水曜日, 11月 24, 2010

中国におけるアナキズム:メモ(改訂版)

中国におけるアナキズムは老子の『道徳経』に始まるという人もいる(1)。その場合「小国寡民」などはその代表的主張だといえる(2)。
ただし、より自覚的なそれは1900年以降だとするのが現実的だろう。師復(初期にはテロを志向したがのちに転回)という人物が影響力を持ったという(3)。

師復


中国共産党を作った毛沢東は、スノーとの対話でアナキズムを研究したと語っているし(4)、「小組織、大連合」という1921年の毛沢東のキャッチフレーズ(5)は、アナキストとの連携を意図するものだった。そもそも孫文の時代はアナキズムと共産主義は未分化だったようだ。

毛沢東とともに中国共産党を作った李大釗と胡適(デューイの弟子で、武田泰淳には「E女史の柳」という胡適をモデルの短編小説がある)は「問題と主義」という論争を1919年にしている(6)。

李大劉

胡適

これなどは(主義と無主義の闘いと思われていても)実質的には政治革命と社会革命との論争であって、政治革命の側が勝ち胡適が負けたことになっているが、社会革命の可能性が当時の中国にあったことを逆に語っているのである。

なお、(中国共産党の創始者の一人とはいえ)、李大钊も「战争与人口问题」という論文でプルードン(Proudhon=普鲁东, 普魯東)を引用しているのは特筆すべきだ(「Proudhon氏“战争乃饥馑之子”之言」(7))。これは初期中国共産党がアナキズムからも学んでいたことを示すものだからだ。

また、前出の師復からの影響は、アナキズム陣営が1920年にアナボル論争を李大釗と並んで中国共産党の創設メンバーである陳独秀とおこなうまでになった(日本でも同時期の1919から1922年にかけてアナボル論争があった(3))。こうした論争の意義はあらためて見直すべきだろう(8)。

陳独秀

この時期ボルシェビキズムへ傾斜した主流派となる李大釗と陳独秀側と、そこから離れる胡適(白話文=口語運動に傾注した)といったように、啓蒙主義的な雑誌『新青年』執筆者内部で分裂があったことになる(『狂人日記』を『新青年』に発表した魯迅や周作人もまたも主流派から離れてゆく)。

国際的なネットワークに目を向けると、1903年に『無政府主義』を出版した張継というアナキストなどは、日本に留学したことをきっかけに大杉栄などと交流があったらしい(8)。
20世紀初頭においては中国人アナキストはパリと東京を2大拠点にしていたそうだ(パリグループは教育を重視し「無政府主義は教育を以て革命とする」(8、p31)と主張した)。
ちなみに、魯迅や李大釗らが日本に留学していたことは知られているが、アナキズム側のそうした状況はあまり知られていない。

情報技術のすすんだ現代において、こうした交流がないのは逆に不自然だ。
巴金などの私小説作家をアナキストとする考え方もあるし(大杉栄の追悼文を書いている巴金は(9)、巴金というペンネームの金はクロポトキン(10)のキンからとったという。)、産業民主主義をアナキズムとする見方もある。

巴金

今の中国共産党を批判する前に、こうした幅広い見方を持ったうえで、 中国共産党が転覆した後に備えて、今から民主的な中国人とのパイプを民間で探しておいた方がよいだろう。



1)中国の古典にアナキズムの根拠を見出すのは雑誌「天義報」周辺の考え方。参照:『清末民国初政治評論集』(平凡社)
2)『中国アナキズムの影』(玉川信明、三一書房)
3)『中国黒色革命論 師復とその時代』(嵯峨隆、社会評論社)
4)『中国のアナキズム運動』スカラピーノ著丸山松幸訳、紀伊国屋書店)
↑訳者による解説が有益。
5)一九二一年十一月二十一日‥‥他們接受毛澤東“小組織大聯合”的主張,先後成立了土木、機械、印刷等十多個工會。勞工會從此進入了新的發展時期。
http://www.people.com.cn/BIG5/shizheng/8198/30446/30449/2182246.html
6)『中国マルクス主義の源流』(メイスナー著丸山松幸訳、平凡社)。なお、李大釗との論争は西順三・島田虔次編訳『清末民国初政治評論集』(平凡社、1971)において伊藤昭雄訳で参照することが可能。
7)1917年、李大钊がプルードン(Proudhon=普鲁东, 普魯東を引用している(「Proudhon氏“战争乃饥馑之子”之言」)を引用した「战争与人口问题」という論文は以下。
http://cpc.people.com.cn/GB/69112/71148/71151/4848664.html
8)陳独秀に関しては以下(孫文の強権性とロシア革命の重要性が指摘されている)。
http://www.interq.or.jp/leo/sinter/old/pow125.htm
(五四運動期のアナキズムに関しては野原四郎著『アジアの歴史と思想』が詳しい。)
9)参照:嵯峨隆氏の中国アナキスト関連HP第16話 大杉栄
10)中国のアナキズムもバクーニン、クロポトキンの影響が強く、プルードンの影響は少ない。パリに留学した中には例外↓もあったというが中国本国にはあまり影響がない(『中国アナキズム運動の回想』472頁)。

以下、『中国アナキズム運動の回想』より

「華南のものは純粋なプルードン学派のものであり、マルクス主義に迎合するものではなかった」(『中国アナキズム運動の回想』総和社272頁「解放別録」海隅孤客(梁冰弦) 香港『自由人』1951年初出)。

「先生が特に興味を持ったのはプルードンの学説と連邦主義であった」(『中国アナキズム運動の回想』総和社415頁「李煜瀛(注:=石曾)先生の思い出」ジャック・ルクリュ)。

李石曾

火曜日, 11月 16, 2010

「危機の時代のキリスト教」佐藤優+柄谷行人 2010年10月06日. 紀伊国屋書店

佐藤優の講演と柄谷との対談の2部構成、
第一部:
佐藤曰く、
ビデオ流出という機関砲を持った官僚の暴走(およびそれを心情的に持ち上げること)は
226事件を想起させる。
その危機を危機だと感じとれないことが問題。
チェコのフロマートカが弟子に母国を離れるなと遺言したが、、、
(これは決断主義とは違うだろうが、佐藤は決断主義を評価しているよう
だった。)

第2部:
柄谷曰く、
イスラムなど宗教にこそ国民国家資本への抵抗が見られる。

ただそれを位相としてDまたはXと呼びたい柄谷に対して、
佐藤は固有名を召還する。

「高天原」でも「世界共和国」でいいが誤解を生む、と柄谷。

感想:
話は宇野やマルクスに偏っており、
佐藤のヘーゲル志向と柄谷のカント志向の確認不足が、噛み合わなかった
理由だろうが、柄谷の唯物論を神学(というより信仰)によって
浮き彫りにさせるのが佐藤の主旨だったようだ。
冒頭、Xを(超越論的ならわかるのだが)超越的と呼んだ時点で、佐藤の
柄谷読解はズレているが、、、、

追記:
佐藤は、鈴木宗男が拘留されている間、『世界史の構造』の読書会を
鈴木の支持者たちの間で(国会会館?で)行うそうだ。

講演会の前に、会場の向かい側にある中村屋でラスクとピロシキを買ったが、これこそがコスモポリタニズムの実例であろう。
講演会では、協同組合の支持を明言する柄谷に対して、佐藤はアナキズムを政治的、論理的に捉えていた。社会革命を支持する以上は、アナキズムに関しても経営レベルの具体的視点が欠かせない、と思う。

火曜日, 11月 09, 2010

Haeckel=Freud

at最新号(2010.6)の巻頭で岡崎乾二郎氏がフロイトの第二局所論が進化論や生物学に影響されたものだと述べている。生物学に関して言えば、フロイトは「個体発生は系統発生を繰り返す」というフレーズで有名な生物学者ヘッケルの進化論的反復説の影響を受けていることが知られている(1913年の論文「精神分析学の関心」)。フロイトは種子(胚形態=ファイロタイプ)を意識したと岡崎氏は言うが、以下の動物を描いたヘッケル(1834-1919)の図とフロイトの図は似ている(特に中段)。

http://www.helsinki.fi/~pjojala/Sitaatit.html
以下は、フロイトの心的装置の図(「自我とエス」1920)

http://www21.ocn.ne.jp/~sfreud/yomu/0709.htm
ゲーテの系譜に連なることもあり、近年画集が邦訳出版されており、再評価されている。


ちなみに、宮沢賢治もヘッケルに言及している(「青森晩歌」)。

なお、フロイトは生物学的な裏付けというよりも、集団社会学的な視点をヘッケルから受け継ぎ、展開して行くこととなる。ユング(一元論とフロイトに批判される)やシュピールライン(死の欲動をフロイトより早く考察した)とのすれ違いは、精神分析学会という集団を守ろうとするフロイトの意図が突出したものであったことに一因があると思われる。


追記:(→Cell map
その後、EテレのiPS細胞特集で細胞分化のcell mapが紹介されていた。200種類の細胞に受精卵が分化する過程はまだわかっていない部分が多いらしい。
                    血球
               血管内皮 |      結合組織と平滑筋
    心内筋          |  |          |
     |___________|__|_________◯|生殖腺の口
              内蔵の胸膜           |||
 心臓_____〇______|_____________ |〇〇  胸膜、囲心嚢、
             |   |           |||   腹膜
             腹膜 腸問膜 副腎皮質_____〇〇〇   |
                              |    |
                       卵黄嚢と尿膜の| ___〇       羊膜・漿膜の
                        胚体外中胚葉|| __________胚体外中胚葉
           筋肉____________    ||||
目の外層____________________ |   ||||
            ___________ ||   |||| 子宮 卵管 膣
           | 頭の結合組織___ ||| __〇〇〇〇  \ | /
           |   |      ||||| 原腎      \|/   後腎、腎管
           |   |      〇〇〇〇| |       〇〇〇   |
           頭骨と |_______  ||〇〇________|____|__中腎、輸出管
           随軟骨_________| |||  |         |     
     交感神経節      歯のぞうげ質_| |||  |       後腎の憩室、尿管、
副腎髄質___|_________〇_____| ||| 精巣上体、    腎う、集合管
          |            | ||| 精小管
         神経性の   脳の感覚神経 | ||| 
         骨髄神経根  および神経節_| |||
                       | |||〇________皮膚の結合膜層
脳  脳の運動神経       網膜と    ◯ ||||  胴の骨格筋     ____外肢の筋肉
|     |     〇___視神経    | |||| /         /
|     |     |          | ||||〇_________〇_____付属肢骨格
|_____|_____|____〇_____| |||||〇________________中軸骨格
 |      運動性腎臓神経根 |     | ||||||          後総体
脳下垂体             脊髄    | |||||| 副甲状腺______|
神経葉      〇___肛門        | ||||||      |
    脳下垂体 |             | ||||||      |  中耳
    前葉 | |             | |||||| 扁桃腺__|__ユースタキー管
       | |鼻と嗅上皮、       | |||||| _____|
歯のエナメル質| |嗅神経          | |||||||
      || ||   内耳の機構    | |沿軸中胚葉|____甲状腺  
口の上皮__〇〇 ||     |      | | |   |___________消化管
       \ ||     〇      | | |   |  気管、 \____膵臓
    皮脂腺 \\|目のレンズ|      | | |  原腸__気管支、 \\_肝臓
     |   \|  |  |      | | |   |  肺     \尿膜
     |____〇__|__|____外胚葉 中胚葉 内胚葉         |
     |   /|\   |       \  |  /           膀胱
     毛髪 / |乳腺  羊膜、頭膜の   \ | /
       爪 汗腺    胚体外外胚葉    \|/
                         受精卵 



細胞分化は受精卵というひとつの細胞からはじまる。図では下から上へ。
約200種類、60兆個の細胞へ分化する。
様々な種類のタンパク質が大きな役目を果たすらしい。