月曜日, 2月 15, 2016

スヴェンソンのフールプルーフウェイ(流動性の罠を脱出する確実な方法)


 ラルス・スヴェンソン(Lars E. O. Svensson)プリンストン大学教授は、2001年に 「流動性の罠を脱出する確実な方法(the foolproof way, FPW)」と彼が呼んでいる、為替レートの波及経路を伴う密接に関係した提案をした。

http://www.nber.org/papers/w10195.pdf
ESCAPING FROM A LIQUIDITY TRAP AND DEFLATION: 
THE FOOLPROOF WAY AND OTHERS 
Lars E.O. Svensson Working Paper 2001

彼は、マーケットの(将来の名目為替レートに関する)期待に対してもっと直接的なかたちで働きかけるための方法として、名目為替レートを現在マーケットで成立している水準よりも割安な(減価した)水準で固定させたらどうか、と提案している。

以下、

Krugman and Obstfeld 「流動性の罠から抜け出すための一方策~スヴェンソンのFoolproof Way~(1)」

 http://voxwatcher.blogspot.jp/2010/11/krugman-and-obstfeld-foolproof-way1.html より

経済が流動性の罠に陥って停滞している状況下において中央銀行が直面することになるジレンマは、国内の名目利子率(R とおく)がゼロ%である場合(R = 0)の金利平価条件を検討することにより明らかとなる(訳注2)。


R = 0 = R* + (Ee - E)/ E

こ こしばらくの間、将来の期待名目為替レート(Ee)は不変である(所与)と想定することにしよう。ここで、中央銀行が、一時的に為替レートを減価させるこ とを意図して国内のマネーサプライを増加させたとしよう(つまり、現時点において E は上昇するが、その後しばらくして Ee の水準にまで下落する)。金利平価条件によれば、一度 R = 0 となれば E はこれ以上上昇し得ない(為替はこれ以上減価し得ない)ことがわかる。 E の上昇を実現するためには国内の名目利子率 R がマイナスにならなければならないからである。 R=0 が成り立っている状況では、マネーサプライの増加にもかかわらず、名目為替レートは以下の水準


E = Ee /(1 - R*)

に止まり続けることになるだろう。名目為替レート E はこの水準を超えて上昇し得ない(減価し得ない)わけである。

ど ういった次第でこのような結論になるのだろうか? マネーサプライを一時的に増加させれば名目利子率が下落する(ならびに名目為替レートも減価する)とい う通常の議論は、人々は(投資対象として)債券が貨幣と比べて魅力的でなくなる場合に限って自身のポートフォリオ上における貨幣の保有を増やすようにな る、との前提に基づいている。しかしながら、利子率がゼロ%(R=0)であるような状況では、人々は貨幣を保有するか債券を保有するかに関して無差別とな るかもしれない-貨幣の保有からも債券の保有からも同じ水準の利回り、つまりはゼロ%の利回りが得られることになる。このような状況で、中央銀行が買いオ ペレーションを通じて貨幣と引き換えに債券を購入しても市場が撹乱されることはないだろう。債券を手放して新たに貨幣を手にした人々は、増えた貨幣をその ままポートフォリオ上に保有することで満足し、そのために利子率は変化せず、それゆえ為替レートも変化することはないだろうからである。先の章で検討した ケースとは反対に、(国内の名目利子率がゼロ%である状況においては)マネーサプライの増加は経済に対して何らの影響をも及ぼさないだろうことが予想され るわけである。市中に債券を売却(売りオペレーション)してマネーサプライを段階的に減少させれば最終的に名目利子率が上昇することになるだろうが-経済 は幾ばくかの貨幣なしには機能しえないのである-、この可能性(=マネーサプライを縮小させ続ける結果として名目利子率が上昇する可能性)は、経済が停滞 している状況においてはもちろん助けとなるものではない。

(続く;その(2)へ)


<注>
(訳注1) 債券市場が超過供給状態になれば、債券価格に下落圧力が働くことになる。債券価格の下落=債券利回り(=利子率)の上昇を意味しており、名目利子率はゼロ%以下の(マイナスの)水準から正の水準に向けて上昇することになるだろう 。

(訳 注2)  R* は外国の名目利子率、E は自国通貨建ての名目為替レート(対ドル為替レートを考えれば、例えば「1ドル=80円」との表示方法が採用されることになる。よって、E の値が上昇すれば円安(減価)を、E の値が下落すれば円高(増価)を、意味することになる)、をそれぞれ表している。  

続き:
 
Krugman and Obstfeld 「流動性の罠から抜け出すための一方策~スヴェンソンのFoolproof Way~(2)」より
http://voxwatcher.blogspot.jp/2010/11/krugman-and-obstfeld-foolproof-way2.html

Krugman and Obstfeld 「流動性の罠から抜け出すための一方策~スヴェンソンのFoolproof Way~(2)」

Paul Krugman and Maurice Obstfeld, “Fixing the Exchange Rate to Escape from a Liquidity Trap(pdf)”(in 『International Economics: Theory and Policy(8th)
Figure 1 は、経済が流動性の罠に陥る可能性を考慮した場合にAA-DD図(訳注1)がどのように修正されることになるかを示したものである。DD曲線は先の章と同様の形状をとるが、AA曲線はAA1曲線のように低水準の生産量の範囲において水平な形状をとることになる。AA曲線の水平部分は、生産量が極めて低水準であることを反映して(それに伴い生産量=所得の増加関数である貨幣需要も小さくなる;訳者注)、貨幣市場の均衡をもたらす利子率がゼロ%(R=0)となる事実を表している。また、AA曲線の水平部分は、名目為替レートが Ee /(1 - R*)以上の水準に上昇し得ない(減価し得ない)ことも示している。 図にあるように、均衡点1においては、生産量は完全雇用を実現する生産量(Yf)以下の水準 Y1 にとどまることになる。 


ラルス・スヴェンソン(Lars E. O. Svensson)プリンストン大学教授は、日本経済のジャンプスタートを可能とするもっと確実な方法を提案している。彼は、マーケットの(将来の名目為替レートに関する)期待に対してもっと直接的なかたちで働きかけるための方法として、名目為替レートを現在マーケットで成立している水準よりも割安な(減価した)水準で固定させたらどうか、と提案している。このスヴェンソン提案の簡略化バージョンを図にしたものが Figure 2 である(原注2)。図に示されているように、名目為替レートを減価させた上で永続的に E0 の水準に固定すればAA曲線が AA1 から AA2 にシフトすることになり、その結果経済は即座に新たな均衡である点2―完全雇用を実現する生産水準―に向けて移動することになる。図によれば、均衡点2 は新たなAA曲線の右下がり部分に位置しているが、このことは点1から点2への移動に伴って名目利子率 R が上昇することを意味している。しかしながら、為替の減価によって世界の需要が日本製品に振り向けられることで結果として生産量は拡大することになる。新たな均衡において名目利子率が上昇するにもかかわらず、この政策は(為替の減価による純輸出の増加を通じて;訳者注)景気拡張的な効果を持つことになるわけである(原注3)。
果たして日本においてこの政策提案が実際に採用される見込みはあるだろうか? この政策が採用されない場合に待っている事態は、(スヴェンソン提案他によって実現する名目為替レートの減価と同等の程度の)実質為替レートの減価をもたらすことになる長期にわたるデフレーションということになるであろう。日本が抱える問題は経済的な問題であると同時に政治的な問題でもあるように見受けられる。そういうわけで、日本経済が、どのようなかたちで、そしていつの時点で、現下の流動性の罠から抜け出すことになるかを予測することは困難である。


ゼロ金利制約に関する誤解 マッカラム
http://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/kk25-4-3.pdf

要 旨
本稿は、ゼロ金利制約に関する以下の5つの命題について再検討し、これらの命題はみな誤りであると主張する。(i)ゼロ金利制約下では、「将来の金利経路に関する期待に働きかけることが中央銀行の有する唯一の手段である」(Bernanke, et al.[2004])。(ii)理論的にいって、「ヘリコプター・ドロップ」のような財政政策のほうが金融政策よりも効果的である。(iii)有名な「流動性の罠を脱出する確実な方法(Foolproof way)」(Svensson[2001, 2003])の政策ルールのほうが、代替的な為替政策ルール(McCallum[2000])に比べアンカバーの金利平価が厳密に成立している場合でも適用できる分、一般性が高い。(iv)上記(iii)にあるような為替政策はともに「近隣窮乏化」政策であるとの反対を受ける余地がある。(v)「流動性の罠」型と異なり、「デフレの罠」型の均衡には、ゼロ金利制約に伴う重大な危険がある。

Svensson[2001]は、「流動性の罠を脱出する確実な方法(the foolproof way, FPW)」と彼が呼んでいる、為替レートの波及経路を伴う密接に関係した提案をした。43頁

http://www.nber.org/papers/w10195.pdf
ESCAPING FROM A LIQUIDITY TRAP AND DEFLATION: THE FOOLPROOF WAY AND OTHERS Lars E.O. Svensson Working Paper 10195 http://www.nber.org/papers/w10195

【講演】白井審議委員「チャレンジングな経済環境下での我が国の金融政策」(イタリア中銀、ユーロアジア・ビジネス経済学会) :日本銀行 Bank of Japan
https://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/ko130116a.htm/
第四に、今申し上げたことに関連していますが、日本銀行もフレキシブル・インフレ・ターゲティングを採用している国も、金融政策運営においてはともに「実際のインフレにもとづくアプローチ」ではなく、「インフレ・フォーキャスト(インフレ予測)・アプローチ」を採用しています。Svensson博士によれば、これは「現在」のインフレが、本質的には(1)企業や家計が過去に意志決定をした経済行動、(2)過去に取り決めた賃金契約、(3)様々なショックやその他の要因(たとえば消費税等)によって影響を受けているため、金融政策をもってしても中央銀行は「現在」のインフレに対して「不完全に」しかコントロールできないということを意味しているからです(Svensson 1996)16。さらに、金融政策がインフレに影響を及ぼすまでには、経済状況にもよりますが通常は1.5~2年の「ラグ」を伴いますので、市場と国民がそうした金融政策をモニターし評価を下すにはそれだけ先にならないと適切に実施できない面があります。
これらの理由から、Svensson博士は中央銀行が影響力を行使できるのは「現在」のインフレではなく、「将来」のインフレ、つまりインフレ「予測」だけである、と説明しています。このことから、インフレ「予測」はインフレ「目標」(ないしは目途)の達成に向けた「中間目標」(intermediate target)と位置づけられます。重要なポイントは、この「予測」を段階的に「目標」に近づけていけるように金融政策を運営することにあります。この観点から、日本銀行の時間軸に関する表現、すなわち「物価上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、・・・強力な金融緩和を推進する」のなかの「見通せるようになるまで」という表現は、まさにインフレ予測アプローチに根差していると言えるわけです。こうしたアプローチは採用国だけでなく、FRBを含む主要諸国の中央銀行で一般的に用いられています。しかし、この「見通せるようになるまで」という表現に対して、受け身的なニュアンスがあり、日本銀行が1%の目途を達成しようとする強い意志が感じられないとの意見も耳にします。したがいまして、どのようにして日本銀行の趣旨が正しく伝えられるかは、今後さらに検討を続けていく必要があると思っています。
16Svensson, Lars E. O., "Inflation Forecast Targeting: Implementing and Monitoring Inflation Targets," NBER Working Paper No. 5797, 1996を参照。

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リーマンショックから7年を過ぎ、再び世界経済はミンスキーポイントを迎えていることは誰の目にもあきらか。また、中国経済が、いわゆる「国際経済のトリレンマ」にとらえられていることも通貨の歴史を振り返れば理解しうる。またフィンテックの熱狂も果たして分散化されたプライベート元帳技術を現行の金融システムが消化し、中銀ネットを吹き飛ばすのかどうか、既存のシステムとのすり合わせは容易なことではないだろう。システムの危機と変化、政策次元でのマイナス金利導入も、大きくうねるマネーの世界的転換点を象徴しているようにみえる。

政策次元、システム次元でのマネーの変化を未来を展望しながら革新を模索する議論が必要だ。

もはや過去の貨幣改革論のあれこれも異端的空想ではなく、現実が食い尽くし消化しはじめるものになっている。未来を見据えて何がマネーの真の革新なのか。現状を追い、また政策や理論の窮状を捉え返す作業が必要だろう。政策的にはゼロ金利制約の底は抜け始めた。しかしそれは現実の多様な要因にもみくちゃにされる事の始まりにすぎない。

どうなるのか、どうしたいのか、中銀にとってひとつの思考基準であったスベンソンのフールプルーフウェイも無力をかこっているいま、革新はどこから生まれるのか。

議論と情報の共有を目指したい。


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