行動経済学(経済心理学)は合理主義的経済学に対する対抗として、決して主流にはなり得ないが重要な潮流で無視出来ない。ミクロ経済学のなかでゲーム理論に並べて教授されるがマクロへの影響の説明に使われるようになった。今日ではマクリーンなどに代表される脳研究にも繋がっている。
アダム ・スミスは 『国富論 』 (1776年 )の中で 、リスクや不確実性が人間の経済行動に及ぼす影響に言及しており 、 「だれもが利得の機会を多少とも過大評価し 、またたいていの人は損失の機会を多少とも過小評価する 」 (岩波書店版 190頁 )という合理性に反する心理的要因の重要性を指摘していた 。
《大部分の人々が自分たちの能力について有する過大な自負心は、あらゆる時代の哲学者と道徳家がのべている古来の悪徳である。かれら自身の好運についての、ばかげた推定は、前者よりも注意されることがすくなかった。しかしながらそれは、おそらく、もっと普遍的である。いきている人間で、一応の健康と活気をもっているときに、それをいくらかでももたぬものは、ないのである。もうけの機会は、各人によって、おおかれすくなかれ過大評価されるのであり、損失の機会は、たいていの人によって過小評価され、そして、一応の健康と活気をもつ人ならだれでも、その値うち以上に評価することはめったにないのである。》
(国富論、1:10:1、河出上95頁)
選択のパラドックス:
[定食ランチ]
Aセット 2200円←おとり
Bセット 2000円
Cセット 1500円
一番売りたいのは、Bセット(供給)。
一番売れるのもBセット(需要)。
[錯覚]
| |
| A | A
特| A' 特|
性| 性|
1| B 1| B
| |
| |
|___________ |____________
特性2 特性2
上図で、おとりであるA'を加えることで、Aの安定感が増しているように錯覚する。
結果として人々は一番多くAを選択する。
(『図解 使えるマクロ経済学』及び、「#1 相対性の真相 (おとり選択肢のグラフ化、
「相対性」で選択する)」 『予想どおりに不合理 』より)
#1 相対性の真相 、おとり選択肢のグラフ化、「相対性」で選択する
予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 ダン・アリエリー & 熊谷淳子 2013 より
『行動経済学』#6で「選択のパラドックス」という話が紹介されていた。
(『行動経済学 経済は「感情」で動いている 』光文社新書 友野 典男 2006 )
スーパーマーケットに6種類、24種類のジャムを並べて、1時間ごとに陳列棚を入れ替えて、客の動向を観察する。
陳列テーブルのある通路を通りかかった242人のうち40%が6種類のジャムの陳列を訪れたのに対し、60%の客が24種類のジャムの陳列を訪れた。
しかし、6種類のジャムの陳列テーブルを訪れた客のうち実際に購入したのは30%であったが、24種類のジャムの陳列テーブルを訪れた客のうち実際に購入したのはたった3%にすぎなかった。
…
シュワルツは、このような現象を「選択のパラドックス」と呼んでいる。
人にとって選択肢が多いことは幸福度を高めるどころかかえって低下させてしまうのである。
《朝三暮四》
「だれもが利得の機会を多少とも過大評価し 、またたいていの人は損失の機会を多少とも過小評価する 。」
(アダム ・スミス 『国富論 』 (一七七六 )岩波書店版 1 9 0頁 )
価値
| o
| o
|
| o
|
損失_________o_________利得
|
o|
o |
o |
o |
価値関数
損失回避性は図では、利得よりも損失に関して価値関数の傾きが大きくなり、曲線が原点で滑らかにつながらず屈折していることで表わされている。
引用したように、損失回避性は既にアダム・スミスも気づいていた性質である。
《案ずるより産むが易し》
損失回避性は図4-1では、利得よりも損失に関して価値関数の傾きが大きくなり、曲線が原点で滑らかにつながらず屈折していることで表わされている。
本章冒頭に引用したように、損失回避性は既にアダム・スミスも気づいていた性質である。
w(p)
| / ○
| / |
| / |
| / ○|
| / |
確| / ○|
率| / |
加| / ○ |
重| / |
| / ○ |
| / ○ |
|_______○ ○ |
| ○ /| |
| ○ / | |
| / | |
| ○/ | |
| / | |
|/_____|__|_________|______
0 0.35 5 1 確率(p)
確率加重関数
図中の確率加重関数w(p) のように、確率が小さいときにはそれは過大評価され、確率が中ぐらいから大きくなると確率は過小評価されることがカーネマンとトヴェルスキー等によって実験的に確かめられている。…
厳密に言うと、利得に関する確率加重関数と損失に関する確率加重関数は多少異なるが、形状はほぼ同じであって特徴的な性質はすべて保存されているので、両者を同一の関数と扱っても特に問題は生じない。
(『行動経済学 経済は「感情」で動いている 』光文社新書 友野 典男 2006 #4より)
友野の書籍はダマシオ『生存する脳』単行本82~,97,270頁を参照しており興味深い。
w(p)
確| / ○
率| / ○
加| / ○
重| / ○
| / ○
| / ○
|_______○ ○
| ○ /|
| ○ / |
| / |
| ○ / |
| / |
| / |
|/______|___|__________|確率(p)
0 0.35 5 1
確率加重関数
《喉元過ぎれば熱さを忘れる》
>プロスペクト(=見込み)理論はリスク回避とかリスク追求とかあんまり関係ないよ?
>主観的確率分布が逆S字型にカーブしてるって話だからな
>災害みたいなあまり起こらない事は実際の発生確率よりも主観的な発生確率が高いので、
>保険というビジネスが成立するってだけ
プロスペクト理論,四分割パターン:
利得 | 損失
|
高い確率 95% | 95%
確実性の効果 リスク回避 | リスク追求
_______________|___________
低い確率 5% | 5%
可能性の効果 リスク追求 | リスク回避
・損失しか見込めない場合に人々がリスク追求的になる(右上)
・右下欄は 、保険をかける状況である 。人々は巨額の損失の可能性がわずかでもあるときには 、
期待値に対して不釣り合いに多い額を保険に投じる 。保険会社がコストをカバ ーし利益を得られ
るのは 、このためだ 。ここでもまた 、人々はめったに起きない災害に対する備えだけではなく 、
不安を取り除き心の平安を買う 。
ファスト&スロー下#29、カーネマン 、Thinking, Fast and Slow – 2012/5/10 Daniel Kahneman
_____
モーリス・アレ (Maurice Allais,1911-2010)
- アレの発言で最も有名なのは、1953年にニューヨークで行われた会議における「アレのパラドクス」である。これは、ジョン・フォン・ノイマンが発展させた「望ましい効用」という常識を基礎にしている。
- この会議のとき、アレは、連続する2回のくじに関する質問を、たくさんの参加者に問いかけた。
- 1回めのくじ
- オプションA:確実に1,000ドルがもらえる。
- オプションB:10%の確率で2,500ドルがもらえて、89%で1,000ドル、そして1%は賞金なし。
- 2回目のくじ
- オプションA:11%の確率で1,000ドルがもらえて、89%は賞金なし。
- オプションB:10%で2,500ドルもらえて、90%は賞金なし。
- ほとんどの場合、参加者は1回目のくじではAを選択し、2回目のくじではBを選択する。1回目のくじにおいては、個人は期待利得の低い方を選択し、2回目のくじにおいては、期待利得が大きい方を選択したのだ。この実験は何度も繰り返されたが、全て同じ結果になった。
- このパラドクスは、新しい学問である行動経済学において、プロスペクト理論などで理論的な説明がなされている。
12
AB←選択多
BA
_______
《金持ち喧嘩せず》 《窮鼠猫を噛む》
《虎穴に入らずんば虎子を得ず》《石橋を叩いて渡る》
《石橋を叩いて渡る》 《一か八か》
《虎穴に入らずんば虎子を得ず》《金持ち喧嘩せず》
《念には念》 《一か八か》
《虎穴に入らずんば虎子を得ず》《石橋を叩いて渡る》
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『行動経済学』で「選択のパラドックス」という話が紹介されていた。
実験その1。
スーパーマーケットに6種類、24種類のジャムを並べて、1時間ごとに陳列棚を入れ替えて、客の動向を観察する。
陳列テーブルのある通路を通りかかった242人のうち40%が6種類のジャムの陳列を訪れたのに対し、60%の客が24種類のジャムの陳列を訪れた。
しかし、6種類のジャムの陳列テーブルを訪れた客のうち実際に購入したのは30%であったが、24種類のジャムの陳列テーブルを訪れた客のうち実際に購入したのはたった3%にすぎなかった。
実験その2。
今度は、被験者はチョコレートを1つ自由に選んで試食し、味の満足度を10点満点で評価した。6種類から選んだ人の平均値は6.25であるが、30種類から選んだ人のそれは5.5であった。
更に、実験参加のお礼として 5ドルかチョコレート1箱の好きなほうを選んでもらうと、6種類から選んだ人は 47% がチョコレートを選んだのに対し、30種類から選んだ人のそれはわずかに12%だった。
大学4年の就職活動についての調査。
より多くの仕事から選べる学生のほうがそうでない学生より就職に対する満足度は低い。
更に「最高の」仕事を求めている学生は「ほどほどの」仕事を求めている学生より・・・事実、よりよい条件のところに就職できているにも関わらず・・・満足度は低い。
シュワルツは、このような現象を「選択のパラドックス」と呼んでいる。
人にとって選択肢が多いことは幸福度を高めるどころかかえって低下させてしまうのである。
おそらくこういったことは感覚的には理解されているのだろう。
例えば、UI設計において、「多くの課題に柔軟に対応できるが、手段はシンプルに」みたいな話とか。
シュワルツとウォードらは、何でも最高を追及する性向のある「最大化人間」と、サイモンから着想を得た、「ほどほど」で満足する「満足化人間」がいるとして、その判定法を考案している。最大化人間は、選択肢が増えるとそれをつぶさに検討して、より良いかどうかを確かめないと気がすまないが、満足度人間はいったんそこそこの選択肢を見つければ、選択肢が増えても気にしないのである。したがって、最大化人間は、選択の結果に充実度が低く、後悔しがちであり、総じて幸福度が低いことが指摘されている。
局面によって「最大化人間」と「満足化人間」の性質が切り替わると思うのだが、こと人生に対する態度としては「最大化人間」から「満足化人間」に年を経るにつれ移行していくのかしら、とは思う。
こだわりがなくなると言うか。
「選択する必要があり色々悩むけど、その結果が悩んだコストを十分に反映していない」ことに気付くと言うか。
で、引用元の書籍で指摘されていて、面白いなぁと思ったのだけど、
選択肢が多いほど自由に選べる可能性が広がり、より充実度は高くなるはずだという信奉が現代人にはある。この発想は自由主義思想とも結びついて世間を席巻しているが、これは幻想だと言う。
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「男女の被験者を集めた経済実験が基本にあります。例えばスタンフォード大学のムニエル・ニーダール氏は、2ケタの足し算を被験者に課す実験を試みました。まずは被験者を何人かずつグループに分けます。制限時間内に足し算をいくつ正解できるかに個々の被験者は挑みます。その結果に応じて個人に報酬を支払うのですが、支払い方は2つ準備しました。1つはグループ内のほかのメンバーの正解数に関係なく、個々の正解数に応じて報酬を出す出来高方式。もう一つはグループ内で最も正解が多かった人にだけ報酬を出す。これは勝ち残った一人が報酬を総取りするのでトーナメント方式と呼びます」
「両方の報酬方式を経験した後、被験者はもう一度足し算に挑戦する。この時、どちらの方式で報酬を受け取りたいかを被験者自身に選ばせました。すると男性はトーナメント方式を好み、女性は出来高払い方式を選ぶ傾向が統計的に明らかになりました。つまり男性の方が他者との競争を好むことが示されたのです。報酬方式を選ぶ際、グループ内で自分が正解率で何位になるかも予想してもらいました。男性は実際の結果より、高い順位を予想する傾向が合わせて分かり、これら実験を通じて男性の自信過剰傾向が競争を選ばせると推測されたのです」…
――性差は生まれつき身についているのですか。
「原因は生来のものと生後の環境がつくるものが入り交じっています。競争を好むか否かという経済実験では別のおもしろい研究結果もあります。米国や日本など先進諸国では男性の方が競争を好む傾向が共通してみられます。ところが、女性が伝統的に経済的な決定権を握っている母系社会のインドのカシ族を対象に同様の実験をしてみたら、女性が男性より競争を好む結果が出ました。つまり生来の性差だけでは説明できず、生後の文化的背景が無視できないということです」*
「興味深い結果はほかにもあります。グループの男女構成によって、出来高方式とトーナメント方式のどちらを選ぶかに違いが出ます。男女の混合グループと女性だけのグループで比較すると、メンバー全員が女性のグループではトーナメント方式を選ぶ女性が増えます。競合相手に男性がおらず女性だけだと分かると、女性も競争嗜好が高まるということです。女子校と共学に通う女子学生を比較した実験で、女子校に通う女子は競争を好む傾向も明らかになっています」
The experimental task was to toss a tennis ball into a bucket that was placed 3 meters away. Participants were informed that they had 10 chances. A successful shot meant that the tennis ball entered the bucket and stayed there. The task was chosen because it was simple to explain and implement, and no gender differences in ability were expected (as was found in a pilot experiment and reinforced in the results discussed below). Furthermore, we are aware of no other popular task in these societies that is similar to the ball games that we implemented. Indeed, the Khasi are known archers and the Maasai are known lancers, but since our task can only be completed with an underhand toss, the traditional skills do not advantage men over women. In this spirit, our data represent signals of initial competitive inclinations since the task is unfamiliar (Harrison and List (2004), denote such an approach as an artefactual eld experiment).
Participants, who numbered 155 in total, were told that they were matched with a participant from the other group who was performing the same task at the same time in another area. For example, in the Maasai representative session discussed above, a group 1 member on side 3 was anonymously paired with a group 2 member on side 4, and both subjects were informed that their identities would remain anonymous. The only decision participants were asked to make concerned the manner in which they would be paid for their performance. They made this choice before performing the task, but only after they fully understood the instructions and the payment schemes. The two options participants were asked to choose between were (a) X per successful shot, regardless of the performance of the participant from the other group with whom they were randomly matched or (b) 3X per successful shot if they outperformed the other participant. They were told that in case they chose the second option and scored the same as the other participant, they would receive X per successful shot. We set X to equalize payments in terms of the prevailing exchange rates, and therefore, set X equal to 500 Tanzanian shillings in Tanzania and 20 rupees in India.
After choosing the incentive scheme, participants completed the task and were told how the other participant performed. Then they were asked to proceed to another location where they provided personal information in an exit survey (see Appendix B for the experimental survey) and were paid their earnings in cash. As promised, participants were never given the opportunity to learn with whom they were paired.
(a)成功ショットあたりのX、または(b)他の参加者より優れている場合の成功ショットあたり3Xのいずれかを選択するように求められました。
大竹『競争と公平感』37頁参照
…グニージー教授らがアフリカのマサイ族という父系的社会とインドのカシ族という母系的社会で行った経済実験によって、母系的社会のカシ族では、マサイ族や米国での実験とは逆に、女性の方が男性よりも競争が好きであるということが明らかになったということ。
==経済教室 「なぜ残る男女間格差」 競争の好き嫌い影響? 差別ない企業ほど好業績
エコノミクストレンド 大竹文雄阪大教授 日経新聞 2008年5月5日経済教室 17面==
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行動経済学(こうどうけいざいがく、英: behavioral economics)、行動ファイナンス(英: behavioral finance)とは、典型的な経済学のように経済人を前提とするのではなく、実際の人間による実験やその観察を重視し、人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを究明することを目的とした経済学の一分野である。
行動経済学は、心理学と深い関係にある。元々、心理学と経済学は一体のものであり、18世紀頃には経済学者は心理学者も兼ねていたとみることができる。例えば、アダム・スミスは『道徳感情論』(1759年)や『国富論』(1776年)で、合理性と心理面との関係について述べている。20世紀に入っても、ジョン・メイナード・ケインズなどが心理と経済との関係について述べている[1][2][3]。
その後、20世紀にかけて経済学は経済人を前提としたものが主流となっていったが、その中で、モーリス・アレやダニエル・エルズバーグは、簡単な実験を行い期待効用理論への反例を示した。そうした批判を受け、期待効用理論の代替となる意思決定理論の模索が始まった。やがて、認知心理学の発展もあり、経済学に心理学の知見を取り入れた行動経済学という分野が確立され、研究されるようになった[3][1]。これが行動経済学の黎明期である。
日本においては、2007年に行動経済学会が設立された。年に1回の研究報告大会の開催、学会誌の発刊等の活動を行なっている。
従来の経済学との違い編集
行動経済学以前の経済学理論の発展は、まず単純な仮定をおき、そこから演繹的に推論を積み重ねていくアプローチが典型的であった。そうしたアプローチにおいて、経済主体にかんする代表的な仮定を通して描かれる人間像を合理的経済人などと呼ぶ。したがって、経済学において「合理的」とは、単に利己的であることを指すものではなく、そういった人間の合理性にかんする仮定を満たすことを意味する。
行動経済学では、経験論的な手法でこうした仮定を検証し、必ずしも経済学的な意味で合理的でなくても、より現実に近い人間のモデルを採用する(また、そうして作られたモデルを実際の分析に適用することも、行動経済学の範囲に含まれる。)。例えば経験的に、人は年収が300万から500万に昇給すると喜びを感じるが、同じ500万でも、700万から500万に減給されると悲しくなるだろう。ある合理性の仮定の下では、同じ金額からは同じ効用が導かれてしまい、こうした心理は表現されない。そこで行動経済学のプロスペクト理論では、こうした心理を取り入れ、人が財の変化量に注目するようモデル化されている。
従来の経済学の理論は、その合理性を重視し、いかに行動すべきかを示すことを目的とする色が濃い。こうした理論を「規範的理論」と呼ぶ。一方、行動経済学の理論は、実験と観察的事実を重視し、それらについて説明することを主たる目的とする。このような理論を、「記述的理論」と呼ぶ。したがって、両者は理論の目的そのものが異なっており、必ずしも競合するものではないといえる。
- Nick Wilkinson "An Introduction to Behavioral Economics", Palgrave Macmillan, 2007, ISBN 978-0230532595
- Dan Ariely "Predictably Irrational: The Hidden Forces That Shape Our Decisions", Harpercollins, 2008,ISBN 978-0061353239
外部リンク編集
学会・研究会編集
- アレの発言で最も有名なのは、1953年にニューヨークで行われた会議における「アレのパラドクス」である。これは、ジョン・フォン・ノイマンが発展させた「望ましい効用」という常識を基礎にしている。
- この会議のとき、アレは、連続する2回のくじに関する質問を、たくさんの参加者に問いかけた。
- 1回めのくじ
- オプションA:確実に1,000ドルがもらえる。
- オプションB:10%の確率で2,500ドルがもらえて、89%で1,000ドル、そして1%は賞金なし。
- 2回目のくじ
- オプションA:11%の確率で1,000ドルがもらえて、89%は賞金なし。
- オプションB:10%で2,500ドルもらえて、90%は賞金なし。
- ほとんどの場合、参加者は1回目のくじではAを選択し、2回目のくじではBを選択する。1回目のくじにおいては、個人は期待利得の低い方を選択し、2回目のくじにおいては、期待利得が大きい方を選択したのだ。この実験は何度も繰り返されたが、全て同じ結果になった。
- このパラドクスは、新しい学問である行動経済学において、プロスペクト理論などで理論的な説明がなされている。
栄誉・受賞[編集]
プロスペクト理論[編集]
- プロスペクト理論(prospect theory)は、不確実性下における意思決定モデルの一つ。選択の結果得られる利益もしくは被る損益および、それら確率が既知の状況下において、人がどのような選択をするか記述するモデルである。この理論は、1979年、ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって発展した。
ヒューリスティクスとバイアス[編集]
- 心理学におけるヒューリスティックは、人が複雑な問題解決等のために何らかの意思決定を行う際、暗黙のうちに用いている簡便な解法や法則のことを指す。これらは経験に基づく為、経験則と同義で扱われる。判断に至る時間は早いが、必ずしもそれが正しいわけではなく、判断結果に一定の偏り(バイアス)を含んでいることが多い。ヒューリスティックの使用によって生まれている認識上の偏りを、認知バイアスと呼ぶ。
- ダニエル・カーネマン、ポール・スロヴィック、エイモス・トベルスキー共著、『Judgment Under Uncertainty: Heuristics and Biases』、1982年、およびT・ギロヴィッチ、D・グリフィン、ダニエル・カーネマン共編、『Heuristics and biases: The psychology of intuitive jadgment』、2002年参照。
ピーク・エンドの法則[編集]
ノーベル経済学賞受賞について[編集]
ノーベル経済学賞を受賞したことについて、カーネマンは「心理学者はノーベル賞受賞を喜びはするが、私を特別な存在にするとは思わない」と述べている[2]。
日本語訳[編集]
- 『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』、友野典男・山内あゆ子共訳、楽工社、2011年
- 『ファスト&スロー』、ダニエル カーネマン 著, 村井 章子 著・訳、早川書房、2012年
- Kahneman, D. (1973). Attention and effort. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.
- Thinking Fast and Slow. publisher: Farrar, Straus and Giroux, New York (October 25, 2011).
共編著[編集]
- Kahneman, D., Slovic, P., & Tversky, A. (1982). Judgment Under Uncertainty: Heuristics and Biases. New York: Cambridge University Press.
- Kahneman, D., Diener, E., & Schwarz, N. (Eds.). (1999). Well-being: The foundations of hedonic psychology. New York: Russell Sage Foundation.
- Kahneman, D., & Tversky, A. (Eds.). (2000). Choices, values and frames. New York: Cambridge University Press and Russell Sage Foundation.
- Gilovich, T., Griffin, D., & Kahneman, D. (Eds.). (2002). Heuristics and biases: The psychology of intuitive jadgment. New York: Cambridge University Press.
- Diener, E., Helliwell, J.F., & Kahneman, D. (Eds.). (2010). International differences in well-being. New York: Oxford University Press.
- Tversky, A.; Kahneman, D. (1971). "Belief in the law of small numbers". Psychological Bulletin 76 (2): 105–110.
- Kahneman, D.; Tversky, A. (1972). "Subjective probability: A judgment of representativeness". Cognitive Psychology 3 (3): 430–454.
- Kahneman, D.; Tversky, A. (1973). "On the psychology of prediction". Psychological Review 80 (4): 237–251.
- Tversky, A.; Kahneman, D. (1973). "Availability: A heuristic for judging frequency and probability". Cognitive Psychology 5 (2): 207–23.
- Tversky, A.; Kahneman, D. (1974). "Judgment under uncertainty: Heuristics and biases". Science 185 (4157): 1124–1131.
- Kahneman, D.; Tversky, A. (1979). "Prospect theory: An analysis of decisions under risk". Econometrica 47 (2): 263–291.
- Tversky, A.; Kahneman, D. (1981). "The framing of decisions and the psychology of choice". Science 211 (4481): 453–458.
- Kahneman, D.; Tversky, A. (1984). "Choices, values and frames". American Psychologist 39 (4): 341–350.
- Kahneman, D.; Miller, D.T. (1986). "Norm theory: Comparing reality to its alternatives". Psychological Review 93 (2): 136–153.
- Kahneman, D.; Knetsch, J.L.; Thaler, R.H. (1990). "Experimental tests of the endowment effect and the Coase theorem". Journal of Political Economy 98 (6): 1325–1348.
- Fredrickson, B. L.; Kahneman, D. (1993). "Duration neglect in retrospective evaluations of affective episodes". Journal of Personality and Social Psychology 65 (1): 45–55.
- Kahneman, D.; Lovallo, D. (1993). "Timid choices and bold forecasts: A cognitive perspective on risk-taking". Management Science 39: 17–31.
- Kahneman, D.; Tversky, A. (1996). "On the reality of cognitive illusions". Psychological Review 103 (3): 582–591.
- Schkade, D. A.; Kahneman, D. (1998). "Does living in California make people happy? A focusing illusion in judgments of life satisfaction". Psychological Science 9 (5): 340–346.
- Kahneman, D. (2003). "A perspective on judgment and choice: Mapping bounded rationality". American Psychologist 58 (9): 697–720.
- Kahneman, D.; Krueger, A.; Schkade, D.; Schwarz, N.; Stone, A. (2006). "Would you be happier if you were richer? A focusing illusion". Science 312 (5782): 1908–10.
- ^ Nobel Prize Predictions, 2002-09
- ^ 矢沢サイエンスオフィス編著 『21世紀の知を読みとく ノーベル賞の科学 【経済学賞編】』 技術評論社、2010年、26頁。
関連項目[編集]
Heuristics、ヒューリスティックス(明確な手がかりがないとき に用いる 発見的方法)
______
プロスペクト理論,四分割パターン:
利得 | 損失
|
高い確率 95% | 95%
確実性の効果 リスク回避 | リスク追求
_______________|___________
低い確率 5% | 5%
可能性の効果 リスク追求 | リスク回避
・損失しか見込めない場合に人々がリスク追求的になる(右上)
・右下欄は 、保険をかける状況である 。人々は巨額の損失の可能性がわずかでもあるときには 、
期待値に対して不釣り合いに多い額を保険に投じる 。保険会社がコストをカバ ーし利益を得られ
るのは 、このためだ 。ここでもまた 、人々はめったに起きない災害に対する備えだけではなく 、
不安を取り除き心の平安を買う 。
ファスト&スロー下#29、カーネマン 、Thinking, Fast and Slow – 2012/5/10 Daniel Kahneman
四分割パターン
損失しか見込めない場合に人々がリスク追求的になる(右上)
・右下欄は 、保険をかける状況である 。人々は巨額の損失の可能性がわずかでもあるときには 、期待値に対して不釣り合いに多い額を保険に投じる 。保険会社がコストをカバ ーし利益を得られるのは 、このためだ 。ここでもまた 、人々はめったに起きない災害に対する備えだけではなく 、不安を取り除き心の平安を買う 。
ファスト&スロー下#29、カーネマン 、Thinking, Fast and Slow – 2012/5/10 Daniel Kahneman
「ダニエル・カーネマン」と聞くと、行動経済学あるいは、プロスペクト理論がすぐに出てくる人にとって、本書はあまり効用が高い本ではないかもしれない。2002年にノーベル経済学賞したカーネマンの実績、あるいは人となりについて知りたい人ならば、well-beingな一冊だろう。
行動経済学に関しては、特徴ある本がすでにいくつも出版されているわけだが、この学問がどのような成り立ちをしてきたのか、そしてその中心的な存在であった学者が何を思っていたのか、という点が含まれているのが本書の特徴になる。
論文がメインの構成になっているので、実践的応用という部分についてはあまり期待しない方が良い。あくまで理論の基本的な理解というのが、目的になるだろう。
「実践的」という部分に興味があるならば、リチャード・セイラーの「実践行動経済学」やダン・アリエリーの「不合理だからすべてがうまくいく」あたりが面白く読めるので、そちらをおすすめする。
概要
おおまかな構成は次の通り。
第1章 ノーベル賞記念講演 限定合理性の地図
第2章 自伝
第3章 効用最大化と経験効用
第4章 主観的な満足の測定に関する進展
第1章はノーベル賞記念講演の内容である。ここを読めば「プロスペクト理論」の概要は掴まえられるだろう。第2章ではカーネマンがどのような経緯で成果を積み重ねてきたのかが分かる。この二つの章はずいぶんと読みやすい。
それに対して第三章と第四章は論文になっていて、読み慣れていないととっつきにくい印象を受けるかもしれない。しかし、難しい語句が多様されていたり、数式が飛び交うようなものではないので、じっくり読めば問題はないだろう。
第3章の「人は経験効用を最大化することによく失敗する」という指摘、第4章で提案されているU指数(経済不快指数)は、面白いだけではなく、現実の私たちの生活を考える上でも重要な要素になってくるはずだ。
プロスペクト理論と直感
第一章の表題に出てくる「限定合理性」、これが行動経済学のキーワードの一つといってよいだろう。
旧来の純「経済学」が想定する経済人__情報をくまなく収集し、経済合理性をひたすら追求する__はあくまで仮説的な存在であって、人間は「合理的」な存在ではない。だからといって「非合理的」な存在でもない、というのが「限定合理性」という言葉が持つ意味である。
人は合理性を働かせようとするわけだが、それが限定的なものでしかない、という認識が一つの出発点になっている。
そして意思決定の中で重量な役割を担うのが、「直感」である。これがあまりにも強力すぎるので、人はやすやすと直感に身を委ねてしまう。しかし、それは万能兵器ではない。ネコ型ロボットに近いかもしれない。
直感の功罪については、マルコム・グラッドウェルの本が面白く読めるが、ようはこういうことだ。
直感はこんなふうにたいへん高度なことをするのですが、にもかかわらず直感はまた系統だったバイアスやエラーを犯してしまう傾向があります。
直感は強力、でも限界はある。でもって、直感は「系統だった」バイアスやエラーを犯す。つまり、無秩序ではないのだ。
起きそうなバイアスはあらかじめ予想しうるということだ。これが「行動経済学」の学問たるゆえんである。その中核を成す「プロスペクト理論」はすでに、行動経済学の名前を超えて、さまざまな分野で見いだされている。そのあたりは「プライスレス」という本に詳しい。
プロスペクト理論を簡単にまとめれば
つまり、効用の担い手は変化であり得失であって、富の絶対量ではない、というのがプロスペクト理論
ということになる。ここに「損失回避性」や「確実性効果」などが加わると、人の心の動きを誘導することも不可能なことではなくなる。特に直感だけで意思決定をするような場合は、特にだ。
さいごに
あまり実用的なアドバイスが詰め込まれた本ではないが、「監訳者解説」の中に、カーネマンのインタビューの答えが紹介されている。そのインタビューの質問は「人生の満足を高めるためにはどうしたらよいか」というものだ。
カーネマンは次のように答えている。
- 時間の使い方を変えなさい。時間は究極の稀少資源だから、そうであるように使うべき。
- 人生を悪くするようなことではなく、人生を豊かにするようなことがらに注意を向けるべき。
- 注意を払い続けるような活動に時間を投資すべき。新車を買って運転しても、車には注意を払わなくなる。しかし友人と社交しているときには、その活動に注意を払っている。そのような活動に従事すべきだ。
行動経済学の専門家が述べるアドバイスが、いかにも自己啓発書に出てきそうなものと一致している点が興味深い。「その科学が成功を決める」ではないが、古典として語り継がれているような事柄には、それを裏付けるような理由があるということなのだろう。
ちなみに、この解説の中でwell-beingとhappinessの違いに触れられていたのが興味深かった。
happinessは「幸福」の訳で問題無いが、well-beingにはぴたりと来る言葉が見つからない__とりあえず本書内では「満足」となっている__らしい。
言葉がないというのは、その言語を使う文化に相当する概念が存在しないとするならば、今までの日本はひたすらhappinessばかりを追求して、well-beingをどこかに置き忘れてきたのかもしれない。そんなことをちょっと考えてしまう。
図 二重過程理論の概念図
出所:カーネマン(2011)「二重プロセスシステムの概念図」、p.103
カーネマン、ダニエル(2011) 『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』楽工社
▼こんな一冊も:
その科学が成功を決める |
| リチャード・ワイズマン 木村 博江
文藝春秋 2010-01-26 売り上げランキング : 11341
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ジャスティン・フォックスが、「Instinct Can Beat Analytical Thinking」と題したブログエントリで、日本でもその著書が幾つか邦訳されているゲルト・ギーゲレンツァーのインタビューを紹介している。
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《朝三暮四》
《案ずるより産むが易し》
《喉元過ぎれば熱さを忘れる》
《金持ち喧嘩せず》 《窮鼠猫を噛む》
《虎穴に入らずんば虎子を得ず》《石橋を叩いて渡る》
「ウチのおばあちゃんだってよく知っているようなことを研究テ ーマに選んでしまった 」
(ファスト&スロー下#28,カーネマン)
エイモス(・トベルスキー)と私はよく 、 「ウチのおばあちゃんだってよく知っているような
ことを研究テ ーマに選んでしまった 」と冗談を言い合ったものである 。
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限定合理性に基づいてサイモン(1952)は、「経済主体は効用などの目的関数を最大化するのではなく、それについての達成希望水準を設定し、その水準以上の値が達成されれば目的関数の値をさらに改善するための代案を模索することはしない」という仮説を提唱した。これを満足化仮説(satisficing hypothesis)という。
ノーベル賞受賞者 受賞年:1978年 受賞部門:ノーベル経済学賞 受賞理由:経済組織内部での意思決定プロセスにおける先駆的な研究を称えて
ハーバート・アレクサンダー・サイモン(Herbert Alexander Simon、1916年6月15日 - 2001年2月9日)は、アメリカ合衆国の政治学者・認知心理学者・経営学者・情報科学者。心理学、人工知能、経営学、組織論、言語学、社会学、政治学、経済学、システム科学などに影響を与えた。
意思決定と合理性 叢書名 ちくま学芸文庫
著者名等 ハーバート・A.サイモン/著
著者名等 佐々木恒男/訳
著者名等 吉原正彦/訳
出版者 筑摩書房
出版年 2016.1 大きさ等 15cm 190p
注記 Reason in human affairs.の翻訳
NDC分類 336.1
件名 意思決定
要旨 人間に備わった認識能力や推論能力には限界がある。そうした個人や組織において最良の 決定を下すことは果たして可能なのか―。これが、1978年ノーベル経済学賞を受賞し 、組織論を中心とする幅広い分野に功績を遺したサイモンの主要課題だった。スタンフォ ード大学での講演をまとめた本書で、彼は、生物学や行動理論などの知見を踏まえ、あら ゆる意思決定の基礎をなす人間の合理性そのものを問いなおす。さらに、そこで類型化さ れた意思決定モデルを政治行動、経済政策、エネルギー問題などの事例に組み込み、その あり様を実践的に解明していく。サイモンの意思決定論が凝縮された一冊。
目次 第1章 合理性にみるいくつかの考え方(理性の限界;価値;主観的期待効用(SEU) ;行動の選択肢;直観的な合理性;直観と情動;結び);第2章 合理性と目的論(合理 的適応として考えられる進化;ダーウィン説モデル;社会的ならびに文化的な進化;進化 過程における利他主義;進化という近視眼;結び);第3章 社会的営みにおける合理的 過程(制度上の合理性の限界;制度上の合理性の強化;公共情報の基礎;結び) 内容 限られた合理性しかもたない人間が、いかに最善の判断をなしうるか。組織論から行動科 学までを総合しノーベル経済学賞に輝いた意思決定理論の精髄。
Herbert A. Simon - Wikipedia, the free encyclopedia
1957. Models of Man. John Wiley. Presents mathematical models of human behaviour.
邦訳1970 人間行動のモデル
File:Simons 3 stages in Decision Making.gif - Wikipedia, the free encyclopedia
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カーネマン、プロスペクト理論原著論文:
主要な図は全て以下にある。
Kahneman, Daniel, and Amos Tversky (1979) "Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk", Econometrica, XLVII (1979), 263-291. Paper available
プロスペクト理論(プロスペクトりろん、英: Prospect theory)は、不確実性下における意思決定モデルの一つ。選択の結果得られる利益もしくは被る損益および、それら確率が既知の状況下において、人がどのような選択をするか記述するモデルである。
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バリー・シュワルツ: 選択のパラドックスについて | TED Talk | TED.com
http://matome.naver.jp/odai/2137448070286705401/2137449616794752303
心理学者バリー・シュワルツが、選択の自由という西欧社会の根幹をなす教義に狙いを定めます。シュワルツの推定によると、選択は我々を更に自由にではなくより無力に、もっと幸せにではなくより不満足にしています。