ケインズからカレツキへ
「予想収益に関する危険は,資本の限界効率についての私の定式化においてすでに考慮されています」(Kcynes[1983]p. 793)
「現在の価格上昇が将来価格についての期待に不相応な(disproportionate)影響を及ぽすであろうというだけでなく,将来価格が〔現在と〕同じ割合で上昇するであろうと予想される,とあなたは想定しているように思われます.まさに,これは長期期待に対する即時的状態の影響の法外な過度の強調ではないでしょうか」ケインズ1937年3月30日のカレツキあての手紙,参照:Kalecki[1937a]
「あなたの議論は,アキレスと亀の説明のように私には思われます.あなたは私に,……たとえアキレスが亀に追いつくとしても,それは多くの期間が経過した後にのみであろうと語っているのです」同年4月12日の手紙(同上,p.798)
The Collected Writings of John Maynard Keynes, vol. XII, 1983.
Kalecki "The Principle of Increasing Risk", 1937a, Económica.
https://en.wikipedia.org/wiki/Micha%C5%82_Kalecki
"Some Remarks on Keynes's Theory", 1936, Ekonomista. "
A Theory of the Business Cycle", 1937, Review of Economic Studies. "
A Theory of Commodity, Income and Capital Taxation", 1937,
Economic Journal. "The Principle of Increasing Risk", 1937, Económica.
一橋論叢第104巻第6号
IV 投資制約要因としての「信用の利用可能性」
さて,カレツキは「危険逓増の原理」によって投資量の決定を説明したのだ
が,これに対してケインズはどのような態度を示したのか.そして両者の貨幣
観,および経済メカニズムの理解にはどのような相違が存在するのか,とりあ
えず1つの乎がかりとしてカレツキの主張に対するケインズの見解をみてゆく
ことにしよう,
ケインズは1937年3月30日のカレツキあての手紙において,Kalecki[1937
a]に対するコメントというかたちで,「予想収益に関する危険は,資本の限界
効率についての私の定式化においてすでに考慮されています」(Kcynes[1983]
p. 793)と語っている.そして,投資の限界効率の概念によっては投資登を決
定することができないというカレツキの批判に対しては,「現在の価格上昇が
将来価格についての期待に不相応な(disproportionate)影響を及ぽすであろ
うというだけでなく,将来価格が〔現在と〕同じ割合で上昇するであろうと予
想される,とあなたは想定しているように思われます.まさに,これは長期期
待に対する即時的状態の影唇の法外な過度の強調ではないでしょうか」(同上,
p. 793, 〔〕内は引用者のもの)と答えている.さらに同年4月12日の手紙
では,「あなたの議論は,アキレスと亀の説明のように私には思われます.あ
なたは私に,……たとえアキレスが亀に追いつくとしても,それは多くの期間
が経過した後にのみであろうと語9ているのです」(同上,p.798)としてカレ
ツキの見解に反駒を加えている.もちろん,ここで「アキレス」とは投資量を,
「亀」とは一般物価水準のことを指している.ともかくも,ケインズはカレツ
キの自らに対する批判は当たらないとし,自らはすでに資本の限界効率概念の
なかで,投資量の増大に伴なう危険逓増を考慮していると述べたのである.
以上のケインズの主張についてであるが,実際のところ,彼が『一般現前』
において「危険逓増」の問題を考慮していたとみなすのは難かしい.周知のよ
うに,ケインズは『一般理論』第11章において,投資量の決定について,(1)
資本の限界効率と利子率の均等,(2)投資財の需要価格と供給価格の均等,と
いう2通りの解決を提示した.(1)では資本の限界効率の低下を生産物供給量
の増加による企業間競争の発生と生産設備価格の上昇によって説明し,資本の
限界効率が利子率に等しくなる点まで投資が進められるとされている.一方,
(2)ではr借手のリスクjと「貸手のリスク」に言及し,この2種類のリスク
の逓増が投資財の需要価格・供給価格に形容を汲ぽすことにより投資を制約す
るとされている,そしてケインズ自身はこれら2通りの解決を事実上同じもの
☆☆
ケインズ経済における均衡と不均衡:
ヴィクセル的不均衡
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/ ヴィクセル均衡 \
/ ________ \
/ / ケインズ均衡 \ \
| / ____ \ |
| | / \ | |
| | |総予想均衡 | | |
| | | | | |
| | \____/ | |
| \ 派生的不均衡 / |
\ \________/ /
\ ケインズ的不均衡 /
\____________/
ヴィクセル的不均衡
岩井克人『不均衡動学の理論』182頁より
この物価変動のメカニズムでさらに留意すべきことは、原因である両利子率の差が解消して両利子率が合致したとしても、一旦上昇(下降)した物価は元に戻らないことである。そして、両利子率に差があるかぎり、物価変動は継続する。銀行が貸付利子を自然的資本利子率以下に維持するなら、物価は上昇続けるのである。「もしある原因が問題の変数をある地点から引きはなす場合に、こうした原因が作用することを止めたとしても、その変数は、もとにもどる傾向を少しももたないのである。そうした変数はその場に止まる。ところが、その原因が作用している限り、問題の変数は移動しつづけるのである。」(マルシャル・ルカイオン、1978、p.45)
これをヴィクセルは「中立的均衡」と呼んで「安定的均衡」と対比している。後者は相対価格の動きであり、振子の運動に例えられている。前者は(いくらか摩擦のある)平面上に置かれた円筒に例えられている。力が加わる限り他所に移動し、力が消えても暫くは静止しないイメージである。この「中立的均衡」は、後に「貨幣的均衡」とも呼ばれている。
さらに期待が加わり、企業者が物価上昇を生産計画に織り込むと「陣風を作る」。「上述のごとくにして起こる価格変動が、一時的なものと見做される限り、それは実際には恒久的に存続する。併しそれが恒久的なものと見做されるや否や、それは累進的となる。最後にそれが累進的と見做されるならば、それは雪崩的となる」(『国民経済学講義Ⅱ』ドイツ版序文;Ⅱ巻の新訳は未刊行、旧訳の未見のため北野、1956、p.149より引用)
参照:
岩井克人『不均衡動学の理論』7頁
利子と価格 Interest and Prices p.101
☆☆☆
"ミンスキーは過去三回の大規模金融危機のうち、およそ九回を予言していた。"
ポール・クルーグマン『さっさと不況を終わらせろ』より
(ポール・サミュエルソンの古いジョークの言い換え)
以下、下書き
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/ ______ \
/ / \ \
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https://opac.lib.city.yokohama.lg.jp/opac/OPP1500?ID=1&SELDATA=TOSHO&SEARCHID=0&START=1&ORDER=DESC&ORDER_ITEM=SORT4-F&LISTCNT=10&MAXCNT=1000&SEARCHMETHOD=DT_SEARCH&MENUNO=1
市場と計画の社会システム カレツキ経済学入門
叢書名 ポスト・ケインジアン叢書 ≪再検索≫
著者名等 M.C.ソーヤー/著 ≪再検索≫
著者名等 緒方俊雄/監訳 ≪再検索≫
出版者 日本経済評論社
出版年 1994.09
大きさ等 22cm 388p
注記 The economics of Michal Kalecki. 付:参考文献
カレツキの引用文献目録・参考文献:p359~377
NDC分類 331.77
件名 カレツキ ミハウ
件名 Kalecki Michal.
要旨 ポーランドの経済学者カレツキの一連の重要な著作に対する初めての包括的・体系的入門
書。政治経済および社会システムの枠組みの転換時に生起する問題点を論じるカレツキ経
済学は、現代経済学や経済体制に対する見方を再検討する際の不可欠の文献である。
目次
第1章 カレツキ:人物および思想入門;
第2章 価格・利潤・独占度;
第3章 投資・景気循環・成長;
第4章 貯蓄格差・独占度・所得水準;
第5章 貨幣・金融・利子率;
第6章 賃金・雇用・インフレーション;
第7章 完全雇用の政治経済学;
第8章 カレツキとマルクス;
第9章 カレツキとケインズ:比較と対象;
第10章 混合経済の開発
第11章 カレツキと社会主義の経済学;
第12章 カレツキのマクロ経済学:将来の発展についての展望
参考:
ケインズに献本された
#27
The Economics of Full Employment. Six Studies in Applied Economics Prepared At the Oxford University Institute of Statistics. [By T. Balogh, F. A. Burchardt and Others. ]
Published by Oxford : Basil Blackwell, 1944
Three ways to full employment, by M. Kalecki.
1967年3月経済セミナー
『高度開発資本主義経済と後進資本主義経済』
完全雇用への問題点
《上記の三つの問題、すなわち、投資の大きさと構造の計画的保障をめざす投資面での政府の干渉、急速な農業発展の途上にある制度的障害の除去、特権階級へのしかるべき課税は現実には大きな政治問題である。》
2 Comments:
モジリアーニの労働供給曲線:
実質賃金
| 労働供給曲線
| /
| /
最低| /
要求|_____/
賃金| |
| |
| |
| |
|_____|__________
0 完全雇用に 雇用量
対応する雇用量
わかる現代経済学109頁
鍋島直樹『ケインズとカレツキ』第7章155~6,198頁でこの借り手のリスクについて触れた「危険逓増の原理」1937が図解付きで解説されている(同159頁)。
中小企業ほど投資のリスクが大きいから規模の格差は決して解消されないのだ。
投資量の決定:
(a)伝統的理論(ケインズ):
投 資 の
|。 。 限 界
| 。 効
|__________。____
| | 。率
|b |
| | 。
|__________|____
|p |
|__________|_____
k0 k
(b)カレツキ:
| 。
| 投資の限界効率 。
|__________。____
| 。 |
| 。 。 |
| b |
|__________|____
| p |
|__________|_____
k0 k
危険逓増の原理 カレツキ The Principle of Increasing Risk ,Kalecki ,1937
《まず投資規模kは,投資の隈界効率MEIが利子率ρと投資に伴なうリスク率σの総和に等しくなる水準に決定されるとカレツキは想定する。そうすると図(a)から容易に理解されるように,伝統的理論においてはkの増大とともにMEIが低下する場合にのみ,一定の最適投資量k0が決定されることになる。一般にこのような下落は(1)大規模化の不経済,(2)不完全競争,によって発生するとされている.しかしカレツキは(1)の理由は非現実的であるとし,(2)についても,より現実的ではあるが,これによっては同時に異なる規模の企業が存在することが説明されないと言う.したがって企業規模の相違を説明する他の要因が存在するはずである.》
+
《カレツキによるとリスク率σは投資量とともに増大するという(図(b)).そしてその理由として次の2つが挙げられている.第1は,投資量が大きくなるほど事業の失敗における富の状態が危険になるといることであり,第2は,「非流動性」の危険性の存在, すなわち投資量の増大にしたがい,その主体の資産ポートフォリオに占める実物資産の割合が高まるということである.》
《…投資量の増大にしたがってその危険が逓増する場合には, 投資量はMEI[投資の限界効率]が一定のρおよび投資量とともに増大するσの総和に等しくなる点k0に決まる。そして企業の内部蓄積の増加(減少)は限界リスク曲線を右(左)にシフトさせるので、単一企業の投資決意率は,その資本蓄積と限界収益性の変化の速度に依存する」(Kalecki[1937b]p.447)ということになる。また以上から、同一産業における企業規模の相違の存在を説明することも可能となる。企業者はそれぞれ異なる量の白己資本を保有し,異なる規模で生産活動を開始する。だが自己資本の小さい企業者ほど投資の増加に伴う危険逓増にさらされやすい。彼らにとって生産規模の拡張は大企業者に比べると困難であり、よって企業規模の格差は温存されることになる.すなわち、「〈ビジネス・デモクラシー〉〔という仮定〕は誤りである.自己資本は〈投資の一要因〉となる」」(同上,p.443,〔〕内は引用者のもの)。》鍋島
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