ジョージ・J・スティグラーは商品売買における情報や職業の探索を重要な問題だと提唱し[1][2]、ジョン・J・マッコールは最近の仕事に基づいたoptimal stopping理論をベースにして、動的な職業探索のモデルを提唱した[3][4][5]。マッコールの論文では、選択肢が完全情報的で不変、また貨幣の価値が不変であるとき、職業提供者が失業者に対して仕事を提供するか否かについて研究がなされている[6]。
彼は、労働者が受け入れるであろう最も低い賃金である、「留保賃金」という観点によって職業探索の決定理論を特徴づけた。労働者は、提供された賃金が留保賃金より安ければ拒絶し、高ければ受け入れるという行動をとる。
もしマッコールによって考えられた条件が満たされなければ、時間の経過とともに留保賃金は変わる可能性がある。例えば、失業者の技能が衰える一方でなかなか職業にありつけないという状況下では、失業の期間が長ければ長いほど、受け入れる職場環境の基準は下がる。こういった場合には、失業者の留保賃金は時間の経過とともに下がる。同様に、もし彼らがリスク回避的であれば、職業探索によって徐々に生活資金が減っていくため、留保賃金は下がる傾向にある[7]。また、留保賃金は業種によっても変わる。つまり、職種の間には補償差分があるといえるだろう。
マッコールのモデルによって、賃金提示が多様であればあるほど探索する労働者は有利になり、探索を行う期間が長引くかもしれないという面白い見解が示された。これは賃金提示額が多様であればあるほど、探索者は高い賃金提示を受けるかもしれないという期待をするため、高い留保賃金を設定し、したがって長期間待つからだと考えられる。また、低い賃金の提示については、それを拒絶する権利が探索者側にあるため、リスクとしての影響力をもたず、リスク回避的な人でさえ職業探しの期間が長くなりうる。
マッコールは失業者の賃金決定に関して、理論の枠組みを作ったが、これと似たような考察が、安い価格の商品を求める消費理論にも応用されうる。 この関係性からすると、消費者が商品に対して払いうる、最も高い価格のことを、「留保価格」を呼ぶことができるだろう。
市場の調査者が商品の価格について完全な情報を持っていないとき、追加的に調査することによって意味のある情報を得られる。それは、価格の範囲がどれくらいであるかという情報である。不完全情報から探索を行うことは、カジノのスロットで使われる"one-armed bandit"というスラングから、「多本腕バンディット問題」と呼ばれている。多本腕バンディット問題とは、スロットの配当がどのくらいかを調べる方法が、実際にスロットを回してみる他ないということを意味している。不完全情報からの最適な探索という命題は、ギティンズ指標などの分配指標を用いて研究されている。
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スティグリッツは近著で人がどのような過程で職を得るかをモデル化したサーチ理論を絶賛
している(「過去数十年で経済理論に生じた重要な進歩のひとつは..."サーチ理論"だ」『新し
い教科書』2016邦訳245頁)。その「不完全な労働市場」観(さらに離散的なそれ)はスティ
グリッツのいう情報の非対称性を前提にしたものだ。
失業率の決定:
求人率(V)
|
| o
| /
| o / 有効求人倍率
| /
| o /
|____/
| /o
| / | o
| / | o o ベバリッジ曲線、UV曲線
|/___|___________
欠員率、失業率(U)
(政府による失業者に対する教育訓練が功を奏して、仕事を失った失業者がよりスムーズに
別の仕事に就くことが出来るようになれば、UV曲線、ベバリッジ曲(Beveridge Curve:
定常状態における失業率Uと求人率Vの関係を表したもの)は内側にシフトする。
『齋藤他マクロ』#16,568頁参照。)
参照:
労働市場サーチ理論 今井亮一
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2012/04/pdf/016-019.pdf
「過去数十年で経済理論に生じた重要な進歩のひとつは、2010年にピーター・ダイアモンド、 デール・モーテンセン、クリストファー・ピサリデスにノーベル賞をもたらした"サーチ理論"だ。 それは、人がどのような過程で職を見つけて受け入れるかをモデル化した膨大な研究から成る。 サーチ理論は、供給と需要が市場賃金を全面的に決めるのではないと論じる。むしろ、労働の 供給と需要は、賃金に限度を設ける。そして、いくつもの要素によって、賃金がその限度内の どこに落ち着くかが決まるのだ。交渉力、労働市場制度(労働組合の強さをふくむ)、社会慣習 。つまり、サーチ理論によれば、テクノロジーとグローバル化を不平等拡大の最も有力な要因と する説明さえ、ルール(*制度)が重要であることを認めなくてはならない。」 (スティグリッツ邦訳『新しい教科書』2016年245頁、原著2015年)
提示賃金の分布と留保賃金(例):
確率(合計は1)
: 留保賃金
0.25| 拒否←|→受諾 _
| | |/|
0.20| | _ |/|
| _ | |/| |/|
0.15| |/| | |/| |/|
| _ |/| | |/| |/|
0.10| |/| |/| | |/| |/|
| |/| |/| | |/| |/|
0.05| |/| |/| | |/| |/|
|_|/|___|/|_|_|/|___|/|___
0 17 18 19 20 万円(提示賃金)
(齋藤他565頁参照)
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