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以下、別訳
資本とは、みずからを再生産し、再生産において自らを増殖する価値であり、その生得の属性により──つまりスコラ哲学者たちのいう隠れた素質により──永遠に存続し増大する価値であるという考えは、鍊金術師の幻想でさえ及びもつかぬプライス博士の荒唐無稽な思いつきを生んだのであるが、この思いつきたるや、ピットがこれを本気で信用して、減債基金にかんする彼の法律において財政経済の支柱たらしめたものである。
「複利を生む貨幣は初めには徐々に増大する。だが、その増大率はたえず加速されるから、ある期間後にはどんな想像も及ばぬほど速くなる。一ペンスがキリスト降誕のとき五%の複利で貸出されたとすれば、それは今日ではすでに、一億五〇〇〇万個の純金からなる地球に含まれるのであろうものより巨額なものに増大しているであろう。だが、単利で貸出されたとすれば、それは同じ期間に七シリング四½ペンスにしか増大しなかったであろう。今日までわが政府は、第一の方法によってでなく第二の方法によって、財政を改善しようとしてきたのである。」〔431〕
八一 リチャード・プライス『国債問題につき公衆に訴える』、〔一七七二年〕第二版、ロンドン、一七七四年〔一八─一九頁〕。彼のいうことは素朴で気がきいている。「ひとは、かねを複利でふやすためには単利で借りなければならない」と。(R・ハミルトン『大ブリテンの国債の起こりと増加にかんする研究』第二版、エディンバラ、一八一四年〔第三部第一篇「プライス博士の財政観の吟味」、一三三頁〕。)これによれば、借金は総じて個人にとっても最も確実な致富手段であろう。だが、私が一〇〇ポンドを年利五%で借りるならば、私は年度末には五ポンドを支払わねばならぬのであって、この投資が一億年間つづくと仮定すれば、そのあいだ、私は毎年いつも一〇〇ポンドを貸出しうるのみであり、また毎年五ポンドを支払わねばならない。この仕方では私は、一〇〇ポンドを借りることによって一〇五ポンドを貸すことにはならない。また、何から私はこの五%を支払うべきか? あらたな借金によって、または、私が国家であるならば租税によって。だが、産業資本家がかねを借りるならば、彼は、利潤をたとえば一五%とすれば、五%を利子として支払い、五%を消費し(彼の食慾は収入とともに増大するとはいえ)、五%を資本化しなければならない。だから、たえず五%の利子を支払うためには、すでに一五%の利潤が前提されている。この過程がつづくならば、利潤率は既述の理由によって、たとえば一五%から一〇%に低落する。しかるにプライスは、五%の利子が一五%の利潤率を前提することを忘れてしまって、この利潤率は資本の蓄積とともに継続するものとしている。彼は、現実の蓄積過程に関係する必要はなく、ただ、貨幣が複利で還流するように貸出しさえすればよい。貨幣の複利還流がいかにして始まるかは、彼にとっては全くどうでもよい、というのは、それは他ならぬ利子生み資本の生得の素質だからである。
彼は、その著『据置支払にかんする諸考察』、ロンドン、一七七二年、でさらにとっぴなことをいう、──「キリスト降誕のとき」(おそらくエルサレムの寺院で)「六%の複利で貸出された一シリングは、全太陽系が土星の軌道に等しい直径の球に変わったばあいに含みうるであろうよりもいっそう巨額な金に増大していることであろう。」──「だからといって、国家は困難をきたすわけではない。けだし国家は、最小の貯蓄をもって最大の負債を、その利益上必要とされるような短期間に償却しうるからである」(別付、一三、一四頁)と。イギリスの国債にたいする何と結構な理論的手引きであることよ!
プライスは、幾何級数から生ずる数の尨大さにすっかり眩惑された。彼は、資本をば、再生産および労働の諸条件を顧みることなく、自動的にはたらく機構と見なし、(あたかも、マルサスが人間を幾何級数的に増殖するものと見なしたように)おのずから増殖するたんなる数と見なしたので、彼は、s=c(1+z)^ nという範式において資本増大の法則を発見したものと妄想することができたのであって、この範式中のsは資本プラス複利の総額であり、cは投下資本であり、zは利子歩合(百分比で表現された)であり、nは過程がつづく年数である。〔432〕
ピットは、プライス博士の誑かしを、すっかり本気にとった。…
『資本論第三巻』(河出「世界の大思想」第一期〈10〉)より
~この邦訳は土星の下りを本文ではなく註に回している。
要するにマルクスは自分の産業資本の分析を引き立てるために、プライスを政治的に貶す。そのため利子の考察は不完全に終わる。また、利潤逓減理論も利子のインフレ吸収を無視した、底の浅いものになり、近代経済学に後れを取ることになる。
貧困認識をめぐる文明史論と政治算術 ― 18 世紀スコットランド (Adobe PDF)
11頁
プライスは『生残支払いの観察』の第4版で「人口」を主題とする追加を行ない、文明の初期段階までは農業を含む生産が食糧を供給するので人類は増加し、幸福でもあるのに対して、文明が進展し大都市が展開する段階に至ると、奢侈とならんで苦境、貧困などがはびこる、としてコントラストを描いた。 36)
36) Richard Price, Observations on Reversionary Payments; …, 4th edition, 2 vols., 1783, vol. II, pp.258-259. なお、ウィリアム・イーデンやジョン・ハウレットら、名誉革命期以降の人口増加を主張してプライスを批判する議論が1780年前後に立て続けに登場したことから、プライスはこの『生残支払いの観察』第4版に、これら諸論調に対する反論を付け加えた(vol. II, pp.275f.)。
Observations on Reversionary Payments: On Schemes for Providing Annuities ... : Richard Price : Free Download & Streaming : Internet Archive 初版1773
xv(マルクス引用箇所)
参考1:
プルードンの貨幣改革について
::藤田 勝次郎
… フランスでは、プルードンの前にサン-シモン主義に影響されてマゼル銀行という名の銀行が考えられ、それもオウエンやブレイの「交換所」や「発券銀行」と同じようなものでした。マルクスはプルードンの「交換銀行」をマゼル銀行と完全に同一視し、「それは銀行の専制主義を生むだけだ」といって批判していますが、そのような見当違いのプルードン批判はマルクスのプルードンに対する無知を示す以外のなにものでもありません。…
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