市場の開放性
Chapter 19 The Goods Market in an Open Economy
12章開放経済における財市場
Chapter 20 Output, the Interest Rate, and the Exchange Rate
13章産出量,利子率および為替レート
Chapter 21 Exchange Rate Regimes
14章期待と為替レートの動き,および為替レートの危機
Back to Policy
9部-マクロ経済政策
Chapter 22 Should Policy Makers Be Restrained?
27章政策決定者は制約されるべきか
Chapter 23 Fiscal Policy: A Summing Up
28章金融政策一要約
Chapter 24 Monetary Policy: A Summing Up
29章財政政策一要約
Chapter 25 Epilogue: The Story of Macroeconomics
10部一エピローグ
30章マクロ経済学の歴史
齊藤他マクロ#7も中期モデルをブランチャード上下に依拠しているという
ブランシャール『マクロ経済学』下(2000)
(https://www.scribd.com/book/365862816 原著最新版カラー p.518~529)
齊藤誠他 マクロ経済学新版 有斐閣(2016)
まんがDE入門経済学 西村和雄 (1999)
この三冊に共通するのは主要経済学者の顔写真が載っているということ。
経済学史は自説を客観視するのに必要で、顔写真採用はwebがあっても有効。
まんがDE入門経済学 西村和雄 (1999)
(野球ネタが多い)
ブランシャール『マクロ経済学』下(2000)
(https://www.scribd.com/book/365862816 原著最新版カラー p.518~529)
齊藤誠他 マクロ経済学新版 有斐閣(2016)
(齊藤他マクロ#7も中期モデルをブランチャード上下に依拠しているという)
この三冊に共通するのは主要経済学者の顔写真が載っているということ。
経済学史は自説を客観視するのに必要で、顔写真採用はwebがあっても教育上有効。
まんがDE入門経済学 西村和雄 (1999)
(野球ネタが多い)
ブランシャール『マクロ経済学』下(2000)
(https://www.scribd.com/book/365862816 原著最新版カラー p.518~529)
齊藤誠他 マクロ経済学新版 有斐閣(2016) kindle版あり
(齊藤他マクロ#7も中期モデルをブランチャード上下に依拠しているという)
この三冊に共通するのは主要経済学者の顔写真が載っているということ。
経済学史は自説を客観視するのに必要で、顔写真採用はwebがあっても教育上有効。
齋藤旧版には顔写真はない。
顔写真入り
フルトワイラー
ブローグ100
斎藤ほか改訂版
ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること | 経済学 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
https://toyokeizai.net/articles/amp/371127?page=4
ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること
世界的第一人者ブランシャールのマクロ経済学
リーマンショック、欧州金融危機から世界経済を救った、紛れもない中心人物がブランシャールなのである。そして2015年、彼はIMFでの務めを果たし、MITに復帰した。
教育者的良心はマクロ経済学の教科書に
IMFでの激闘のさなか、ブランシャールは経済危機前に書いたマクロ経済学(原書版第5版)の教科書の改訂を進めていた。
彼の教科書は、基本に忠実で、極力シンプルなモデルで説明が行われる。ほぼひとまとまりのモデルから出発し、徐々にそれをじっくり発展させていき、メカニズムの動きと適用範囲、効力の可能性と限界を明確に自覚できるようになっていて、論理的に端正(エレガント)な趣がある。
そして、基本構成がシンプルであるがゆえに、運用が柔軟にできる。とくに教科書であれば少なからずある結論の押し付け的なものは極力排されていて、簡単な演習と今日的なトピックスを充実させ、学ぶ者の自律的な立体的理解を促すような工夫がある。原則はシンプル、応用が柔軟に利く、ということで、初級・中級者向けのテキストとして専門家からよく推奨される。
このことは、教育者としての氏の良心性をも表すように思う。
そしてIMF時代を通じて、その改訂(原書版第7版、2015年刊行)は行われており、氏の骨身に染みた経験がふんだんに追記されている。この翻訳が冒頭で紹介した『ブランシャール マクロ経済学(第2版)』である。
やや技術的になるが改訂のポイントを少し解説すると、金利、GDP、物価の動向を包括的に理解するメカニズムに関して、従来のIS-LMモデルを踏まえたAD-ASモデルでの説明から、マクロ経済現象をよりシンプルに、かつ正確に描写できるよう、IS-LM-PC(PC=フィリップス曲線)モデルを活用する工夫が図られている。
さらに、実際の経済の動きにより即した説明がなされている。例えば、LM曲線に基づく金利の決定という伝統的な方法に関しては、中央銀行の実際の行動を踏まえて政策金利が先に決まる(その金利水準を満たすように貨幣供給量が調整される)ということを考慮し、LM曲線はある金利水準で水平となるように描かれている。
ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること
世界的第一人者ブランシャールのマクロ経済学
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佐々木 一寿 : 経済評論家、作家
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リーマンショック、欧州金融危機から世界経済を救った、紛れもない中心人物がブランシャールなのである。そして2015年、彼はIMFでの務めを果たし、MITに復帰した。
教育者的良心はマクロ経済学の教科書に
IMFでの激闘のさなか、ブランシャールは経済危機前に書いたマクロ経済学(原書版第5版)の教科書の改訂を進めていた。
彼の教科書は、基本に忠実で、極力シンプルなモデルで説明が行われる。ほぼひとまとまりのモデルから出発し、徐々にそれをじっくり発展させていき、メカニズムの動きと適用範囲、効力の可能性と限界を明確に自覚できるようになっていて、論理的に端正(エレガント)な趣がある。
そして、基本構成がシンプルであるがゆえに、運用が柔軟にできる。とくに教科書であれば少なからずある結論の押し付け的なものは極力排されていて、簡単な演習と今日的なトピックスを充実させ、学ぶ者の自律的な立体的理解を促すような工夫がある。原則はシンプル、応用が柔軟に利く、ということで、初級・中級者向けのテキストとして専門家からよく推奨される。
このことは、教育者としての氏の良心性をも表すように思う。
そしてIMF時代を通じて、その改訂(原書版第7版、2015年刊行)は行われており、氏の骨身に染みた経験がふんだんに追記されている。この翻訳が冒頭で紹介した『ブランシャール マクロ経済学(第2版)』である。
やや技術的になるが改訂のポイントを少し解説すると、金利、GDP、物価の動向を包括的に理解するメカニズムに関して、従来のIS-LMモデルを踏まえたAD-ASモデルでの説明から、マクロ経済現象をよりシンプルに、かつ正確に描写できるよう、IS-LM-PC(PC=フィリップス曲線)モデルを活用する工夫が図られている。
さらに、実際の経済の動きにより即した説明がなされている。例えば、LM曲線に基づく金利の決定という伝統的な方法に関しては、中央銀行の実際の行動を踏まえて政策金利が先に決まる(その金利水準を満たすように貨幣供給量が調整される)ということを考慮し、LM曲線はある金利水準で水平となるように描かれている。
ブランシャール マクロ経済学 上 (第2版)―基礎編 [プリント・レプリカ] Kindle版
オリヴィエ・ブランシャール (著), 中泉 真樹 (翻訳), & 1 その他 形式: Kindle版
5つ星のうち5.0 3個の評価
2020/04/03
ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること
世界的第一人者ブランシャールのマクロ経済学
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サミュエルソンに始まり、ロバート・ソロー、スタンレー・フィッシャー、フランコ・モディリアーニ、チャールズ・キンドルバーガーらを擁したMITは、そのような伝統のなかで、世界トップレベルの経済学者、政策立案者を輩出してきた。
アカロフ、スティグリッツ、ポール・クルーグマン、ピーター・ダイアモンド、ジャン・ティロールらのノーベル賞受賞者、元FRB議長のベン・バーナンキ、前ECB総裁のマリオ・ドラギらは皆MITの伝統を受け継ぐ者たちだが、ブランシャールは今やその中心にいる。
マクロ経済学再考のとき
そんなブランシャールは、2019年早々のAEA会長講演でまたしても専門家たちを驚かせている。
「マクロ経済学は数十年ぶりに生まれ変わる必要がある」
そんな内容のスピーチだったが、奇をてらうところのないブランシャールの率直な言だけに、どよめきが起きたという。
最近のブランシャールは、長引く経済の長期停滞が先進国の危機となっているという認識を強めており、これまでの枠組による施策の限界を打ち破るべき必要性を強く意識しているようである。これは氏の新しい財政政策論につながっていく。
「私たちはマクロ経済政策、とくに財政政策を大きく再考すべきであるとの信念を強めている」(“Evolution or revolution: An afterword” VOXEU, 13 May 2019)
このような認識の中、ブランシャールは昨年、消費税増税に前後して日本への提言も行っている。
「現在の日本の状況では、財政赤字と公的債務残高の圧縮よりも成長の維持を重視すべきだ。財政出動には、短期的には需要を喚起し、長期的には供給を強化するという少なからぬメリットがある。しかも公的債務の財政・経済コストは限定的である」(『日本経済新聞』2019年10月7日付)
そして最近は、コロナウイルスに苦しむ世界経済に際しても、リポートやTwitterで各国の中央銀行の金融緩和を評価しつつ、さらに財政政策の重要性をよく発信している。
危機下こそが経済政策の出番であり、経済学はまた世界をよりよく変える可能性を深く考えるときにきているのではないか。
ブランシャールは今もまた、経済学を志した時の初心を思い出しているかもしれない。
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ブランシャール マクロ経済学 下 (第2版)―拡張編 [プリント・レプリカ] Kindle版
オリヴィエ・ブランシャール (著), 中泉 真樹 (翻訳), 知野 哲朗 (翻訳) 形式: Kindle版
5つ星のうち5.0 1個の評価
2020/04/03
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ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること
世界的第一人者ブランシャールのマクロ経済学
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佐々木 一寿 : 経済評論家、作家
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これらの変更によって、より直感的かつシンプルな説明となり、本格的なマクロ経済学の教科書のなかでも最もわかりやすいものの1つになっている。実際、このような直感的な考え方をいまや多くの政策実務家も(意識的あるいは無意識的に)採用しており、マクロ経済的なディスカッションにおいてコンセンサスを形成するのに必要十分なものだろうと思う。
とくに、政策金利の決定と作用、ゼロ金利制約、流動性の罠、デフレ、インフレターゲティング、量的緩和(QE)といった今日的なイシューに関して、基本的な議論を理解するのに最適かつ十分だろう。
たとえば日本の経済でいえば、アベノミクスの狙いや効果に関しての評価を自分自身で総括する力が身につけられる。
また、本文を実際に読んでみるとわかるが、ブランシャールがそこにいて語りかけているかのようなのだ。それが非常に魅力的でまた親しみやすさにもつながっており、独学者にもとても向いている教科書だろう。このあたりはブランシャールの人柄がそのまま伝わってくるところである。
MITの良心
ブランシャールはただ温情的な政策を主張するタイプの経済学者ではない。平時の経済政策に関しては、非常に“渋ちん”な提言も数多くしている。健康なときにはダイエットにきちんと勤しむべきである、そんな厳格さをもっている。
しかし、ひとたび危機に見舞われた場合は、体力の回復を何より優先する、そんな風情がある。これは両親の影響なのかもしれない。
このことをもってブランシャールは「言うことが変わる」と言われることもあるが、経済的医者としてブレがないことは、経済が置かれた前提条件の違いとして理解できるだろう。
柔軟さとブレなさ、そのブランシャールの姿勢は、MITの伝統的な特質でもあるという。MITでは本質的な経済原理のモデル化とともに、それが現実と一致するかをとても重視する。もし美しいモデルがあっても、それが現実にそぐわなければ、強引に適用するのではなく、再考されなければならない。
→次ページ世界トップレベルの経済学者を輩出したMITの中心人物に
3/6
ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること
世界的第一人者ブランシャールのマクロ経済学
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それがさまざまな紆余曲折を経て、各国政府の財政に関して新自由主義的な自己責任論を主唱する巨大官僚組織、いま風の言葉で言えば「財政警察」になってしまっていたといえば、スティグリッツやブランシャールの気持ちはわかるだろうか。
そして、リーマンショックの最中に、ブランシャールはそのIMFのエコノミストに就任することになる。その背景には、専務理事ドミニク・ストロスカーンの誘いがあったといわれている。ブランシャールはこのとき、フランスの大学時代に考えていたことを思い出していたのかもしれない。
IMFでの「エレガントな激闘」
ブランシャールの予想どおり、IMFは新自由主義の巣窟であり、また、予想以上に官僚的な縄張りが張り巡らされていて、その論争は「塹壕戦」のように消耗するものであったと述懐している。専務理事の後ろ盾があり、上級職を務めるエコノミストであっても、初期は連戦連敗であったようだ。
しかし、彼の知的で率直な物言いは、その後もずっと続けられ、そして世界経済が直面する困難には背に腹を替えられない状況があった。ブランシャールの粘りにより、アイスランドやキプロスの資本規制実現を勝ち取り、それを皮切りに、危機に陥った国に必要な規制を認めさせるための小さな勝利を徐々に積み重ねていく。
ストロスカーンの失脚の後、フランス国内で緊縮派として知られていたクリスティーヌ・ラガルドが後任に就いたが、当初は「財政警察」的だった彼女も、次第にブランシャールの分析と方策を頼るようになっていった。
ブランシャールは、持ち前の明晰さと率直さを武器にしつつ、普通の経済学者ならば嫌がる政治的な説得を終始いとわなかった。おそらく氏の性格を考えても、政治的調整は苦痛以外の何ものでもなかっただろうと推察するが、精神科医である母の「私は導師でも魔術師でもなく、職人であり、やるべきことをやるだけです」との言を自身の行動に重ねて、淡々と行っていたようである。
その継続的な積み重ねは、半ば揶揄的な表現ではあるものの、「優しくなったIMF」と専門家から驚嘆の目で見られるほどの変革を実現した。
その驚きの大きさは、私も実感を伴って覚えているが、専門家の誰しもが不可能なことだと考えていた証左でもあろう。同門のノーベル賞経済学者の2人、ジョージ・アカロフからは「彼はまさに正念場に世界が必要としていた人物だった」、スティグリッツからは「オリヴィエはIMFを新しい考えに解き放つうえで重要な役割を果たした」と称賛を送られている。
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ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること
世界的第一人者ブランシャールのマクロ経済学
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そして、MITは数理的かつ実際的な経済学的アプローチを重視しており、ブランシャールにとってその環境は“水が合う”ものだった。スタンレー・フィッシャーの下で博士論文を仕上げ、一時はハーバード大学で教鞭を執るが、MITでの教職ポストが提示されると、すぐに戻っている。
MITでのブランシャールの評価は、「論理的に端正」「直感的、実際的であることを好む」「エレガントだが率直な物言い」「経済学オタク的ではない」「理論、経験、政策を兼ね備えたオールラウンダー」といったものだ。時に威圧的なほどの知的センスでクラスを支配しながら説明が明晰でわかりやすく、その講義はカリスマ的な人気を誇った。
学生からも信頼されていたようだ。よく進路について相談され、彼らしく率直な見解で答えていた。後に同僚となるある学生から「IMFはどうでしょう?」と問われて、「キャリアを棒に振ることになるぞ」と即答したという。
事実、MITの恩師であるフィッシャーに2度誘われても、IMF入りには首を縦に振らなかった。そんなブランシャールだが、彼はその後、いろいろな経緯があり、IMFに所属することになる。自身の予想とは違っていたかもしれないが、IMFでのキャリア(2008~15年)は、自身にとって非常に重要なものとなった。
創設者ケインズを忘れたIMF
ブランシャールがIMFで職に就いた2008年、世界経済は折しもリーマンショックに見舞われていた。世界各国はIMFの助力を切実に必要としていた時期である。
ただし、IMFには、ブランシャールが教え子にお勧めしないと即答してしまうほどの芳しくない評判があったのも事実で、とくに経済学者のなかでそれは根強くあった。
IMFへの批判は、ジョセフ・スティグリッツの強烈なものが有名だが、IMFは本来的に逆循環的な方策を提案する機関であるべきなのに、順循環的なアドバイスしかしない、という評判である。つまり、「雨が降ったら傘を取り上げる」という批判だ。
IMFはもともとジョン・メイナード・ケインズが、第2次世界大戦後まもない時期に設立に関わっており、国家における経済政策(金融政策・財政政策による景気対策)が世界経済においては不在であることを危惧して「雨の日に傘を貸す」ために作られた機関だった。
ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること
世界的第一人者ブランシャールのマクロ経済学
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マクロ経済学の世界的専門家として知られるオリヴィエ・ブランシャール。専門家の間で、例年ノーベル賞候補として名前もよく上がる彼の人となりを紹介します(写真:ロイター/アフロ)
オリヴィエ・ブランシャールは、マクロ経済学の世界的専門家として知られる。
MIT(マサチューセッツ工科大学)で教職を務め、IMF(国際通貨基金)のエコノミストに就任し、最近ではAEA(アメリカ経済学会)の会長も務めていた(2018年)。FRB(米連邦準備銀行)のアドバイザーも長年務めている。
専門家の間では例年ノーベル賞候補として名前もよく上がる、マクロ経済学において誰しもが認める世界的第一人者である。
その氏の主著が、マクロ経済学の「教科書」なのだが、2015年に大幅改訂され、その邦訳が今春に刊行された(邦題『ブランシャール マクロ経済学 第2版』)。この改訂は、単なるバージョンアップ以上に、彼にとって非常に大きな意味を持っている。彼の人となりをもよく表す、その理由を簡潔に紹介していきたい。
知的職人気質のフランス人
ブランシャールは神経科医の父と精神科医の母を両親に持つフランス人だ。幼少時は賢いものの、勉強が必ずしも好きではない子どもだったという。
『ブランシャール マクロ経済学 第2版 上・下』書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。
パリ・ナンテール大学に進学したが、1968年に学生暴動が起きて大学が閉鎖され、パリの街中で激しい戦いが繰り広げられる。知的な刺激と同時に、そのイデオロギー的な争いに次第に嫌気がさしてきたブランシャールは、長い入院の際に経済学の本を読みあさり、経済学が世界をよりよく変える可能性を深く考えるようになる。
しかし、彼の目には、フランスの大学の経済学カリキュラムは抽象的すぎるうえに、イデオロギー的すぎるとも映っていた。修士論文を書き終えて、ブランシャールはアメリカに留学することにする。
ブランシャールはマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学することが決まった。MITの経済学部は1960~70年代にポール・サミュエルソンを擁し、米国一の地位にのし上がった、最も勢いのある「アメリカ経済学の中心地」だった。
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ノーベル経済学賞候補が、いま考えていること
世界的第一人者ブランシャールのマクロ経済学
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リーマンショック、欧州金融危機から世界経済を救った、紛れもない中心人物がブランシャールなのである。そして2015年、彼はIMFでの務めを果たし、MITに復帰した。
教育者的良心はマクロ経済学の教科書に
IMFでの激闘のさなか、ブランシャールは経済危機前に書いたマクロ経済学(原書版第5版)の教科書の改訂を進めていた。
彼の教科書は、基本に忠実で、極力シンプルなモデルで説明が行われる。ほぼひとまとまりのモデルから出発し、徐々にそれをじっくり発展させていき、メカニズムの動きと適用範囲、効力の可能性と限界を明確に自覚できるようになっていて、論理的に端正(エレガント)な趣がある。
そして、基本構成がシンプルであるがゆえに、運用が柔軟にできる。とくに教科書であれば少なからずある結論の押し付け的なものは極力排されていて、簡単な演習と今日的なトピックスを充実させ、学ぶ者の自律的な立体的理解を促すような工夫がある。原則はシンプル、応用が柔軟に利く、ということで、初級・中級者向けのテキストとして専門家からよく推奨される。
このことは、教育者としての氏の良心性をも表すように思う。
そしてIMF時代を通じて、その改訂(原書版第7版、2015年刊行)は行われており、氏の骨身に染みた経験がふんだんに追記されている。この翻訳が冒頭で紹介した『ブランシャール マクロ経済学(第2版)』である。
やや技術的になるが改訂のポイントを少し解説すると、金利、GDP、物価の動向を包括的に理解するメカニズムに関して、従来のIS-LMモデルを踏まえたAD-ASモデルでの説明から、マクロ経済現象をよりシンプルに、かつ正確に描写できるよう、IS-LM-PC(PC=フィリップス曲線)モデルを活用する工夫が図られている。
さらに、実際の経済の動きにより即した説明がなされている。例えば、LM曲線に基づく金利の決定という伝統的な方法に関しては、中央銀行の実際の行動を踏まえて政策金利が先に決まる(その金利水準を満たすように貨幣供給量が調整される)ということを考慮し、LM曲線はある金利水準で水平となるように描かれている。
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