スティグリッツ 公共経済学 Economics of the Public Sector by Joseph E. Stiglitz
(両書とも屈折需要曲線の図は出てこない)
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大学の意義はどのように考えられるだろうか。人的資本理論は大学を労働者に人的資本を蓄積させる手段と考える。そのため,大学教育が人的資本を蓄積させ,労働者の生産性を長期的に向上させるようなものであるかが論点となる。シグナリング理論は大学を個人の生産性を企業に伝達する手段だと考える。そのため,大学進学費用(たとえば,大学入試の難易度)とその労働者自身が持つ生産性に一定の関係があり,大卒は高卒よりも適切に高い賃金である点が重要となる。労働者の生産性を識別できる代替的な方法があれば,大学は重要ではない。
いずれの理論に立脚するかで,同一の教育政策であってもその評価は異なる。例えば,学費援助は個人の進学の直接費用を引き下げるため,他の条件を一定にすれば, より多くの個人は大卒を選択する。人的資本理論に基づけば,進学により人的資本が蓄積されるため,個人の生産性向上に寄与し,外部性も考慮に入れると社会的な便益も大きい。一方, シグナリング理論に基づけば,学費援助政策によリタイプHだけではなくタイプLも大学に進学することになり,大卒であることはもはや生産性が異なるという情報を持たなくなるため,学費援助政策はシグナルの価値を減らしてしまう。
大学進学の意義を考察する際に,人的資本とシグナリングのいずれがもっともらしいかがポイントとなるが,両者の識別は容易ではない。大卒賃金が高卒賃金と比べ高いという統計的事実は,大学で身にうけた人的資本,そもそも高い生産性(能力)を持つ個人が進学しただけのシグナリングのいずれからも解釈可能である。また,両理論は排他的ではなく,教育による能力上昇を組み込んだシグナリング理論も想定できる場。そのため,大卒であることが賃金を引き上げる背後には,人的資本の要因とシグナリングの要因の双方があると考えるのが自然であり,それぞれの説明力がどの程度であるかを計測する試みがなされ,膨大な実証研究が蓄積されている。
また,大学のどのような領1面を問題にするかで意義は異なるかもしれない。高卒と大卒という捉え方をすると,入学試験実施直後に採用せずに,卒業までの4年間を待つことを考えれば,シグナリングだけではなく,人的資本もまた重要だといえるだろう。銘柄大学であるかどうかはシグナルの要素が強調されやすいが,大学入試で要求される能力と労働生産性に一定の関係が前提となる。学部間の差では職業に直結しやすい教育内容であれば人的資本の要素が強調されやすいが,基礎理論といった抽象的思考が長期的なリターンを生む可能性も否定できないだろう。
このように,人的資本理論とシグナリング理論は,同じ学歴間賃金格差という現象を異なる見方で理解しようとするものである。大学の意義を検討する際には,理論的前提を踏まえつつ,厳密な実証研究で裏付けることが重要な示唆であるといえる。
高本論考
https://kuir.jm.kansai-u.ac.jp/dspace/bitstream/10112/14941/1/KU-1100-19740220-01.pdf
ジョージ・スティグラー
G. Stigler, “Kinky Oligopoly Demand and Rigid Prices,” Journal of Political Economy, Vol. 55, No. 5, 1947, pp. 432-449.
に言及
(冒頭1ページ目に屈折需要曲線の図があり、そのページだけ見ることができる)
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1988 モーリス・アレ 市場と資源の効率的利用に関する理論
- スペンスの業績の中で最も有名なのはシグナリングに関する理論、特に労働市場に関する理論である。現在の契約理論において彼の議論を欠かすことはできない。このモデルでは、労働者は自らの有能さを使用者に証明するために、取得するのにコストが必要な何らかの学位を獲得する。使用者は、有能な労働者は学位の取得にコストが比較的低くすむ一方、無能な労働者は学位の取得に多大なコストを払わなければならないと判断するため、より高い学位を持つ労働者には高い賃金を払うことにする。このモデルは、送り手(この場合、労働者)の情報が受け手(この場合、使用者)に伝わり、そのシグナルがコストのかかるものであるならば、必ずしもその教育自体に本源的な価値が備わっていなくとも機能する。
- 他に、市場構造と市場成果についての研究、言い換えると企業の競争的な戦略と市場成果との関係についての論文をいくつか書いている。
- また、R・E・ケイブス、M・E・ポーターと共著で『開放経済での競争』(1980年)という中級者向けテキストを出している。
- 『マルチスピード化する世界の中で――途上国の躍進とグローバル経済の大転換』、土方奈美訳、早川書房、2011年
外部リンク編集
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2 Comments:
新しい経済の教科書2012 (日経BPムック 日経ビジネス) 雑誌 – 2012/4/19
日経ビジネス (編集)
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スペンスの寄稿2頁あり
アロー、スペンスは
ハーバードからスタンフォードへ
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