月曜日, 10月 10, 2016

オリバー・ハート 2016ノーベル経済学賞





             (経済学リンク::::::::::) 
NAMs出版プロジェクト: ミルグロム『組織の経済学』1997
http://nam-students.blogspot.jp/2016/10/blog-post_10.html
NAMs出版プロジェクト: ベン卜・ホルムストローム 2016ノーベル経済学賞 契約理論
http://nam-students.blogspot.jp/2016/10/2016_32.html
NAMs出版プロジェクト: オリバー・ハート 2016ノーベル経済学賞 契約理論
http://nam-students.blogspot.jp/2016/10/2016_39.html @

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%88
オリバー・サイモン・ダーシー・ハートOliver Simon D'Arcy Hart1948年10月9日 - )とは、イギリスで生まれたアメリカの経済学者で、ハーバード大学経済学部のアンドリュー・E・フューアー記念教授である。ハートは、ベント・ホルムストロームと共に、2016年のノーベル経済学賞を受賞した[1]

LSE
https://nam-students.blogspot.com/2019/04/london-school-of-economics-and.html


Hart, O., and B. Holmström (1987), "The Theory of Contracts," in T. Bewley( ed.), Advances in Economic Theory, Cambridge University Press, pp. 71-155.
Hart and Holmström( 1987) の収録された論集 2013年電子化
Advances in Economic Theory Fifth World Congress  Advances in Economic Theory Get access Cited by 3
3 - The theory of contracts
pp 71-156

By Oliver HartBengt Holmström
https://doi.org/10.1017/CCOL0521340446.003
Access
PDF
Export citation
https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/19C16ACE4A35CB03AA5B4C89E69C20FE/9781139052054c03_p71-156_CBO.pdf/theory_of_contracts.pdf



受賞者の一人であるハート教授自身も非常に定評のある解説書を執筆されています。今回の受賞で増刷待った無し!?










BREAKING 2016 Prize in Economic Sci. to Oliver Hart @Harvard & Bengt Holmström
 @MIT “for their contributions to contract theory” #NobelPrize

Firms, Contracts, and Financial Structure (Clarendon Lectures in Economics) 
 by Oliver Hart  (1995)
https://www.amazon.co.jp/dp/B006OYCOFU/
オリバー・ハート『企業 契約 金融構造』(鳥居昭夫訳、慶應義塾大学出版会、2010年)
https://www.keio-up.co.jp/np/detail_contents.do?goods_id=1843
目次

第Ⅰ部 企業を理解する
第1章 既存の企業理論 
第2章 所有権アプローチ
第3章 所有権アプローチの諸問題
第4章 不完備契約モデルの基礎に関して

第Ⅱ部 金融構造を理解する
第5章 金融契約と負債の理論
第6章 公開企業における資本構成の決定
第7章 破産手続き
第8章 公開企業における議決権構造

Contents
Introduction
PART I UNDERSTANDING FIRMS
1. Established Theories of the Firm
2. The Property Rights Approach
3. Further Issues Arising from the Property Rights Approach
4. A Discussion of the Foundations of the Incomplete Contracting Model
PART II UNDERSTANDING FINANCIAL STRUCTURE
5. Theories of Financial Contracting and Debt
6. Capital Structure Decisions of a Public Company
7. Bankruptcy Procedure
8. The Structure of Voting Rights in a Public Company
References
Index

1-1
伝統的なU字型の平均費用を示す図:

価格


p*は市場価格であるという仮定の下で、経営者Mはp*Q-C(Q)を最大化する。邦訳20頁

ハートは協同組合に関しても論文を書いている。72頁
協同組合は相手をホールドアップ出来ない。
The Governance of Exchanges: Members' Cooperatives versus Outside Ownership" 


オリバー・ハート『企業 契約 金融構造』(鳥居昭夫訳、慶應義塾大学出版会)
https://www.keio-up.co.jp/np/detail_contents.do?goods_id=1843
目次

 1 所有権の意味
 2 企業の境界
 3 金融証券
 4 パワーの分散
 5 触れなかった問題――公的所有

第Ⅰ部 企業を理解する
第1章 既存の企業理論 
 1 新古典派理論
 2 エージェントという視点
 3 取引費用の理論

第2章 所有権アプローチ
 1 概説
 2 統合のコストと利益についてのモデル分析
 3 理論から直接説明される事象
 
第3章 所有権アプローチの諸問題
 1 非人的資産の役割と権限の特性
 2 従業員のインセンティブ
 3 権限委譲およびその他の中間的所有権形態
 4 残余コントロール権と残余所得
 5 評判の効果
 6 物的資本への投資
 7 資産の形成
 8 統合・情報の伝達・協力

第4章 不完備契約モデルの基礎に関して
 1 ホールドアップ問題に関して
 2 第2章で分析した所有権モデルについて
 3 ホールドアップ問題の役割分析に加えて
  付録――メッセージ依存型所有構造

第Ⅱ部 金融構造を理解する
第5章 金融契約と負債の理論
1 Aghion-Boltonモデル
 2 私的流用モデル(Hart and Moore[1989]に基づく)
 3 多期間モデル
 4 不確実性を伴う場合
 5 複数投資家の存在とハード・バジェット制約
 6 関連する研究
  付録――CSVモデル

第6章 公開企業における資本構成の決定
 1 モデルの説明
 2 モデル1
 3 モデル2
 4 モデル3
 5 資本構成の実際
 6 資本構成についてのその他の理論
  付録――短期債務のもう1つの役割 モデル3

第7章 破産手続き
 1 正規破産手続きの必要性
 2 破産手続きの目標
 3 現在の破産手続き
 4 代替的破産手続き
 5 評価
 6 考察
 7 結論

第8章 公開企業における議決権構造
 1 非効率性:例示
 2 モデル
 3 モデルの拡張
 4 結論

訳者あとがき
参考文献
索引
目次

Oliver Hart, born 1948 in London, UK. 
Ph.D. 1974 from Princeton University, NJ, USA. 
Andrew E. Furer Professor of Economics at Harvard University, Cambridge, MA, USA.

Bengt Holmstrom, born 1949 in Helsinki, Finland. 
Ph.D. 1978 from Stanford University, CA, USA. 
Paul A. Samuelson Professor of Economics, 
and Professor of Economics and Management at Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, USA.


_____
CSVモデル
状況立証費用モデル
157,161頁



Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅 ...

 
(Adobe PDF)
repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/.../26_62.pdf
債権者が費用をかけることで状態立証が可能で. あるモデル (Costly State Verification 、以下. CSV) はTownsend [1979]によって開発され. た。Townsend [1979]は起業家と 投資家との. 1期間モデルにおける収益の分配法則として負. 債契約が最適契約となる ...



007000870002 - Doors - 同志社大学

 
(Adobe PDF)
 
doors.doshisha.ac.jp/duar/.../ir/.../007000870002.pdf
による「費用のかかる状態立証(CostlyStateVerification)」モデルを応用して考察. して いる11)。Diamond(1984)は,預金 .... る20)。1980年代の銀行理論では,CSV モデルを用いた負債契約の誘因最適性に注目し,. 資金調達手段における銀行貸出の 優位 ...

_____

ハートはGMとフィッシャー・ボディを例にとっている。以下関連サイト、

日本ピストンリング ピストンリング リケン、帝国ピストンリング - 早稲田大学

(Microsoft PowerPoint)
 

http://www.waseda.jp/sem-inoue/besanko_chapter_04.ppt

競争政策Blawg The Economic Lessons of Fisher Body - General Motors
http://competitionblawg.blog129.fc2.com/blog-entry-71.html

The Economic Lessons of Fisher Body - General Motors

Klein (2006) "The Economic Lessons of Fisher Body - General Motors"

潜在的なホールドアップ問題と相当する柔軟な垂直的統合の利点を解決するために,硬直的で,本質的で,不完全な長期契約を用いる費用はフィッシャーボディーとGMの事例により描かれている。フィッシャーボディーによるGMのホールドアップはフィッシャーがGMとの車体供給契約の再交渉を含んだものとしてみられたが,最初の理解とは対照的に,GMは新しい車体向上に要求される投資の半分を拠出している。フィッシャーが資本投資に等しい収益を伴うように計画された費用に基づいた契約条件が変わらない下で,販売に対するフィッシャーボディーの資本の下落は,GMからフィッシャーへの実質的な富の移転を導いた。車体工場を望み,フィッシャーボディーのオリジナルGMに特定した能力の投資を保護するために計画された長期的な排他的な取引契約を実施するため,GMは,望まない契約調整を受け入れざるを得なかった。この調整契約は,実際にホールドアップを行う動機のある取引相手の双方にとって,非効率なホールドアップ行動の脅しと効率的な方法の間の区別の重要性を示している。ロナルドコースの最近の批判とは反対に,この分析は,すべての利用可能な証拠と一致するものである。

QT PROモーニングビジネススクール
http://qtpro-bs.jp/archives/2009/03/post-482.html
■垂直統合の決定要因の具体例
こうした具体例として、面白い例があります。
これは、先ほど申し上げました、「資産の特殊性」という問題で
よく解釈されているアメリカの事例です。
1926年にGMは、当時の部品メーカーとして、
フィッシャボディという車体を作っている部品メーカーの
100%の株を取得し、買収しました。この出来事につきまして、
先ほどの1番目の解釈として、「ホールドアップの問題」と
捉えられていました。つまり、フィッシャは
GMの都合に合わせた工場建設を拒否し、
結果として、やはり内部コントロールが非常に大事である
という1つの判断から、100%の株式を買収した
というような解釈でした。
しかし、最近のアメリカの自動車産業の研究者によると、
この解釈は間違っているようです。
どこが間違っているかといいますと、
買収する以前からGMはすでにフィッシャの
60%の株式を持っていたこと、更に事実関係としては、
部品工場の建設や価格設定においても、
フィッシャとしては、GMの都合に合わせるということにも同意しました。
よって、コントロールの問題はあまり重要なものではないと考えられる。
それなのに、なぜあえて100%の株式を買収したかという理由ですが、
GMが狙っていたのは、フィッシャーブラザーズの持っている
素晴らしい設計技術の能力とそのエンジニアリング能力でした。
当時のクライスラーは、部品メーカーとの間で
別々に技術開発を行っていました。
一方でGMは同じ同一組織内において、
技術の移転をもっとし易くなるという1つの意図から、
あえて買収に踏み切ったということです。

______
オリバー・ハート:
タイラー・コーエン「2016年のノーベル経済学賞受賞者オリバー・ハートとベングト・ホルムストロム(1/2)」 — 経済学101
http://econ101.jp/%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%83%a9%e3%83%bc%e3%83%bb%e3%82%b3%e3%83%

タイラー・コーエン「2016年のノーベル経済学賞受賞者オリバー・ハートとベングト・ホルムストロム(1/2)」

●Tyler Cowen “Oliver Hart, Nobel Laureate” (Marginal Revolution, October 10, 2016)
(訳者注:本記事はハートについての紹介となります。共同受賞者であるホルムストロムについてはこちらをご参照ください。)

ハートの一番有名な論文は、1986年のグロスマンとの共著「所有権の費用と便益(The Costs and Benefits of Ownership.)」だ。これは同じくノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コースとオリバー・ウィリアムソンの業績の拡張にあたる(一つの分野にノーベル賞多いなあ…)。
そもそもなぜある主体は別の主体の資産の残余コントロール権を買うのだろうか。ここに工場と石炭採掘会社が一社ずつあるとしよう。石炭は特定の取り扱い方をすれば工場での使用により適した形で用いることができるとしよう。工場が石炭採掘会社を買収すれば石炭の取り扱いについてのインセンティブは変わることになる、これがこのモデルの鍵となる知見だ。これはコースの定理の非常に重要な修正であると考えることができる。誰が資産を所有するかが重要なんだ。なぜなら、採掘会社が石炭を所有する場合、採掘会社は資産(石炭)の価値を事前に最大化するようなインセンティブを持つが、工場が石炭鉱山を所有する場合のインセンティブはこれとは異なるからだ1 。この論文の一部は、「ある資産の完全な所有権を持つ場合、その資産の価値の向上による利益について多くの配分を保有する」という交渉の定理によってなされている。すなわち、所有権は価値を最大化する能力が最も高い主体に移転することとなる。
これは、事後的に契約が可能であれば所有権の主体は問題とならないという事を示したコースの定理の抜本的な改善となっている。所有権の主体が問題とならないためには、ゲームの初期段階において価値向上のための投資が事前に契約可能であるというありえそうにない仮定も必要であることをこの論文は示した。
この論文を完全に理解するのは難しい。論文では所有権、支配、残余請求に関するあらゆる類の仮定が組み込まれており、それらの動きは一様じゃない。その後ハートは(その他の研究者と共同で)こうした仮定を取り除き、このプロセスについてより透明性の高いモデルを作り上げた。この論文は合併、垂直的統合のほか、企業所有権、契約、支配に関するその他の問題に関する出発点の一つ、というより「これこそが」出発点だというべきだろう。ベングト・ホルムストロムをはじめとする多くの人々がこの論文についての優れた評価を行っている。
グロスマンはどうなったかと読者諸兄は疑問に思うだろう。彼は情報に関する重要な論文を書いているし、ハートの主要な業績はグロスマンとの共著だから、僕としては彼の共同受賞も考えられたと思う。グロスマンの輝かしい側面としては、彼がヘッジファンドの運営によって数百億ドルも稼いでいるということが言える。
ハートは真の紳士できれいなイギリス英語を話す。同業者からもとても尊敬されている。彼のWikipediaのページはここ、彼のホームページはここ。彼は今ハーバートにいるけど、キャリアの中ではMITにも所属していた。彼の経歴はこちら。Google Scholarはここ。スウェーデン中銀による受賞者の説明文はこちら。動画による説明はここ
彼の論文で2番目によく知られているのは、1990年のジョン・ムーアとの共著「所有権と企業の性質(Property Rights and the Nature of the Firm)」だ(https://dash.harvard.edu/bitstream/handle/1/3448675/Hart_PropertyRights.pdf?sequence=2)。この論文の内容も所有権と権利の配分に関するモデルとたとえ話だが、前述のグロスマンとの共著論文にいくつか捻りを加えたものとなっている。鍵となる点は、重要でないエージェントには価値創造を阻害できる権力を与えないというものだ。論文では、金持ち、船長、コックの共同による船旅事業に関するストーリーが語られる2 。金持ちと船長は必要不可欠なため、二人のうちどちらかが船を所有するべきであり、船旅から得られる利益のほとんどを二人で分け合い、コックには彼の限界生産物に等しいだけ支払う。こうして価値創造が続く。他方、コックが船を所有する場合、彼は事業を阻害できる権力を持ち、利益は3者で分割しあうことになる。これは交渉問題の難化、取引費用の上昇を引き起こすほか、最も大きな投資を賄うだけの利益が得られない可能性が出てくることから、事業価値を減少させることがありうる。多くの価値を創造する主体が資産を所有すべき、というのがここでの中心的な主張だ。この論文は契約、所有権や、どのような類の事業の仕組みが特殊な資産への投資を引き起こすのかについて考えるためのもう一つ重要な文献であり、これもコースとウィリアムソンの業績のフォローアップとなっている。
ご存じない読者のために言っておくと、オリバー・ハートは基本的に彼の主要な研究分野における理論家だ。
グロスマンとハートによるもう一つの有名な論文は「企業買収の競売、フリーライダー問題、企業の理論(Takeover Bids, the Free Rider Problem, and the Theory of the Corporation.)」だ(https://www.jstor.org/stable/pdf/3003400.pdf)。アレックス3 の一番面白い論文の一つ(https://mason.gmu.edu/~atabarro/PrivateProvision.pdf)はこの論文の拡張だから、これについて彼が詳細を書いてくれるんじゃないだろうか。簡単に言えば、このモデルはなぜ多くの価値最大化的買収が実現しないのか、あるいはなぜ都市の1区画を買収して改修するのが難しいかを説明するのに役立つものだ。ある企業が現在一株当たり80ドルの価値があるとしよう。そしてある企業買収家はこの企業を一株100ドルにする良い案を持っており、株主であるあなたに一株90ドルでの買取りを提案する。あなたは株を売るだろうか。その答えは、他の株主がどうするかについてのあなたの考え次第だ。あなたは株を売らず、企業買収にただ乗りしようとするかもしれない。もしほかの株主が売るのであれば、あなたは90ドルの代わりに100ドルの価値の株を得ることになる。あるいは、あなたはなんだかんだで株を90ドルで売るが、ほかの人は誰も売らず等々。難しい問題だけれど、これは様々な種類の買収に関する制限について理解するために非常に重要なことだ。僕のセキュリティデバイスのせいでこの論文にリンクを張れないけれど、論文タイトルでググってほしい4 (別url:http://www.nuff.ox.ac.uk/users/klemperer/IO_Files/takeover%20bids%20Grossman%20and%20Hart.pdf)。
ハートの1983年のグロスマンとの共著はプランシパル・エージェント問題をモデル化する高度に厳密な手法で、当時のブレークスルーとなった。この論文はEconometricaに掲載されたもので、多くの人々にとっては読むのがとても難しい。当時、経済学者はプランシパル・エージェント問題を参加制約の考えを用いてモデル化していた。つまり、それまでは、エージェントが取引に応じても損はしないという条件(参加制約)を満たしつつ、エージェントから努力を引き出すためには契約をどういじればいいかというかたちで問題設定がなされていたのだ。しかし、これでは自然に導かれる手近な単一の解がない場合には誤った結果がもたらされうることがマーリーズによって指摘された。グロスマンとハートはこれを数学的に凸計画問題として概念化し直した。理論家たちはこの論文を愛しており、この論文は発表された当時には多大な影響を及ぼした。
ハートとムーアによる不完備契約と再交渉に関する論文はここから読める(http://www.edegan.com/pdfs/Hart%20Moore%20(1988)%20-%20Incomplete%20Contracts%20and%20Renegotiation.pdf)。この論文は2年前にジャン・ティロールに与えられたノーベル賞と繋がっている。A)各主体が適切な関係特殊投資を行い、B)全期間を通じて再交渉される必要のないという2点を満たす契約を作るにはどうすればよいだろうか。ここでもまた、ハートの業績は企業活動の範囲内での価値最大化とそうした価値最大化においてありうる障害という考えにこだわりを置いている。
ところで、ハートはシュライファーとヴィシュニーとの共著で、なぜ民間部門が刑務所を所有・運営することは許可されるべきでないのかという論文も書いている。費用を削減するというインセンティブは強すぎるんだ!その一方で、彼らによれば、様々な点において質をケチるという民間部門と同じ利益インセンティブを政府は持たないため、政府による刑務所の所有のほうが最大化される価値が大きくなる。この論文は刑務所の民間所有に関する昨今の議論に対して大きな影響を与えていて、少なくとも連邦レベルにおいて民間所有は撤廃された。同じように大統領専用機であるエアフォースワンについても、設計製作は民間部門が行うことが望ましいけれど、これを民間が所有することが望ましいとはおそらく思わないだろう。この論文はその理由を理解するための枠組みを作り上げるのに貢献したものだ。
株主の合意に関するハートの1979年論文は、市場が不完全であり、かつ一部の企業の株が世の中の不都合な状態から身を守るための二次的な「保険」としての用途をなしている場合において、企業が利益最大化を行うことを株主全員が望むかという重要な理論的問題を提起している。例えば、小麦市場に全く保険がないとしよう。その場合、小麦生産企業の株が保険用途に用いられ、保険用途としては企業の価値は単純な利益最大化を行う企業のとは異なる形で小麦価格と連動することが望まれるということがありえる。この論文の結論では、企業の利益最大化は私たちが考えていたほどには単純ないし自明なものではないというものだ。
さて、今回ノーベル賞を受賞した二人の共著としては、「企業領域の理論(A Theory of Firm Scope)」がある。彼ら二人による契約理論の長文共同サーベイはこちら
おめでとうオリバー・ハート!
  1. 訳注:原論文によれば、「企業1(=コーエンの例で言う工場)による企業2(=コーエンの例で言う石炭採掘会社)の支配が企業2のマネージメントの生産性の低下以上に企業1のマネージメントの生産性を向上させる場合、企業1は企業2を買収する」 []
  2. 訳注:コーエンによる原文では、それぞれtycoon, boat owner, chefの共同事業となっているが、原論文の例話は船長とコックが重要な顧客に対してサービスを提供するというもの。 []
  3. 訳注:Marginal Revolutionを共同運営するアレックス・タバロック []
  4. 訳注:ここで言及されている論文はここから読める(http://www.nuff.ox.ac.uk/users/klemperer/IO_Files/takeover%20bids%20Grossman%20and%20Hart.pdf)。 []

______


企業 契約 金融構造 : オリバー ハート, 鳥居 昭夫 : 本 : Amazon


www.amazon.co.jp/企業...オリバー-ハート/.../47664171...
企業 契約 金融構造
アマゾン公式サイトで企業 契約 金融構造を購入すると、Amazon.co.jpが発送する商品 は、配送料無料でお届け。Amazonポイント還...
価格:3,456円 (2016年10月9日現在)


ホールドアップ問題

ホールドアップ問題 ( -もんだい、hold-up problem) とは、いったん行われてしまうと元に戻すのが難しく、しかも交渉の相手の強さを増してしまうような投資に関して発生する問題である。主に不完備契約(内容が不確実であるような契約)において発生する。
現実の取引では、完備契約(あらゆる不確定な要素を織り込んだ契約)を結ぶことは極めて困難である。例えば、契約に書かれていない事態が生じた場合、取引の当事者は機会主義的な行動(自分にとって都合のいいような行動)を取ろうとする。関係特殊投資(たとえ当事者にとってこの取引が有益であろうとも、その他の取引では価値が無くなるような投資)を行っている場合、取引に関する交渉が決裂して関係が継続されなくなれば、投資は全く無意味なものとなってしまう。そのため、投資を行う経済主体には、そのことに付け込まれ不本意な譲歩を強いられる危険性がある。関係特殊投資がなされているために、投資を行う経済主体は投資に対して臆病になってしまい、その結果、適正な投資が行われないという状態に向かわせるインセンティブが事前に与えられることになる。ホールドアップ問題は、このような不完備契約における関係特殊投資がもたらす非効率な投資の問題を指す。

目次

ホールドアップ問題の例編集

例として、ある自動車会社が自社の車にしか使えない特殊な部品を、他の部品会社に作ってもらう契約が挙げられる。効率性の観点から言えば、その部品専用の製造機械を導入して生産するのが理想であるが、いったん特殊な部品の製造に特化してしまうと、部品会社は自動車会社との交渉力を弱めてしまい、将来足元を見られる危険性が生じてしまう。そのため部品会社は他の部品を製造できる体制を維持しようとし、その結果として効率性が犠牲になる。

数学モデルによる考察編集

自動車会社が部品会社に専用部品の開発を依頼し、部品会社は専用部品の開発のために xx の投資を行う。その際に部品会社が支払う費用は Cx{\displaystyle C(x)} である。その後、完成した部品を受け渡しする際に、自動車会社は部品会社に報酬として WW を支払う。部品の価値(追加的価値)は部品会社の投資に依存するため、Rx{\displaystyle R(x)} である。すなわち、自動車会社は利益 πpxRxW{\displaystyle \pi _{p}(x)=R(x)-W} を獲得し、部品会社は利益 πaxWCx{\displaystyle \pi _{a}(x)=W-C(x)} を獲得する。
効率性の観点から言えば、自動車会社と部品会社の両者の利益の和 πxπpxπaxRxCx{\displaystyle \pi (x)=\pi _{p}(x)+\pi _{a}(x)=R(x)-C(x)} を最大とするような投資 x{\displaystyle x^{\star }} を部品会社が行うことが望ましい。完備契約の場合、部品の取引によって生じる利益は πxRxCx{\displaystyle \pi (x)=R(x)-C(x)}であるため、自動車会社と部品会社はこの利益を等しく分けるような取引を行い、両者の利益はそれぞれ πx2{\displaystyle {\frac {\pi (x)}{2}}} となる(報酬 Wπx2Cx{\displaystyle W={\frac {\pi (x)}{2}}+C(x)} となる)。そのため、部品会社は πx2{\displaystyle {\frac {\pi (x)}{2}}} を最大化するような投資 x{\displaystyle x^{\star }} を行い、効率性が確保される。
しかしながら現実には、部品の価値に応じた報酬額に関して、自動車会社と部品会社の双方が合意できる強制力のある契約を記述することができない。不完備契約の場合、完成した部品を受け渡しする際に、報酬に関する交渉が行われる。ここで、交渉が成立すれば利益 Rx{\displaystyle R(x)} [ノート:ホールドアップ問題#数学モデルの矛盾点]が生じるが、交渉が決裂すれば利益は 0{\displaystyle 0} であるため、部品会社がすでに支払った費用 Cx{\displaystyle C(x)} は無視される(埋没費用となる)。このため、自動車会社と部品会社は、完成した部品の受け渡しによって生じる利益 Rx{\displaystyle R(x)} を等しく分けるような取引を行い、自動車会社は部品会社に報酬 WRx2{\displaystyle W={\frac {R(x)}{2}}} を支払う。部品会社の最終的な利益 πaxRx2Cx{\displaystyle \pi _{a}(x)={\frac {R(x)}{2}}-C(x)} となるため、部品会社はこれを最大化するような投資 x\overline {x}を行う。
ここで、部品会社の投資費用 Cx{\displaystyle C(x)} は逓増し、部品の追加的価値 Rx{\displaystyle R(x)} は逓減するものと考える。すなわち、Cx0{\displaystyle C'(x)>0}Cx0{\displaystyle C''(x)>0}Rx0{\displaystyle R'(x)>0}Rx0{\displaystyle R''(x)<0} である。
最適投資水準 x{\displaystyle x^{\star }} の条件は RxCx{\displaystyle R'(x)=C'(x)} であり、不完備契約時の投資水準 x\overline {x} の条件は Rx2Cx{\displaystyle {\frac {R'(x)}{2}}=C'(x)} である。このとき、x\overline {x} は最適投資水準 x{\displaystyle x^{\star }} に比べて必ず小さく、部品会社の投資水準は非効率となる。

関連項目編集

参考文献編集

  • Klein, B., R. G. Crawford and A. A. Alchain (1978), "Vertical Integration, Appropriable Rents, and the Competitive Contracting Process", The Journla of Law and Economics 21: 297-326.
  • Ellingsen, T., M. Johannesson (2000), "Is There a Hold-up Problem?", Stockholm School of Economics Working Papar.
  • ノート:数学モデルによる考察の節の第3段落「しかしながら現実には~」の段落に「交渉が成立すれば利益 Rx」とありますが、利益はπaxと定義しているはずです。 そのため、自動車会社が部品会社に支払う報酬が WRx2 では少なすぎるようになってしまっています。 --T's-Neko会話) 2014年10月13日 (月) 08:53 (UTC)

_______


ノーベル経済学賞「不完備契約の理論」の意義 | 市場観測 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
http://toyokeizai.net/articles/-/140152

ノーベル経済学賞「不完備契約の理論」の意義

情報が不完全な中、どのように契約を結ぶのか


オリバー・ハート米ハーバード大教授(左)とベント・ホルムストローム米マサチューセッツ大教授(右)(写真:新華社/アフロ)
2016年のノーベル経済学賞(正式名称はノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞)の受賞者が10月10日に発表された。受賞したのは、オリバー・ハート米ハーバード大教授と、フィンランド出身のベント・ホルムストローム米マサチューセッツ工科大教授。「契約理論への功績」が受賞理由だ。
雇用契約や保険契約、株主と経営者の間の契約など、両氏はさまざまな依頼人と代理人の契約がおのおのの利害をいかに調整するか、そのメカニズムと設計の処方箋を提示した。こういうとどこに新しさがあったのか、わかりにくいが、経済学説の大きな流れの中でみれば、「人々は将来の結果がわからない」という不確実性の要素をミクロ経済学に取り入れたことに新規性があるといえるだろう。
よく知られるように、現在の新古典派経済学はいくつかの重要な仮定を置いている。その中で最も強力なものは、「人々はすべての情報を知っている」という情報の完全性と「人々は将来の結果をすべて知っている」という確実性の仮定だ。こうした仮定の下では、人々が自己利益の最大化を目指して利己的に行動しても市場が社会の利害を自動的に調和させ、効率的な経済状況が実現するという理論が成立している。

情報の不完全性をどう処理するか

だが、問題は現実社会はそのような仮定とは大きく違っているということだ。そのため、近年は情報の不完全性を前提としたミクロ経済学の構築が盛んだ。過去のノーベル経済学賞を見ても、「情報の非対称性」に関連する功績を理由とした1996年受賞のジェームズ・マーリーズとウィリアム・ヴィックリー、2001年受賞のジョージ・アカロフ、マイケル・スペンス、ジョセフ・スティグリッツが挙げられる。経済主体が不完全な情報しか持たないことが市場の調整機能を阻害することを理論的に分析しているのが特徴だ。
また2007年受賞のレオニード・ハーヴィッツ、エリック・マスキン、ロジャー・マイヤーソン(メカニズムデザイン理論が受賞理由)、さらに2014年受賞のジャン・ティロール(市場支配力と規制の分析が受賞理由)も情報の不完全性が分析上のカギになっている。このようにノーベル経済学賞の顔ぶれを見ても、新古典派の仮定を現実に近づけ、理論の微修正を図る取り組みが近年、一定の評価を得ていることがわかる。

ノーベル経済学賞「不完備契約の理論」の意義 | 市場観測 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
http://toyokeizai.net/articles/-/140152?page=2

ノーベル経済学賞「不完備契約の理論」の意義

情報が不完全な中、どのように契約を結ぶのか

今回のハート、ホルムストロームの2人もこの流れの中に位置づけられる。特にその性格が強いのが、不完備契約理論を構築したハートだ。ハートは、人々が将来起きることをすべて事前に知って契約を結ぶことはできないことを指摘した。
たとえば、企業のために新技術を開発している研究者の報酬契約を考えてみよう。R&D(研究開発)の結果は不確実であるため、事前に契約でイノベーションがどう起きるかを具体化できない。さらに事後的にも、新技術の質や企業収益に与える影響額を正確に計測するのは難しいだろう。日本でも発明の対価をめぐって社員研究者と企業の訴訟が起きた例があるが、このようなときの報酬契約はどう考えればよいだろうか。

財産権の配分がインセンティブに与える影響

避けたいのは研究者、企業とも将来の取り分がはっきりしないため、研究開発が促進されず、投資が過小になることだ。ハートは、このような不確実な将来に向けての契約では、将来に誰が決定権を持つかを財産権の付与によって事前に決めておくことが重要だと説明した。

写真はストックホルムで10日撮影(写真:ロイター/TT News Agency/Stina Stjernkvist/ via REUTERS)
先ほどの例で言えば、いくつかのやり方が考えられる。一つは、研究者は固定給で働き、企業が新技術の知的財産権を保有するというやり方だ。この場合、企業は研究開発投資に積極的になるが、研究者のインセンティブは小さくなる。もう一つのやり方は、研究者が新技術の知的財産権を保有することだ。新技術の質が高ければ、将来、研究者は知的財産権を企業に売却するなどによって巨利を得られるため、非常に大きなインセンティブを持つ。だが反面、高く売れる新技術に集中するあまり、所属企業の狙いに沿った研究開発はおろそかになるだろう。
実際には、両者のバランスを取ることが必要だが、重要なのは財産権の配分をうまく行うことによって、利害関係者のインセンティブをうまく引き出し、契約で報酬を具体化する方法の代替策になるということだ。こうした不完備契約の理論は、コーポレートガバナンス(企業統治)やベンチャーキャピタルなどの現場に大きな影響を与えてきた。

ノーベル経済学賞「不完備契約の理論」の意義 | 市場観測 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
http://toyokeizai.net/articles/-/140152?page=3

ノーベル経済学賞「不完備契約の理論」の意義

情報が不完全な中、どのように契約を結ぶのか

不完備契約の理論が活躍しているのは、民間分野だけではない。医療や教育など公共サービスの民間委託の是非において、現実に沿った理論的な議論を可能にした点も大きな功績だ。
先述のように、新古典派の理論では情報の完全性や確実性の仮定の下、経済取引などはすべてスムースに効率的に行われると想定されているため、そもそも依頼人と代理人による契約というプロセス自体が捨象されている。この新古典派理論を公共サービスの民間委託の議論に適用すれば、政府の規制がほとんどない完全民営化が最も効率的な社会・経済状況を生み出すという単純な結論に至るだけだ。

現実の公共サービスの見直しに寄与している

このような新古典派の理論をファーストベストと言うが、情報の完全性や確実性の仮定にそぐわない現実社会では、そのファーストベストは成立しないので、セカンドベスト(次善の策)として理論的な議論を進める必要が出てくる。そのとき、不完備契約の理論は一つの重要なツールになっているわけだ。
具体的には、その依頼人(政府)と代理人(公的セクターか民間企業)の契約構造から、公的セクターによる公共サービスは質の改善と質を犠牲にしたコスト削減の双方にあまりインセンティブがない。一方、民間企業による公共サービスでは質改善とコスト削減により強いインセンティブがあるものの、質を犠牲にしたコスト削減が強力に進められることが不完備契約理論によって説明されている。
一口に公共サービスと言っても、医療や教育、保育所からゴミ収集、郵便、公共交通、一部の国での電力、通信、航空まで幅広い。質の計測が容易かどうかなどサービスごとの違いを考慮したうえで、民間委託がよいのか公的セクターがよいのかを一つ一つ不完備契約の観点で検証していくことが可能になっている。
実際、ハートはこの理論を基に論文で米国の民間刑務所に懸念を示していたが、今年8月に米国政府は民間刑務所の状況が悪いとして段階的に打ち切ると発表した。今後も世界の公共サービスのあり方に影響を与えていきそうだ。

2 Comments:

Blogger yoji said...

Contents
Introduction
PART I UNDERSTANDING FIRMS
1. Established Theories of the Firm
2. The Property Rights Approach
3. Further Issues Arising from the Property Rights Approach
4. A Discussion of the Foundations of the Incomplete Contracting Model
PART II UNDERSTANDING FINANCIAL STRUCTURE
5. Theories of Financial Contracting and Debt
6. Capital Structure Decisions of a Public Company
7. Bankruptcy Procedure
8. The Structure of Voting Rights in a Public Company
References
Index

5:52 午前  
Blogger yoji said...


経済学において、逆選抜 (英: adverse selection) とは、情報の非対称性が存在する(売り手と買い手が保持している情報量に格差がある)状況(レモン市場)において発生する市場の失敗、厚生の損失である。逆選択、逆淘汰とも呼ばれる。

目次
概要 編集
情報の非対称性が存在する状況では、情報優位者(保持している情報量が多い取引主体)は情報劣位者(保持している情報量が少ない取引主体)の無知につけ込み、粗悪な財やサービス(レモン財)を良質な財やサービスと称して提供したり、都合の悪い情報を隠して保険サービスなどの提供を受けようとするインセンティブが働く。そのため、情報劣位者はその財やサービスに対して、本来の価値より過度に悲観的な予想を抱くことになり、もし情報の非対称性が無ければ売買が行われていたはずの取引の一部が行われなくなる。そして、市場で取引されるものは、悲観的な予想に見合った粗悪な財やサービスばかりとなる。これを、通常は良いものが選ばれ生き残るという『選抜』、『淘汰』の逆であるという意味で、逆選抜、逆淘汰と呼ぶ。

いま、ある中古車の売り手と買い手を考える。買い手は、中古車情報誌などから、買いたい中古車の価値はジャンク(20万円)から掘り出し物(100万円)までの間に一様に分布していることだけを知っている。一方で、売り手は本当の中古車の価値を知っているとする。この時、まず、買い手が自身にとっての価値の平均値である60万円を提示したとする。すると、もしこの中古車の本当の価値が60万円より高ければ、そのことを知っている売り手は取引をしないであろう。取引に応じるのは、本当の価値が60万円以下の時だけである。そうなると、買い手は相手が取引に応じるならば、中古車の価値は60万円以下であるということを知ることになるので、買い手にとって中古車の価値は20万円から60万円の間に分布することになる。そこで、買い手は新たな価値の平均値である40万円を提示しなおすとする。すると上記と同様の流れにより、買い手が取引に応じるのは本当の価値が40万円以下の時だけであろう。以下同様に繰り返していくと、最終的には中古車の価値が20万円というジャンクの場合にしか取引は成立しないこととなる。その結果、中古車市場での取引は閑散としたものとなり唯一取引されるものはジャンクのみ、となってしまうのである。

なお、上記の例において、買い手と売り手の両者が本当の価値を知っている場合のみならず、両者が本当の価値がよく分からずに20万円から100万円の間に一様に分布していると考えている場合においても、ジャンク以外の中古車の取引が行われる。どちらの場合も情報の非対称性の問題が起きていないからである。

保険市場における逆選抜 編集
逆選抜は元々保険市場で使われる用語であり、保険加入者が幅広い層に行き渡らずに特定の層(多くの場合、保険金支払いの確率が高い層)に偏ってしまう現象を指す。

医療保険を例にとると、保険会社としては健康や安全を心掛ける病気や事故と無縁の人物と契約するのが望ましいだろう。しかし保険会社において、ある人物が、健康に気を配っているのか、それとも全く気にしていないのかを判別できるとは、必ずしも言いがたい。ある人物に関わる健康情報を、保険会社が知らないためである。

この状況下においては、保険会社が嫌がるであろう不健康な、若しくは危険な生活を送る者に対しては、その条件でも自分にとって得になると考え、その保険に加入するインセンティブが与えられる。結果、その者は保険に加入しようとする強い動機が与えられるだろう。しかしそうではない人物、保険会社が本来想定するはずであろう人物は、場合によっては保険料の負担により加入しないという決断をするかもしれない。このため保険会社の元を訪れる加入希望者は、本来保険会社が望まないであろう属性を有する人物らに偏っている可能性がある。

実際には保険会社は、契約者に医師の診断書を求めたり、喫煙歴などの生活習慣などの情報を求めたりし、あるいは保険契約の広告方法又は募集方法それ自体(団体生命保険契約など)を工夫するなどして対応している。

中古車市場における逆選抜 編集
中古車市場では、売り手は車の品質をよく理解しているが、買い手は車を購入するまで車の品質を詳しく調査できない場合が多い。そのため情報優位者である売り手は情報劣位者である買い手の無知につけ込んで、良質な車は手元に置いておき、劣悪な車を売りつけようとする。したがって、中古車市場には劣悪な車ばかりが出回る結果になってしまう。

中古車市場における中古車の品質などの情報は、売り手のみが知りうる情報であり、買い手には知りえない情報であるため、「隠された情報」と呼ばれている。

逆選抜への対策 編集
売り手の所持する情報量が多い場合 編集
売り手の所持する情報量が、買い手の所持する情報量よりも多い場合に発生する逆選抜の問題を回避する方法の一つに、国や地方公共団体・消費者団体などの第三者機関の介入が挙げられる。売り手が提供している財やサービスの品質について、第三者機関が審査・検定を行い、買い手に対して財やサービスの品質を保証する方法である。

劣悪な財やサービスを提供する売り手に対して罰則を課す法や条例を制定したり、良質な財やサービスを提供する売り手に対して税制面の優遇を与える法や条例を制定したりする方法を併せて行うと、財やサービスの品質の確保はより確実になる。

ただし、財やサービスの品質維持に対するインセンティブが売り手にある場合、第三者機関が品質保証に介入する必要はない。例として、信用やブランドなどが売り手の利益に大きく影響する場合が挙げられる。買い手が何度も繰り返し来たり、大量の顧客が企業の名前を信用の基準としている場合、その企業自身に財やサービスと値段の関係を正常に維持するインセンティブがもたらされるため、売り手と買い手との間に信用が形成され、第三者機関が品質保証に介入する必要はなくなる。

買い手の所持する情報量が多い場合 編集
買い手の所持する情報量が売り手の所持する情報量よりも多い場合に発生する逆選抜の問題を回避するためには、売り手が提供する財やサービスの内容や宣伝方法が大きく影響する。保険市場を例に挙げる。

一つに、個人ではなく、企業やサークルなどの団体に対して保険への加入を促す方法がある。個人を中心に加入者を募集すると、早死にする確率の高い人が加入申請する可能性が高くなるが、ひとつの企業やサークルに病気がちな人ばかりが集まっているケースは極めて特殊である。そのため全体の危険度は平均的な水準に落ち着くと予想されるので、保険会社は団体加入を優遇する制度を制定する方法によって、逆選抜の問題を回避できる。場合によっては、法律で加入を義務づけ、選抜そのものを双方に不可能にすることもある。(強制保険)。

もう一つに、保険会社の社員が個々の家庭を訪問して保険への勧誘を行う方法がある。街のいたるところに加入窓口を設けた場合、リスクの高い人が多く訪れてくる可能性が高くなる。情報劣位者である保険会社側が個人の家庭を訪問して回る方法によって、逆選抜の問題を回避できるのである。

関連項目 編集
レモン市場
私的情報
情報の非対称性
モラル・ハザード
参考文献 編集
Learn more出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。
Holt, Charles A. and Roger Sherman (1999年), "Classroom Games: A Market for Lemons," Journal of Economic Perspectives, Winter 1999, 205-214.
Milgrom, Paul and John Roberts (1992年), Economics, Organization and Management, Englewood Cliffs, New Jersey: Prentice Hall.
Rothschild, Michael and Joseph Stiglitz (1976年), "Equlibrium in Competitive Insurance Market: An Essay on the Economics of Imperfect Information," Quarterly Journal of Economics, 80, 629-649.

11:15 午前  

コメントを投稿

<< Home