土曜日, 8月 27, 2016

CAPM 資本資産価格モデル - Wikipedia

資本資産価格モデル

資本資産価格モデル(しほんしさんかかくモデル、Capital Asset Pricing Model, CAPM、シーエーピーエム、キャップエム)とは、金融資産の期待収益率のクロスセクション構造を記述するモデル。1960年代ウィリアム・シャープ[1]John Lintner英語版[2]Jan Mossin英語版[3]により独立に発表された[4]。CAPMの下では金融資産の期待収益率の共変動[5]市場ポートフォリオ(時価総額加重平均型株価指数)の期待収益率の変動で説明される。後述のようにCAPMに代替する資産価格モデルも多数登場しているが、金融経済学において最も基本的な資産価格モデルの一つであり、CAPMによって定式化された概念は学術研究のみならず金融実務や個人投資の手法等にも広く浸透している。特にウィリアム・シャープはCAPMの導出も含めた資産価格理論研究への貢献により1990年ノーベル経済学賞を受賞している。

目次




概要編集

CAPMによれば、金融市場における任意の金融資産 iiの期待収益率(期待リターン) ERiE[R_{{i}}]は次の式を満たす[6]

ERirfβimERmrfE[R_{{i}}]-r_{{\mathrm  {f}}}=\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}{\Big (}E[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}{\Big )}

ここで

  • ERiE[R_{{i}}]は資産の期待収益率
  • rfr_{{\mathrm  {f}}}は安全資産の利子率
  • ERmE[R_{{{\mathrm  {m}}}}]市場ポートフォリオと呼ばれる金融市場に存在する全てのリスクのある金融資産の時価総額加重平均ポートフォリオの期待収益率
  • 市場ポートフォリオの期待収益率と安全資産の利子率の差 ERmrfE[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}マーケットリスクプレミアムと呼ばれる。
  • βim\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}はマーケットリスクプレミアムに対する資産 iiリスクプレミアムの感応度であり、βimCovRiRmVarRm\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}={\mathrm  {Cov}}(R_{i},R_{{\mathrm  {m}}})/{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})を満たす。ただし、CovRiRm{\mathrm  {Cov}}(R_{i},R_{{\mathrm  {m}}})は資産 iiの収益率 RiR_{{i}}と市場ポートフォリオの収益率 RmR_{{\mathrm  {m}}}共分散で、VarRm{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})は市場ポートフォリオの収益率の分散である。この βim\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}のことを資産 iiベータ(beta)と呼ぶ。

この式の導出については、CAPMの導出を参照。CAPMの下では全ての金融資産のリスクプレミアムが共通ファクターである市場ポートフォリオのリスクプレミアムと、それに対する各資産固有の感応度であるベータの積で表されることから、金融資産の期待収益率のクロスセクション構造が完全に決定されている。CAPMにより理論上のリスクプレミアムが評価できることから、金融資産の(CAPM上での)適正価格を導くことができ、適正な資産価格の一つの基準として利用することが出来る。

歴史編集

CAPMは現代ポートフォリオ理論の最大の理論的成果と言える。1952年ハリー・マーコウィッツが考案した平均分散分析(mean-variance analysis)と呼ばれる完全市場の下でのポートフォリオ選択理論[7]金融経済学数理ファイナンスといったファイナンス理論の端緒となる研究であった。1950年代以前のファイナンスと言えば銀行などの金融仲介機関についての研究が主であった中でのマーコウィッツの研究はあまりに革新的で、彼がシカゴ大学からの経済学博士号を受け取るのに苦労したという逸話が残されているほどである[8]。その後、平均分散分析と期待効用最大化の関係がジェームス・トービンによって検討され[9][10]分離定理(separation theorem)と呼ばれる、ある特定の平均分散的に効率的なポートフォリオ(接点ポートフォリオ)と安全資産への投資比率を変化させるだけで効率的フロンティアを再現できるという定理が示された。このような中で、マーコウィッツによって創始された平均分散分析に基づき、ミクロ経済学一般均衡としての理論的基礎を持ったモデルとして登場したのがCAPMである。

CAPMは学術的にも実務的にも広く受け入れられ、金融資産、特に株式の期待収益率のクロスセクション構造を記述するスタンダードモデルの一つとしての地位を獲得した。後述のように代替モデルも多数登場しているが、2015年現在において未だにCAPMで現れた概念は幅広く用いられている。実際、証券会社などの情報サービスで各社が推定した株式のベータが参照できる場合が多い。特にハリー・マーコウィッツウィリアム・シャープはこれらの資産選択理論についての貢献により1990年ノーベル経済学賞を受賞した。

理論編集

CAPMの導出編集

CAPMの導出について述べる。以下の記述は池田 (2000)Dybvig and Ross (2003)に基づく。まずCAPMが成立する為に必要な仮定として以下の4点があげられる。

  1. 全ての投資家は平均分散分析によりポートフォリオを選択する。
  2. 全ての投資家は全ての金融資産の収益率の平均と分散について同一の予想を持つ。
  3. 金融市場が完全市場である。
  4. 安全資産が存在する。

第一の仮定が成立する為には全ての金融資産の収益率の同時分布が正規分布であるか、もしくは全ての投資家の期待効用関数が2次関数の形式を取っているかのいずれか[11]と全ての投資家がリスク回避的であることが成り立たねばならない。

ここで金融市場には nn個のリスク資産と利子率 rfr_{{\mathrm  {f}}}の安全資産、そして JJ人の投資家が存在するとしよう。任意のリスク資産 iiについてその収益率を RiR_{{i}}とすると、第 jj投資家の期待効用を最大化する平均分散的に効率的なリスク資産への投資比率ポートフォリオ ϕiji1n\phi _{{i}}^{{j}},i=1,\dots ,n[12]次の連立方程式の解となる。

ERirfλjCovR1Riϕ1jCovRnRiϕnjλjk1nCovRkRiϕkji1nE[R_{{i}}]-r_{{\mathrm  {f}}}=\lambda ^{{j}}{\Big (}{\mathrm  {Cov}}(R_{{1}},R_{{i}})\phi _{{1}}^{{j}}+\cdots +{\mathrm  {Cov}}(R_{{n}},R_{{i}})\phi _{{n}}^{{j}}{\Big )}=\lambda ^{{j}}\sum _{{k=1}}^{n}{\mathrm  {Cov}}(R_{{k}},R_{{i}})\phi _{{k}}^{{j}},\quad i=1,\dots ,n

ここで λj\lambda ^{{j}}は0ではない各投資家に固有の係数である。リスク資産 iiの時価総額を ViV_{{i}}とし、投資家 jjの初期資産を WjW^{j}とすれば、需給一致の条件から

Vij1JWjϕiji1nV_{{i}}=\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}\phi _{{i}}^{{j}},\quad i=1,\dots ,n

となる。よって金融市場の全てのリスク資産の時価総額加重平均ポートフォリオは

ϕimVil1nVlj1JWjϕijl1nj1JWjϕlji1n\phi _{{i}}^{{\mathrm  {m}}}={\frac  {V_{{i}}}{\sum _{{l=1}}^{{n}}V_{{l}}}}={\frac  {\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}\phi _{{i}}^{{j}}}{\sum _{{l=1}}^{{n}}\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}\phi _{{l}}^{{j}}}},\quad i=1,\dots ,n

と表せる[13]。よって任意の i1ni=1,\dots,nについて

k1nCovRkRiϕkmj1JWjk1nCovRkRiϕkjl1nj1JWjϕljj1JWjλjl1nj1JWjϕljERirf\sum _{{k=1}}^{n}{\mathrm  {Cov}}(R_{{k}},R_{{i}})\phi _{{k}}^{{\mathrm  {m}}}={\frac  {\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}\sum _{{k=1}}^{n}{\mathrm  {Cov}}(R_{{k}},R_{{i}})\phi _{{k}}^{{j}}}{\sum _{{l=1}}^{{n}}\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}\phi _{{l}}^{{j}}}}={\frac  {\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}/\lambda ^{{j}}}{\sum _{{l=1}}^{{n}}\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}\phi _{{l}}^{{j}}}}{\Big (}E[R_{{i}}]-r_{{\mathrm  {f}}}{\Big )}

となる。つまり任意の iiについて

ERirfλmk1nCovRkRiϕkmλmCovRmRiE[R_{{i}}]-r_{{\mathrm  {f}}}=\lambda ^{{\mathrm  {m}}}\sum _{{k=1}}^{n}{\mathrm  {Cov}}(R_{{k}},R_{{i}})\phi _{{k}}^{{\mathrm  {m}}}=\lambda ^{{\mathrm  {m}}}{\mathrm  {Cov}}(R_{{\mathrm  {m}}},R_{{i}})

が成り立つ。ただし

λml1nj1JWjϕljj1JWjλj\lambda ^{{\mathrm  {m}}}={\frac  {\sum _{{l=1}}^{{n}}\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}\phi _{{l}}^{{j}}}{\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}/\lambda ^{{j}}}}

である。ここでマーケットリスクプレミアムは

ERmrfi1nERirfϕimλmi1nCovRmRiϕimλmVarRmE[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}=\sum _{{i=1}}^{{n}}{\Big (}E[R_{{i}}]-r_{{\mathrm  {f}}}{\Big )}\phi _{{i}}^{{\mathrm  {m}}}=\lambda ^{{\mathrm  {m}}}\sum _{{i=1}}^{{n}}{\mathrm  {Cov}}(R_{{\mathrm  {m}}},R_{{i}})\phi _{{i}}^{{\mathrm  {m}}}=\lambda ^{{\mathrm  {m}}}{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})

となる。よって

λmERmrfVarRm\lambda ^{{\mathrm  {m}}}={\frac  {E[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}}{{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})}}

となる。したがって任意の iiについて

ERirfCovRiRmVarRmERmrfβimERmrfE[R_{{i}}]-r_{{\mathrm  {f}}}={\frac  {{\mathrm  {Cov}}(R_{{i}},R_{{\mathrm  {m}}})}{{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})}}{\Big (}E[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}{\Big )}=\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}{\Big (}E[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}{\Big )}

が成立する。この式はまさしくCAPMである。

市場ポートフォリオと接点ポートフォリオ編集

CAPMが成立するならば、市場ポートフォリオと接点ポートフォリオは一致する。接点ポートフォリオを ϕiTi1n\phi _{{i}}^{{\mathrm  {T}}},i=1,\dots ,nとすると、ジェームズ・トービンの分離定理より任意の投資家 jjの期待効用を最大化するリスク資産へのポートフォリオ ϕiji1n\phi _{{i}}^{{j}},i=1,\dots ,nはある実数 γj\gamma ^{{j}}を用いて

ϕijγjϕiTi1n\phi _{{i}}^{{j}}=\gamma ^{{j}}\phi _{{i}}^{{\mathrm  {T}}},i=1,\dots ,n

と表せる。よってリスク資産 iiの時価総額を ViV_{{i}}とし、投資家 jjの初期資産を WjW^{{j}}とすれば需給一致の条件から任意の iiについて

Vij1JWjϕijj1JWjγjϕiTδϕiTδj1JWjγjV_{{i}}=\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}\phi _{{i}}^{{j}}=\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}\gamma ^{{j}}\phi _{{i}}^{{\mathrm  {T}}}=\delta \phi _{{i}}^{{\mathrm  {T}}},\quad \delta =\sum _{{j=1}}^{{J}}W^{{j}}\gamma ^{{j}}

と表せる[14]。したがってリスク資産の時価総額加重平均ポートフォリオ ϕimi1n\phi _{{i}}^{{\mathrm  {m}}},i=1,\dots ,nは、i1nϕiT1\sum _{{i=1}}^{{n}}\phi _{{i}}^{{\mathrm  {T}}}=1に注意すれば、

ϕimVil1nVlδϕiTl1nδϕlTϕiT\phi _{{i}}^{{\mathrm  {m}}}={\frac  {V_{{i}}}{\sum _{{l=1}}^{{n}}V_{{l}}}}={\frac  {\delta \phi _{{i}}^{{\mathrm  {T}}}}{\sum _{{l=1}}^{{n}}\delta \phi _{{l}}^{{\mathrm  {T}}}}}=\phi _{{i}}^{{\mathrm  {T}}}

となり、確かに接点ポートフォリオと一致する。

線形性編集

CAPMのベータには一種の線形性がある。金融資産 i1ni=1,\dots,nについて、資金を ϕii1n\phi _{{i}},i=1,\dots ,nの比率で投資するポートフォリオを考える[15]。するとこのポートフォリオの収益率 RpR_{{p}}は金融資産 iiの収益率を RiR_{{i}}とすれば、以下の式で表される。

Rpi1nRiϕiR_{{p}}=\sum _{{i=1}}^{{n}}R_{{i}}\phi _{{i}}

この時、CAPMが成立しているならば、このポートフォリオの期待収益率 ERpE[R_{{p}}]について次のような変形が可能である。

ERpi1nERiϕii1nrfβimERmrfϕirfβpmERmrfE[R_{{p}}]=\sum _{{i=1}}^{{n}}E[R_{{i}}]\phi _{{i}}=\sum _{{i=1}}^{{n}}{\Big (}r_{{\mathrm  {f}}}+\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}{\Big (}E[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}{\Big )}{\Big )}\phi _{{i}}=r_{{\mathrm  {f}}}+\beta _{{p{\mathrm  {m}}}}{\Big (}E[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}{\Big )}

ただし、

βpmi1nβimϕii1nCovRiRmVarRmϕiCovi1nRiϕiRmVarRmCovRpRmVarRm\beta _{{p{\mathrm  {m}}}}=\sum _{{i=1}}^{{n}}\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}\phi _{{i}}=\sum _{{i=1}}^{{n}}{\frac  {{\mathrm  {Cov}}(R_{i},R_{{\mathrm  {m}}})}{{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})}}\phi _{{i}}={\frac  {{\mathrm  {Cov}}(\sum _{{i=1}}^{{n}}R_{i}\phi _{{i}},R_{{\mathrm  {m}}})}{{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})}}={\frac  {{\mathrm  {Cov}}(R_{{p}},R_{{\mathrm  {m}}})}{{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})}}

である。よってまとめると

ERprfβpmERmrfβpmCovRpRmVarRmi1nβimϕiE[R_{{p}}]-r_{{\mathrm  {f}}}=\beta _{{p{\mathrm  {m}}}}{\Big (}E[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}{\Big )},\quad \beta _{{p{\mathrm  {m}}}}={\frac  {{\mathrm  {Cov}}(R_{{p}},R_{{\mathrm  {m}}})}{{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})}}=\sum _{{i=1}}^{{n}}\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}\phi _{{i}}

が成り立つ。この結果は以下で述べる極めて実用的なインプリケーションを持つ。CAPMの線形性を用いれば、個別株式のベータやポートフォリオの投資比率を特定することなく、ポートフォリオ全体のパフォーマンス(ポートフォリオのリスクプレミアム)を測定することが出来る。よって投資信託などのファンドが報告している収益率実績などからそのファンド(のポートフォリオ)のベータを推定することが可能になる。つまりファンドがCAPMから逸脱した収益を上げているかどうかを限られたデータから調べることが可能になる。この観点に基づきマイケル・ジェンセン英語版ジェンセンのアルファと呼ばれる指標を用いて株式の投資信託のパフォーマンスを統計的に検証した論文を1968年に発表している[16]

シャープ・レシオ編集

CAPMの下でウィリアム・シャープが提案した投資の効率性を測る指標であるシャープ・レシオ[17]について以下で述べるような関係が成立する。金融資産 iiの収益率を RiR_{{i}}とすれば、そのシャープ・レシオ SiS_{{i}}

SiERirfVarRiS_{{i}}={\frac  {E[R_{{i}}]-r_{{\mathrm  {f}}}}{{\sqrt  {{\mathrm  {Var}}(R_{{i}})}}}}

で定義される。この時、資産 iiの収益率と市場ポートフォリオの収益率 RmR_{{\mathrm  {m}}}相関係数ρim\rho _{{i{\mathrm  {m}}}}は次で定義される。

ρimCovRiRmVarRiVarRm\rho _{{i{\mathrm  {m}}}}={\frac  {{\mathrm  {Cov}}(R_{{i}},R_{{{\mathrm  {m}}}})}{{\sqrt  {{\mathrm  {Var}}(R_{{i}}){\mathrm  {Var}}(R_{{{\mathrm  {m}}}})}}}}

よってCAPMが成立しているならば、資産 iiのシャープ・レシオについて以下の等式が成立する。

SiERirfVarRiβimVarRiERmrfCovRiRmVarRmVarRiERmrfρimERmrfVarRmρimSmS_{{i}}={\frac  {E[R_{{i}}]-r_{{\mathrm  {f}}}}{{\sqrt  {{\mathrm  {Var}}(R_{{i}})}}}}={\frac  {\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}}{{\sqrt  {{\mathrm  {Var}}(R_{{i}})}}}}{\Big (}E[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}{\Big )}={\frac  {{\mathrm  {Cov}}(R_{i},R_{{\mathrm  {m}}})}{{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}}){\sqrt  {{\mathrm  {Var}}(R_{{i}})}}}}{\Big (}E[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}{\Big )}=\rho _{{i{\mathrm  {m}}}}{\frac  {E[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {f}}}}{{\sqrt  {{\mathrm  {Var}}(R_{{{\mathrm  {m}}}})}}}}=\rho _{{i{\mathrm  {m}}}}S_{{{\mathrm  {m}}}}

ここで、SmS_{{{\mathrm  {m}}}}は市場ポートフォリオのシャープ・レシオである。相関係数 ρim\rho _{{i{\mathrm  {m}}}}は-1から1までの値しか取らないので、市場ポートフォリオのシャープ・レシオ(つまり市場ポートフォリオのリスクプレミアム)が正ならば個別資産のシャープ・レシオは必ず市場ポートフォリオのシャープ・レシオを下回ることが言える。リスクプレミアムの項で説明されているように、リスクプレミアムは通常、正であるので次の不等式が成り立つ。

SiSmS_{{i}}\leq S_{{{\mathrm  {m}}}}

CAPMの線形性と合わせて考えると、CAPMの下ではどのようなポートフォリオを考えたとしても、市場ポートフォリオよりシャープ・レシオの観点で効率的なポートフォリオは組成できないことが言える。市場ポートフォリオは時価総額加重平均ポートフォリオなので、S&P500などの時価総額加重平均型株価指数と同一視できる。よってインデックス運用と呼ばれる市場インデックス連動型の運用方針が用いられる理論的背景として、このようなシャープ・レシオによる説明が可能である。

システマティック・リスクと個別リスク編集

金融資産 iiの収益率を RiR_{{i}}として次の変数 ϵi\epsilon _{{i}}を定義する。

ϵiRirfβimRmrf\epsilon _{{i}}=R_{{i}}-{\Big (}r_{{\mathrm  {f}}}+\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}{\Big (}R_{{\mathrm  {m}}}-r_{{\mathrm  {f}}}{\Big )}{\Big )}

この時、ϵi\epsilon _{{i}}と RmR_{{\mathrm  {m}}}の共分散は0である。実際、

CovϵiRmCovRiRmβimVarRmCovRiRmCovRiRmVarRmVarRm0{\mathrm  {Cov}}(\epsilon _{{i}},R_{{\mathrm  {m}}})={\mathrm  {Cov}}(R_{{i}},R_{{\mathrm  {m}}})-\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})={\mathrm  {Cov}}(R_{{i}},R_{{\mathrm  {m}}})-{\frac  {{\mathrm  {Cov}}(R_{i},R_{{\mathrm  {m}}})}{{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})}}{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})=0

となる。よって RiR_{{i}}の分散は

VarRiβim2VarRmVarϵi{\mathrm  {Var}}(R_{{i}})=\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}^{2}{\mathrm  {Var}}(R_{{\mathrm  {m}}})+{\mathrm  {Var}}(\epsilon _{{i}})

と二つの要因に分割できる。右辺第1項をシステマティック・リスク(systematic risk)と呼び、第2項を個別リスク(idiosyncratic risk)と言う。CAPMの線形性からこの関係はポートフォリオの収益率の分散にも成り立つ。ポートフォリオが市場ポートフォリオに近づけば個別リスクは小さくなるので、分散投資の重要性についての言及はこの結果を前提としている場合が多い。

資本市場線編集

CAPMにおける資本市場線

リスク・リターン平面において、安全資産の位置する点と市場ポートフォリオの位置する点を結んだ直線を資本市場線(capital market line)と呼ぶ。CAPMが成立しているならば、全ての投資家の選ぶポートフォリオは必ず資本市場線上にある。

右の図は資本市場線を表したもので、黒い線が資本市場線であり、青い線がリスク資産のみからなる効率的フロンティアである。図における rfr_{{\mathrm  {f}}}が安全資産の金利を表し、market portfolio が市場ポートフォリオの位置を表している。つまりmarket portfolio の点におけるX座標が市場ポートフォリオの収益率の標準偏差で、Y座標が市場ポートフォリオの期待収益率となっている。

もし投資家の選んだポートフォリオが資本市場線上において市場ポートフォリオの点より左側にあれば、その投資家は安全資産と市場ポートフォリオを共に正の割合で保持していることになる。図におけるlending portfolio の点がそのようなポートフォリオになる。逆に資本市場線上において投資家の選んだポートフォリオが市場ポートフォリオの点より右側にあれば、安全資産を空売り、つまり借り入れを行って自己の所有資産以上の金額の市場ポートフォリオを購入していることになる。よってその場合は投資にレバレッジがかかっていることになる。図におけるleveraged portfolio の点がそのようなポートフォリオになる。

さらに資本市場線の傾きは市場ポートフォリオのシャープ・レシオとなっている。

証券市場線編集

CAPMにおける証券市場線

X軸にCAPMのベータ、Y軸に期待収益率を取った座標平面をベータ・リターン平面という。ベータ・リターン平面において、切片を安全資産の金利とし、ベータが1で期待収益率が市場ポートフォリオの期待収益率である点を通る直線を証券市場線(security market line)と言う。CAPMが成立しているならば、あらゆる金融資産とあらゆるポートフォリオはベータ・リターン平面上で必ず証券市場線上に位置する。

右の図は証券市場線を図示したものである。図においてa portfolio outperforming the marketと記されている点はCAPMにおける理論値より高い期待収益率となったポートフォリオのベータ・リターン平面上での点で、a portfolio underperforming the marketと記されている点はCAPMにおける理論値より低い収益率となったポートフォリオのベータ・リターン平面上の点である。各ポートフォリオの位置する点を通り、切片を安全資産の金利とする直線(青い点線)の傾きはそれぞれのポートフォリオのトレイナーの測度と一致する。また各ポートフォリオの位置する点から証券市場線への差(赤い点線)はそれぞれのポートフォリオのジェンセンのアルファと一致する。

証券市場線に位置する点のトレイナーの測度はマーケットリスクプレミアムであり、ジェンセンのアルファは0であることから、これら2つの指標が理論値から異なるということはCAPMからの逸脱を表していると言える。また個別の金融資産で考えた場合、ベータ・リターン平面において証券市場線より上に位置する資産はCAPMにおける理論値より割安に値付けられていて、証券市場線より下に位置する資産は割高に値付けられていることも言える。

ゼロベータCAPM編集

CAPMにおけるゼロベータポートフォリオ。図中のmarket portfolioが市場ポートフォリオ、zero-beta portfolioがゼロベータポートフォリオのリスク・リターン平面上での座標である。minimum variance flontier of risky assetsはリスク資産のみからなる最小分散フロンティアである。

CAPMには安全資産の存在が仮定されている。しかし1972年フィッシャー・ブラックは安全資産の存在を仮定しないCAPMとしてゼロベータCAPM(zero-beta CAPM)を導出した論文を発表した[18]。ゼロベータCAPMの下で金融市場における任意の金融資産 iiの期待収益率 ERiE[R_{{i}}]は次の式を満たす[19]

ERirzβimERmrzE[R_{{i}}]-r_{{\mathrm  {z}}}=\beta _{{i{\mathrm  {m}}}}{\Big (}E[R_{{\mathrm  {m}}}]-r_{{\mathrm  {z}}}{\Big )}

ここで rzr_{{\mathrm  {z}}}はゼロベータポートフォリオと呼ばれるポートフォリオの期待収益率で、その他の変数は前述のCAPMの式と同じものである。ゼロベータポートフォリオは以下のようにして作成される。まず市場ポートフォリオはリスク・リターン平面上において(リスク資産のみからなる)効率的フロンティア上にある。そこで市場ポートフォリオの点において効率的フロンティアの接線を引き、Y軸(リターン方向の軸)との交点を取る。その交点から水平線を引き、リスク資産の最小分散フロンティアとの交点を取る。するとこの水平線と最小分散フロンティアの交点上にあるポートフォリオがゼロベータポートフォリオとなる。

ゼロベータCAPMが生まれた背景としてフィッシャー・ブラックマイケル・ジェンセン英語版マイロン・ショールズによる研究[20]がある。フィッシャー・ブラックがゼロベータCAPMを導出した論文中に述べられていることだが、彼ら3人の実証研究においてCAPMが一部成立しない結果が得られた。ベータが高い株式で組まれたポートフォリオの期待収益率は理論的な値より低くなり、逆にベータが低い株式で組まれたポートフォリオの期待収益率は理論的な値より高くなったのである。そこでベータがゼロとなるポートフォリオ(上のゼロベータポートフォリオ)を考え、市場ポートフォリオとゼロベータポートフォリオのリスクプレミアムによる2ファクターモデルを用いて推定を行った所、結果が改善する傾向が見られた。このような実証的結果の一つの説明として、安全資産を用いた資金の貸し借りが不可能なのではないか、という推論に至ったことによる[18]

CAPMへの批判と新たな資産価格モデルの発展編集

実証研究においてCAPMは1970年代前半まではその成立について肯定的な結果が得られていた[16][21]。しかし1970年代後半からCAPMに対する様々な批判や問題点が提起された。それはCAPMの理論的な問題点に関するStephen Ross英語版の指摘[22]や、CAPMについての実証研究が持つ問題点に対するRichard Roll英語版の指摘[23]、そしてCAPMでは説明できないアノマリーの発見などである。

Stephen Ross英語版はCAPMが成立するための仮定が非常に限定的であるとして、新しい資産価格モデルとして裁定価格理論を提案した。CAPMが成立するためには完全市場の仮定の他に、投資家の選好が平均分散分析と整合的である必要がある。つまり市場に参加している全ての投資家は平均分散分析によりポートフォリオを選択しなくてはならない。しかし、これが成立するための理論的な仮定は、全ての金融資産の収益率の同時分布が正規分布であるか、もしくは全ての投資家の期待効用関数が2次関数の形式を取ることである。それは非現実的であるので、それらの仮定に依拠しない資産価格理論として裁定価格理論を提案したのである[22]

他方、Richard Roll英語版は既存のCAPMについての実証研究が持つ問題点をいくつか提起した。特に有名なものとして、市場ポートフォリオについての批判がある。CAPMは全ての金融資産について成立するものなので、市場ポートフォリオも全ての金融資産の時価総額加重平均ポートフォリオでなくてはならない。しかし既存の実証研究は株式に対するものが主で、市場ポートフォリオも全ての株式に対する時価総額加重平均ポートフォリオが用いられてきた。その意味で株式しか考慮に入っていない市場ポートフォリオを用いた結果の妥当性を判断するのは難しい。よって市場ポートフォリオは株式以外にも債券不動産、そして人的資本への投資などを含めた時価総額加重平均ポートフォリオであるべきであるという主張になる[23]

そしてより深刻な指摘としてCAPMでは説明できないアノマリーの存在がある。このようなアノマリーの例として時価総額が小さい株式の方が高い期待リターンを得られるという小型株効果[24]や、簿価時価比率(PBR逆数)が高い割安株の方が高い期待リターンを得られるというバリュー株効果などがある[25][26][27]

そこでユージン・ファーマケネス・フレンチ英語版は米国株式市場におけるクロスセクション分析を行い、時価総額、簿価時価比率、レバレッジ比率、E/P(PERの逆数)の当時認識されていた4つのアノマリー要因は時価総額と簿価時価比率の2つに集約されることを統計的に実証した論文を1992年に発表した[28]。そしてさらにこの論文中において、時価総額と簿価時価比率でコントロールを行えば、市場ポートフォリオのリスクプレミアムが持つ個別株式のリスクプレミアムへの説明力がほとんど失われることを統計的に実証した。つまりCAPMは、少なくとも米国株式市場においては、成立していないとの結果である。当該論文の発表当時、ユージン・ファーマは効率的市場仮説の確立などで既に学術的に名声を得ており、さらにCAPMを擁護する論文[21]をかつて発表していたことから、この論文は大きなインパクトを持って受け止められた。特にフィッシャー・ブラックはファーマとフレンチの結果に対して懐疑的な視点を示している[29]。しかし、1993年にユージン・ファーマとケネス・フレンチが発表した資産価格モデルであるファーマ=フレンチの3ファクターモデル[30]はポストCAPMとしての地位を確立し、新たなスタンダードモデルとなった[31]

脚注編集

  1. ^ Sharpe (1964)
  2. ^ Lintner (1965)
  3. ^ Mossin (1966)
  4. ^ Jack Treynor英語版はこの3名より先行して独立にCAPMの導出に至っていたことが知られている(Treynor (1961)Treynor (1962))。しかしTreynor の研究成果は学術誌で出版されなかったので、CAPMの導出についてはこの3名の業績が上げられる場合が多い。
  5. ^ 異なる金融資産のリターンの変動が同一の傾向を示すこと。
  6. ^ 池田 (2000), 81p
  7. ^ Markowitz (1952)
  8. ^ Handbook of the Economics of Finance 1 (2003), Preface ix.
  9. ^ Tobin (1958)
  10. ^ 池田 (2000), 54p
  11. ^ 後者のみが成立する時に、全ての金融資産の収益率が二乗可積分であることも当然必要になる。
  12. ^ 安全資産への投資比率は 1i1nϕij1-\sum _{{i=1}}^{{n}}\phi _{{i}}^{{j}}となる。
  13. ^ 分母がゼロとなる可能性もあるが、そのような可能性は考えないことにする。
  14. ^δ0\delta =0となることも考えられるが、そのようなことはないと仮定する。
  15. ^ϕi\phi _{{i}}の総和は1とする。
  16. a b Jensen (1968)
  17. ^ Sharpe (1966)
  18. a b Black (1972)
  19. ^ 池田 (2000), 64p
  20. ^ Black, Jensen and Scholes (1972)
  21. a b Fama and MacBeth (1973)
  22. a b Ross (1976)
  23. a b Roll (1977)
  24. ^ Banz (1981)
  25. ^ Stattman (1980)
  26. ^ Rosenberg, Reid and Lanstein (1985)
  27. ^ Chan, Hamao and Lakonishok (1991)
  28. ^ Fama and French (1992)
  29. ^ Black (1993)
  30. ^ Fama and French (1993)
  31. ^ 日経ビジネスオンライン

参考文献編集

関連項目編集



シャープ・レシオの欠点として、リスクプレミアムが負の時にその意味が明瞭ではなくなることがある。例えば同じリスクプレミアムを実現するポートフォリオ ABA,Bを考える。ポートフォリオ ABA,Bの収益率をそれぞれ RARB{\displaystyle R_{A},R_{B}}とすると、そのシャープ・レシオ SASB{\displaystyle S_{A},S_{B}}

SAERArfVarRASBERBrfVarRB{\displaystyle S_{A}={\frac {E[R_{A}]-r_{\mathrm {f} }}{\sqrt {\mathrm {Var} (R_{A})}}},\quad S_{B}={\frac {E[R_{B}]-r_{\mathrm {f} }}{\sqrt {\mathrm {Var} (R_{B})}}}}

となる。ここで、ポートフォリオ ABA,Bのリスクプレミアムが負であるとする。つまり

ERArfERBrf0{\displaystyle E[R_{A}]-r_{\mathrm {f} }=E[R_{B}]-r_{\mathrm {f} }<0}

であるとする。この時、SASB{\displaystyle S_{A}<S_{B}}ならば、リスクプレミアムが負であることから VarRAVarRB{\displaystyle \mathrm {Var} (R_{A})<\mathrm {Var} (R_{B})}となる。つまりポートフォリオ BBは同じリスクプレミアムでポートフォリオ AAより大きなリスクを取っていながら、シャープ・レシオはポートフォリオ AAより大きくなる。リスクプレミアムの項で説明されているように、リスクプレミアムは通常、正ではあるが、実際のデータを用いてシャープ・レシオを計算する時に、恐慌時のデータなどが含まれていると、推定リスクプレミアムが負になることがある。そのようなデータを用いてシャープ・レシオによるパフォーマンス比較を行うと上で述べたような問題が生じるおそれがある。このような問題を回避する為にシャープ・レシオの2乗を用いることがある[2][3]。つまり

Sp2ERprf2VarRp{\displaystyle S_{p}^{2}={\frac {(E[R_{p}]-r_{\mathrm {f} })^{2}}{\mathrm {Var} (R_{p})}}}

である。この時、上の例であげたポートフォリオ ABA,Bについて、SASB{\displaystyle S_{A}<S_{B}}であっても、リスクプレミアムが負なので、SA2SB2{\displaystyle S_{A}^{2}>S_{B}^{2}}となる。よってより大きなリスクを取っているポートフォリオ BBの方がシャープ・レシオの2乗は小さくなることが分かる。ただし、シャープ・レシオが1標準偏差あたりの超過リターンという明確な意味を持っていたのに対し、その2乗がどのような意味を持つかは明らかではないし、正のリスクプレミアムを持つポートフォリオのシャープ・レシオの2乗が負のリスクプレミアムを持つポートフォリオのシャープ・レシオの2乗より小さくなることがあるので、全ての問題が解決されるわけではない。



米利上げ後の値動きはいずれも円高が進む


「そこでアメリカはドル高の調整、つまりドル安へと誘導させる『上海合意』をG20で交わしたとの観測が高まっています。上海合意が実際にあったかどうかはそのうち明らかになるでしょうが、その後の動きを見ると、ドル安誘導的な発言が目立ちますし、実際に対円を中心にドル安が進んでいるのが何よりの証拠でしょう」

 しかし、アメリカは昨年12月に政策金利を引き上げ、ゼロ金利から脱して、今夏の追加利上げの可能性も高まっている。ドル安誘導と利上げ。矛盾する動きのようにも思えるが……。

江守 哲氏

江守 哲氏

 その疑問に対し、「では、過去のデータを見てみましょう」と、切り出すのはエモリキャピタルマネジメントの江守哲氏だ。昨年末から円高トレンドへの転換をいち早く予想し、見事に的中させた人物である。

「その予想を立てるうえでの根拠のひとつにしたのが、『過去にアメリカが利上げした後、為替レートがどう動いたのか』というデータなんです。過去3回の米利上げ後の値動きを見ると、いずれも円高が進んでいます。為替市場は先々を織り込んでいくため、利上げのウワサが流れるとドルが買われ、実際に利上げすると売られやすくなるためです。直近では’04年6月の利上げ前後で13円23銭の円高が進みましたし、過去3回の利上げ後の円高幅を平均すると23円56銭にもなります」

 アメリカが利上げに踏み切ったのは昨年12月16日だ。その際には1ドル121円台だったが、そこから23円56銭下がるとすれば97円台という数字が出てくる。

「もうひとつ注目したいデータがあります。過去のトレンドのデータです。1976年に変動相場制に移行してから、面白いことに円安トレンドの期間がいずれも、ほぼ3年なんです(図①)。今回のアベノミクス円安が始まったのは’12年。すでに3年が経過しましたので、もう円安トレンドは終わったと見ていいでしょう」