月曜日, 4月 04, 2016

ラルフ・G・ホートリー (Ralph G. Hawtrey), 1879-1971 ホートレー(ホートリー)=小谷清理論

宇沢弘文が推奨。

フィッシャーが1932,1933で参照。

 "Stabilizing The Dollar"1920,"The Debt-Deflation Theory of Great Depressions"1933メモ

A Neglected Point in Connection With Crises, N. Johannsen 1908
http://nam-students.blogspot.jp/2017/11/a-neglected-point-in-connection-with.html



Currency and credit : Hawtrey, R. G. (Ralph George), 1879-1975 : Free Download & Streaming : Internet Archive
https://archive.org/details/currencycredit00hawtrich
ホートレーの代表作1919年全440頁


中野剛志
富国と強兵#13より

…バランスシ ートの資産面 、すなわち銀行貸出が生産活動に与える影響にまで考察を及ぼしたのは 、ホ ートレ ーであった ★ 3 3 。

我々は 、アダム ・スミスによる富の生産と獲得の個人的自由の想定ではなく 、ホ ートレ ーによる富の生産と引き渡しの義務の想定から経済理論を始める 。 (中略 )スミスにおいては 、信用の理論と生産の理論は完全に分離していた 。というのも 、生産は交換価値のみを創造し 、信用は別のスト ーリ ーを起点にしていたからだ 。しかし 、ホ ートレ ーにおいては 、生産の理論は 、同時に生産と信用の理論である 。というのも生産は 、商品を得る者には負債を 、商品を引き渡す者には同等の信用を創造するからである ★ 3 4 。

生産と信用を結びつけたホ ートレ ーの議論とは 、要すれば 、次のようなものである 。商人が生産者に商品の注文を出すと 、生産者は商品の生産に必要な費用 (原材料費と人件費 )を 、銀行から借り入れる (この時 、預金が同時に創造される ) 。生産者は 、生産を行い 、原材料費と賃金を支払う 。生産者は 、商人に商品を引き渡し 、商人はその代金を支払うために銀行から借り入れる 。生産者は支払われた貨幣を銀行への返済に充てる 。商人は商品を消費者に販売し 、消費者は労働者として受け取った賃金の内から代金の支払いを行う 。商人は受け取った代金を銀行への返済に充てる 。銀行への返済によって 、預金は消滅する 。 「消費者の購買力は 、商人が銀行から借り入れる信用から主に供給されている 。信用は生産から生じ 、消費において消滅する ★ 3 5 。 」




★ 3 3 C o m m o n s ( 1 9 9 0 : V o l . 1 , p . 4 7 2 ) ;古川顕 『 R ・ G ・ホ ートレ ーの経済学 』ナカニシヤ出版 、 2 0 1 2年 、 p . 2 8 。
★ 3 4 C o m m o n s ( 1 9 9 0 : V o l . 1 , p p . 4 7 3 4 7 4 )
★ 3 5 R . G . H a w t r e y , C u r r e n c y a n d C r e d i t , L o n g m a n s , G r e e n a n d C o . , 1 9 1 9 , p . 1 0 .

J o h n R . C o m m o n s , I n s t i t u t i o n a l E c o n o m i c s : I t s P l a c e i n P o l i t i c a l E c o n o m y , V o l . 1 , T r a n s a c t i o n P u b l i s h e r s , 1 9 9 0 , p . 5 8 .

ホートレー

銀行の情報生産機能に着目:188
均衡予算に固執:198

ミルのフィッシャーに先立つ貨幣方程式:49

古川顕2012



不均衡理論―ワルラス均衡理論の動学的基礎単行本 – 1987/12



出版者    東京大学出版会  
出版年    1987.12  大きさ等   22cm 197p  NDC分類  331.845  
件名     均衡論(経済学上)   ワルラス L.  
件名     Walras Le´on.  
目次    
第1章 ワルラスの均衡理論;
第2章 不均衡の諸理論;
第3章 調整費用と在庫ストッ ク市場;
第4章 不均衡とワルラス均衡への経路;
第5章 在庫とマクロモデル;
第6章  不均衡理論の応用;
第7章 期間分析と資産市場の均衡;
第8章 資産市場のストック 均衡とフロー均衡;
第9章 労働市場の均衡・不均衡  
内容     参考文献:p187~192 









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第2は、流通過程での在庫変動分析の. 中でホートレーに言及する理論モデルの研究で ある (小谷 [1987])。第1の方向. はさらに2つに分かれる。○Eshag [1963]・Bridel [ 1987]・Bigg [1990] のよ. うに、ケンブリッジ貨幣理論 (貨幣需要論・利子論・景気論)の 発展 ...

(ケインズは現代的な銀行=金融システムを前提としている)













ホートレーからケインズへ

www.jstage.jst.go.jp/article/jshet1963/32/32/.../ja/
Although R. G. Hawtrey (1879-1975) had been an outstanding monetary economist in the 1920s and 1930s, and was greatly respected by Keynes, the subsequent 'Keynesian Revolution' made Hawtrey's analysis out-of-date. But recently the ...






ホートリーの信用貨幣論 - J-Stage

www.jstage.jst.go.jp/article/jshet1963/46/46/.../ja/
The Correspondence between R. G. Hawtrey and J. M. Keynes on the Treatise: The Genesis of Output Adjustment ... Hawtrey and the Multiplier. ... ホートレーから ケインズへ―「商人経済論」と乗数理論の影響」『経済学史学会年報』(32): 74-85.







ホートレーからケインズへ - J-Stage

www.jstage.jst.go.jp/A.../-char/ja/?...
GBT Good and Bad Trade, Constable & Co., 1913. CC (3) Currency and Credit, Green & Co., 1919 (3rd ed. Green & Co. 1927). TC Trade and Credit, Green & Co ., 1928. ACB The Art of Central Banking, Green & Co., 1932. HTRY (Hawtrey ...






小高 泰雄 - Bibliographical Database of Keio Economists - 人物詳細

bdke.econ.keio.ac.jp/psninfo.php?sPsnID=66
こうしたなか小高はピグー(Pigou, Arthur Cecil)、ホートレー(Hawtrey, Ralph George) 、ロバートソン(Robertson, Dennis Holme)、ミッチェル(Mitchell, Wesley Clair)などの 学説を精力的に研究して、景気変動論の新たな方向性を展開しようとしていた。


ラルフ・G・ホートリー (Ralph G. Hawtrey), 1879-1971

原ページ
 
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Photo of R.G.Hawtrey
別にケンブリッジでのマーシャル の講義には一つも出ていないけれど、ラルフ・ホートリーは マーシャル派 経済学者とされている。これは正しいことかもしれない。ホートリーはほとんど一生涯を財務省で過ごしたけれど、経済学に関する大量の著作にはまぎれもないケンブリッジ的な色合いが感じられるからだ。たとえばお金に対するケンブリッジのキャッシュバランス的アプローチなんかがそうだ。ジョン・メイナード・ケインズ の旧友だけれど、でも Treatise を真っ先に批判した人物でもある。最も有名な著作で、ホートリーは ヴィクセル の 累積過程論 を援用して、有名な 1919 年の過剰消費主義的な ビジネスサイクルの金融理論 を展開した。

ラルフ・G・ホートリーの主要著作

  • Good and Bad Trade, 1913.
  • Currency and Credit, 1919.
  • Monetary Reconstruction, 1922.
  • "The Trade Cycle", 1926.
  • Trade and Credit, 1928.
  • The Art of Central Banking, 1932.
  • The Gold Standard in Theory and Practice, 1933.
  • Capital and Employment, 1937.
  • Economic Destiny, 1944.
  • "Keynes and Supply Functions", 1956.
  • Trade Depression and the Way Out
  • The Lessons of Monetary Experience.

R.G. ホートリーに関するリソース



クラウディングアウトcrowding out)とは、行政府が資金需要をまかなうために大量の国債を発行すると、それによって市中の金利が上昇するため、民間の資金需要が抑制されること[1]。「クラウディングアウト」(crowding out)の字義は「押し出す」という意味。
一般には、クラウディングアウト効果として使われる。典型は失業対策などのために国債を発行して公共事業福祉政策を拡充させようとする際、大量に発行した新発国債が意図せず市中金利を高騰させ、民間の経済活動(投資のための資金調達や住宅購入などの消費行動)に抑制的な影響を与えてしまう場合である。
財市場と貨幣市場はIS曲線とLM曲線が交わった所で均衡する(IS-LM分析)。したがってLM(r) = (I(r)+G)/(1-c) となり、これを解いて、
G = (1-c) LM(r) - I(r)
LM(r)は単調増大、I(r)は単調減少だったので、上の式の左辺(1-c) LM(r) - I(r)はrに対し単調増大となる。従って財政支出Gが増大すれば利子率rが上昇する。従ってI(r)の単調減少性より企業の総投資I=I(r)は減少する。
以上の議論より、財政支出Gが増大すれば総投資Iが減少する事(すなわちクラウディングアウトが起こる事)が証明された。だが、肝心の実質国民所得レベルYが増加するのか減少するのかについては言及が無い。仮にクラウドアウトがおこり民間投資が減少しても、それを補ってあまりある政府支出を行った場合には全体として実質生産量が増加するシナリオもある。

LM曲線が垂直の場合(貨幣需要の利子弾力性がゼロの場合)には、クラウディングアウト効果は完全となり、財政政策は国民所得を拡大させず無効となる。またLM曲線が水平の場合(流動性の罠)には、クラウディングアウト効果はゼロとなり、財政政策は完全に有効となる。

金融脆弱性と不安定性 バブルの金融ダイナミズム
 著者名等  青木達彦/編  
 出版者   日本経済評論社
 出版年   1995.02
 大きさ等  22cm 419p
 注記    各章末:文献
 NDC分類 338.01
 件名    金融  
 目次   
1 ミンスキー、フィッシャー、ホートリー―債務、貨幣、景気循環
2 日米主要企業資本構成の決定要因と金融不安定性
3 バブルと銀行行動
4 景気循環と金融危機
5 寡占的企業の資金調達と金融・実物投資の分析
6 金融構造と金融不安定性の諸類型
7 金融脆弱経済の金融政策―割引窓口政策VS.公開市場政策
8 金融的景気循環
9 情報の非対称性と投資資金調達
10 不確実性下の意思決定基準―期待効用理論からみたシャックル理論
11 ケインズの方法論にもとづく景気循環論の組立て
12 金融危機の政治経済学―ポスト・ケインズ派とネオ・マルクス派の視角


R.G.ホートレーの経済学
 著者名等  古川顕/著  
 出版者   ナカニシヤ出版
 出版年   2012.5
 大きさ等  22cm 268p
 NDC分類 331.233
 要旨   
ケインズを凌駕しながら忘れ去られた経済学者。貨幣・信用理論や金融・財政政策論など
広い分野で現代にも通用する理論を残した、ホートレー経済学を復権する。
 目次   
第1章 ホートレーの経済学―序論的考察
第2章 信用の経済学
第3章 J.S.ミルの貨幣・信用理論
第4章 I.フィッシャーの景気循環論 ☆
第5章 ホートレーの金融・財政政策論
第6章 ホートレーと国際金本位制度
第7章 ホートレーのマクロ経済学
 ISBN等 4-7795-0606-9

☆97頁
フィッシャーは貨幣を、ホートレーは信用を重視する。

(B) Hawtrey's Pure Money Cycles
R.G. Hawtrey has perhaps the most famous "pure money" theory which he outlined in a barrage of articles and books (1913, 1926, 1928, 1933, 1937). His theory, as noted, is Wicksellian in many respects. But his chief characters are wholesalers and middlemen who rely unduly on bank credit and are thus highly sensitive to interest rates. Any slight injection of money which lowers the money rate of interest induces these middlemen to increase inventories. They do so by borrowing from banks increases and demanding increases in production from firms. But because increasing production takes time, the money supply of the economy is momentarily too large for the given amount of income (think of a Cambridge cash-balance theory). This "unspent margin" leads to higher demand for goods by consumers - but that extra demand will itself lower the inventories of these middlemen. Realizing their falling inventories, they will then call again upon firms to step up production and borrow money to do so. But again that leads to an excess supply of money, etc. 
The turning points in the Hawtrey cycle arise when production (and thus income) finally catches up with the higher money supplies. They will catch up, Hawtrey tells us, because banks will begin to close off credit when they see their reserves being stretched too far. Then we jump into the recession: when banks stop lending to middlemen, these will reduce their demands on firms. Production will slow down and so will incomes - but with a lag again. The fall in money supply comes first and so consumers now have excess demand for money and will thus lower their demand for goods. That leads to inventory build up and a further demand by middlemen that production reduce further. The downturn continues until the banks are flushed with money once again and need to lend out.

貨幣理論サイクル理論に移植するときには、サイクルプロセスがどのように機能するかについての何らかの考え方が既に存在しているに違いありません。 これは、サイクル理論におけるコンチネンタルとアングロアメイカの伝統の間の分割が、金融サイクル理論を分割するのにも有用な方法です。 ケンブリッジのエコノミストHawtreyは、 LSEの オーストリアのエコノミストであるHayekがコンチネンタルのアプローチを採用していたのに対し、当然、彼の基礎となるサイクルに英米のアプローチを採用しました。 結果として、Hawtreyにとって、経済は「単一セクター」エンティティであり、サイクルは垂直不均衡によって引き起こされます - 時間を横切ってのミスコンディング(金銭に起因する)。 ハイエクにとって、経済は「マルチセクター型」の複合体であるため、サイクルは水平的な不均衡によって引き起こされる。 したがって、Hawtreyは相対価格に無関心です。 金は、 絶対価格水準に影響を与えることによって、彼の "単一セクター"経済に影響を与える。 対照的に、ハイエクの多部門経済にとって、それは、サイクルがサイクルの鍵となる相対価格にどのくらいの金が影響するかである。 Hayekの見解では、絶対価格は無関係です。
(B) Hawtreyの純粋なマネーサイクル
RG Hawtreyはおそらく最も有名な "純粋なお金"理論を持っていて、彼は記事や書籍(1913年、1926年、1928年、1933年、1937年)の大冒険で概説しました。 彼の理論は、言及されているように、多くの点でWicksellianです。 しかし、彼の主役は、借り手に過度に依存し、金利に非常に敏感である卸売業者と仲買人です。 興味のある金利を下げるお金のわずかな注入は、これらの仲介人に在庫を増加させる。 彼らは銀行からの借り入れと企業からの生産の増加を要求することによってそうする。 しかし、生産の増加には時間がかかりますので、経済の貨幣供給は所与の所得に対して一時的に大きすぎます( ケンブリッジのキャッシュバランス理論を考えてください)。 この「未使用マージン」は消費者の商品需要の増加につながりますが、余分な需要そのものがこれらの中間業者の在庫を低下させます。 彼らは在庫が低下したことを認識して、企業に生産を強化し、資金を借りて借り入れさせることを再度呼びかけます。 しかし、これはまた、過剰な金銭の供給などにつながります。
Hawtreyサイクルの転換点は、生産(ひいては所得)が最終的に高い貨幣供給に追いつく時に発生します。 彼らは追いつくだろう、Hawtreyは私たちに言う。なぜなら、銀行は準備金が余りにも伸びているのを見て、信用供与をやめ始めるからだ。 そして、我々は景気後退に突入する。銀行が仲介者への融資を止めると、これは企業に対する彼らの要求を減らすだろう。 生産は減速し、所得も増えるが、もう一度遅れをとる。 マネーサプライの低下が最初であり、消費者は今や過剰な需要を抱えており、消費者の需要を低下させるだろう。 これは在庫の増加につながり、生産量がさらに減るという仲介者によるさらなる需要につながります。 景気後退は、銀行がもう一度お金で洗い流され、貸し出されるまで続きます。



ケインズ理論の源泉 スラッファ・ホートリー・アバッティ
 叢書名   京都大学経済学叢書  
 著者名等  小島専孝/著  
 出版者   有斐閣
 出版年   1997.07
 大きさ等  22cm 269p
 NDC分類 331.74
 件名    ケインズ経済学  
 目次    スラッファのハイエク批判;スラッファのハイエク批判と『一般理論』―貨幣的生産理論
形成におけるスラッファの重要性について;ホートリー・コネクション;ホートリーのマ
クロ経済理論;ミンスキー、フィッシャー、ホートリー―債務、貨幣、景気循環;アバッ
ティの有効需要論―A.H.アバッティ・無視されている『一般理論』の先駆者;アバッ
ティの有効需要論―ジョハンセン、ホブソン、アバッティの貯蓄論
 内容    参考文献:p235~254
 ISBN等 4-641-16008-2 







西洋経済古書収集ーロバートソン,『銀行政策と価格水準』

www.eonet.ne.jp/~bookman/kikouhonn/robertson.htm
その接近法に新しさがあり、景気循環を衝撃と波及の観点から、実物的波及過程と貨幣 的波及過程の理論を展開する。 ... 実際のところ、近代のマクロ経済的動態学の源泉は 、ケインズの『一般理論』ではなくこの作品であると主張しても突飛なことではなかろう。







西洋経済古書収集ーステュアート,『経済の原理』

www.eonet.ne.jp/~bookman/zenkotennha/steuart.html
ケインズ理論の核心を流動性選好説に求めるにせよ、乗数理論に求めるにせよ、用語 の内容も、ほぼ『一般理論』と同一であると思わせる。 もう少し、類似性を見るために、 ステュアートが公兆事業を論じた所を引く。ケインズの所説((注4)を参照のこと)と比較  ...




ケンブリッジのキャッシュバランス式アプローチ

サイモン・ニューカムとアーヴィング・フィッシャー貨幣数量説は、すでに見たように、お金が安定した交易需要を持つという発想に完全に依存している。これは、お金が交換媒体としてだけ需要され、それが制度的に強制されているんだ、というのが前提となる。この点を修正したのが、20 世紀前半のケンブリッジの経済学者数名だ。特に A.C.ピグー (1917)、アルフレッド・マーシャル (1923), D.H. ロバートソン (1922)、ジョン・メイナード・ケインズ (1923), R.G. ホートリー、フレデリック・ラヴィントン (1921, 1922) が挙げられる。かれらが共同で作り出したのが、その後「ケンブリッジのキャッシュバランス」アプローチと呼ばれるようになったものだ。
かれらの掲げた説は、お金は価値を貯める手段として求められるんだ、というものだ。だからケンブリッジ派の言い分は、フィッシャーの言い分とは根本的にちがってる。フィッシャーだと、お金はそれがたまたま交換媒体となっているから、エージェントたちにある一定額が求められるというだけの話だ。フィッシャーが書いているように、お金は持ち主に何の利益ももたらさない。でもケンブリッジ説だと、そんなことはないのだ。お金はある面で本当に効用を高める。つまり販売と購入を分離できるようにしてくれるのと、不確実性に対するヘッジとしてだ。
その理由は、アダム・スミスや W.S. ジェヴォンス (1875)、カール・メンガー (1892) が述べた概略と同じだ――お金というのは、取引コストや求めるものの一致問題(訳注:物々交換の世界だと、たまたま自分の望む取引をしたがる人――たとえば、手元のリンゴを乾電池と交換してくれる人はいないかな、とか――が都合良くそこらに居合わせる可能性はほとんどないので、とっても不便だよ、というお話)をなんとかするのに必要だ、というわけね。かれらが述べているように、同時の多者間取引が、取引コストなしで行えるんなら、交易者たちがお金を必要とするかどうかは必ずしもわからん。お金のいいところというのは、それが偶然同じものを交換したがっている人を見つけなくていい、ということだ。エージェントはある一時点で自分の商品を「お金」と交換に売れる。そして一番いい値段をゆっくり探して、それからその「お金」を最終的に欲しいモノと交換すればいい。
ケンブリッジ派の教えは、商品の販売と購入は同時じゃないので、購買力を「一時的に寝かしておく場所」が必要だ、ということだった。富の一時的な保管場所ですな。特に A.C. ピグー (1917) は、お金の需要が予防的な動機を含む場合も含めた――お金を持つのは、不確実な状況のためのヘッジとして機能するわけね。
この富の保管と予防的なモードの場合、お金が消費者に対して効用をもたらす。だからある意味で、お金はそれ自体が欲求されるものとなる。いくらくらいが求められるのかは、一部は所得によるし、また一部は他の条件、特に富や金利による。最初の部分はもちろん取引条件の中に組み込まれている。所得が高いほど、購買や販売の量も多くなるし、だから取引コストを克服するための一時的避難所としてのお金に対するニーズも高くなる。だからケンブリッジ理論家たちは、実質的なお金の需要を、実質所得の関数として考えた。つまり:
M / P = kY
ここで k は有名な「ケンブリッジ定数」だ。でもこれはずいぶん誤解のものだ。というのも「定数」の k はちっとも一定なんかじゃないからだ。むしろそれは、他の要素、たとえば金利(お金の機会費用)や富に左右される。
これをフィッシャーの体系と比べるには、実質所得 (Y) と取引 (T) は均衡下では等しくなる、ということさえわかればいい。もちろん、富の取引の中には厳密には所得にも産出にも含まれないものがある (たとえば家みたいな既存資産の販売)。これは単に所有権の移転でしかないからだ。これを回避するには、ピグー (1927) が書いているように、家の適正な販売価値というのは実は賃料の割引現在価値なんだ、というのを認識すればいい (賃料は所得になる)。だから富の取引は、割引かれた所得ストリームの取引をあらわしている。というわけで、少なくとも長期の完全な世界なら、 T = Y になると言える。だからフィッシャーの方程式は M/P = (1/V)Y とあらわせる。ここで k = 1/V だ。
ということで、この二つの式は、相互に導けるものだ。でもその理論はかなりちがっている。まず、ここでのお金は価値の保存、不確実性からくる効用をもたらす形で書かれている。フィッシャーでは、取引を可能にする制度的な交換媒体でしかなかった。第二に、ケンブリッジ派は k (ひいては V) が必ずしも制度的に固定されておらず、むしろ変化するという発想を提示した。
でも、リアル部門(実体経済)と金融部門との二律背反は、k に何が含まれているか曖昧だ、というのを考えると、破られているとは言い難い。そしてこれを考案した人たちも、この点をあまり突き詰めたがらなかった (Patinkin, 1974 を参照)。何より、ケンブリッジ派は不確実性と安心が k に入り込んで、リアル経済の上下動が起きるという問題を考えた――これはすでにマーシャル (1890: 591-2) にもある発想だ。でも、この説明は白黒をはっきりさせる力を持っていなかった。なぜかというと、そうした状況での期待形成について、何の理論も提示しなかったからだ――だから経済の上下動の理論としては、それは(どんなに引き延ばされても)短期の現象でしかなかった。でもこんな理論はおもしろくもなんともない。実際、フィッシャー (1911) の信用サイクル理論と「ドルのダンス」によって、短期的な調整コストがあると数量説が成り立たないことが示されてしまったので、なおさらだ。でも、ケンブリッジアプローチの主要論点は以下の二点にまとめられる: (1) 中立性は成り立つけれど、リアルと金融の二律背反はアヤシイ; (2) お金はサービスを生み出すもので、だから選好される。

Photo of A.C.Pigou
 アルフレッド・マーシャルの一番弟子にして後継者だったアーサー・セシル・ピグーは、「ケンブリッジの新古典派」を体現する人物だった―― 20 世紀最初の 1/3 における正統マーシャル派の中核的な存在だ。かれの名声の相当部分は Wealth and Welfare (1912, 1920) によるもので、ここでかれは社会福祉を経済分析の範疇に含めた。ピグーは特に、私的な限界生産や費用と、社会的な限界生産や費用を区別したことで有名であり、また政府が税や補助金の組み合わせによってそうした市場の失敗を矯正できる――あるいは「外部性を内部化できる」――という発想でも知られる。
 でもピグーはあまり運のいい人じゃなかった。かれのアプローチはすぐに、ロビンスナイトからのものすごい批判にさらされた。1930 年代後半に登場した「新厚生経済学」は、ピグーの分析ツールをほとんど無視した。後に公共選択理論家たちは、ピグーのアプローチがナイーブな「優しい独裁者」的想定を使っているということで攻撃。そして最後にコースが、財産権さえしっかり割り振られていれば、そんなのはどうでもいいことを実証してしまった。
 もう一つの不運の源は、ピグーがジョン・メイナード・ケインズによってボケ役に使われてしまったことだった。『一般理論』の中で、ケインズはピグーの Theory of Unemployment (1933) を名指しで新古典派マクロ経済学のダメなところのすばらしい見本として挙げた。ピグーは、かつての同僚にして友人に裏切られたショックから回復することはなかった。ピグーの余生は、たまに反撃したり (たとえば「ピグー効果」(1943 1947))、ケインズ革命に降伏したり (たとえば 1945, 1951) することで費やされた。

アーサー・C・ピグーの主要著作

  • Robert Browning as a Religious Teacher, 1901.
  • Tariffs, 1903.
  • "Monopoly and Consumers' Surplus", 1904, EJ
  • Industrial Peace, 1905.
  • Import Duties, 1906.
  • "Review of the Fifth Edition of Marshall's Principles of Economics", 1907, EJ
  • "Producers' and Consumers' Surplus", 1910, EJ.
  • Wealth and Welfare, 1912.
  • Unemployment, 1914.
  • "The Value of Money", 1917, QJE.
  • The Economics of Welfare, 1920.
  • "Empty Economic Boxes: A reply", 1922, EJ.
  • The Political Economy of War, 1922
  • "Exchange Value of Legal Tender Money", 1922, Essays in Applied Economics
  • Essays in Applied Economics, 1923.
  • Industrial Fluctuations, 1927.
  • "The Law of Diminishing and Increasing Cost", 1927, EJ.
  • A Study in Public Finance, 1928
  • "An Analysis of Supply", 1928, EJ.
  • The Theory of Unemployment, 1933.
  • The Economics of Stationary States, 1935.
  • "Mr. J.M. Keynes's General Theory", 1936, Economica
  • "Real and Money Wage Rates in Relation to Unemployment", 1937, EJ.
  • "money Wages in Relation to Unemployment, 1938, EJ
  • Employment and Equilibrium, 1941.
  • "The Classical Stationary State", 1943, EJ.
  • Lapses from Full Employment, 1944.
  • "Economic Progress in a Stable Environment", 1947, Economica
  • The Veil of Money, 1949.
  • Keynes's General Theory: A retrospective view, 1951.
  • Essays in Economics, 1952.

A.C. ピグーに関するリソース


13 Comments:

Blogger yoji said...

中野
富国と強兵#13

のバランスシ ートの資産面 、すなわち銀行貸出が生産活動に与える影響にまで考察を及ぼしたのは 、ホ ートレ ーであった ★ 3 3 。

我々は 、アダム ・スミスによる富の生産と獲得の個人的自由の想定ではなく 、ホ ートレ ーによる富の生産と引き渡しの義務の想定から経済理論を始める 。 (中略 )スミスにおいては 、信用の理論と生産の理論は完全に分離していた 。というのも 、生産は交換価値のみを創造し 、信用は別のスト ーリ ーを起点にしていたからだ 。しかし 、ホ ートレ ーにおいては 、生産の理論は 、同時に生産と信用の理論である 。というのも生産は 、商品を得る者には負債を 、商品を引き渡す者には同等の信用を創造するからである ★ 3 4 。

生産と信用を結びつけたホ ートレ ーの議論とは 、要すれば 、次のようなものである 。商人が生産者に商品の注文を出すと 、生産者は商品の生産に必要な費用 (原材料費と人件費 )を 、銀行から借り入れる (この時 、預金が同時に創造される ) 。生産者は 、生産を行い 、原材料費と賃金を支払う 。生産者は 、商人に商品を引き渡し 、商人はその代金を支払うために銀行から借り入れる 。生産者は支払われた貨幣を銀行への返済に充てる 。商人は商品を消費者に販売し 、消費者は労働者として受け取った賃金の内から代金の支払いを行う 。商人は受け取った代金を銀行への返済に充てる 。銀行への返済によって 、預金は消滅する 。 「消費者の購買力は 、商人が銀行から借り入れる信用から主に供給されている 。信用は生産から生じ 、消費において消滅する ★ 3 5 。 」



★ 3 3 C o m m o n s ( 1 9 9 0 : V o l . 1 , p . 4 7 2 ) ;古川顕 『 R ・ G ・ホ ートレ ーの経済学 』ナカニシヤ出版 、 2 0 1 2年 、 p . 2 8 。
★ 3 4 C o m m o n s ( 1 9 9 0 : V o l . 1 , p p . 4 7 3 4 7 4 )
★ 3 5 R . G . H a w t r e y , C u r r e n c y a n d C r e d i t , L o n g m a n s , G r e e n a n d C o . , 1 9 1 9 , p . 1 0 .

3:52 午後  
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ホートレー

銀行の情報生産機能に着目:188
均衡予算に固執:198

ミルのフィッシャーに先立つ貨幣方程式:49

古川顕2012

8:27 午後  
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http://www.eonet.ne.jp/~bookman/zenkotennha/steuart.html

西洋経済古書収集ーステュアート,『経済の原理』


STEUART, Sir JAMES, An Inquiry into the principles of Political Oeconomy: Being an Essay on the Science of Domestic Policy in Free Nations. In which are particularly considered Population, Agriculture, Trade, Industry, Money, Coin, Interest, Circulation, Banks, Exchange, Public Credit, and Taxes., 2 vois., London, Millar and T. Cadell, in the Strand. , 1767, pp.xv+[xiii]+639+[1]; 646+[14], 4to.

 ジェームズ・ステュアート『経済の原理』1767年刊、初版。
 著者略歴:ジェームズ・ステュアート Steuart, Sir James (1713-80)。


 こうした風潮の中でステュアートを評価したのは、マルクスである。その『経済学批判』において、「ブルジョア経済学の全体系をあみだした最初のイギリス人」(1956、p.65)とし、「特にかれが関心をもっていたのは、ブルジョア的労働と封建的労働の対立であり、…交換価値を生み出す労働の性質は、特殊的ブルジョア的なものであることを、くわしく証明している。」として高く評価した(1956、p.66)(注2)。古典派経済学にはない歴史的視点を持ち、実物面だけでなく貨幣面も重視する点を評価したのである。しかしながら、他方でマルクスは、剰余価値の発生が、生産過程からではなく「純粋に交換から、商品をその価値よりも高く売ることから、説明されている。サー・ジェームズ・ステュアートはこの偏狭さから抜け出ておらず」、結局「ステュアートは重金主義と重商主義との合理的表現である。」(『剰余価値学説史』第一章)とも批判した。こうしたことから、マルクス経済学者にも『原理』は軽視され、関心も薄れてゆくのである。というより、元々関心を持たれることがなかったという方が近いかもしれない。

 次のステュアート再評価の大きな流れは第二次大戦後、ケインズ経済学の隆盛とともに起こった。その有効需要論を述べるに当たり、「ケインズは、重商主義者やマルサスに先達を求めようとしたが、どうしたことか、自分にぴったりあっていたであろうと思われるジェームス・スチューアートを見逃してしまった」(ロビンソン=イートウェル、1976、p.68)。ケインズ自身はステュアートを知らなかったか、あるいは無視したが、ケインジアンにとっては、ステュアートとケインズの類似性は明らかであろう。S・R・セン等に始まるステュアート研究の流れである。
 確かにケインズ『一般理論』に親しんだものであれば、『原理』のいたるところにケインズ的分析用語を発見するであろう。貨幣等の「退(保)蔵(hording)」(上p.296)あるいは、「消費傾向(propensity to consume)」(上p.296)(注3),「有効需要(effectual demand)」(上p.107:『一般理論』は、effective demand)等々。ケインズ理論の核心を流動性選好説に求めるにせよ、乗数理論に求めるにせよ、用語の内容も、ほぼ『一般理論』と同一であると思わせる。
 もう少し、類似性を見るために、ステュアートが公兆事業を論じた所を引く。ケインズの所説((注4)を参照のこと)と比較されたい。
  「工事が終わった後でもなお有益であれば、それにこしたことはない。その場合には、工事はその建造にたずさわらなかった人間にもパンを与えるという効果をもちうるからである。…費用のかさむ公共の工事は、貧者にパンを与え、勤労を増進する手段」(上p.426)であって、「現代の君主の、壮麗な宮廷、おびただしい数の軍隊、煩瑣に行われる巡幸、贅沢な宴会、オペラ、仮装舞踏会、馬上試合、催し物などへの支出は、ピラミッドを築いた君主の思考が与えたのと同じ数の人手に仕事を与え、パンを与えるかもしれない」(上p.427)と。
 そして、現代の評価を見る。この20年ほどの間にステュアートの評価は大きく変化した。教科書レベルで定着していた「最後にして最大の重商主義者」から「最初の貨幣的経済学者」や「経済学のもう一人の創設者」へととって代わられつつある」(大森、2005、p.3)。『原理』を、スミスの『国富論』とは別コースで成立した、経済学の初発体系として見る考え方が、登場したためである。その「内容は、理論・歴史・政策を混然と体系化したという点で『国富論』と相似し、ヨーロッパ諸国を対象としたという点ではこれもまた一つの『諸国民の富』(『国富論』)である」(小林、1994、p.4)とされるのである。
 スミス=自由主義経済学、生産重視に対するにステュアート=重商主義的経済統制論者、流通主義という二項対比の説明構図も崩れてきているようようである。しかし、思うに、スミスの「見えない手」に対するに、ステユアートのスローガンとして、「公平な手」impartial handよりも、「もっとも柔らかな手」the gentlest handや「巧妙な手」skilful or artful handが、もっぱら取り上げられるようである。そこに、ステユアートにディリジスムを感じさせまいとする解説者の深謀遠慮を見るのは、素人の僻目か。

1:18 午前  
Blogger yoji said...

(注2)マルクスの経済学史的な著作から、引用した経済学者を頻度の多い順に、その人名索引により記してみる()内は回数。
①『経済学批判』(1859)では1.リカードウ(14)、2.スミス(9)、3.ステュアート(6)[岩波文庫による、本文部分のみをカウント]
②剰余価値学説史(1856-62)では、1.スミス(165)、2.リカードウ(162)、3.マルサス(67)、4.セー(45)、5.ロベルトウス(31)、6.シスモンディ及びベイリー(21)、8.ケネー(18)、9.ステュアート(17)[マルクス・エンゲルス全集版の3巻分の合計]
③『経済学批判要綱』(1857-58)では、1.リカードウ(98)、2.スミス(67)、3.プルードン(45)4.マルサス(34)、5.ステュアート(29)
(注3)正確には、「富者の消費性向」(propensity of the rich to consume)と記載。
(注4) 『一般理論』の類似箇所は、次のとおり。資本の限界効率が利子率より低い場合を論じて、「その場合は富を保有しようとする欲求を経済的収益を全く生まない資産に振り向けるだけでも、経済的厚生は増進するだろう。大富豪が、この世の住処として豪壮な邸宅を構え、死後の安息所としてピラミッドを建設するといったことに満足を見いだしたり、あるいはまた生前の罪滅ぼしのために大聖堂を造営したり修道院や海外布教団を寄進したりするならば、その限りで、豊富な資本が豊富な生産物と齟齬を来す日が来るのを先延ばしできるかもしれない。貯蓄を用いて「地中に穴を掘る事」にお金を費やすなら、雇用を増加させるばかりか、有用な財・サーヴィスからなる実質国民配分をも増加させるであろう。」(ケインズ、2008、上p.308)。

1:21 午前  
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J.ステュアート 小林昇監訳 『経済の原理 -第1・第2編―』 名古屋大学出版会、1998年
J.ステュアート 小林昇監訳 『経済の原理 -第3・第4編―』 名古屋大学出版会、1993年
ステュアート 中野正訳 『経済学原理』(一)~(三) 岩波文庫、1967-1980年
竹本洋 『経済学体系の創成 ―ジェイムズ・ステュアート研究― 』 名古屋大学出版会、1995年

1:23 午前  
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高橋是清
経済論
429

となり、しかも五億五千万円以上は制限外発行となり、それ以上通貨を供合す
分を下らざる課税を受けなければならず、かくては産業上の取引と
らしむること到底不可能にして、物価はますます下落し、経済界の建直しは得て望むべからずと
信じましたがため、政府は大英断を以て発券制度の上に根本的改革を施し、保証準備の額を一躍
十億円に拡張し、その上必要なる場合の制限外発行に対する課税最低率を三分に引下げ、以て正
貨の激減したるに拘らず農工商方面の正常なる取引に対する通貨の供給には老も支障なきを期せ
しめたのであります。所謂金融収縮時代に各国の産業に従事せる人々が、如何に資金難に苦悩せ
るかは、想像にあまりあるところでありまして、昨年英国の金融論者として知らる、ホートレー
(R・G・ホートリー。通貨金融論でケインズと対立した)氏の『中央銀行論』中に次のやうなこと
が書いてあります。
『一九三〇年及び三一年に、世界到るところの生産者は需要が仮借なく萎縮していくのを見た。
彼らは生産を維持するために必死となつて価格をドシドシ下げていつた。しかも依然として減退
していく需要に対し彼らが狂気の如く張合つてゐた有様は、さながら往昔カルカツタのブラッ
ク・ホールに幽閉させられたる英人たちが、窒息しまいとして唯一の通風手段であつた二つの小
窓に近寄らうとして死物狂ひになつた事実にも比すべきであつた。
 現地人の部族長が間ロ十五フイート、奥行十八フイートの小房に百四十六人の英人捕虜を収容
したのは、あへて殺さんがためではなかつた。しかも可哀相な英人たちは苦しさのあまり番兵に
賄賂を使つて部族長に哀訴を取次いでもらつた、ところが部族長は正にお寝み中でござったので
番兵は起し申すことを差控へた。この部族長は中央銀行ソックリの男であつた、〔翌日窓を開い

国際経済情勢とわが国の非常時対策
429

て見たら英人の大部分は死んでをつたのである]』といふ例を引き、 
 さらにホートレーは『消費者の所得を圧縮するのはどこでも物価下落と生産低減との二要素の
合成であつた。農業においては、生産量を迅速に減少せしむることの困難なる結果として、農産
物の価格下落は製造品の下落よりもはるかに甚しかつた、故に農産物の価格は製造品の価格より
も不況の深刻さをヨリ真実に示す尺度となる、一体中央銀行が為替安を矯めんとして金利引上げ
その他貸出しを収縮する措置を執ると、必ず結果においては不況を一層甚しからしむるのであつ
た』云々と論じてをります。
 中央銀行として深く注意すべきことは、世の生産業または商取引をなす人々に対し、常に不足一
を感ぜざる程度に資金の供給をなすべき事であります。
 わが国はだんだん金の輪出を禁じ、国内の正貨保有高に比し従来よりも多量の通貨を発行する
事を許したる以上は、わが対外為替の下落を来すべきは当然であります。したがつて国内の資本
が海外に逃避せんとするに至り特に産業振興の見地より低金利政策を実行せんとするに際しては
ここが最も多いのであります。故に政府はわが国の資本を出来得る限り国内における事業に投下
せしめ、以て利潤と労働とを国内に留保せしめ、これによりて経済界の振興に資せしむるの政策
を執るの必要を認め、まづ資本逃避防止法を制定して必要の処置を講じてきたのでありましたが
満兎電題の進展に伴ひ国際政局の複雑化するとともに、為替安を助長するの傾向さらに顕著なる
ものがありましたため、政府はさらに百尺竿頭一歩を進め、為替管理 に関する法律を去る議会に

財界変動と主要財政。経済演説
430

1:25 午前  
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高橋是清
経済論
429

となり、しかも五億五千万円以上は制限外発行となり、それ以上通貨を供合す
分を下らざる課税を受けなければならず、かくては産業上の取引と
らしむること到底不可能にして、物価はますます下落し、経済界の建直しは得て望むべからずと
信じましたがため、政府は大英断を以て発券制度の上に根本的改革を施し、保証準備の額を一躍
十億円に拡張し、その上必要なる場合の制限外発行に対する課税最低率を三分に引下げ、以て正
貨の激減したるに拘らず農工商方面の正常なる取引に対する通貨の供給には老も支障なきを期せ
しめたのであります。所謂金融収縮時代に各国の産業に従事せる人々が、如何に資金難に苦悩せ
るかは、想像にあまりあるところでありまして、昨年英国の金融論者として知らる、ホートレー
(R・G・ホートリー。通貨金融論でケインズと対立した)氏の『中央銀行論』中に次のやうなこと
が書いてあります。
『一九三〇年及び三一年に、世界到るところの生産者は需要が仮借なく萎縮していくのを見た。
彼らは生産を維持するために必死となつて価格をドシドシ下げていつた。しかも依然として減退
していく需要に対し彼らが狂気の如く張合つてゐた有様は、さながら往昔カルカツタのブラッ
ク・ホールに幽閉させられたる英人たちが、窒息しまいとして唯一の通風手段であつた二つの小
窓に近寄らうとして死物狂ひになつた事実にも比すべきであつた。
 現地人の部族長が間ロ十五フイート、奥行十八フイートの小房に百四十六人の英人捕虜を収容
したのは、あへて殺さんがためではなかつた。しかも可哀相な英人たちは苦しさのあまり番兵に
賄賂を使つて部族長に哀訴を取次いでもらつた、ところが部族長は正にお寝み中でござったので
番兵は起し申すことを差控へた。この部族長は中央銀行ソックリの男であつた、〔翌日窓を開い

国際経済情勢とわが国の非常時対策
429

て見たら英人の大部分は死んでをつたのである]』といふ例を引き、 
 さらにホートレーは『消費者の所得を圧縮するのはどこでも物価下落と生産低減との二要素の
合成であつた。農業においては、生産量を迅速に減少せしむることの困難なる結果として、農産
物の価格下落は製造品の下落よりもはるかに甚しかつた、故に農産物の価格は製造品の価格より
も不況の深刻さをヨリ真実に示す尺度となる、一体中央銀行が為替安を矯めんとして金利引上げ
その他貸出しを収縮する措置を執ると、必ず結果においては不況を一層甚しからしむるのであつ
た』云々と論じてをります。
 中央銀行として深く注意すべきことは、世の生産業または商取引をなす人々に対し、常に不足一
を感ぜざる程度に資金の供給をなすべき事であります。
 わが国はだんだん金の輪出を禁じ、国内の正貨保有高に比し従来よりも多量の通貨を発行する
事を許したる以上は、わが対外為替の下落を来すべきは当然であります。したがつて国内の資本
が海外に逃避せんとするに至り特に産業振興の見地より低金利政策を実行せんとするに際しては
ここが最も多いのであります。故に政府はわが国の資本を出来得る限り国内における事業に投下
せしめ、以て利潤と労働とを国内に留保せしめ、これによりて経済界の振興に資せしむるの政策
を執るの必要を認め、まづ資本逃避防止法を制定して必要の処置を講じてきたのでありましたが
満兎電題の進展に伴ひ国際政局の複雑化するとともに、為替安を助長するの傾向さらに顕著なる
ものがありましたため、政府はさらに百尺竿頭一歩を進め、為替管理 に関する法律を去る議会に

財界変動と主要財政。経済演説
430


1933年4月21日

1:27 午前  
Blogger yoji said...


The Art of Central Banking, 1932.

1:29 午前  
Blogger yoji said...


ラルフ・G・ホートリー (Ralph G. Hawtrey), 1879-1971 ホートレー(ホートリー)


The Art of Central Banking, 1932.

1:29 午前  
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yoji2021年9月21日 14:12
以下中野剛志『富国と強兵』#1より


こうしたことから、ベンジャミン・コーエンは、貨幣は「脱領土化」(deterritorialised)したと主張している。その論旨は、次のようなものであった。  一七世紀のウエストファリア条約以来、領土内における最終的な政治権力は国家にあるという主権国家の制度が確立した。貨幣の創出と管理は国家が独占するという通貨主権の伝統は、このウエストファリア的な主権国家システムに由来する。「結果として、貨幣の問題における権力は、有無を言わせず国家の手に集中されるべきものだと、慣習的に考えられるようになった★1。」ここで「慣習的」と述べているように、コーエンは貨幣と国家権力との間の関係は歴史的経緯によるのであって、そこに合理的な理由があるとは考えていない。  しかし、このウエストファリア的な通貨主権のモデルは、通貨の国際化や通貨代替といった「貨幣の脱領土化」が進んだことによって、変化を余儀なくされている。国家は通貨の管理を独占する特権を有するという考え方がもはや通用しなくなっているのは自明である。このように主張するコーエンの議論は、グローバリゼーションによって地政学はもはや過去のものとなったという、冷戦後に流行した論調に共鳴するものであると言えるだろう。  もっともコーエンは、貨幣問題において国家が何の役割も果たさなくなったと論じているわけではない。国家は、依然として通貨を発行し、供給する主体である。しかし、資本移動がグローバル化したことにより、通貨の需要はグローバル市場において決まることになる。たとえば、ドルの国際化やドルによる通貨代替といった「ドルの脱領土化」とは、グローバル市場における通貨を巡る競争の結果、ドルが需要されたということである。このように、グローバル市場が通貨を選ぶ時代においては、国家はもはや自国の領土内において通貨の需要を一方的に独占することができなくなるのである。  この状況を指してコーエンは、通貨は国家による「独占」ではなく、「寡占」になったと言う。国家という数が限定された主体が通貨を供給するが、通貨の需要は競争領域にあるからである。そこで国家は、寡占企業と同様の戦略をとるようになる。すなわち国家は、グローバル市場において、自国通貨のシェアを維持し、あるいは増やすために、他の国家と競争


★1 Benjamin Cohen, 'The New Geography of Money,' in Emily Gilbert and Eric Helleiner(eds.), Nation-States and Money: The Past, Present and future of National Currencies, Routledge, 1999, p.124. ★2 Cohen (1999: p.124)


11 ページ
... like a teaspoon or an umbrella, but unlike an earthquake or a buttercup, are defined primarily by the use or purpose which they serve” (Hawtrey 1928:1).
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224 ページ
... 99 Ha, Jiming, 113 Hale, David D., 111, 161, 162, 163, 164 Hanke, Steve H., 55, 165 Harmelink, Herman, 35 Hartmann, Philipp, 138, 157–58 Hawtrey, Ralph, ...
このページのプレビューは利用できません。 この書籍を購入.
202 ページ
Hawtrey, Sir Ralph (1928). Currency and Credit, 3rd ed. New York: Longmans, Green. Hayek, Friedrich A. (1976). “Choice in Currency: A Way to Stop Inflation.


ホートレー

通貨とは


Currency and credit : Hawtrey, R. G. (Ralph George), 1879-1975 : Free Download & Streaming : Internet Archive
https://archive.org/details/currencycredit00hawtrich
https://ia601402.us.archive.org/23/items/currencycredit00hawtrich/currencycredit00hawtrich_bw.pdf
ホートレーの代表作1919年全440頁

6:21 午前  
Blogger yoji said...


p.1
CHAPTERI.CREDITWITHOUTMONEY.

Moneyisoneofthoseconceptswhich,likeateaspoonoranumbrella,butunlikeanearthquakeorabuttercup,aredefin-ableprimarilybytheuseorpurposewhichtheyserve.Theuseorpurposeofmoneyistwo-fold:itprovidesamediumofexchangeandameasureofvalue.


CHAPTER I.
CREDIT WITHOUT MONEY.
MONEY is one of those concepts which, like a teaspoon or an
umbrella, but unlike an earthquake or a buttercup, are defin-
able primarily by the use or purpose which they serve.
use or purpose of money is two-fold : it provides a medium of
exchange and a measure of value.
According to the classical doctrine of money, mankind, in
order to avoid the intolerable inconvenience of the direct barter
The
of one kind of commodity or service for another, has learnt to
choose one standard commodity to be offered by every buyer
and accepted by every seller. Whether this standard com-
modity is established by law or custom, the seller willingly
accepts it in payment because he knows that it will be ac-
cepted in turn by those from whom he wants to buy. The
practice which makes the selected commodity the common
medium of exchange almost inevitably makes it also the
common measure of value.
A market which priced each
commodity separately in terms of every other would be im-
possibly complicated; the use of one standard commodity as
money enables us to express all prices in terms of this one
commodity.
If we approach the subject in this way, we naturally as-
sume that the use of some selected commodity as money is
the only alternative to a state of barter. To show what part
the use of money plays in society, and how great a difference
it makes, we are invited to turn to remote and benighted com-
munities which have never learnt the use of it, or to conjec-
ture what must have been the economic condition of mankind
before money was originated at all. Such comparisons may
well exaggerate the importance of money.
In order to see it
I
20
か? この問いに答えを出すことによって、力の所在、通貨支配のプロセス、現代政治経済への
影響が明らかになるだろう。
通貨の意味
 次に通貨の意味について考えてみようま4。基本的には、通貨はその機能によって定義される。
イギリスのかつての著名な経済学者が、以前ユーモラスに表現した。「通貨とは利用方法や目的
によって本来的に定義される概念の一つであるという点において、ティースプーンや傘と同じ次
元のものであるが、地震やキンポウゲ(毒草)とは違う次元のものである」(Hawtrey 1928:1)。通貨
は、その物理的あるいは法的性質にかかわらず、原則として特定の機能を慣習的に果たす。
 通貨は、交換媒体、計算単位、価値保蔵という三つの機能を伝統的にもつ。交換媒体としての
通貨は、流通する支払い手段と考えて等しい。この役割を果たす場合の通貨の主要特性は、契約
上の支払い義務を満たす一般的な受領性をもつことである。計算単位としての通貨は、多様な商
品、サービス、資産の価値を表すための共通の基準、すなわちニュメレールとなる。この場合の
主要特性は、能率的で信頼の置ける価格表示ができる点である。価値保蔵の面では、資産を保有
するうえで好都合な手段として機能する。この役割における通貨の主要特性は、売却による受取

6:21 午前  
Blogger yoji said...


MONEY is one of those concepts which, like a teaspoon or an umbrella, but unlike an earthquake or a buttercup, are definable primarily by the use or purpose which they serve.

「通貨とは利用方法や目的
によって本来的に定義される概念の一つであるという点において、ティースプーンや傘と同じ次
元のものであるが、地震やキンポウゲ(毒草)とは違う次元のものである」(Hawtrey 1928:1)

6:24 午前  
Blogger yoji said...



高橋是清
経済論
中公バックス
429

となり、しかも五億五千万円以上は制限外発行となり、それ以上通貨を供合す
分を下らざる課税を受けなければならず、かくては産業上の取引と
らしむること到底不可能にして、物価はますます下落し、経済界の建直しは得て望むべからずと
信じましたがため、政府は大英断を以て発券制度の上に根本的改革を施し、保証準備の額を一躍
十億円に拡張し、その上必要なる場合の制限外発行に対する課税最低率を三分に引下げ、以て正
貨の激減したるに拘らず農工商方面の正常なる取引に対する通貨の供給には老も支障なきを期せ
しめたのであります。所謂金融収縮時代に各国の産業に従事せる人々が、如何に資金難に苦悩せ
るかは、想像にあまりあるところでありまして、昨年英国の金融論者として知らる、ホートレー
(R・G・ホートリー。通貨金融論でケインズと対立した)氏の『中央銀行論』中に次のやうなこと
が書いてあります。
『一九三〇年及び三一年に、世界到るところの生産者は需要が仮借なく萎縮していくのを見た。
彼らは生産を維持するために必死となつて価格をドシドシ下げていつた。しかも依然として減退
していく需要に対し彼らが狂気の如く張合つてゐた有様は、さながら往昔カルカツタのブラッ
ク・ホールに幽閉させられたる英人たちが、窒息しまいとして唯一の通風手段であつた二つの小
窓に近寄らうとして死物狂ひになつた事実にも比すべきであつた。
 現地人の部族長が間ロ十五フイート、奥行十八フイートの小房に百四十六人の英人捕虜を収容
したのは、あへて殺さんがためではなかつた。しかも可哀相な英人たちは苦しさのあまり番兵に
賄賂を使つて部族長に哀訴を取次いでもらつた、ところが部族長は正にお寝み中でござったので
番兵は起し申すことを差控へた。この部族長は中央銀行ソックリの男であつた、〔翌日窓を開い

国際経済情勢とわが国の非常時対策
429

て見たら英人の大部分は死んでをつたのである]』といふ例を引き、 
 さらにホートレーは『消費者の所得を圧縮するのはどこでも物価下落と生産低減との二要素の
合成であつた。農業においては、生産量を迅速に減少せしむることの困難なる結果として、農産
物の価格下落は製造品の下落よりもはるかに甚しかつた、故に農産物の価格は製造品の価格より
も不況の深刻さをヨリ真実に示す尺度となる、一体中央銀行が為替安を矯めんとして金利引上げ
その他貸出しを収縮する措置を執ると、必ず結果においては不況を一層甚しからしむるのであつ
た』云々と論じてをります。
 中央銀行として深く注意すべきことは、世の生産業または商取引をなす人々に対し、常に不足一
を感ぜざる程度に資金の供給をなすべき事であります。
 わが国はだんだん金の輪出を禁じ、国内の正貨保有高に比し従来よりも多量の通貨を発行する
事を許したる以上は、わが対外為替の下落を来すべきは当然であります。したがつて国内の資本
が海外に逃避せんとするに至り特に産業振興の見地より低金利政策を実行せんとするに際しては
ここが最も多いのであります。故に政府はわが国の資本を出来得る限り国内における事業に投下
せしめ、以て利潤と労働とを国内に留保せしめ、これによりて経済界の振興に資せしむるの政策
を執るの必要を認め、まづ資本逃避防止法を制定して必要の処置を講じてきたのでありましたが
満兎電題の進展に伴ひ国際政局の複雑化するとともに、為替安を助長するの傾向さらに顕著なる
ものがありましたため、政府はさらに百尺竿頭一歩を進め、為替管理 に関する法律を去る議会に

財界変動と主要財政。経済演説
430


1933年4月21日

3:47 午前  

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