木曜日, 6月 16, 2016

均斉成長経路: ジョン・フォン=ノイマン (John von Neumann), 1903-1957

                 ( 経済学リンク::::::::::
均斉成長経路(1937): ジョン・フォン=ノイマン (John von Neumann), 1903-1957
http://nam-students.blogspot.com/2016/06/john-von-neumann-1903-1957.html(本頁) 
NAMs出版プロジェクト: ゲーム理論で解明されたユダヤの知恵
http://nam-students.blogspot.jp/2012/11/blog-post_28.html

ヴォルテラ
http://nam-students.blogspot.com/2018/09/theory-of-oscillations-aleksandr.html
NAMs出版プロジェクト: 産業連関表
http://nam-students.blogspot.jp/2014/06/wikipedia.html
NAMs出版プロジェクト: ドブリュー『価値の理論』(1959)
http://nam-students.blogspot.jp/2015/09/blog-post_48.html
NAMs出版プロジェクト: ジョン・ローマー
http://nam-students.blogspot.jp/2016/11/blog-post_15.html
松尾匡HP
http://matsuo-tadasu.ptu.jp/academic.html
08年7月29日 立命館大学経済学会セミナー(28日)番外編報告レジュメ
 吉原直毅著『労働搾取の厚生理論序説』について
http://matsuo-tadasu.ptu.jp/YosiharaSemi0801.jpg
フォン・ノイマン均斉成長解:

P生産手段、m労働力、G生産物
            _ー
         _ー ̄ |
      _ー ̄ |  |P
   _ー ̄ |  |  |
   ̄-_ →| →| →|m
      ̄-_  |  |
         ̄ー_  |G
            ̄ー_
      P:m:G
      常に比率一定
(資本ストックはKを使うことが多い)


フォン・ノイマン均斉成長解:

A生産手段、B労働力、C生産物
            _ー
         _ー ̄ |
      _ー ̄ |  |A
   _ー ̄ |  |  |
   ̄-_ →| →| →|B
      ̄-_  |  |
         ̄ー_  |C
            ̄ー_
      A:B:C
      常に比率一定

松尾匡 
08年7月29日 立命館大学経済学会セミナー(28日)番外編報告レジュメ p.1
 吉原直毅著『労働搾取の厚生理論序説』について
http://matsuo-tadasu.ptu.jp/academic.html

経済成長論入門序章 経済成長論とは何か?宮 崎 耕 一(ソロー来日レポート)
《ノイマンは資本というものをマクロ的にひとつにまとめて捉える,という考え方をとらず,
消費される財と形式上区別しないで定式化した。…変形・変換される財の範囲を生産財ないし
資本財にまで拡張して,諸財を包括的に捉え,しかもひとつの集計値にまとめて扱うことを
回避しながら,それら包括的な諸財全体が,一定の成長率で増加を続けていく,という描像を,
数学的に描くことに成功したのが,フォン・ノイマンモデルの功績だった。
 このような,包括的に捉えられた諸財の一定率における成長の過程においては,それら諸財
のうち,ひとつひとつの財が,まったく同率で増加していく,と考えられる。》

《成長モデルが単なる空想(empty dream)モデルを脱脚するためには,多部門モデルで
なければならず,しかも結合生産を適切に取り扱わねばならない,このような要請を
満たす最初のモデルを提唱したのはフォン·ノイマンである.ノイマンは次のような
仮定をおいた.
(a)すべての財の生産について規模に関する収穫がー定である,
(b)労働の供給は際限なく拡大しうる,
(c)賃金は労働者が生存可能な生物学的に最小限の財を購入しうるに過ぎない水準に
固定されている,
(d)資本家の全所得は自動的に新たな資本財に投入される,
明らかにこのモデルは資本家の消費を無視し,また実質賃金率を決定する上での
労働供給の役割も考慮していない.労働者は農場の家畜と同等であり、資本家は資本の
セルフサービス・スタンドのようなものに過ぎない.》
森嶋通夫著作集3:118頁

1937
均斉成長経路(の定式化とブラウワーの定理の一般化)
"A Model of General Economic Equilibrium", 1937, in K. Menger, editor,Ergebnisse eines mathematischen Kolloquiums, 1935-36. (Translated and reprinted in RES, 1945).
→ http://piketty.pse.ens.fr/files/VonNeumann1945.pdf 全9頁


ジョン・フォン=ノイマン (John von Neumann), 1903-1957

原ページ

 
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1903 年にハンガリーのブダペストで生まれる。ブダペスト大から数学の博士号と、チューリヒ大から科学の博士号を同時に授与されてから1927年にベルリン大学の教授陣に加わる。1932年にはプリンストンに移り、 IAS 最年少会員となる。この時期、かれは純粋数学や応用数学のみならず、物理や、一部は哲学(特に量子パラドックスに関連したもの)にも重要な貢献をしてい た。またマンハッタン計画(原爆開発)でも活発で、原子力委員会におけるトルーマン大統領の顧問の一人だった。後に並列処理とネットワークに関する業績を あげて、「現代コンピュータの父」の称号を受ける。ニコラス・カルドア が後に書くように「かれはわたしが出会った中でまちがいなく天才にいちばん近い存在だ」
驚異的にクリエイティブだった数学者ジョン・フォン=ノイマンは、戦後経済理論においてかなり重要な役割を果たした。その貢献は2つある。一つは1937 年の多セクター成長モデル についての論文と、1944 年の著書 (オスカール・モルゲンシュテルン と共著) の ゲーム理論不確実性 についての理論だ。
ジョン・フォン=ノイマンの有名な 1937 年論文は、最初は有名な「ウィーン学団」の支援を受けて書かれたもので、フォン=ノイマンが ヴィクセルカッセル を読んだ成果となっている。この論文は「数理経済学における史上最高の論文」 (E. Roy Weintraub, 1983) と呼ばれた。それは 森嶋道夫 が後に、一般均衡と資本、成長理論における「フォン=ノイマン革命」と呼んだものを産みだした。この1937年論文では、「数理経済学」再興のための新手法というすぐわかるもの以外にも、いくつか重要な概念が導入されていた。かれがもたらしたのは、(1) 「活動分析」生産集合 ("activity analysis" production sets) の概念を持ち込み、これは後に クープマンス や新ワルラス派によって大いに活用される; (2) 再生産の線形システム。これは後にレオンティエフスラッファ新リカード派 が活用して発展させる; (3) 価格-費用と需要-供給の不一致。これはワルラスの方程式体系に対する ウィーン派の批判 への説明となっていた; (4) ブラウアーの固定点理論(の一般化)、後に角谷の固定点定理として知られるようになるものを初めて使って、均衡の存在を証明; (5) ミニマックスとマックスミン解法と、サドルポイント特徴付け (saddelpoint characterizations); (6) early statements of duality theorems of mathematical programming and complementary slackness conditions; (7) a novel manner of incorporating fixed and circulating capital via joint production; (8) the elucidation of the concept of "balanced" or "steady-state" growth - これは後に ハロッドソロー, ヒックス 及びその後の成長モデルすべてがとびついた; (8) 「黄金律」の導出 - 金利は資本量よりは成長率と相関していることを示し、 アレー「最適成長理論」クープマンス, ラドナーたちの turnpike theorems の先駆けとなった。
ジョン・フォン=ノイマンが1944 年にオスカール・モルゲンシュテルン と共著した『ゲームと経済行動の理論』は 20 世紀社会科学の記念碑的存在となった。ゲーム理論 という領域を一気に作り出したのみならず (かれはこれを有名な 1928 年の論文で始めていた) この本は経済学の他の分野で使われる重要な要素を他にももたらしている。たとえば効用理論そのものの公理化 (後に アロードブリュー などが追求したもの) や 不確実性の下での選択の公理化、つまり期待効用仮説の定式化がそれにあたる。

http://cruel.org/econthought/profiles/neumann.html

ジョン・フォン=ノイマンの主要 (経済関連) 著作

  • "Zur Theorie der Gessellshaftspiele", Mathematische Annalen 1928.
  • "A Model of General Economic Equilibrium", 1937, in K. Menger, editor,Ergebnisse eines mathematischen Kolloquiums, 1935-36. (Translated and reprinted in RES, 1945). → http://piketty.pse.ens.fr/files/VonNeumann1945.pdf
  • Theory of Games and Economic Behavior, with O. Morgenstern, 1944.
  • "A Communications on the Borel Notes", 1953, Econometrica
  • "Solutions of Games by Differential Equations", with G.W. Brown, 1953, in Kuhn and Tucker, editors, Contributions to Theory of Games, Vol. I.
  • "Two Variants of Poker" with D.B. Gillies and J.P. Mayberry, 1953, in Kuhn and Tucker, editors, Contributions to Theory of Games, Vol. I.
  • "A Numerical Method to Determine Optimum Strategy", 1954, Naval Research Logistics Quarterly
  • The Computer and the Brain, 1958

フォン=ノイマンについてのリソース

1937
均斉成長経路(の定式化とブラウワーの定理の一般化)
"A Model of General Economic Equilibrium", 1937, in K. Menger, editor,Ergebnisse eines mathematischen Kolloquiums, 1935-36. (Translated and reprinted in RES, 1945).
http://piketty.pse.ens.fr/files/VonNeumann1945.pdf



http://matsuo-tadasu.ptu.jp/academic.html
08年7月29日 立命館大学経済学会セミナー(28日)番外編報告レジュメ
 吉原直毅著『労働搾取の厚生理論序説』について
  p.1 p.2 p.3 p.4 p.5 p.6 p.7 p.8 p.9 p.10 p.11

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フォン・ノイマンの多部門成長モデル

フォン・ノイマンが1937年に発表した経済成長モデル。新古典派成長モデルの基となったラムゼイのモデルが1部門の経済成長モデルであるのに対し、各種の財の生産、投資がなされる現実の経済に即したモデルの構築が行われた。
多部門モデルは、第二次世界大戦後、サミュエルソン、森嶋らの努力によって改良が加えられた。サミュエルソンの見出したターンパイク定理はとりわけ有名な発見である。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ジョン・フォン・ノイマン

経済学


https://ja.wikipedia.org/wiki/不動点
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%82%B9
数学において写像不動点(ふどうてん)あるいは固定点(こていてん、英語: fixed point, fixpoint)とは、その写像によって自分自身に写される点のことである。


http://mathsoc.jp/publication/tushin/1101/nishimura.pdf
『経済学と数学』
京都大学経済研究所
西村和雄

数学者の貢献
 経済学者には,数学や工学から転向してきた人が数多くいる.イギリス人で 20 世紀初頭を代表す る数学者兼哲学者であるラムゼー( 1903-30)は,数学基礎 論,確率論,哲学のみならず,経済学の 分野でも論文を発表し,26 才の若さでこの世を去った.ラムゼーの死後 2 ヵ月後に発表された Economic Journal において,ケインズが,ラムゼーの才能と論文の重要さに賛辞を述べている.ラム ゼーの論文は,その後の経済成長と財政学の分野の発展に大きな影響を与えた.
 やはり,20 世紀を代表する数学者フォン・ノイマン(1903-57)は,経済学者モルゲンシュテルン (1902-77)と共にゲームの理論を開発しているが,同時に,経済成長の多部門モデルにおける斉一成長経路の存在証明の論文を書いて,その後の経済学に大きな影響を与えていった.
...
 ノイマンは,1932 年にプリンストンの高等研究所の数学のセミナーで,数理経済学の講演をしたこ とがあった.1936 年,ウイーン大学の数学者カール・メンガー(Karl Menger)に依頼され,ノイマンは, ウィーンでの研究会で経済学の講演をする予定であった.ヨーロッパには行ったノイマンは,実際は, ウイーンには寄らず,ドイツ語の論文をパリからメンガーに送っただけであったが,その論文は,1937 年に出版されたカール・メンガーのセミナーの講演集の中に含まれることになった.
 カール・メンガーの父は,ウイーン大学の経済学教授をしていたカール・メンガー(Carl Menger) である.
 経済学における限界革命は,スイスのレオン・ワルラス(1834-1910),イギリスのウィリアム・ジェボ ンズ(1835-82),オーストリアのカール・メンガー(1840-1921)によって,1870 年代に行われた,限 界効用を基礎とする理論の発展のことである.限界効用は数学的には,偏微分と対応している.
  ウイーン大学には,1895 年に設立され,マッハ,ボルツマン,シュリックと引き継がれた哲学の講 座があり,その内容は,哲学でも次第に自然科学に 近づいていった.1928 年に,数学,物理,哲学, 経済学など,広い分野のメンバーが,マッハ協会を設立し,ウイーン学団を結成した.その思想が論 理実証主義である.中には,統計学者のワルドや経済学者のモルゲンシュテルンもいた.ワルドは, 経済の方程式体系に非負解があることを証明し,モルゲンシュテルンは,1944 年にノイマンとの共 著で『ゲーム理論と経済行動』を発表した.ちなみに,1938 年にオーストリアは,ナチスドイツに併合 され,モルゲンシュテルンやメンガーは,ウイーンを去って,アメリカに渡った.
 1932 年にプリンストンで講演をし,1936 年にメンガーに送ったドイツ語の論文は,1945年に英訳されて,「一般経済均衡モデル」という名で,経済学の学術誌レビュー・オブ・エコノミック・スタディーズ に掲載された.
 ノイマンの論文は,1928年のミニマックス定理の論文と同様,線形計画法,非線形計画法の発展の基礎となった.ノイマンの結果を整理し直すなら,線形計画法の鞍点定理となる.また,ノイマンの論文の中では,関数ではなく,対応について不動点が存在することをブラウアの不動点定理を用いて証明している.これは,今日,角谷の不動点定理として知られている結果である.ノイマンの論文 には,一般均衡というタイトルがつけられているが,それまでの静学的な一般均衡モデルを動学化しているという点で,画期的であった.ノイマンのこの論文は経済の生産技術面から,斉一成長経路と, 最大成長率の存在を証明している.この論文と,変分法を用いて社会的厚生の最大化条件を導出したラムゼーの論文が,その後の経済動学理論の発展に対する基礎を与えたのである.

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2011-09-06
アロー=デブリュー破れたり?
|
TripleCrisisというブログで、アロー=デブリューを初めとする不動点定理(角谷のものにせよ、ブラウワーのものにせよ)を用いた均衡の証明は経済的な意味を持たない、という主張がなされている(Economist’s View経由)。書いたのはアレハンドロナダル(Alejandro Nadal)というメキシコ経済学者cf.近著)で、そのブログエントリはこの共著論文の内容紹介になっている。
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20110906/what_if_equilibrium_never_existed

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経済成長論入門序章 経済成長論とは何か?宮 崎 耕 一
 ノイマンは資本というものをマクロ的にひとつにまとめて捉える,という考え方をとらず,消費される財と形式上区別しないで定式化した。彼は生産過程を,沢山のステップに分けて,各々の生産ステップは,その活動レベル1単位当り,多くの種類の財の量から成る束(たば)(ベクトル)(これを「財の量の束(たば)」と呼ぶことにしよう)を,別の財の量の束に変換する,と仮定した。ひとつの生産ステップは,その活動レベル1単位当り,生産活動の前と後の財の量の束のペアから成る,と定式化される。沢山の生産ステップの構成要因となっている沢山の「財の量の束」を構成する諸財の中に,フォン・ノイマンは,消費される財だけでなく,生産設備,機械類,道具類,部品,原材料,半製品,仕しかかり掛品その他,いわゆる資本財ないし生産財に属すといわれる諸財も含めた。これらの資本財ないし生産財を含む生産ステップにおいては,労働の作用によって,それら資本財が変形または変換される。たとえば,ある機械は,労働によって生産に用いられることによって,多少,磨耗して,より古い機械に変形または変換される。その同じ生産ステップでは,原材料が,変形,変換されて,半製品に姿を変える。別の生産ステップでは,半製品が完成品に変形,変換される。しかし,変形・変換されるというのは,原材料から半製品,半製品から完成品,と言う変形・変換だけでなく,生産設備や機械類や道具が,生産過程の中で変形・変換されるということをも含む,というわけだ。
 このように,変形・変換される財の範囲を生産財ないし資本財にまで拡張して,諸財を包括的に捉え,しかもひとつの集計値にまとめて扱うことを回避しながら,それら包括的な諸財全体が,一定の成長率で増加を続けていく,という描像を,数学的に描くことに成功したのが,フォン・ノイマンモデルの功績だった。
 このような,包括的に捉えられた諸財の一定率における成長の過程においては,それら諸財のうち,ひとつひとつの財が,まったく同率で増加していく,と考えられる。
 フォン・ノイマンモデルは,資本の集計量や生産物の集計量という,高度に抽象的な概念を用いずに,経済成長の過程を分析できるということを示したので,そのユニークかつ有意味な着想が今日でも高く評価されているだけでなく,森嶋道夫のような,資本の集計量という概念に強い疑念を持つ経済学者に,高く評価され,より洗練された経済成長モデルに改良された。

経済成長論入門序章 経済成長論とは何か?宮 崎 耕 一
第7章 フォン・ノイマンの経済成長モデル
 日本の経済学者で国際的に有名な人としては,宇沢弘文とならんで森嶋道夫(故人)がいる。森嶋は経済成長に関する,有名な数学者フォン・ノイマンの論文[11]の着想を踏まえて,経済成長論を発展させた(1969年刊の書物[12]を見よ)。ここで,そのフォン・ノイマンの着想について簡単に説明しておこう。
 ノイマンは資本というものをマクロ的にひとつにまとめて捉える,という考え方をとらず,消費される財と形式上区別しないで定式化した。彼は生産過程を,沢山のステップに分けて,各々の生産ステップは,その活動レベル1単位当り,多くの種類の財の量から成る束たば(ベクトル)(これを「財の量の束たば」と呼ぶことにしよう)を,別の財の量の束に変換する,と仮定した。ひとつの生産ステップは,その活動レベル1単位当り,生産活動の前と後の財の量の束のペアから成る,と定式化される。沢山の生産ステップの構成要因となっている沢山の「財の量の束」を構成する諸財の中に,フォン・ノイマンは,消費される財だけでなく,生産設備,機械類,道具類,部品,原材料,半製品,仕掛(しかかり)品その他,いわゆる資本財ないし生産財に属すといわれる諸財も含めた。これらの資本財ないし生産財を含む生産ステップにおいては,労働の作用によって,それら資本財が変形または変換される。たとえば,ある機械は,労働によって生産に用いられることによって,多少,磨耗して,より古い機械に変形または変換される。その同じ生産ステップでは,原材料が,変形,変換されて,半製品に姿を変える。別の生産ステップでは,半製品が完成品に変形,変換される。しかし,変形・変換されるというのは,原材料から半製品,半製品から完成品,と言う変形・変換だけでなく,生産設備や機械類や道具が,生産過程の中で変形・変換されるということをも含む,というわけだ。
 このように,変形・変換される財の範囲を生産財ないし資本財にまで拡張して,諸財を包括的に捉え,しかもひとつの集計値にまとめて扱うことを回避しながら,それら包括的な諸財全体が,一定の成長率で増加を続けていく,という描像を,数学的に描くことに成功したのが,フォン・ノイマンモデルの功績だった。
 このような,包括的に捉えられた諸財の一定率における成長の過程においては,それら諸財のうち,ひとつひとつの財が,まったく同率で増加していく,と考えられる。
 フォン・ノイマンモデルは,資本の集計量や生産物の集計量という,高度に抽象的な概念を用いずに,経済成長の過程を分析できるということを示したので,そのユニークかつ有意味な着想が今日でも高く評価されているだけでなく,森嶋道夫のような,資本の集計量という概念に強い疑念を持つ経済学者に,高く評価され,より洗練された経済成長モデルに改良された。(資本の集計可能性に関する論争については,専門雑誌Quarterly Journal of Economicsの,森嶋の1966年論文[13]の掲載されたのと同じ号の特集を参照せよ。)

結 語
経済成長論は,戦前にケインズによって創始されたマクロ経済学のマクロ的貯蓄とマクロ的投資に関する概念に立脚して,戦後に創始され,微分方程式論などの比較的高度の数学の巧みな援用によって,発展してきた。その経済成長理論は,工業社会の生産規模や生産技術が年々増加していくという現実的現象を,科学的,数学的,計量的(実証的)に分析するという目的のために用いられてきており,経済学の中の重要な一部分をなすまでに発展してきた。

[11]John  von  Neumann, “A  Model  of  of  General  Equilibirium,” 1945-46,  The Review  of  Economic  Studies (Translation  of  an  original  paper  in  German  by J. von Neumann, 1936)[12]Michio  Morishima, “Theory  of  Economic  Growth,” 1969,  Oxford  University Press.[13]Michio  Morishima, “Refutation  of  the  Nonreswitching  Theorem,” 1966, The Quarterly Journal of Economics.

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森嶋通夫著作集 3 経済成長の理論
著者名等  森嶋通夫/著  
出版者   岩波書店
出版年   2005.3
大きさ等  22cm 404p
注記    Theory of economic growth./の翻訳
NDC分類 330.8
件名    経済学  
要旨    さまざまな成長理論を動学的なフォン・ノイマン・モデルの上に統合し、多部門一般均衡
成長理論の数理的な枠組を拡張した画期的な業績。森嶋経済学はこれ以降新古典派経済学
に別れを告げることとなる。

目次    
第1部 プロトタイプ(マッチ箱サイズのワルラス・モデル;持続的成長均衡の可能性 
ほか);
第2部 ノイマン革命(「革命」の経済的含意;均衡成長(カッセル=ノイマン
半直線;ヒックス=マランヴォー軌道;規範的特性));
第3部 革命のあと(遺産の最
大化:第一ターンパイク定理;消費者の選択による振動 ほか);
第4部 さらなる展開
(可変的な人口とマルサス的貧困の回避;代替アプローチ:修正と精緻化 ほか)

内容    様々な成長理論を動学的なフォン・ノイマン・モデルの上に統合し、多部門一般均衡成長
理論の数理的な枠組を拡張した画期的な業績。これ以降新古典派経済学に別れを告げる後
期森嶋経済学の出発点。本邦初訳。

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吉原直毅『労働搾取の厚生理論序説』
http://www.arsvi.com/b2000/0802yn.htm

『労働搾取の厚生理論序説』

吉原 直毅 20080228 岩波書店,298p.


吉原 直毅  20080228 『労働搾取の厚生理論序説』(一橋大学経済研究叢書 55), 岩波書店,298p. ISBN-10: 4000099140 ISBN-13: 978-4000099141 \5460 [amazon][kinokuniya] ※ w01

■出版社による紹介

「格差社会」化やワーキング・プア問題が焦眉の現代において,マルクス『資本論』の労働搾取概念は主流派経済学の理論体系にはない独自性を持つ厚生理論である.本書では,現代経済学の手法によって,労働搾取概念を厚生経済学における一つの非厚生主義的well-being指標として,その理論的再構成を探求するプレリュードである.

■著者による紹介

吉原 直毅 「吉原直毅『労働搾取の厚生理論序説』(岩波書店, 2008年2月刊行予定)について」
吉原 直毅 『労働搾取の厚生理論序説』

■目次

第1章 今、なぜ労働搾取理論なのか?
  1.1 現代における貧富の格差問題
  1.2 労働搾取概念に基づく市場経済の厚生的特徴分析
  1.3 本書における方法論と各章の構成について
第2章 マルクス的一般均衡モデルと均衡解概念
  2.1 基本的生産経済モデル
  2.2 再生産可能解
  2.3 再生産可能解の存在定理
  2.4 一般凸錐生産経済の特殊ケース:フォン・ノイマン経済と均斉成長
  2.5 マルクス的均衡解に関する厚生経済学の基本定理
  2.6 労働者階級内の異なる消費選好の存在する経済での均衡解
第3章 レオンチェフ経済体系におけるマルクスの基本定理
  3.1 森嶋型「労働搾取率」及びマルクスの基本定理
  3.2 労働価値説と転化論
  3.3 数理マルクス経済学による,労働価値説の限界の露呈
  3.4 転化問題に関する“New Solution”アプローチ
  3.5 「マルクスの基本定理」の厚生的含意
第4章 一般的凸錘生産経済におけるマルクスの基本定理
  4.1 森嶋型労働搾取に基づくマルクスの基本定理
  4.2 代替的労働搾取の定式に基づくマルクスの基本定理の可能性:その1
  4.3 代替的労働搾取の定式に基づくマルクスの基本定理の可能性:その2
  4.4 労働者階級内の異なる消費選好の存在する経済でのマルクスの基本定理の可能性
  4.5 所得依存的労働搾取の定式の下でのマルクスの基本定理の可能性
  4.6 結論に代えて
第5章 搾取と階級の一般理論
  5.1 基本的生産経済モデルと再生産可能解
  5.2 階級-富対応関係
  5.3 富-搾取対応関係
  5.4 階級-搾取対応原理
  5.5 一般的凸錐生産経済における「階級-搾取対応原理」の成立の困難性
  5.6 新しい労働搾取の定式下での階級-搾取対応原理の成立
  5.7 所得と余暇に対する選好を持つ経済環境での搾取と階級の一般理論
  5.8 マルクス的労働搾取概念の意義――ジョン・ローマーの位置づけ
  5.9 マルクス的労働搾取論の限界?
第6章 搾取・富・労働規律の対応理論
  6.1 基本的生産経済モデルと再生産可能解
  6.2 再生産可能解の存在問題
  6.3 富-労働規律対応関係
  6.4 富-搾取-労働規律対応関係
  6.5 結論
第7章 労働搾取理論の公理的アプローチに向けて
  7.1 「マルクスの基本定理」問題における「労働搾取の公理」
  7.2 「階級搾取対応原理」問題における「労働搾取の公理」
  7.3 労働搾取の3つの代替的アプローチ――労働スキルの個人間格差の存在する生産経済への労働搾取理論の拡張可能性

■引用

第1章 今、なぜ労働搾取理論なのか?
  1.1 現代における貧富の格差問題
  1.2 労働搾取概念に基づく市場経済の厚生的特徴分析
 「1970年代における「マルクス・ルネッサンス」の影響下で、現代的な数理的分析手法を用いて、マルクスの経済理論を再構成する研究が活性化した。しかしそれらの研究成果は基本的に、古典的なマルクス主義の経済学体系の理論的土台の堅固性に疑問符を突きつける効果を持っていたのである。具体的には、例えば、古典的なマルクス主義の経済理論はいわゆる投下労働価値説(labor theory of value)」を理論的土台にして構築されたものであるが、この投下労働価値説の理論的頑健性に重大な問題があることが次第に明らかにされてきたのである。マルクスの労働搾取論もまた、投下労働価値説を理論社的土台として構築されたもの故、投下労働価値説への批判は、労働搾取論の学問的影響力低下へと波及する効果があった。」(吉原[2008:8])

第5章 搾取と階級の一般理論
 「剰余生産物が利潤として資本家に帰属するのは、いかなるメカニズムによって説明されるだろうか? それは、労働者からの剰余労働物の掠め取りではなく、むしろ生産手段の不均衡な私的所有と市場における資本の労働に対する相対的希少性ゆかに、その資本財の所有主体である資本家に帰属すべく発生するレント(rentr=賃料)が、正の利潤であるという説明で十分である。」(吉原[2008:171])

第7章 労働搾取理論の公理的アプローチに向けて
 「今や、労働価値説は市場の交換関係を説明する理論社とは成り得ない事が知られる様になり、さらに7.1節と7.2節の結論によって、労働搾取論もまた、資本主義経済の客観的運動法則に関する理論ではなく、むしろ特定の規範的評価基準に基づく、資本主義経済の規範的特徴付けの為の理論である事が明らかになったきたと思う。各労働者もしくは各個人の取得労働時間がどの様に確定されるかという問題は、客観的かつあたかも自然科学的に自ずから一つの数値に確定されるという類いの話ではなく、むしろ人々の納得と合意を以って確定されるべき数値であるという意味において、規範的評価の関わる問題と考えるべきなのである。」(吉原[2008:274])

■書評・紹介

◆立岩 真也 2009/02/01 「二〇〇八年読書アンケート」,『みすず』51-1(2009-1・2 no.569):-
 



第3章と内容が重なる
マルクス派搾取理論再検証 ―70 年代転化論争の帰結―吉原直毅



火曜日, 6月 14, 2016

ドーンブッシュ、マクロ上31頁:メモ


資産or
貨幣市場
     ↖
    ↓            ーーーーーーーーーー所得
利子率↘  ↓         
            ↗総需要↘        ↑
財政政策             財市場→ 生産量、物価
            ↘総供給↗                、失業
                         ↖   賃金  ↙
                         インフレ期待

マクロ経済学の基本的な相互関係

邦訳1996(改定前)
財政政策が重要という図に見える。

マクロ経済学
廣松毅, R.ドーンブッシュ, S.フィッシャー著
シーエーピー出版, 1998.3-1999.1
改訂版

CiNii 図書 - マクロ経済学
http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA35203110
目次
  • 1部 マクロ経済学の導入—現実と第1次近似モデル(イントロダクション;国民経済計算;所得と支出;貨幣、利子率および所得;財政・金融政策;開放経済のモデル)
  • 2部 総需要、総供給、および経済成長(総需要と総供給—基本モデル;総供給—賃金、物価および雇用;合理的期待均衡アプローチ;経済成長と生産性)
「BOOKデータベース」 より




タイトル別名
Macroeconomics
タイトル読み
マクロ ケイザイガク


http://ci.nii.ac.jp/ncid/BN09661947
ドーンブッシュ/フィッシャーマクロ経済学 : スタディガイド

        Startz, Richard
        廣松, 毅 ヒロマツ, タケシ

書誌事項

ドーンブッシュ/フィッシャーマクロ経済学 : スタディガイド

R.スターツ著 ; 廣松毅 [ほか] 訳

マグロウヒル出版, 1993.9

タイトル別名

    スタディガイド ドーンブッシュ/フィッシャー:マクロ経済学

    Study guide to accompany Dornbusch and Fischer macroeconomics


注記

R.ドーンブッシュ, S.フィッシャー著『マクロ経済学』の第5版に関するスタディガイド

用語解説: p315-329
内容説明・目次

内容説明
本書は、ドーンブッシュ・フィッシャー著『マクロ経済学』を学習するための工夫されたスタディガイドです。『マクロ経済学』に対応した本書の各章の説明を読み、各種の問題を解いていけば、マクロ経済学を確実に理解できます。

目次

    1章 イントロダクション
    2章 国民経済計算
    3章 所得と支出(総需要と均衡生産量、均衡所得)
    4章 貨幣、利子率および所得
    5章 財政政策、クラウディングアウトおよびポリシーミックス
    6章 開放経済のモデル
    7章 総需要と総供給—基本モデル
    8章 消費と貯蓄
    9章 投資支出
    10章 貨幣需要_
    11章 貨幣供給—中央銀行と金融政策
    12章 経済の安定化政策—可能性と問題点
    13章 総供給—賃金、物価および雇用
    14章 インフレーションと失業—基本モデル
    15章 インフレーションと失業のトレードオフ
    16章 財政赤字と国債
    17章 貨幣、財政赤字およびインフレーション
    18章 マクロ経済学—現実のマクロ経済と理論の相互作用
    19章 経済成長と生産性
    20章 貨幣、物価および為替レート(国際調整と相互依存)

3(総需要と均衡生産量、均衡所得) 以外は改定前を踏襲した目次。


_______________

比較用:

       財の需要 財・サービス 財の供給 
 お金の流れ------➡︎D市場S⬅︎--------- 
  |支出    均衡点E_\/    販売された財・|
  (=GDP)      /\       サービス|
  |  -------⬅︎S  D➡︎-------  |
  | |購入された    ⬇︎⬆︎       収入| |
  | |財・サービス 消費税|補助金 (=GDP) |
  | |         |政府購入    産出| |
  | | ⬅︎生活保護-- ||         | |

  ⬆︎ ⬇︎(⬅︎短期国債-➡︎)||(---助成金➡︎ ⬇︎ ⬆︎

  \ / ---所得税➡︎【政府】⬅︎保険・法人税)\ /
 【家\計】    公的貯蓄|⬆︎政府赤字    【企/業
  / \ ⬅︎利子・貸付け ⬇︎|(----融資➡︎ / \
  ⬇︎ ⬆︎ -預金・利息➡︎【銀行
⬅︎利息・取付け)⬆︎ ⬇︎
 
  | |         
金融         | |
  | | --民間貯蓄➡︎ 市場 ➡︎投資⬆︎    | |
  | |                 生産へ| |
  | (GDP=)所得 生産要素     の投入| |
  |  -------⬅︎D市場S➡︎-------  |
  |         E_\/均衡点   賃金・地代|
  |労働・土地・資本   /\   ・利潤(=GDP)
   ---------➡︎S  D⬅︎---------
      労働の供給        労働の需要


上図左右が
下図上下に対応。
左のマネーゲームは右の供給に行き着かない。

資産or
貨幣市場
     ↖
    ↓            ーーーーーーーーーー所得
利子率↘   ↓         
            ↗総需要↘        ↑
財政政策             財市場→ 生産量、物価
            ↘総供給↗                、失業
                         ↖   賃金  ↙
                         インフレ期待

マクロ経済学の基本的な相互関係

ガラスと液体:ガラスの「形」を数学的に解明 ~トポロジーで読み解く無秩序の中の秩序~

ガラスの「形」を数学的に解明
 ~トポロジーで読み解く無秩序の中の秩序~




 |           /
 |          /
 |         /
消|        /       重
滅|       /        複
 |      /         度
 |    。/  
 |  。。/
 |   /   液体
 |__/_______________
   0   発生


 |           /
 |          /
 |      BO /
消|CP     。/       重
滅|   CO。。/        複
 |      /         度
 |    。/  
 |CT。。/
 |   /   ガラス
 |__/_______________
   0   発生


CP  
    ●__●
   /   
 ー●    /
|     ●
●    / 
|_●_●

CT

    O__O
   /   
 ーO    /
|     O
   / 
|_●_O

CO

    O__O
   /   
 ー●    /
|/|   O
|  / 
|_●_O


BO 
    O__O
   /   
 ー●    /
|/   O
  \/ 
|_●_●

________________

CP  
    O__O
   /   
 ーO    /
|     O
O    / 
|_O_O

CT

    O__O
   /   
 ーO    /
|     O
   / 
|_O_O

CO

    O__O
   /   
 ーO    /
|/|   O
|  / 
|_O_O


BO 
    O__O
   /   
 ーO    /
|/   O
  \/ 
|_O_O



http://stat.scphys.kyoto-u.ac.jp/pub/jps07.pdf



【数理物理学/固体物理学】ガラスの「形」を数学的に解明 トポロジーで読み解く無秩序の中の秩序 [無断転載禁止]©2ch.net
1 :
2016/06/14(火) 12:23:18.75 ID:CAP_USER
共同発表:ガラスの「形」を数学的に解明~トポロジーで読み解く無秩序の中の秩序~
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20160614/index.html


ポイント
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)の平岡 裕章 准教授、中村 壮伸 助教を中心とした研究グループは、統計数理研究所(ISM)および科学技術振興機構(JST)と共同で数学的手法を開発することで、ガラスに含まれ る階層的な幾何構造を解明することに成功しました。

周期性を持たないガラスの原子配置構造は非常に複雑であり、その構造を理解するために、適切な記述法を開発することが長年求められていました。本研究グ ループは、トポロジー注1)を応用することでこの問題を解決することに成功しました。さらに、ここで開発された数学手法は物質に特化しない普遍的なもので あることから、情報ストレージや太陽光パネルなどのガラス開発に加え、マテリアルズインフォマティックス注2)なども含めた幅広い材料開発への応用が期待 されます。

本成果は、平成28年6月13日の週(米国東部時間)に、米国科学アカデミー紀要(PNAS)「Proceedings of the National Academy of Sciences」オンライン速報版に掲載されます。


(以下略)
2 :
名無しのひみつ@無断転載は禁止
2016/06/14(火) 12:40:45.21 ID:20q5TdAn
無秩序にも「秩序」がある。それを数学的に記述するんだね。
3 :
名無しのひみつ@無断転載は禁止
2016/06/14(火) 12:41:22.81 ID:dxSRlr6i
全然分からんがや
4 :
名無しのひみつ@無断転載は禁止
2016/06/14(火) 12:48:43.97 ID:iKII4TRq
材料系は東北大学強いなぁ
5 :
名無しのひみつ@無断転載は禁止
2016/06/14(火) 12:52:15.54 ID:4nJtOAw1
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20160614/icons/zu1.jpg

意外に面白いな。

> 純粋に「データの形」を扱う今回の手法は、ガラスに限らないその他の材料やより一般のデータ解析への応用も可能とします。
> 膨大な原子配置データや実験画像データに対するマテリアルズインフォマティックスへの展開や、ビッグデータ解析へブレークスルーをもたらす手法に発展することが予想されます。

発展性もある。


_______________


平成28年6月14日
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)
情報・システム研究機構 統計数理研究所(ISM)
科学技術振興機構(JST)

ガラスの「形」を数学的に解明

~トポロジーで読み解く無秩序の中の秩序~

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)の平岡 裕章 准教授、中村 壮伸 助教を中心とした研究グループは、統計数理研究所(ISM)および科学技術振興機構(JST)と共同で数学的手法を開発することで、ガラスに含まれ る階層的な幾何構造を解明することに成功しました。
周期性を持たないガラスの原子配置構造は非常に複雑であり、その構造を理解するために、適切な記述法を開発することが長年求められていました。本研究グループは、トポロジー注1)を応用することでこの問題を解決することに成功しました。さらに、ここで開発された数学手法は物質に特化しない普遍的なものであることから、情報ストレージや太陽光パネルなどのガラス開発に加え、マテリアルズインフォマティックス注2)なども含めた幅広い材料開発への応用が期待されます。
本成果は、平成28年6月13日の週(米国東部時間)に、米国科学アカデミー紀要(PNAS)「Proceedings of the National Academy of Sciences」オンライン速報版に掲載されます。

<研究の背景>

ガラスは結晶とは異なり原子配列に周期性を持たないことから、構造を適切に表現する記述法としていまだ満足なものが得られていません。従来の手法では、各 原子の近傍に関する短距離構造について調べることは可能ですが、ガラスのように乱れた3次元原子配置をもつ系に対しては有効ではありません。特に近年の研 究では、ガラスの構造を理解するには、より広範囲の原子で構成される中距離構造を理解する必要性が報告されており、現在多くの研究者が実験的・理論的にガ ラス構造の解明に取り組んでいます。このような新たな記述法の開発は、基礎科学としては「ガラスとは何か」という長年の大問題への理解を深めるものであ り、また産業的には情報ストレージや太陽光パネルなどのガラス材料開発に直結する重要な意味を持ちます。中距離構造を記述する難しさは、(1)多くの原子 からなる多体系の特徴をどのように記述するか、および(2)短距離から中距離までのマルチスケール性をどのように扱うかにあり、このような困難を克服しか つ材料に依存しない普遍的な新手法の開発が強く望まれていました。

<研究の内容>

このたび、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構を中心とした研究グループは、ガラスの原子配置に含まれる中距離秩序構造を記述できる数学的手法を開発し、それを用いてガラスの階層的な幾何構造を抽出することに成功しました。開発された数学的手法はパーシステントホモロジー注3)と呼ばれるトポロジーにおける概念を用いており、原子配置を空間内の点の集まりとみなし、そこに含まれるリングや空洞といった「穴」に着目するマルチスケールデータ解析を可能とします。これにより酸化物ガラスや金属ガラスの代表的な例(SiOやCuZr)に対して、分子動力学法注4)を用いて各物質の原子配置を構成しパーシステントホモロジーを適用することで、液体とガラス状態の内部構造の違いを幾何学的に特徴付けることに成功しました(図1図2)。特に、ガラス状態では原子配置のリング構造に階層性を持った秩序構造が存在することを見出しました。ここで得られた新たな知見をもとに、第一シャープ回折ピーク(FSDP)注5)の実空間幾何構造としての特徴づけや、ガラスの硬さの起源にあたる中距離秩序構造の記述にも成功しました。

<今後の展望>

今回の数学的手法を用いたガラスの構造解析に関する成果は、ガラスの基礎研究から応用研究までの広い分野に大きなインパクトを与えるものです。今後基礎研 究としては、パーシステントホモロジーを用いたガラス転移の特徴づけや、剛性や粘性をはじめとした物性と原子配置の相関について理解が進むことが予想され ます。また応用の立場からは、ガラス材料を用いた高機能な記録材料・記録媒体や太陽光パネルなどの開発へ適用されることが期待されます。さらに数学的手法 の最大の特徴はその普遍性であり、純粋に「データの形」を扱う今回の手法は、ガラスに限らないその他の材料やより一般のデータ解析への応用も可能としま す。膨大な原子配置データや実験画像データに対するマテリアルズインフォマティックスへの展開や、ビッグデータ解析へブレークスルーをもたらす手法に発展 することが予想されます。
なお、本成果は、文部科学省 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)、JST CREST「ソフトマター記述言語の創造に向けた位相的データ解析理論の構築」(研究代表者:平岡 裕章)、JST さきがけ「トポロジカルデータ解析に基づくアモルファス構造の包括的記述と特徴抽出」(研究者:中村 壮伸)、JST SIP「マテリアルズインテグレーションへの数学的アプローチ技術開発」(研究責任者:西浦 廉政)などの援助によって得られました。

<参考図>


図1 SiOの原子配置(左)とそのパーシステントホモロジー(右)

ガラスは液体と異なり3つの曲線のような帯状領域を持つ。数学解析を行うことでこれらの曲線がガラスの形を特徴づけていることがわかる。

図2 SiOガラスのパーシステントホモロジー(図1右上)に対応する典型的なリング構造

パーシステントホモロジーは緑色のリングを捉えている。ここで赤球はO原子、青球はSi原子を表す。

<用語解説>

注1) トポロジー
物の形を連続変形した際に保たれる性質に着目した数学の1分野です。例えば輪ゴムとコーヒーカップは、互いにリング形状を保ちながら移り合うので 同じものと見なされます。位相的データ解析に代表されるように、近年では数学的な研究に加えて、トポロジーを諸科学・産業へ応用する「応用トポロジー」と 呼ばれる新分野が開拓されています。
注2) マテリアルズインフォマティックス
計算機性能の飛躍的な発達にともない、これまで蓄積されてきた膨大な材料データに計算科学・数理的な手法を適用することで新物質・新材料を開発する取り組み。従来の試行錯誤的な材料開発とくらべて開発期間や資源の大幅な削減につながることが期待されています。
注3) パーシステントホモロジー
図形や画像、さらにはより一般の「データの形」をマルチスケールで特徴付ける数学的手法。位相的データ解析と呼ばれるトポロジーを応用したデータ 解析手法の1つです。その起源は19世紀フランスの数学者ポアンカレによって考案されたホモロジーにあり、21世紀になってデータ解析への応用の可能性を 指摘され新たな展開を迎えています。現在、数学研究のみならず諸科学への応用研究が急速に進められています。
注4) 分子動力学法
古典力学に基づいて、多数の原子の運動方程式を数値的に解き、材料物性を評価する方法。実験や量子力学に基づいて決められる原子間相互作用を与え る事で化学的性質を表現する事が出来ます。また、実験とつじつまがあうような妥当な原子配置を推定する際に役立ちます。本研究ではガラスの原子配置を求め る際に使用しています。
注5) 第一シャープ回折ピーク(FSDP)
ガラス構造から得られるX線あるいは中性子散乱プロファイルで低散乱角側(つまり1番目)に出現するシャープな回折ピーク。プロファイルの低散乱角側にあることから、実空間の構造としては比較的長い距離に対応し、ガラスの中距離構造と関係があると言われています。

<論文情報>

タイトル Hierarchical structures of amorphous solids characterized by persistent homology
著者名 Yasuaki Hiraoka, Takenobu Nakamura, Akihiko Hirata, Emerson G. Escolar, Kaname Matsue, and Yasumasa Nishiura
掲載誌 Proceedings of the National Academy of Sciences

日曜日, 6月 12, 2016

ヘーゲルの自己意識論:主人と奴隷(メモ)



            (ヘーゲルリンク::::::::::)  

NAMs出版プロジェクト: 3か4か?(タルコット・パーソンズ体系:本頁)
http://nam-students.blogspot.jp/2010/09/blog-post_7474.html

NAMs出版プロジェクト: ヘーゲルの自己意識論:主人と奴隷(メモ)

http://nam-students.blogspot.jp/2016/06/blog-post_47.html@


「僕たることは、自己に押しもどされた意識として、
自己のうちに帰り、真の自立態に逆転するであろう。」ヘーゲル

精神現象学、自己意識の章に出てくるヘーゲルによる主人と奴隷の弁証法(意識から自己意識へ)は、私見では以下の構図を持つ。

 主人(死を以て支配)
 奴隷
  ↓
主人-奴隷(相互承認)
  ↓
 奴隷(労働の優位)
 主人

あるいは、

主人 物 奴隷
  ↓
 主人
 奴隷 物
  ↓
 奴隷 物
 主人

(主人は物を間接的に扱い、奴隷は直接的に扱う)

もしくは、

主人
奴隷
 ↓
主人-物a-奴隷-物b (*承認)
      ↓
     奴隷 (*労働は直接、物を形成)
     主人

正反合ならぬ正合反? エンチ#430〜5参照

マルクスはこれを資本家と労働者に置き換えた。3ではなくカント的4段階を論理の型にしているが、レトリックは3段階である。
価値形態論だと左右反転にもう一段階使う。
また、両者とも労働が物との関係性で捉えられる。

http://dameinsei.hatenadiary.jp/entry/2013/02/03/171600
「物を形成するなかで自分が自主・自立の存在であることが自覚され、こうして、自主・自立の過不足のない姿が意識にあらわれる。物の形は外界に打ち出されるが、といって、意識と別ものなのではなく、形こそが意識の自主・自立性の真の姿なのだ。かくして、一見他律的にしか見えない労働のなかでこそ、意識は、自分の力で自分を再発見するという主体的な力を発揮するのだ。」(同上、137頁)

https://www.nagaitoshiya.com/ja/1999/master-slave-dialectic-sadism-masochism/

主人と奴隷の弁証法は、『精神現象学』の「自己意識」の章に出てくる。ヘーゲルによれば、「自己意識は即かつ対自的に存在するが、それは、自己意識が小文字の他者に対して即かつ対自的である、つまりもっぱら承認されたものとして存在するかぎりにおいて、かつそのことによってである」[Hegel; Phaenomenologie des Geistes,S.141]。
ヘーゲルの表現は難解だから、分かりやすく説明しよう。
第1段階:例えば、ある人が、前人未到と思われる土地を発見し、「ここはオレの土地だ!」と宣言したとする。そう宣言することは誰にでもできるし、納得しているのは宣言している本人だけである。この真理の主観的段階は、即自的といえる。
第2段階:ところが後から「そこは、実は私が最初に見つけた土地だ」と言い出す男が現れたとする。するとさっきの即自的で主観的な真理は他者によって否定されることになる。これが弁証法の対自的段階である。
第3段階:当然その土地が誰のものかをめぐって、二人の間で争いが起きる。二人は、たんに主観的な真理ではなく、相互主観的(社会的)に承認された客観的真理を求めるようになる。相互承認された真理は、ヘーゲルの弁証法では、即かつ対自的であると言われる。
私と他者という二つの自己意識は、自立的であろうとして、存在を賭けた戦いを行う。それゆえ二つの自己意識の関係は、両者が生死を賭けた戦いを通して、自分自身とお互いの真を確かめるべく規定されている。両者は戦わなければならない。なぜなら両者は、それ自体で存在しているという自分の確信を他者において、そして自己自身において真理へと高めなければならないからである。
自己意識が自立的であり、自分の権利を全うしようとするならば、他者から承認されなければならないが、それが不可能なら相手を殺すしか他はない。だがこのように死によって真を確かめることは、そこから出てくるはずの相互承認された真理を、そしてそれゆえにまた自己自身の確信一般をも破棄してしまう。
意識は、自分の自立的存在を他者に認めさせようとして、他者と戦った。もし他者を死に至らしめてしまえば、自分を勝利者として認めてくれる他者をも失うことになってしまう。自己意識は自立的であろうとするならば、自立的であってはならないのであって、相手が「言うことは何でも聞くから殺さないでくれ」と哀願してきたときには、敵の命を救って、彼を奴隷にしなければならない。こうして自己意識は奴隷から主人として承認される存在となる。
奴隷は、主人の命令で労働し、主人は遊んで暮らす。奴隷の労働の果実は主人に取り上げられ、奴隷はそのおこぼれしか享受することができない。主人は自立的で、奴隷は非自立的である。しかし主人はやがて労働することを忘れるようになる。主人は奴隷がいなければ生きていけなくなる。ここにおいて主人と奴隷の関係が逆転し、主人が非自立的、奴隷が自立的存在となる。
「それゆえ、自立的意識の真理は奴隷の意識である。この自立的意識は、最初は確かに自己の外に現れ、自己意識の真理としては現れない。しかし、支配の本質が、支配がそうなろうと欲したところのものの逆であることを支配が示したように、おそらく隷従の方も、それが徹底して行われるならば、隷従が直接そうであるところのものの逆になるであろう。隷従は、自己内へと押し返された意識として自己へと立ち帰り、真の自立性へと逆転していくであろう」[Hegel; Phaenomenologie des Geistes,SS.147-148]。
以上はヘーゲルの説明である。今回は、かつてサルトルがやろうとしたこと、サドとマゾの間に、ヘーゲルの主人と奴隷の弁証法の関係を見出すことをしてみよう。そして前回分析した金属バット殺害事件にSM関係がなかったかどうかも考えてみよう。

ヘーゲルの自己意識論:主人と奴隷
http://philosophy.hix05.com/Hegel/hegel09.jiko.html
主人と奴隷の関係は、一見して一方的な関係に見える。しかしよく見るとそうではない。両者は互いに相手を前提として成り立つ。奴隷が存在しなければ主人はありえないように、両者は一体となって初めて意味を持つようになるのだ。

そこでヘーゲルは、主人―奴隷関係の中に潜んでいる弁証法的な契機を明らかにしていく。

まず、主人は死の威力をもって奴隷を支配する。奴隷は死の脅威に怯えて主人に服従する。つぎに主人は奴隷の労働を通して物を獲得する。奴隷は奴隷で、労働を通して直接物にかかわり合う。しかし、この過程から次のような事態が生じる。

主人は奴隷を支配することを通じて、自分の自立性を獲得できているように見えるが、このことは、いいかえれば、主人の自立性は奴隷との相対的な関係に依存していることを示している。主人は奴隷がいなくなれば主人であることをやめる、ということは、人間としての自立性を失うことを意味する。もはや主人でなくなったものは、物とのかかわりも失うからである。

ところが奴隷の方は、たとえ主人がいなくなったとしても、少なくとも人間としての自立性を失うことにはならない。何故なら、奴隷は労働を通じて直接物にかかわっているのであるし、そのことを通じて人間としての本質に即した生き方をなしえているからだ。人間というものは、労働の経験によって、自分(自己意識)の本質を実現する可能性をつかむのである。

労働について、ヘーゲルは次のように言う。

「労働とは欲望を抑制し、物の消滅にまで突き進まず、物の形成へと向かうものである・・・物を否定しつつ形をととのえる行為というこの中間項は、同時に、意識の個性と純粋な自主・自立性の発現の場でもあって、意識は労働する中で自分の外にある持続の場へと出ていくのだ。こうして労働する意識は、物の独立を自分自身の独立ととらえることになる・・・一見他律的にしか見えない労働の中でこそ、意識は、自分の力で自分を再発見するという主体的な力を発揮するのだ」

人間の本質実現は労働を通じてもたらされる、とするこの思想は、マルクスに多大な影響を与えた。マルクスもまた、労働こそが人間の本質を実現する過程だと考えたのである。そして資本主義社会においては、支配者たる資本家は他人の労働に依存している限り、ヘーゲルのいう「主人」と同じ立場にある。一方ヘーゲルのいう「奴隷」である労働者階級は、労働を通じて人間の本質実現をできる立場にある。それ故、資本主義社会が消滅して共産主義社会がやってくれば、労働するものは、労働を通じて、自己の人間性を全面的に開花させうる立場になる。そうした社会では、人間性は何物にも妨げられることなく、自由でのびのびと花開くことになるだろう。そうマルクスは考えたわけだが、その思想の芽が、ヘーゲルの主人―奴隷関係の議論の中にあったわけである。
 _____

マルクス『経済学・哲学草稿』(1844年)――第三草稿〔二〕私有財産と共産主義
http://web1.nazca.co.jp/hp/nzkchicagob/DME/KeitetuSoukou32.html
共産主義は否定の否定としての肯定であり、それゆえに人間的な解放と回復との、つぎの歴史的発展にとって必然的な、現実的契機である。共産主義はもっとも近い将来の必然的形態であり、エネルギッシュな原理〔das energische Prinzip〕である。しかし共産主義は、そのようなものとして、人間的発展の到達目標――人間的な社会の形姿――ではない(36)。  
マルクス『経済学・哲学草稿』――第三草稿〔五〕ヘーゲル弁証法と哲学一般との批判
http://web1.nazca.co.jp/hp/nzkchicagob/DME/KeitetuSoukou35.html  

それゆえ、一つの側面からすれば、ヘーゲルが哲学へと止揚する現存なるものは、現実的な宗教、国家、自然ではなくて、すでに知識の対象となった宗教そのもの、すなわち教義学であリ、おなじく法律学国家学自然学なのである。したがって一つの側面からいえば、ヘーゲルは現実的な存在と対立するとともに、直観的な非哲学的な学問とも、またはこの存在の非哲学的な概念とも対立しているわけだ。だからこそヘーゲルは、それらのよく通用する諸概念に反対するのである。

 他面では、宗教的等々の人間は、ヘーゲルにおいてその最後の確証を見いだすことができる。

 ところで、いまやヘーゲルの弁証法の積極的な諸契機――措定の規定の内部での――をとらえねばならない。

 (a) 外在態を自己のうちに取りもどす対象的な運動としての止揚。――(41)《これは対象的本質をその疎外の止揚によって獲得するということについての、疎外の内部で表現された洞察であり…

 (自己自身から疎外された人間は、また彼の本質から、すなわち自然的で人間的な本質から疎外された思想家でもある。それゆえ彼の諸々の思想は、自然と人間との外部に住んでいる固定した精霊どもである。ヘーゲルは彼の論理学のなかでこれらの固定した精霊をすべて集めて閉じこめ、それらの各精霊をまず否定として、すなわち人間的思惟の外在態としてとらえ、それから否定の否定として、すなわちこうした外在態の止揚として、人間的思惟の現実的な発現としてとらえたのである。しかし、それ自身なお疎外のうちにとらわれているので、――この否定の否定は、一方ではその疎外態において精霊どもを再興することであり、他方ではこれらの固定した精霊の真の現存としての究極の行為で満足すること、すなわち、そのような現存としての外在態のなかで自己を自己に関係させること〔das Sichaufsichbeziehen〕である。《すなわちヘーゲルは、あの固定した抽象の代りに抽象の自己内循環行為をおく。それによって彼はまず、そのもともとの日付からいえば個々の哲学に所属するこれらすべての怪しげな概念の誕生地を証明し、それらを総括し、特定の抽象態の代りに、それらの概念の全範囲を網羅しつくした抽象を批判の対象として創りだすという功績をあげたのである。)(なぜヘーゲルが思惟を主体から切りはなしたかということについてはあとで見ることにする。しかし、人間が存在しないとすれば、彼の本質の発現もまた人間的ではありえないこと、したがって思惟もまた、社会や世界や自然のなかで目、耳等々をそなえて生きている人間的で自然的な主体としての人間の、本質発現としてはとらえられなかったこと、こうしたことはすでにここでも明らかである。)》 さらにヘーゲルにあっては、この抽象が自己自身を把握し、自己自身について果てしない倦怠を感じているかぎりでは、目もなく耳もなくなにもかもない抽象的な思惟、思惟のなかでのみ運動する思惟を放棄することが、自然を実在として承認し直観にみずからを委ねようと決心することとして現われるのである。)…

以下は『経済学・哲学草稿』(光文社、長谷川訳)。

四.欲求と窮乏

…疎外の廃棄は、つねに、支配的な力としてある疎外の形式から生じてくるので、ドイツではそれが自己意識であり、政治的なフランスではそれが平等であり、イギリスでは現実的で、物質的で、独善的な実践的欲求だ。この点からプルードンを批判し、また承認しなければならない。

 わたしたちが共産主義をいまだ否定の否定として、私有財産の否定に媒介された人間的本質の獲得として特徴づけ、したがって、真の、自発的な肯定ではなく、私有財産に始まる肯定として特徴づけるとき、……〔以下、草稿の左側がちぎれて紛失しているので判読不可能〕……こうして、人間生活の現実的疎外は克服されずに残り、しかも、人がそれを疎外として意識すればするほど疎外は大きくなるから、疎外が克服されるとすれば、共産主義の実現によって克服されるほかはない。


(存在、本質、概念。一般性、特殊性、個別性。肯定、否定、否定の否定。単純な対立、決定的な対立、克服された対立。直接性、媒介、媒介の克服。自己のもとにある、外化、外化からの帰還。即自、対自、即自かつ対自。統一、区別、自己区別。同一性、否定、否定力。論理、自然、精神。純粋意識、意識、自己意識。概念、判断、推論。)

上は26歳のマルクスによる「『精神現象学』の最終章「絶対知」からの抜き書き」。(  )内の五行だけがマルクスの追加した箇所。


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二つめのプラン。〔草稿集<1>、329ページ〕

資本。
 I、一般性
  (一)
   (a)貨幣からの資本の生成。
   (b)資本と労働(他人の労働によって媒介された)。
   (c)資本の諸要素、それが労働にたいしてもつ関係にしたがって分解されたもの(生産物。原料。労働用具)。
  (二)資本の特殊化。
   (a)流動資本。
   [(b)]固定資本。
   [(c)]資本の通流
  (三)資本の個別性。
   [(a)]資本と利潤。
   [(b)]資本と利子。
   [(c)]利子および利潤としてのそれ自身から区別された、価値としての資本。
 II、特殊性
  (一)諸資本の蓄積。
  (二)諸資本の競争。
  (三)諸資本の集積(同時に質的な区別でもあり、また資本の大きさと作用の尺度でもある、資本の量的な区別)。
 III、個別性
  (一)信用としての資本。
  (二)株式資本としての資本。
  (三)金融市場としての資本。  


               /\
              /  \
           金融市場としての資本
            /______\
           /\ <個別性>/\
          /  \    /__\
      信用としての資本\  /株式資本としての資本
        /______\/______\
       /\              /\
      /価値\ マルクス1857~8年/  \
     / 個別性\  『資本論草稿』 /諸資本の集積
    /利潤__利子\ ノート2より /______\
 労働用具<一般性> /\      /\ <特殊性>/\
生産物  原料   /通流\    /  \    /  \
 /=諸要素\  /特殊化 \ 諸資本の蓄積\  /諸資本の競争
/貨幣__労働\/流動__固定\/______\/______\
         資本  資本

左下で完結しているのが特徴だ。現行資本論も第一部で完結しているという見方もある。
ただし、ある種の円環が全体にあり、ヘーゲル流のトリアーデがそれを示唆する。


参考:
               /\
              /  \
             / 利子 \
            /______\
           /\ <分配論>/\
          /  \    /__\
         / 利潤 \  / 地代 \
        /______\/______\
       /\              /\
      /  \    宇野弘蔵    資本の\
     / 資本 \  『経済原論』  /再生産過程
    /______\        /______\
   /\<流通論> /\      /\ <生産論>/\
  /  \    /  \    /  \    /  \
 / 商品 \  / 貨幣 \  /資本の \  /資本の \
/______\/______\/_生産過程_\/_流通過程_\


追加:
資本論1:24
第二四章 いわゆる本源的蓄積
第七節 資本制的蓄積の歴史的傾向
《…資本独占は、それとともに──またそれのもとで──開花した生産様式の桎梏となる。生産手段の集中と労働の社会化は、それらの資本制的外被と調和しえなくなる時点に到達する。この外被は粉砕される。資本制的私有財産の葬鐘が鳴る。収奪者たちが収奪される。
 資本制的生産様式から発生する資本制的取得様式は、したがって資本制的な私的所有は、自分の労働を基礎とする個人的な私的所有の第一の否定である。だが、資本制的生産は、自然過程の必然性をもって、それじしんの否定を生みだす。これは否定の否定である。この否定は、私的所有を再建するわけではないが、しかも資本主義時代に達成されたもの──すなわち協業や、土地の・および労働そのものによって生産された生産手段の・共有──を基礎とする個人的所有を生みだす。》



> 第三手稿 

>  〔ヘーゲルの弁証法と哲学一般の批判〕 

>   一例をあげよう。ヘーゲルの『法の哲学』においては、

揚棄された私有財産は道徳にひとしく、

揚棄された道徳は家族にひとしく、

揚棄された家族は 

> 市民社会にひとしく、

揚棄された市民社会は国家にひとしく、

揚棄された国 

> 家は世界史にひとしい(58)。現実においては私法・道徳・家族・市民社 

> 会・国家等々はあいかわらず存続している。ちがった点といえば、それらが 

> 契機になったということにあるにすぎない。すなわち、孤立させたら妥当性 

> を欠いてしまい、たがいに他を解体したり産出したりする人間の現存態ない 

> し存在様式に、それらがされたというこの点にとどまる。運動の契機。 

>  

>  58 以上は『法の哲学』に登場する主要なカテゴリーを、その順序のまま 

> に書きしるしたものである。  

(河出 世界の大思想2-4)


 『法の哲学』
               /世界史
              /__\
             /\国家/国際法
            国内法\/__\
           /<倫理=共同世界>       
         教育と解体   福祉行政と職業団体
         /\家族/\   /\市民/\
        /婚姻\/資産\ /欲求\/司法\
       /\               /\
      /__\   <客観的精神>   /__\
     不法に対する法          /\善と良心 
    /__\/__\         /__\/__\
   /\ <法>  /\       /\  <道徳> /\
  /__\    /__\     /__\     /__\
 /\所有/\  /\契約/\   /企図と責任   /\意図と福祉 
/(私有財産)\/__\/__\ /__\/__\ /__\/__\