月曜日, 2月 01, 2016

非自発的失業

セミナーの途中で一人の助教授ルーカスに「非自発的失業」について質問した。ルーカスは「イェール
では未だに非自発的失業などとわけのわからぬ言葉を使う人が、教授の中にすら居るのか。シカゴではそんな
馬鹿な言葉を使う者は学部の学生の中にも居ない」と答えたものだ。やがて話は一九三〇年代の大不況へと移
っていった。大不況時のアメリカ失業率は最悪時で二五%に達した。しかしルーカスによれば「非自発的」
失業は全く存在しなかった。多くの人がただ職探しという「投資」を行っていたのである。最後にトービン
が少し興奮した口調でルーカスに言った。「なるほどあなたは非常に鋭い理論家だが、一つだけ私にかなわ
ないことがある。若いあなたは大不況を見ていない。しかし私は大不況をこの目で見たことがある。大不況
悲惨さはあなた方の理論では説明できない。」》

ケインズ―時代と経済学 (ちくま新書)吉川




「非自発的失業」について、ルーカスが教員から質問され、
“エールでは未だに非自発的失業などと訳のわからぬ言葉を使う人が、教授の中にすらいるのか。シカゴではそんな馬鹿な言葉を使う者は学部の学生の中にもいない”吉川洋『構造改革と日本経済』岩波書店2003 p191

「非自発的失業」とは、ケインズ経済学で頻繁に使われる言葉です。働く意思はあるのに、労働賃金が高止まりしていて(価格の硬直性)、職を得られない人々のことです。余談ですが、今の最新の経済学ではもう使われていません。いずれ消えていく言葉とされています。

 シカゴは、ミルトン・フリードマンらの「マネタリスト」の牙城です。アメリカの場合、学校ごと、地域ごとに全然思想が違うんですね。シカゴ学派は、五大湖沿岸なので、「真水の経済学」と言われました。これが、「市場主義」として、アメリカ国内から(結果的には世界的にも?)、共産主義を駆逐する大きな原動力になりました。

 このエピソードには続きがあります。ジェームズ・トービンは、ルーカスに対し、「お若いの、世界恐慌を見たことがあるのかね。私は見た」と言って答えたそうです。世界恐慌時の失業を目の当たりにした、トービンならではの回答ですね。

 トービンも、ルーカスも、ノーベル経済学賞受賞者です。



M B K 48 : ブライアン・カプラン、「トルーマン・ビューリー、『どうして賃金は不況でも下がらないのか?』」(書評)

http://blog.livedoor.jp/sowerberry/archives/33918664.html
http://econlog.econlib.org/archives/2013/09/why_dont_wages.html
Bryan Caplan のブログ(Econlog)の記事(9月23日)の翻訳です。

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 Why Wages Don't Fall during a Recession

どうして賃金は不況でも下がらないのか?――トルーマン・ビューリーに成りすましてQ&A

 トルーマン・ビューリー (Trueman Bewley) の『どうして賃金は不況でも下がらないのか?』(Why Wages Don't Fall During a Resession? [1999])  をとうとう最後まで読み終えた。この本はすばらしい――これまでに読んだ実証的な経済学の本では5本の指に簡単に入るだろう。ベストの中のベストかもしれない。1999年に出版されたこの本は、ビューリーが1990年代初めの穏やかな不況の間に行った300人以上の人事採用担当者、労働組合のリーダー、失業カウンセラー、企業コンサルタントのインタビューから構成されている。彼がインタビューしたすべての人が実際の雇用の世界と賃金決定に関して豊富な経験を持っている。このインタビューの目的は、幅広い労働経済学者の理論を実践家の証言から検討することである。

 この本のどこがすばらしいのか?

1. ビューリーの実証的な方法は、従来のデータに基づいた計量経済学よりもはるかに説得力があり確かな証拠になっている。従来のデータは、名目賃金がめったに下がらない、とりわけ1つの仕事についている1人の労働者にとっては下がらない、ということを教えてくれる。しかし、それがなぜなのかを知りたかったら、一番いい方法は、豊富な賃金設定の経験をもっている人々に直接聞いてみることである。ビューリーがやったことはそれである。

2. ビューリーは回答者を誘導しないように慎重に対応している。彼は、回答者が自分自身の行動を自分自身の言葉で説明するように細心の注意を払うすばらしい聞き手である。彼は想定していた仮定が間違っていたとわかったときには、喜んでそれを認めている。こういうことは何度も起きている。読者は、作者自身がこの調査の結果、知的に成長していくのを見ることができる。

3. ビューリーは意識的に幅広い経済理論を検証している。回答者があるトピックについて回答した後で、彼は回答者が考察するためのいくつかの経済理論を提示する。そのすべてのケースにおいて、彼は理論的なモデルを普通の英語に「翻訳」しようとしている。それから回答者の答えを記録している。

4. ビューリーは計画的で徹底的である。彼は幅広いトピックについてインタビューしている。いくつかの質問は、最初は一見すると、関係ない話題のように思われる。例えば、彼は退職金についてまるまる1章を当てている。しかし、彼に余裕があれば、彼はすべてのトピックに関して動機を説明することができるだろう。例えば、読者が暗黙の契約について理解すると、低い退職金が解明を必要とする大きな謎として突然浮かび上がってくるのである。

5. ビューリーは一貫して丁寧な口調を維持している。彼の結論が明らかにケインズ的であっても、それを疑う回答者に彼は敬意をもって対応している。実際彼は、納得しない回答者の考え方を正面から受け入れている。そして、疑問を抱く回答者を、疑問に対して疑問をぶつけるという形で方法論的に納得させようとしている。

6. 最も重要な点は、ビューリーはこの本のタイトルになっている疑問に答えるのに成功しているだけでなく、それから派生する疑問に答えることにも成功していることである。私はこの本を読み始める前からいくつかの基本的な答えにはすでに賛成していたが、この本を読んでみて、私が見逃していたいくつかの複雑な層が存在することに気がついた。どの場合でもビューリーは、彼が提示した複雑な問題をうまく解決している。

 ビューリーの答えを適切に評価する一番いい方法は、Q&Aの形にしてみることだろう。以下の文章はすべて私のものである。しかし、ビューリーは私の文章を彼の本を説明する適切な文章として受け入れてくれると思う。

Q: 賃金はいつでも下がらないのか?
A: 実質賃金はいつでも下がる。名目賃金は労働者が仕事を変えたときはしばしば下がる。しかし、名目賃金はある特定の仕事のある特定の労働者に関しては、めったに下がらない。その特定の仕事ができる労働力が供給過剰になっているときでさえ、そうである。

Q: それなら、どうして名目賃金は、ある特定の仕事のある特定の労働者に関して下がらないのか?
A: なぜならほとんどすべての経営者(employer)が、名目賃金の低下が労働者のやる気に悪影響を与えると認識しているからだ。そして、やる気の低下は生産性の低下につながる。

Q: それなら、どうして経営者は賃金をカットしておいて、それで手を抜いた労働者がいたら彼らを解雇しないのか?
A: なぜなら、労働の生産性にとって、信頼と相互依存が非常に重要だからだ。解雇によって特定の怠惰を防止することはできる。しかし、それによって、多くの労働者を企業の利益を促進するように働かせることはできない。さらに、生産性は個人レベルでは把握するのが難しいが、グループのレベルでは簡単である。

Q: それなら、どうして経営者は新規採用者の賃金だけをカットしないのか? 賃金を低下させられる新規採用者は、最初からやる気がない、ということか? それともすでに雇用されている労働者が、新規採用者の賃金が下がると怒るとでも?
A: 最初は、やる気の問題はまったく生じない。新しい労働者は、たとえ賃金が低くてもなんとか仕事に就きたいと思っている。また、すでに雇用されている古い労働者が新規採用者に対して怒るのは、新規採用者の賃金のほうが高いときだ。しかし、新規採用者が、同じ仕事をしている他の労働者に比べて自分の賃金が低いと気づき始めたときから、問題が生じる。3か月か4か月たつと、これが新規採用者のやる気の低下につながる。そして、この新規採用者の不満が、古い労働者のやる気にも悪影響を与える。

Q: それなら、どうして全ての労働者を解雇して、全員を新しい労働者で置き換えないのか?こうすれば労働者の怒りを帳消しにできる。
A: 確かに。しかし、すべての労働力を一度に全部交換することは、非常にコストがかかるだろう。さらに、経営者はそうすることで悪い雇用主、悪い企業市民という評価が立つことを懸念する。

Q: だから数年間のマイルドなインフレになればこの問題は解決する、ということか?
A: そうはならないと思う。不況の間でも、ほとんどの経営者は労働者の名目賃金を上げ続けている。

Q: なぜ?
A: 昇給がないと労働者のやる気を損なう。もちろん、名目賃金を削減する場合に比べれば悪影響は少ない。しかし、3年連続して昇給をしないと、労働者の不満に火をつけることになるだろう。そうなると、生産性に悪影響が出てくる。

Q: 企業は2階層の賃金システムをつくることはできないのか? つまり、すでに雇用されている労働者に対しては昇給し、新規採用者の賃金は据え置くのである。
A: ある企業は、特に1980年代において、それを試みている。しかし、やる気の低下が台頭してくる。新規採用者は最初は満足する。しかし、数か月たつと賃金格差に対する不満があらわれてくる。

Q: ちょっと待った。労働者はCEOより賃金が少なくてもそれほど不満に思わないように思われるが?
A: それほど不満には思わない。彼らが不満に思うのは、たいていの場合、「同一階層内の賃金の平等」(internal horizontal pay equality)が達成されないときだ。同じ企業の2人の労働者が同じ仕事をしているのなら、人々はその2人の賃金はほぼ同じであることを期待する。そのような場合以外の賃金格差は、それが極端な差であったり、どちらかが急速に変化する場合を除けば労働者に容認される。

Q: 労働市場は本当にそれほど単層的なのか?
A: それに関しては大きな例外が存在する。「2次」(secondary)労働市場だ。パートタイムや季節労働やコンサルタントなどである。

Q: その2次労働市場は他の労働市場とどのように異なっているのか?
A: 2次労働市場では、労働者は賃金を比較できるほどお互いのことをよく知らない。さらに、これらの労働者は仕事に基づいて自尊心を評価しない。そのために彼らは賃金格差に気づいても、それほど不満を抱かない。

Q: それなら、名目賃金は2次労働市場では下がるのか?
A: 同一の仕事の同一の労働者に関しては下がらない。しかし、2次労働市場では、経営者はしばしば新規採用者の賃金をカットする。実際、経営者は、賃金が低い新規の労働者と取り換えるために長期勤務の賃金が高い労働者を退職させようとする。経営者は率直にそれを認めている。

Q: 労働者は名目賃金のカットという大きな可能性よりも、失業という小さなリスクを選ぶようである。でも後知恵で労働者の効用関数を想定することになっていないか?
A: 確かに雇用に直接関わっている人は誰でも、解雇(lay-off)が労働者にとって、経済的な点であれ他の点であれ、破壊的であると認めている。対照的に賃金カットは、せいぜい労働者のプライドを傷つけるにすぎない。しかし、そのために労働者は実質賃金よりも名目賃金のカットにより激しく抵抗するのである。

Q: あなたの態度はかなり家父長的である。そうではないか?(訳注 労働者を「合理的な」判断ができない人[=子供]と見なすことになる、ということだと思うが)
A: 経営者は労働者をしばしば子供と公言している。経営者は何か意図があってそうしていている、と思うが。(警告:ビューリーはおそらく控えめな表現にしようと思っているので、実際にはこのように言っていない。しかし、これは彼のデータと整合的である。)

Q: では、賃金カットによりやる気の低下が予期されるにもかかわらず、経営者が名目賃金のカットを決行したらどうなるのか?
A: 名目賃金のカットはめったに行われないので、その質問に確信をもって答えることは難しい。私は名目賃金カットを行った企業を探そうとした。そして、それには2つのパターンがあるとわかった。

Q: その2つとは?
A: 明白な財務難に陥っている企業にとって、労働者にその状況をはっきりと説明できる限りにおいて、賃金カットはうまくいく。それができないと、賃金カットは経営者の視点から見て失敗になる。

Q: 賃金カットはやる気の低下以外の問題をさらに引き起こすということか?
A: その通り。経営者はいちばん優秀な労働者が先に退職することを危惧する。対照的に解雇を行えば、優秀でない労働者を先に退職させることができる。(例外:労働組合がある企業は、通常、生産性ではなくて年齢に応じて解雇を行う。)

Q: ということは、賃金が高い労働者は、実は、生産性に比べて低い賃金を受け取っている、ということになるのか?
A: その通り。同一階層内での賃金の平等化が働くので、生産性の高い労働者の賃金は押し下げられ、生産性の低い労働者の賃金は増価(inflate)される。

Q: 私は混乱している。解雇も労働者のやる気を低下させるのではないか?
A: その通り。しかし、そのダメージは比較的短期的なものである。それに対して、賃金カットは不満を企業内に持ち込むことになる。解雇は不満を企業の外に追い出すことになる。

Q: それだけの単純な話なのか?
A: 違う。解雇は、それが長期化する場合だけ、あるいは労働者が苦境の後に希望が見いだせないとき(訳注 解雇がさらに続くと予想されるとき)だけ、やる気に悪影響を与える。しかし、解雇は大きな波のようなもので、残った労働者には仕事の確保が保証されるので、数週間、長くて数か月間、やる気の低下を引き起こすだけで終わる。また、多くの経営者は、解雇によるコスト削減で残った労働者の賃上げ分の財源を確保できるので、その取引を労働者にとって受け入れやすいものにできる!

Q: ということは、政府の介入ではなくて、人間の心理が失業の主要な原因なのか?
A: その仮定は強すぎる。低技能労働者(low-skilled workers)を雇用する経営者は、最低賃金や所得移転が失業の大きな原因になっているとしばしば主張する。しかし、高技能労働者にとって、そのような政府の政策は失業とは無関係である。

Q: 最後に、非自発的失業という苦境を終わらせるために必要なことは、人間の労働者をバルカン人と取り換えることなのか?(訳注 バルカン人、スタートレックに登場する異星人)

A: もしかするとそうかもしれない。私は意図的に、簡単に答えが出るミクロ的問題に焦点を当てるために、そのようなハイレベルのマクロ経済的問題を避けている。しかし、私が集めた証拠は、世界の労働者がより成長した態度を持つようになれば非自発的失業が消える、ということを否定するものではないだろう。




アメリカで政治的に使われた用語を非政治化することで経済学を学問として自立させることが

出来ると日本の学者は信じているようだがそれは幻想だ 

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Q: ということは、政府の介入ではなくて、人間の心理が失業の主要な原因なのか?

A: その仮定は強すぎる。低技能労働者(low-skilled workers)を雇用する経営者は、最低賃金や所得移転が失業の大きな原因になっているとしばしば主張する。しかし、高技能労働者にとって、そのような政府の政策は失業とは無関係である。

Q: 最後に、非自発的失業という苦境を終わらせるために必要なことは、人間の労働者をバルカン人と取り換えることなのか?(訳注 バルカン人、スタートレックに登場する異星人)
A: もしかするとそうかもしれない。私は意図的に、簡単に答えが出るミクロ的問題に焦点を当てるために、そのようなハイレベルのマクロ経済的問題を避けている。しかし、私が集めた証拠は、世界の労働者がより成長した態度を持つようになれば非自発的失業が消える、ということを否定するものではないだろう。

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