月曜日, 10月 08, 2018

カレツキ 『ケインズ雇傭と賃銀理論の研究』目次



ケインズ雇傭と賃銀理論の研究 (1944年) – 古書, 1944


書名にカレツキ本人ではなく、ケインズの名があることからカレツキの当時の立ち位置がわかる。
入手困難なので新訳(#1,5は同名論考新訳があるがバージョンが違う)が求められる。

1944年

ケインズ雇傭と賃銀理論の研究 
目次
訳者序
原著者序
第一章 国民所得の分配/1
第二章 投資と所得/28
第三章 貨幣と実質賃銀/60
第四章 逓増危険の原理/79
第五章 長期利子率/89
第六章 景気変動の理論/100
附論 物品税、所得税及び資本税に関する一理論/130
索引/141

CONTENTS 
Part One 
1. The Distribution of the National Income 
2. Investment and Income 
3. Money and Real Wages 
Part Two 
4. The Principle of Increasing Risk 
5. The Long-Term Rate of Interest 
6. A Theory of the Business Cycle 
Index

有名なのは以下の文章、
「投資は, 支出としてみると,繁栄の源泉であり,投資の増加は景気を好転させ,投資を刺激して,さらにそれを増大せしめる.しかし投資は同時に,資本設備の増加であり,したがって,生れたときから,この設備の旧式のものと競争する.投資の悲劇はそれが有用であるという理由から恐慌を生ぜしめる点にある.多くの人たちは,この理論をたしかにパラドクシカルと考えるであろう.しかしパラドクシカルなのは,理論ではない,その主題一資本主義経済一そのものである.」(Essays in the Theory of Economic Fluctuations pp189-9,1939)1937版と同じ最終部。新評論版(『経済変動の理論1958年』)訳者あとがきより孫引き
We see that the question, " What causes the periodical crisis ? " could be answered shortly: the fact that the investment is not only produced but also producing. Investment considered as capitalists' spending is the source of prosperity, and every increase of it improves business and stimulates a further rise of spending for investment. But at the same time investment is an addition to the capital equipment and right from birth it competes with the older generation of this equipment. The tragedy of investment is that it calls forth the crisis because it is useful. I do not wonder that many people consider this theory paradoxical. But it is not the theory which is paradoxical but its subject-the capitalist economy. 
London. MICHAL KALECKI. 

「逓増危険の原理」はケインズとの往復書簡でも争点になった。

ケインズ=カレツキ往復書簡
Keynes=Kalecki Correspondence 1937- 
Correspondence between Keynes and Kalecki 1937,1939,1944 

The Collected Writings of John Maynard Keynes, vol. XII, 1983.
Kalecki "The Principle of Increasing Risk", 1937a, Económica.

他に以下の書籍に、ケインズ=カレツキ往復書簡が原文で掲載されている。

Anticipations of the General Theory?: And Other Essays on Keynes
著者: Don Patinkin
http://www.amazon.co.jp/Anticipations-General-Theory-Essays-Keynes/dp/0226648745/
 ケインズからカレツキへ 
「予想収益に関する危険は,資本の限界効率についての私の定式化においてすでに考慮されています」(Kcynes[1983]p. 793)
「現 在の価格上昇が将来価格についての期待に不相応な(disproportionate)影響を及ぼすであろうというだけでなく,将来価格が〔現在と〕同じ 割合で上昇するであろうと予想される,とあなたは想定しているように思われます.まさに,これは長期期待に対する即時的状態の影響の法外な過度の強調では ないでしょうか」
ケインズ1937年3月30日のカレツキあての手紙,参照:Kalecki[1937a](前述英語版p.98)
「あなたの議論は,アキレスと亀の説明のように私には思われます.あなたは私に,……たとえアキレスが亀に追いつくとしても,それは多くの期間が経過した後にのみであろうと語っているのです」
同年4月12日の手紙(同上,p.798)(前述英語版p.100)


なお、鍋島直樹『ケインズとカレツキ』第7章155~6,198頁で借り手のリスクについて触れた「危険逓増の原理」1937が図解付きで解説されている(同159頁)。
中小企業ほど投資のリスクが大きいから規模の格差は決して解消されないのだ。
(ヒックスは計画期間と利率の関係を考察しただけだったが) 
このあたりの理論はミンスキーに受け継がれる(ミンスキーは最初はケインズからの影響を公言していたが後年はカレツキからの影響を公言するようになる)。
投資量の決定:
(a)伝統的理論(ケインズ):

   投 資 の
  |。  。  限 界
  |       。  効 
  |__________。____ 利子率+リスク率
  |          | 。率
  |b         |
  |          |  。
  |__________|____
  |p         |
  |__________|_____
       k0    k

(b)カレツキ:
  |             。利子率+リスク率
  | 投資の限界効率    。
  |__________。____
  |        。 | 
  |  。  。    |
  |     b    |  
  |__________|____
  |     p    |
  |__________|_____
       k0    k

危険逓増の原理 カレツキ The Principle of Increasing Risk ,Kalecki ,1937
《まず投資規模kは,投資の限界効率MEIが利子率ρと投資に伴なうリスク率σの総和に等しくなる水準に決定されるとカレツキは想定する。そうすると図(a)から容易に理解されるように,伝統的理論においてはkの増大とともにMEIが低下する場合にのみ,一定の最適投資量k0が決定されることになる。一般にこのような下落は(1)大規模化の不経済,(2)不完全競争,によって発生するとされている.しかしカレツキは(1)の理由は非現実的であるとし,(2)についても,より現実的ではあるが,これによっては同時に異なる規模の企業が存在することが説明されないと言う.したがって企業規模の相違を説明する他の要因が存在するはずである.》Kalecki1937


_______
______


(a)伝統的理論(ケインズ):

   投 資 の
  |。  。  限 界
  |       。  効 
  |__________。____
  |          | 。率
  |b         |
  |          |  。
  |__________|____
  |p         |
  |__________|_____
       k0    k

(b)カレツキ:
  |             。
  | 投資の限界効率    。
  |__________。____
  |        。 | 
  |  。  。    |
  |     b    |  
  |__________|____
  |     p    |
  |__________|_____
       k0    k

危険逓増の原理 カレツキ The Principle of Increasing Risk ,Kalecki ,1937


____
カレツキ展望 鍋島直樹論考

__________

(a)伝統的理論(ケインズ):

   投 資 の
  |。  。  限 界
  |       。  効 
  |__________。____ 利子率+リスク率
  |          | 。率
  |b         |
  |          |  。
  |__________|____
  |p         |
  |__________|_____
       k0    k

(b)カレツキ:
  |             。利子率+リスク率
  | 投資の限界効率    。
  |__________。____
  |        。 | 
  |  。  。    |
  |     b    |  
  |__________|____
  |     p    |
  |__________|_____
       k0    k

危険逓増の原理 カレツキ The Principle of Increasing Risk ,Kalecki ,1937
《まず投資規模kは,投資の限界効率MEIが利子率ρと投資に伴なうリスク率σの総和に等しくなる水準に決定されるとカレツキは想定する。そうすると図(a)から容易に理解されるように,伝統的理論においてはkの増大とともにMEIが低下する場合にのみ,一定の最適投資量k0が決定されることになる。一般にこのような下落は(1)大規模化の不経済,(2)不完全競争,によって発生するとされている.しかしカレツキは(1)の理由は非現実的であるとし,(2)についても,より現実的ではあるが,これによっては同時に異なる規模の企業が存在することが説明されないと言う.したがって企業規模の相違を説明する他の要因が存在するはずである.》Kalecki1937


『資本主義経済の動態理論』M・カレツキ 日本経済新聞評論社 1984年
M.カレツキ (著), 浅田統一郎 間宮 陽介
ケインズの主著『雇用、利子および貨幣の一般理論』と比べてみて、本書は簡潔で明晰である。
ケインズのが難解でまた内容が整理されていない(当のケインズが理解していなかったとさえ言われるくらいだ)のに対し、本書は数式を使って意味と論法を明確にし、内容もまとまっている。
そういう意味では、ケインズよりも先に本書を読んだほうがいいかもしれない。
また、ケインズ本が難解で読めない、あるいは時間がないという人には、本書を読んでいただきたい。


第I部冒頭の「景気循環理論概説」(1933年)がケインズに先駆けて有効需要の理論を打ち立てたとされる画期的論文。


目次
序文
第 I 部
第1章 景気循環理論概説 3
第2章 外国貿易と「国内輸出」について 16
第3章 景気上昇のメカニズム  26
第4章 商品税,所得税および資本税の理論  34

第II部
第5章 費用と価恪  45
第6章 国民所得の分配 64
第7章 利潤の决定要因  79
第8章 国民所得の決定と消費の決定 94
第9章 企業者資本と投資 106
第10章 投資の決定要因 111
第11章 景気循環  125

第lll部
第12章 完全雇用の政治的側面  141
第13章 ツガン-パラノフスキーとローザ・ルクセンブルグにおける有効需要の問題 148
第14章 階級闘争と国民所得の分配 158
第15章 趨勢と景気循環 167
統計付録 186
訳註 195
カレツキからポスト・ケインジアンへのマクロ分配理論の系譜
--訳者解説に代えて-- 209
索引 227

___

○1958年の新評論版邦訳『経済変動の理論』(原著1954年,Theory of Economic Dynamics ) 
宮崎義一、伊東光晴訳
(x資本主義経済の動態理論 (ポスト・ケインジアン叢書 (6)) 単行本 – 1984/12ではない)

アマゾンレビューより:
ケインズより先に有効需要の原理を見つけた男
投稿者 θ トップ1000レビュアー 投稿日 2008/3/31

有効需要の原理といえば誰もがケインズを思い浮かべるだろう。
だが、ケインズよりはやく有効需要の原理を見つけたのが、このカレツキなのだ。

ケインズの主著『雇用、利子および貨幣の一般理論』と比べてみて、本書は簡潔で明晰である。
ケインズのが難解でまた内容が整理されていない(当のケインズが理解していなかったとさえ言われるくらいだ)のに対し、本書は数式を使って意味と論法を明確にし、内容もまとまっている。
そういう意味では、ケインズよりも先に本書を読んだほうがいいかもしれない。
また、ケインズ本が難解で読めない、あるいは時間がないという人には、本書を読んでいただきたい。

本書は、前半が利潤、所得、投資といった内容で、ケインズと重複するところが多い。
後半は、経済変動の循環の話であり、これもまた興味深い。

最後に目次を記しておく

第1部 独占度と所得の分配
費用と価格@☆
国民所得の分配@

第2部 利潤の決定と国民所得の決定
利潤の決定要因@
利潤と投資
国民所得の決定と消費の決定

第3部 利子率
短期利子率
長期利子率

第4部 投資の決定
企業者資本と投資@
投資の決定要因@
統計的説明

第5部 景気循環
景気循環(のメカニズム)@
統計的説明
景気循環と衝撃

第6部 長期経済発展
経済発展の過程
発展要因

@が日本経済評論社版に新訳で再録。
☆「費用と価格」で45°線分析が使われているがカレツキの使用は1937年からで、英語圏では最初期。
Ivar Jantzen 1939 「45度線分析」の創始者
http://nam-students.blogspot.jp/2016/03/ivar-jantzen-1939.html
NAMs出版プロジェクト: ケインジアンの交差図
http://nam-students.blogspot.jp/2015/03/blog-post_12.html

Kalecki, Michal, "A Theory of the BusinessCycle." Review of Economic Studies, Vol. 4, No.2, February 1937, pp. 77-97, revised and reprintedin [14], pp. 116-49.

4 Comments:

Blogger yoji said...

#1
1 It may be asked how is it possible for surplus capacity to exist in the long-run equilibrium without inducing firms to curtail their plant. The answer is that large-scale economies prevent the firms from reducing their plant below a certain limit, a state of affairs described by those writers who have shown that imperfect competition must cause equipment in the long run to be used below the “optimum point.” See, e.g., R. F. Harrod, “Doctrines of Imperfect Competition,” The Quarterly Journal of Economics, May 1934. 1 National Income and Outlay, p. 231. 1 National Income and Outlay, pp. 235 and 204. 1 National Income and its Purchasing Power, pp. 74 and 77. 1 The Trade Cycle, pp. 86–87.

1:46 午後  
Blogger yoji said...

しかし乍ら、より複雑なのは景気焚動における獨占度合に開する問題である。これに開して最近ハロツドは獨占度合はブームには捨大し、 スランプには減少すると主張した。印ち、スランプには沿費者は一‐彼等の常脅的快葉を切詰めることを憤り乍らも耐待する。‥  彼等の廉慣を追ふ意向は各々高まるばかりである。如何なる商業含祗と雖もその販責政策に及ぼされてくるかゝる影響から免れることは不可能であらう。のみなら十彼等は或る種の不快衝動を(註じ受け、そして諸費用を制減すべく全神経を緊張させるに違ひない」。かくて、市場の不完全性は減少され、従つてまた獨占度合も減少されるのである。”ハロッド氏はまた反封方向において獨占度合に影響を及ぼす他の諸要因の存在することも正営に言はれてゐる。例へば、カルテルは利潤を擁護するために結成され、こ而してそれは勿論獨占度合を増大せしめるが、しかし景気が恢復した時にはこれらカルテルは解散される。なぜならば、獨立活動の可能性が捨大し、また局外者が出現するからである。なほ一

1:54 午後  
Blogger yoji said...

結言

 本論で到達された諸結果はより一般的な局面を持つたもつでぁる。獨占度合が図民所得の分配を決定する世界は自由競争の模型から最も遠ぎかつた世界である。獨占こそ資本主義経済の本質に深く根ぎしたものであるやうに思はれる。印ち、自由‐競争は、 一仮定として、或る研究の初段階においては有効ではあろうが、しかし資本主義経済の正常状態の記述としては草なる瀞話に過ぎないものである。

2:01 午後  
Blogger yoji said...

西洋経済古書収集ーカレツキー,『経済動学研究』
http://www.eonet.ne.jp/~bookman/kikouhonn/kalecki.htm

西洋経済古書収集ーカレツキー,『経済動学研究』


KALECKI, M., Studies in Economic Dynamics , George Allen & Unwin Ltd., 1943, 19cm , pp.92

 カレツキー『経済動学研究』初版。
 ポーランドの経済学者で『一般理論』の同時発見者ともされるミハウ・カレツキは、マクロとミクロを結びつけた資本主義経済に関する大きな本を3冊書いている。”Essays in Theory of Economy Fluctuations, 1939” 、“Studies in Economic Dynamics, 1943”および “Theory of Economic Dynamics, 1954”である。
 発行順でその中間に発行された本書は、”Essays” から“Theory”へ完成度を高めて行く中間段階の著作として大きな評価がなされていない(宮崎義一『近代経済学の史的展開』およびP.クライスラー 金尾敏寛他訳『カレツキと現代経済』等)せいか、翻訳もなされていない。

 本書は、古書市場にも出て来ず、大学図書館の所蔵も少なく私製本が目録に載っているくらいだから稀覯本であろう。長らく探求書であった。このたび入手してみると、戦時経済統制下に発行された簡素な本であった。”BOOK PRODUCTION WAR ECONOMY STANDARD”とマークが標題紙裏に印刷されている。発行部数も少ない上、粗末な装丁のため保存されるのも少なかったと思える。
 ちなみに、”Essays”の翻訳本の題名は『ケインズ雇傭と賃銀理論の研究』となっており、戦争文化研究所が昭和19年に発行したもの。こちらも、完全な戦時仕様である。題名がケインズ云々となっているのは、「カレツキはケインズの同工異曲であると誤解され・・・彼の経済思想が十分評価されるようになったのは、つい最近のことなのである。」(ブローグ 中矢訳『ケインズ以後の100大経済学者』)事情によるのであろう。

写真左が”Fluctuations”の翻訳書、右が本書


標題紙(拡大可能)

(H16.12.記. H21.5.12写真追加)



稀書自慢 西洋経済古書収集 copyright ⓒbookman

5:15 午前  

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