図 2 は、この場合の金利と産出量の同時決定を示したものだ。IS 曲線は、いま示したとおり、産出が消費需要によってどう決まるか示す。これは金利があがると減少する。一方、名目金利がプラスなら、現金払いの制約がきいてくるから、MM 曲線が出てくる。
y = M/P
(3の位置が違う)
i M
| I |
| o |
| |
| o|
| |1
| ⚫︎
| |o
|___|__⚫︎2__⚫︎3______ y
| | o o S
| |
M
こうなると、マネーサプライをふやせば産出も増える。ただしこれにも限度はあって、増えても点 2 までしかいかない。でも、生産容量が点 3 みたいなところにあったら? すると前節と同じ議論がなりたつ。名目金利はマイナスにはなれないから、それ以上のマネー増加は単に債券になって、支出にはまったく影響しない。だから公開市場での売買は、どれだけ派手にやっても経済を完全雇用にはもっていけない。一言で、この経済は古典的な流動性トラップにはまったわけだ。
(こちらの図の方がLM曲線を描き足しているのでわかりやすい)
1. 実質金利と流動性トラップ
ヒックスがもともと、1937年に提出した形の IS-LM モデルからはじめよう。貯蓄と投資を図にする。ヒックスが指摘したように、「古典的」な金利の理論だと、金利というのは貯蓄したい額と投資したい額が等しくなるように決まる。これを示したのが次の Figure 1だ。
でも、経済がキャパいっぱいで生産しないという可能性を考えてみれば、貯蓄も投資も、実質金利だけじゃなくて、実質所得の水準にも左右されるのの気がつくだろう――だから貯蓄は S(r,y) と書かれて、投資は I(r,y) と書かれることになる。だからといって、 Figure 1 がまちがっているわけじゃない。ただ、Figure 1 の示す均衡実質金利は、実質の産出がある一定水準にあるときだけ成り立つ、ということだ。実質の産出が増えると、その任意の金利水準で、おそらく貯蓄と投資が両方増えるだろう。でも、ここでの伝統的な仮定としては、貯蓄のほうがたくさん増えて、実質の金利は下がることになる。実質の産出水準の可能性を一通り考えてみると、出てくるのは Figure 2 に示すような IS スケジュールだ。この図は以下の式で決まってくる。
S(r,y) = I(r,y)
一方でもちろん、マネー市場もはけなきゃならない。伝統的な方程式は単純至極で以下の通り。
M/P = L(y, i)
ここでi は名目金利、つまり実質金利に期待インフレ率を足したものだ。ここで示唆されている LM 曲線を描くには、期待インフレ率を指定する必要がある。Figure 2 は、期待インフレがゼロだという仮定で描いてある。
マネー需要について細かいことを指定しなくても、LM 曲線がゼロ以下にいけないのは明らかだ。マイナスの名目金利にしたら、価値をたくわえておくのにだれも債券なんか使わず、現金に頼るようになるだけだからだ。したがって、 LM 曲線が「ふつうの」範囲だとどういう形かはさておき、全体でみれば、だいたい上の図に描いたような形になっているはずだ。左側のところは、ゼロにすごく近いところで平らになるわけだ。そして IS 曲線がたまたまこの平らなところで交差するようなら、この経済は流動性トラップにはまっている。金利はゼロという定数にぴったりはりついていて、金融拡大ではそれを下げられない。
これはすべて、いちばん基本的な教科書通りの代物。でも上の Figure 2 には普通の教科書よりちょっとよけいなものを足してある。「完全雇用」での産出水準 yf を示して、IS曲線を実質金利ゼロの先までのばしてあることだ。これはヒックスの説明をもっと完全にしたものなんだけれど、ここからすぐに明らかになるのは、もし経済が流動性トラップにはまっているなら、たとえ実質金利がゼロでも、完全雇用のときに貯蓄は投資を上回ってしまうと言うことだ。式で書けば次のとおり。
S(0, yf ) > I(0, yf )
JAPAN: Still Trapped (Japanese)
http://cruel.org/krugman/japtrap2j.html
上図は、『図解 使えるマクロ経済学』より
ちなみに『図解 使えるマクロ経済学』が参考文献にあげていた『ゾンビ経済学』。
これは2008年のリーマンショックを解説した本の中で一番いい。
第3章のDSGE批判は必読。
理論的解説は松尾匤のHPに負けるが、大枠の解説ではこちらに説得力がある。
多分オーストラリア人だからアメリカを客観視できたのだろう。
注24でリーマンショックのスケープゴートに地域再投資法(CRA)がされていたと
初めて知った。むしろ金融危機後はCRAが必要になるだろう。
足で稼ぐ地域金融がすべてだ。
ただトリクルダウンや民営化を批判した章は良くない。
トリクルダウンの提唱者ハーシュマンの名前がない。これでは理論的に対抗出来ない。
民営化についてもサカーの経済理論のような対案がない。
結局ミクロとマクロ、両方必要という結論に読めてしまう。
ちなみにゾンビ経済学とアニマルスピリットが対立概念になる。
労働の限界生産物
(一人当たり,
ブッシェル(例) )
|
生|
産|\
物| \
| \ 労働の収穫
| \ 逓減がある
| \
| \
| \
0|_______\____
労働投入量(人数)
労働の限界生産物曲線は労働者1人ひとりの限界生産物,
つまり各労働者を追加したときに生じる生産量の増加分
を描いたものだ.縦軸には生產量の変化,横軸には労働
投入量(人数)をとってぃる,1人目の労働者は生産量を
19ブッシェルだけ増やす.2人目は17ブッシェルだけ増
やすというふうに続く.収穫逓減があるために,この曲
線は右下がりになっている.
(クルーグマン『ミクロ経済学』邦訳2087年218頁より)
ベビーシッター協同組合
『世界大不況からの脱出』23頁参照
および、
まず、この協同組合ではメンバーたちが、自分たちのシステムに不要な部分があるのに気がついたとしよう。ときにはあるカップルが、何日か続けて外出したいこともあるだろう。そうなると手持ちのクーポンが足りなくなる――そうなると、子守りをしてもらえない。あとで埋め合わせにいくらでも子守りをする気があるのに。この問題を解決するために、この協同組合では、メンバーの必要に応じて、本部から追加クーポンを借りられるようにした。そしてその分は、後日子守りをすることで埋め合わせる。でも、この権利をメンバーが濫用すると困るから、本部としては何らかのペナルティをつける必要があるだろう――借り手は、返す時には多少上乗せして返さなきゃいけない、という具合に。
この新しい方式のもとだと、カップルたちは手持ちのクーポン量は以前より減らすだろう。必要なら借りられるんだからね。でも協同組合の管理者たちは、これで新しい管理ツールを手に入れたことになる。もしメンバーから、子守りをしたい人は多くて、子守りの機会が少なくなってますよという報告が入ったら、メンバーがクーポンを借りる条件は緩くなるだろう(つまり上乗せ分が減るだろう)。するとみんなもっと出かけるようになる。もし子守りが不足気味なら、条件をきつくすればいい。みんな外出を控えるようになる。 言い換えると、このもっと高度な協同組合には中央銀行ができて、停滞した経済を金利の切り下げで刺激したり、加熱した経済を金利引き上げで冷やしたりできるってことだ。
でも日本の場合はどうだろう――金利がほとんどゼロまで下がっても、経済がまだ停滞してるじゃないか。子守り協同組合のたとえ話も、ついに扱いきれないような状況が登場したんだろうか?
「さっさと不況を終わらせろ」 早川書房 クルーグマン著 所収
http://fu-rai-bo.blogspot.jp/2013/06/blog-post.html
・・・・・・・・・・・・・・・
オークンの法則:
――クルーグマン論文からの引用
http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/Readings/krugokun.html
アメリカでは、産出ギャップはふつうは、自然失業率と、失業の変化と実質GDPの変化との関係を示したオークンの法則係数推定を組み合わせることで推定される。日本の計測された失業率は、伝統的にアメリカの失業率よりずっと小さな動きしか見せなかったけれど、1981-91の期間には、実は驚くほどぴったりしたオークンの法則関係が成立している(図4)。この見かけの関係の傾きは、アメリカのものの3倍だ。失業率を1%下げるには、余剰成長が6%上がらなくてはならないということになる。もし停滞期以前の平均2.5%という失業率を、自然失業率の推定値として採用するなら、1997年の3.4%失業は、1997年の産出ギャップが5%以上あったということだ――そして潜在産出がたぶんいまも増大していて、実際の産出が停滞しているのだから、1998年末のギャップはたぶん10%にも達しているかもしれない。
図4:日本のオークンの法則
『クルーグマン教授の〈ニッポン〉経済入門』69-70頁
オークンの法則 (Okun's law) とは、上のグラフのように、実質GDPの変化 (実質GDP成長率) と失業率の変化のあいだには統計的に直線で近似される関係が観測されるという経験則のことである。
上のグラフを見ると、 1981-1991年においては、実質GDP成長率が4%を切ると失業率が増加し始め、 4%を超えると失業率が減少し始めるという関係があったことがわかる。実質GDP成長率がたとえプラスの値だったとしても、その値が小さ過ぎると失業率が増加してしまうことになる。
1990年代に日本の失業率はほぼ単調に増加した。 1995年度と1996年度の日本の実質GDP成長率は、「失われた10年」のあいだであったにもかかわらず、それぞれ2.5%と3.5%という比較的高い値であった。しかし、失業率は減少しなかった。 2000年 (歴年) の日本の実質GDP成長率も2.4%と比較的高い値であったにもかかわらず、やはり失業率は減少しなかった。
以上の事実から、日本の実質GDPの潜在成長率は少なくとも3%近くはありそうだと推測できる。
もしも潜在成長率が1%台ならば、 1995年度と1996年度にかけておよび2000年 (歴年) には失業率を減少させることなく経済成長を実現することはできなかったはずである。
ーーー
オークンの法則 - Wikipedia
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
経済学において、オークンの法則(Okun's law)とは、一国の産出量と失業の間に経験的に観測される安定的な負の相関関係のことである。この法則の「乖離形式」(gap version)は、一国の国内総生産(GDP)が潜在産出量より1%小さくなる度に失業率が約0.55%上昇することを述べる(米国の場合)。「差分形式」(difference version)は、実質GDP成長率と失業率の差分の間における関係を表す。この法則の正確さは議論の的になっている。法則の名前は、1962年にこの関係を提案した経済学者アーサー・オーカン(en:Arthur Okun)にちなむ。
図:日本のオークンの法則(略図)
0.4| ̄-_
失 0.3|  ̄-_
業 0.2|  ̄-_
率 0.1|  ̄-_
の 0|____________ ̄-_____________
変-0.1|2 3 4  ̄-_ 5 6
化-0.2|  ̄-_
-0.3|  ̄-_
-0.4|  ̄-_
実質GDP成長率(%)
オークンの法則:
――クルーグマン論文からの引用
http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/Readings/krugokun.html
アメリカでは、産出ギャップはふつうは、自然失業率と、失業の変化と実質GDPの変化との関係を示したオークンの法則係数推定を組み合わせることで推定される。日本の計測された失業率は、伝統的にアメリカの失業率よりずっと小さな動きしか見せなかったけれど、1981-91の期間には、実は驚くほどぴったりしたオークンの法則関係が成立している(図)。この見かけの関係の傾きは、アメリカのものの3倍だ。失業率を1%下げるには、余剰成長が6%上がらなくてはならないということになる。もし停滞期以前の平均2.5%という失業率を、自然失業率の推定値として採用するなら、1997年の3.4%失業は、1997年の産出ギャップが5%以上あったということだ――そして潜在産出がたぶんいまも増大していて、実際の産出が停滞しているのだから、1998年末のギャップはたぶん10%にも達しているかもしれない。
『クルーグマン教授の〈ニッポン〉経済入門』69-70頁
//////
クルーグマンの経歴に関しては、
|
04| ̄-_
03|  ̄-_
02|  ̄-_
01|  ̄-_
0|____________ ̄-_____________
-01|  ̄-_
-02|  ̄-_
-03|  ̄-_
-04|  ̄-_
|
| ̄-_
|  ̄-_
|  ̄-_
|  ̄-_
|  ̄-_
|_______________ ̄-__________
|  ̄-_
|  ̄-_
|  ̄-_
|  ̄-_
0.4| ̄-_
失 0.3|  ̄-_
業 0.2|  ̄-_
率 0.1|  ̄-_ 4.5
の 0|____________ ̄-_____________
変-0.1|2 2.5 3 3.5 4  ̄-_ 5 5.5 6 6.5
化-0.2|  ̄-_
-0.3|  ̄-_
-0.4|  ̄-_
実質GDP成長率(%)
///////
オーカンという表記もある。オークンの法則で有名、というか実質的にこれしか知られていない。ジャージー・シティ生まれ、コロンビア大学に入ってそのまま博士号を取得した後にイェール大で教鞭をとり、後にケネディ政権下の Council of Economic Advisors で活躍している。著作を見ても経済予測や政策と経済の関係など、理論よりは政策よりのものが多く、理論家というよりは政策エコノミストに近いかもしれない。
実質GDPの変化 (実質 GDP 成長率) と失業率の変化のあいだには統計的に直線で近似される関係が観測されるという経験則である。かれがこれを発見したのは 1960 年代初期で、失業率が1%下がると実質GNPが 3% ほど上がる、という関係がアメリカ経済では見られていた。また現在の日本では、失業率が 1% 下がると GDP 成長は 6% になるという関係が見られている。
この法則はすばらしくよく成立していて、同僚トービンをして「マクロ経済で最も信頼のおける経験則の一つ」と言わしめたものではあるけれど、なぜそうなるのか、という因果関係の説明はまったくない。オークンがデータを見ていて発見した関係でしかない。オークン在籍中の CEA は、このデータを使って失業率を下げるメリットがいかに大きいかを大統領に納得させ、これがケネディ政権の大幅な減税策につながっている。
またかれは、社会の経済格差の是正も重大事項と考えており、その手段として累進課税の強化を訴えていた。
アーサー・オークンの主要著作
- "A Review of Some Economic Forecasts for 1955-57", 1959, Econometrica
- "On the Appraisal of Cyclical Turning Point Predictors", 1960, Journal of Business
- "The Value of Anticipations Data in Forecasting National Product", 1960, in Quality and Economic Significance of Anticipations Data
- "Potential GNP: Its measurement and significance", 1962, Proceedings of ASA
- "Comment on Friedman's and Schwartz's Money and Business Cycles", 1963, REStat
- "Investment Demand at Full Employment", 1963, Proceedings of ASA
- Monetary Policy, Debt Management and Interest Rates: A Quantitative Appraisal", 1963, in Stabilization Policies
- The Political Economy of Prosperity, 1970.
- "Upward Mobility in a High-Pressure Economy", 1973, BPEA
- "Inflation: Its mechanics and welfare costs", 1975, BPEA
- Equality and Efficiency: the Big Tradeoff , 1975.
- "Efficient Disinflationary Policies", 1978, AER
- "Rational Expectations with Misperceptions as a Theory of the Business Cycle", 1980, JMCB
- Prices and Quantities: A macroeconomic analysis. 1981.
- Economics for Policymaking: Selected Essays, 1983
アーサー・オークンに関するリソース
The long run is a misleading guide to current affairs. In the long run we are all dead.
John Maynard Keynes
(意訳) 「長期的」という考えは、現在起きていること に関しては、誤っている。 「長期的」に見れば、我々は皆死んでいる。
ケインズ
貨幣改革論 お金の改革論
…長期的というのは、目下の現象の指針としては誤解を招きやすい。長期的には、われわれみんな死んでいる。
_____
krugman AP
邦訳はマクロ187頁(7:1)、数値付きは213頁
図7-1拡張された経済循環フロー図:経済全体の貨幣のフロー(流れ)
政府
家計
財・サービス市場 要素市場 金融市場
企業
外国
資金の循環フローは,家計,企業、政府,外国という4つの経済部門を,要素市場,財·サービスの市場、金融市場という3種類の市場を
通じてつないでいる,企業から家計ヘは,要素市場を通じて,賃金,利潤,利子,賃貸料などのかたちで資金が流れる,政府に税金を支払
い,政府移転支出を受け取った後,家計は残った所得である可処分所得を民間貯蓄と消費支出に振り分ける,民間貯蓄と外国からの資金は,
金融市場を通じて,企業の投資支出,政府借入,外国借入や外国貸付,外国との株取引ヘと向かう,次に、財·サービス購入の対価として
政府や家計から企業ヘ資金が流れる,最後に,外国ヘの輸出は資金流入をもたらし,外国からの輸入は資金流出をもたらすー財·サービス
への消費支出,企業の投資支出,財·サービスの政府購入,それに輸出を合計して輸入額を差し引くと,その資金フローの総額はアメリカ
で生産された最終財·サービスヘの総支出額に等しくなる,同じく,それはアメリカで生産されたすべての最終財·サービスの価値,つま
り国内総生産に等しい.
___
☆クルーグマン、ミクロ388頁(39頁#2に基本図)
VMPL限界生産物価値
小麦とコーンしかない社会を仮定
上昇(インフレ)貨幣優勢→ 利 子 率 ←財優勢(デフレ)下降
輸入
財の需要 財・サービス 財の供給
お金の流れ------→D市場S←---------
|支出 均衡点E_\/ 販売された財・|
(=GDP) /\ サービス|
| -------←S D→------- |
| |購入された | ↑ 収入| |
| |財・サービス 消費税|補助金 (=GDP) |
| | |政府購入 産出| |
| | ←生活保護-- || | |輸出
| |(←短期国債-→)||(---助成金→ | |
\ / ---所得税→【政府】←保険・法人税)\ /
【家\計】 公的貯蓄||政府赤字 【企\業】
/ \ ←利子・貸付け ↓ |(----融資→ / \
| | -預金・利息→【銀行】←利息・取付け)| |
| | 金融 | |
| | --民間貯蓄→ 市場 →投資 ↑ | |
| | 生産へ| |
| (GDP=)所得 生産要素 の投入| |
| -------←D市場S→------- |
| E_\/均衡点 賃金・地代|
|労働・土地・資本 /\ ・利潤(=GDP)
---------→S D←---------
労働の供給 労働の需要
上の図の中央は十字であるべき。つまり政府から雇用関係の助成金がもっとなければならない。
あと、足を使った地域金融を活性化させる地域再投資法(CRA)が必要だ。
ポール・クルーグマン 「さっさと不況を終わらせろ」
http://fu-rai-bo.blogspot.jp/2013/06/blog-post.html
…クルーグマンの出した「子守り協同組合」のアナロジーは、社会経済構造の
要点を的確に説明しており面白い。社会全体の心理が悪化すると需要が不足するのである。:
若い議会職員(約150組)が、ベビーシッター代を節約するために、交代でお互いの子供の
面倒を見る仕組みを作ったのである。互いが公平に子守を受け持つように、クーポン制にして
あった。子守をしてもらうときにクーポンを相手に渡し、自分が子守をするとクーポンを受け
取る、そして、初めに受け取るクーポン数を脱退するときに返すのである。ところが、クーポ
ン制にしたせいで、手持ちのクーポン数を気にするようになった。いざという用事にクーポン
を取っておきたいために、それまでであれば頼んでいた子守の依頼を控えるようになったの
である。皆が子守の依頼を控えることで、クーポンが回転しなくなり、手持ちのクーポン数
が少ない者は一層子守の依頼を控えるようになった。こうして、子守協同組合が機能しなく
なったのである。この子守協同組合は、クーポンを増刷して増やすことで、参加者の心理を
変化させ需要が出るようにしたところ見事に改善した。
これはつまり以下のわかりやすい特徴を説明している。
あなたの支出はぼくの収入であり、ぼくの支出はあなたの収入になる
参照:
「さっさと不況を終わらせろ」 早川書房 クルーグマン著 山形浩生訳
ベビーシッター協同組合『世界大不況からの脱出』23頁
および、
Baby-Sitting The Economy ( 経済を子守りしてみると)日本語訳
Paul Krugman 著,1998 年 8 月13日 Slate 掲載 (2008年以降見直された短文)
http://cruel.org/krugman/babysitj.html
[クルーグマン]
http://tfje.seesaa.net/article/231806419.html
『クルーグマン ミクロ経済学』: 2007(原著2006)
「何よりも必要なのは、意味に言葉を選ばせることだ。その逆ではない。」
(ジョージ・オーウェル「政治と英語」1946年)はしがき冒頭より
目次は次の通りで、需要と供給の話から始まって、完全競争→独占→寡占と続き、国際経済学/ゲーム理論/公共政策入門までをフォローする。後述のスティグリッツと同じく、Economics(2006)が邦訳される段階でミクロとマクロに分冊化された(ミクロ・マクロ分割案はケインズ一般理論第21章から)。クルーグマンは2008年ノーベル経済学賞受賞。
参考:
____
d.hatena.ne.jp/Hicksian/20060417/1145282710
詳しい内容は後ほど追記するかもしれないけれども、同教授の“開放経済下における 名目金利の非負制約:流動性の罠を脱出する確実な方法(pdf)”(IMES Discussion Paper J-Series,2001-J-6;『ポスト・バブルの金融政策』にも所収)と内容的には それほど変わらないので(簡略版といったところか)、そちらをお読みください。ってとっく の昔に読んでますかそうですか。ポール・クルーグマン著/山形浩生訳『クルーグマン教授 の<ニッポン>経済入門』にも(一部)訳出されて・・・って知ってますかそうですか。
blog.livedoor.jp/sowerberry/archives/21848737.html
クルーグマン教授の<ニッポン>経済入門 クルーグマンが日本の「流動性の罠」を指摘 した重要な論文やエッセイを収めた重要な本。流動性の罠について知りたいなら、これを 読まなきゃ始まらない。 一般の読者を想定していない論文もあり、難しいところもある けど、山形浩生氏.
www.dir.co.jp/library/column/091217.html
1998年に日本にインフレ目標導入を勧め、論争に火を点けたクルーグマンが最も効果 的と認めるのが、現在スウェーデンの中央銀行の副総裁を務めるスヴェンソンが提唱 した“foolproof way”(FPW)である。物価が目標水準に上昇するまで、自国の物価が 他国よりも明らかに割安になる水準に為替レートを減価・固定する。スヴェンソンは今年 の講演で、かつて日本のリフレ派の大半が勧めていた量的緩和の効果は乏しいと総括 している(※2)。マネーの量を増やすだけでは駄目で、マネーの価値を目に ...
まず、日本が流動性の罠にあることを指摘したのはクルーグマン(1998)ですが、これを DSGEのニューケインジアンモデルで精緻化したのがエガートソンとウッドフォードです。 ... ズベンソン等によるJeanne and Svensson「流動性の罠からの脱却のための信認 ある確約」AER 2007は中央銀行が自身のバランスシートの毀損を忌避する傾向に注目 して、為替介入によるリフレーション(Svensson 「流動性の罠とデフレーションからの 脱出:The Foolproof Way他」2003参照)が時間整合性の問題を回避できると論じてい ます。
ここはリフレーションに関連する海外の記事や論文を日本語に翻訳し紹介することを目的としています。リフレーションへの理解を深めるために様々な活動がなされており、すでにかなりの分量の翻訳があちこちに蓄積されています。これらを一カ所にまとめて置くことで、利用価値をさらに高めたいと思います。
リフレーションに関係する記事を翻訳された方は自由に投稿して下さい。ただし、ページタイトルの付け方のルールは「著者名 タイトル 発行者 発行年」でお願いします。
ご案内
現在の日本のおかれている状況は1991年の金融引締めによる資産価格(地価・株価)の大幅な下落を第一段階とし、1997年の消費税増税を直接のトリガーとする金融危機の第二段階、そしてやっと回復してきた2008年のサブプライムローンからの金融危機の第三段階による断続的な負のショックとマクロ経済政策の失敗の結果だと思われます。
第二の大恐慌を救ったバーナンキのFRB
金融危機
まず、事態を正確に理解するためには金融危機一般についての理解を深めることが大切であると思います。金融論の第一人者であるフランクリン・アレンとダグラス・ゲールによる金融危機を理解するが金融危機の歴史を簡単に振り返るのによいでしょう。また、クルーグマンによる次世代の通貨危機は通貨危機の理論を金融危機に応用したモデルを提示しています。これはDSGE(動学確率的一般均衡モデル)を使った最近のマクロ経済学の流れとは違うものですが、DSGEが経済を理解する唯一の手段というわけでもないでしょう。
今後もこのような金融危機に関する論文や論説などを増やしていきたいと思います。
流動性の罠
短期名目金利がゼロになっている状態を「流動性の罠」といいます。この定義に従えば、今の日本は流動性の罠に陥っています。ここから脱却するためにはどのような政策が有効なのでしょうか。まず、日本が流動性の罠にあることを指摘したのはクルーグマン(1998)ですが、これをDSGEのニューケインジアンモデルで精緻化したのがエガートソンとウッドフォードです。エガートソン自身によるサーベイが、まず参考になるでしょう。流動性の罠には二つの大きな流れがあり、一つはエガートソン&ウッドフォードで、もう一つはベンハビブ他による流動性の罠の回避です。この論文の考え方は、流動性の罠と正常な状態の二つの均衡があるという複数均衡のモデルです。
財政政策と金融政策の協調
流動性の罠を抜け出すためには、金融政策だけで十分という主張と、財政政策との組み合わせで抜けるという主張があります。前者の場合は「時間的非整合性」が問題とされます。後者の場合には政策の協調が重要になります。後者の場合の政策の効果について論じたのがエガートソンの財政乗数と政策協調です。
為替介入によるリフレーションと時間整合性問題の回避
IMF、FRB、BOEなどの海外機関の発表資料
理論的な研究の蓄積は急務ですが、今そこにある危機には、今あるツールで対応するしかありません。実際に政策を担当している各国の中央銀行や、中央銀行に様々なアドバイスをするIMFから提示される資料は示唆に富んでいます。例えばイングランド銀行の解説!量的緩和はインフレ目標を達成するためのイングランド銀行の信念が表れているパンフレットです。IMFの公式見解ではないものの、ブランシャール他によるレポートマクロ経済政策の再考は各所で話題になったように、これまでの経済政策を振り返り、これからの経済政策がどのようなものであるべきかを表明したものになっています。一つの指針を与えてくれるでしょう。クリーブランド連銀によるゼロ金利近傍での金融政策のあり方も参考になるでしょう。
その他
- 短期名目金利がゼロの状況においては国債と貨幣が完全な代替物になる点に着目して、国債発行を通じて財務省が金融政策を行えるという主張がAndy Harlessによる財務省の金融政策です。
- 日本では岩本康志「デフレの罠」脱却のための財政金融政策のシナリオがデフレ脱却のための「利上げ+減税」を提案しています。「利上げ」という海外の論文には見られないオプションが特徴である。同様の主張を斎藤誠氏が「経済セミナー」2003年2月号で展開しています。
- これまであちこちのブログで翻訳されてきた海外記事の蓄積は田中秀臣氏がまとめてくれているのでそちらを参照あれ。これらの中でも特に、himaginary氏、svnseeds氏、hicksian氏、okemos氏の活動には頭が下がります。そしてなにより山形氏の一連のクルーグマン論文の翻訳に感謝です。日本のブログ力:経済問題(翻訳篇)ベスト100+α
- デフレから一気にハイパーインフレになるとご心配な向きはクルーグマンのブログスタグフレーションvsハイパーインフレーションのoptical_frog氏による訳またはhicksian氏による訳をご覧あれ。
文書一覧