* カレツキが、マルクスの再生産表式に関心を持って、マルクス研究に没頭した一時期があったことは、すでに本文でも述べたとおりである。では、彼はマルクスの再生産表式をどのように自らの理論に取り入れたのだろうか。ここでは それを簡単に説明しておきたいと思う。
まず、経済をカレツキ的に、投資財を生産する第I部門、資本家の消費財を生産する第II部門、そして賃金財を生産する第III部門の三つに分割しよう。
各部門の産出の価値Vは、利潤Pと賃金Wの和に等しいから、
Vi=Pi+Wi (i =1,2,3) (1)
第III部門の資本家は、産出の価値のうちのW3にあたるものをその部門内の労働者へ、残りのP3にあたるものを第I・II部門の労働者へ販売すると考えられるから、
P3=W1+W2 (2)
ここで、第I部門と第II部門の産出の価値を合計すると、
V1+V2=P1+P2+W1+W2 (3)
を得るのだが、(2)式を(3)式に代入すると、次式が得られるのだがただちにわかるだろう。
V1+V2=P1+P2+P3 (4)
(4)式は、経済全体の利潤が、投資財の価値と資本家の消費財の価値の和に等しいことを示している。こうして、本文で述べたような、P=I十CCというカレツキの命題が得られるわけである。
Cf.,Josef Poschl and Gareth Locksley, Michal Kalecki : A Comprehensive Challenge to orthodoxy,
in J. R.Shackleton and Gareth Locksley eds.,Twelve Contemporary Economists,1981,p.157.
所得 支出
資本家の所得(P) 投資(I)
資本家の消費(CC)
労働者の所得(W) 労働者の消費(CW)
労働者はその所得をすべて消費する(すなわち、W=CW)
と仮定されているから、
P=I十CC
資本家は、利潤を決定することは出来ないがゆえに、この式は、I十CCがPを決定することを示している。
両辺からCCを減じると、
S=I
(同188-9頁より)
http://www.abebooks.com/servlet/BookDetailsPL?bi=8370052739
Image Not Available View Larger Image Twelve Contemporary Economists J. R. Shackleton, Gareth Locksley Published by Palgrave Macmillan, 1981
マルクス
c1v1m1P1
c2v2m2P2
c*v*m*P*
(v1=m2)手続きとしてはv2+m2=P1=v1もしくはc1+v1が入る。
カレツキ
V1=p1+w1
V2=p2+w2
V3=p3+w3
V*=p*+w*
(w1+w2=p3)
m=p
P=V
v=w
cは実体経済部分として除外。
Pは貨幣の動きとしてはvに吸収される、マルクスの場合はm2とv1の間にP1という実体経済が入るが、カレツキは省略している。
マルクス経済表(再生産表式と同じ部門順に改変、点線実線の区別は省略)
_____ (技術革新等 | (労働時間
|第1部門 | 空間的差異)|絶 の延長) 2:21
|機械と原料|___相対的__|対_____ _追加的不変資本___ Mc
|_____| 剰余価値 |的 ___産業利潤_/_追加的可変資本___\ Mv
本 1:10 |剰 利| \_個人的消費_____/|Mk
固定資本2:9 流動資本 |余 潤|___利子_____単利_________|
\機械)(原料/\ |価 | \___複利________/|
(土地 消耗品) \ |値 /|___地代_____差額地代_______|
源 \ / (労働力) | / \_絶対地代______/|
不変資本C 可変資本V 剰余価値M 生産物W |
1:6 ____\____ / |
1:24 / \ / |
的 ____ / 労\ / _産業利潤___3:1〜____ |
|第2部門| / 賃\/ 利| \ |
|生活手段| / /\ 潤|_利子_____3:21〜____| |
|____|/ 労賃__/__\ / | 3:24 | |
蓄 / / / \\ |_地代_____3:37~44__| |
/ / / /\\ 3:45 | |
不変資本 可変資本/ 剰余価値 生産物____________G____/_/
/ / 四: ◎ 貨幣
積 ____ / / ◯
|第3部門| / / 三: /| 一般的
|総生産物| / / ☆☆☆ 1:1、3、
|____|/ _______/_ ☆☆☆ 3:33
/ 二:|/ 拡大
不変資本 可変資本 剰余価値 生産物 ◯
形態一:◯=☆ 単純
(相対的価値形態 = 等価形態)
↑マルクス経済表草稿:参考サイト
経済表の草稿は上記(1863/07/06)を含めて2つありますが、最初のもの(1863/05↓)には交換に廻されるのは全体の10分の1だと明記されています。スミスがcを無視したと批判することから経済表及び再生産表式は生まれましたが(解説論文)交換過程の過大視はマルクスも引き継いでしまいました。
「固定資産のうち価値増殖過程に入らない部分は省略されている。」
(大月書店マルクス資本論草稿第9巻593頁より、588〜595頁参照、上記の図は589頁)
用語解説:
単純再生産の場合、1(V+M)=2(c) 1:21、2:20
拡大再生産の場合、1(V+Mv+Mk)=2(c+Mc) 2:21
剰余価値率または搾取率m'=利潤m/賃金v 1:7
利潤率はp'=m/(c+v) 3:2、13
(Mc,Mv,Mkに関しては略語は後年の解説者が使用したもの)
単純再生産の場合、1(V+M)=2(C)、
拡大再生産の場合、1(V+M) > 2(C)、で生産手段への投資が増えることになるが、
それは消費手段部門の不変資本が相対的に減ることを意味する。
http://byoubyou.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_b710.html
カレツキの再生産表式は、マルクスの再生産表式の価値部分のみを表現しているもので、 現物部分の存在を無視している。資本家の利潤は、資本家個人の消費に回る分と再投資さ れる分(蓄積)に分かれるが、それに賃金財生産部門を独立した部門としているのが、カレツキ の独創的なところである。
根井雅弘『「ケインズ革命」の群像』145頁〜
栗田康之『資本主義経済の動態』105頁〜
カレツキ『資本主義の動態理論』79頁〜
以下、
カレツキ「国民所得の経済表」(tableau economique of the national income)
("The Marxian equations of reproduction and modern economics"「マルクスの再生産の方程式と近代経済学」1968,1991未邦訳より)
___________
| 1 2 3| |
|________|__|
|P1 P2 P3| P|
|W1 W2 W3| W|
|________|__|
|I Ck Cw| Y|
|________|__|
P1、P2、P3・・・粗利潤
W1、W2、W3・・・賃金
(栗田康之『資本主義経済の動態』116頁、参照)
所得 支出
資本家の所得(P) 投資(I)
資本家の消費(Ck)CC
労働者の所得(W) 労働者の消費(Cw)
労働者はその所得をすべて消費する(すなわち、W=Cw)
と仮定されているから、
P=I十CC
資本家は、利潤を決定することは出来ないがゆえに、この式は、I十CCがPを決定することを示している。
両辺からCCを減じると、
S=I
I(投資)がS(貯蓄)を決定する。しかも、S=Iは利子率から独立している。
(根井188-9頁改変)
http://byoubyou.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_b710.html
カレツキの再生産表式は、マルクスの再生産表式の価値部分のみを表現しているもので、 現物部分の存在を無視している。
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